ういうい、なんとか収まったの、だ、(分岐、人形争奪戦 其の十 終)
分岐9から。無理矢理締めました。
ういうい、円、だ。
今、この場で。
数十の脳、シナプスが同時に動く。
◇
円は思う。
相手はマキナ。
凶悪三姉妹の次女。
暴走ぎみの上や下とは違う。
ちゃんと冷静さも併せ持つ。
真っ向から戦っていいものか。
マキナは思う。
相手は現役最強といわれる殺人鬼。
身体能力だけでいえば切り裂き円の方が圧倒的に上。
弱点は切り裂きが崇拝するドールコレクター。
そして、現在バディを組んでいる・・・・・・。
「なんだかんだでドールコレクターも結局は無能だったって事だ」
揺さぶる。
「捕まって、いいように使われ、そして・・・・・・死んだんだからねぇえ」
揺さぶる。
ドールコレクターという言葉を出して罵ったことで、前の女の雰囲気が急激に変化する。
◇
紅子は思う。
向かい撃つは三姉妹長女、殺人鬼連合リーダーシストの母親カリバ。
目の前であり得ないような攻防が繰り広げられている。
分家の二人の目にも止まらない挟撃。
それをカリバお母様も二本の包丁で余裕しゃくしゃく受け止めている。
私や白雪ちゃんが入り込む余地はない。
これが一族同士の戦い。
あまりのレベルの違いに紅子のナイフを握る力がどんどん抜けていく。
◇
タシイは思う。
対するは、三姉妹末娘のトリム。
単純な強さでいえば三姉妹最強。
この人のピンチ力は異常。
人の肉など簡単に引き千切る。
つまり掴まれた時点で大ダメージは確定。
共に戦うは。
分家で従姉妹の十日。
そして。
何故か気が合った。
いつも一緒にいてくれた。
タシイにとって親友であり、姉のような存在。
この世で家族以外で唯一信頼できる人。
眼球アルバム、目黒。
「アタシがタシイを絶対生きさせる、だから、思いっきりバールをふりなっ」
力がこもる。
隙を見せたら抉られる。
その心配を払拭してくれる。
だから、タシイは全力を出せるのだ。
◇
シストは思う。
互いの陣営、瑞雀、魔鏡という大駒が崩れた。
今は自分が王の駒。
先ほどからそれを狙わんと瑞雀部隊が襲ってくるが。
「しゃっ」「ふんっ」
分家の二人、九曜桜、甘露寺組がそれを防いでいてくれている。
先に述べた二人に比べれば見劣りはするが実力は折り紙付き。
シストはここで見極めなければならない。
それが自身の祖母の思惑だと気付いているから。
だから、全ての状況に目を配らせる。
円、マキナ、ここは順当にいけば切り裂きが圧倒するはず。
だが、様子がおかしい。
カリバ、分家二人、紅子、白頭巾、ここも人数的に有利。
だが、母親のポテンシャルは高い。
トリム、タシイ、目黒、十日、ここも総合的には勝ってるはず。
だが、他の三人とトリムの地力が違い過ぎる。
今の所うまく均衡している。
それがどこかしら崩れるとバランスは一気に崩壊する。
タイムリミットは残り20時間。
◇
ういうい、円、だ。
頭に血が上ったの、だ。
姉御の事を馬鹿にされた。
そこからは記憶がない。
殺す、殺すと、我武者羅に振るが全て躱される。
その都度、僅かに攻撃を食らう。
相手の持つ短い鞭が身体を叩く。
肉を裂かれる痛み。
その攻撃がいやらしくさらに頭は熱くなる。
どれだけ攻撃したか。
いつの間にか腕が上がらなくなっていた。
「やっと効いてきたかな」
鞭に何か仕込んでいたのか。
身体が重い。
素早い振り。
鞭が首に巻き付いた。
マキナに周り込まれ後ろから首をきつく締められる。
「・・・・・・う、うぐう・・・・・・」
く、苦しいの、だ。
意識が、と、ぶ。
その時だった。
急に鞭に籠もる力が抜ける。
それでも私は溜まらずその場に崩れ落ちた。
「お姉ちゃんに何してるの」
私を助けたのは白頭巾。
「来たわね。これで詰みよ」
まずいの、だ。
白頭巾ではあいつには勝てない。
今の私は動けない。
ここで私達がやられると、他の場所に影響が出る。
◇
シストです。
まずいですね。
まさか円さんが劣勢になるとは。
母さんの所にいた白頭巾がそちらに行きました。
母さんと戦ってる分家もかなり押されはじめています。
しかし、分家の二人がやられてもまだ白頭巾と紅子が控えていればなんかとなったかも。
それもここで破られた。
悔しいですが、今場をメイクしているのはマキナ伯母さんですね。
白頭巾ではマキナ伯母さんには勝てない。
◇
こんにちは、蓮華です。
今頃、壮大な親子げんかを繰り広げている事でしょう。
円さんはどうですかね。
普通にしてれば問題ないのですが。
彼女には大きな弱点があります。
良くも悪くもドールコレクターに依存してる事です。
昔に比べて冷静さを手に入れてるはずなのに、彼女の事になると一気に昔に戻ります。
そんな時、頼りになるのが・・・・・・。
そのための・・・・・・バディです。
円さんの隣にはつねに冷静な人物がいなくてはいけません。
例えば、葵シスターズの天宮種。
今の所、彼女が一番理想的ですが。
それ以上の存在が育ちつつあります。
今はまだ未完成でも・・・・・・。
うふふ、育てていたのはドールコレクターだけではないのですよ。
私もです。
狂気無効。
どんな相手にも臆さず。
そこにそれに伴う実力と。
知能が合わされば。
彼女は。
どんな相手にも負けない最強の存在に育ちます。
後、数年はかかるでしょうが。
今でも彼女は・・・・・・。
◇
円、だ。
驚いた、の、だ。
マキナの攻撃が掠りもしない。
「なんなの、そんなの聞いてないっ!」
マキナも計算外なのかとても焦っておる。
「動くなっ! 糞餓鬼ぃいいいいいいいいいいいいいいいい」
目を剥きだしに、白頭巾を威嚇するが。
「無理、私は貴方を殺す」
普通なら竦むような狂気を発せられそれを全身に受けてもなお。
男子、いや女子か。三日会わざれば刮目して見よ、とはよく言ったものだが。
こいつは羽化しつつある。
いつまでも蛹ではないという事か。
思えば、姉御、カリバなどの一線級の殺人鬼。
特級レベルの拷問士も全く恐れない。
潜在能力でいえば。
誰よりも高い。
「お姉ちゃんを虐めないで」
「糞ぉおおお、切り裂きの前で、妹分のこいつをいたぶって、その絶望に歪む顔を見ようと思ってたのにぃいいい」
白頭巾のナイフがマキナの身体に差し込まれる。
この瞬間。
場の均衡が解かれた。
◇
シストです。
これは驚きました。
薄氷の上で保っていたバランスが崩れました。
破ったのは予想外の人物。
さすがは蓮華さんですね。
隠し玉は一つじゃないって事ですか。
これにより。
場が一気に動きました。
タシイ、目黒組。
トリム伯母さんの攻撃を目黒さんが一身に惹きつけタシイが攻撃。
目黒さんはもうボロボロ。
でも、タシイの攻撃は着実にダメージを稼いでます。
「屑ども、殺す、殺す、殺しても、殺して、殺しきるぁあああああああああああ」
トリム伯母さんの渾身の飛び込み。
目黒さんの頭を両手で掴む。
このままでは西瓜のように弾け飛ぶ。
それを後方から飛んできたナイフが数秒、遅らせる。
その好機。
タシイの全力スイング。
トリム伯母さんの頭をクリーンヒット、身体ごと持っていき場外まで吹っ飛んだ。
ナイフを投げたのは、白頭巾。
ここから連鎖が始まる。
母さんと分家二人。
母さんの包丁が二人同時に肉を切る。
膝をつく、追撃の包丁は頭上に迫る。
次に投げられたのは声。
「紅子、行けぇえっ!」
攻撃時が最大のタイミング。
紅子は完全にノーマーク。
「お前はいずれこの殺人鬼連合を背負っていくんだろっ! 今からその片鱗見せておけっ!」
タシイと目黒さんからの声。
縮こまっていた紅子が動いた。
それは無意識だったのだと思う。
だけど、この子もこの殺人鬼連合の。
メンバーだ。
「うあぁあああああああああああああああああああああああ」
虚は突かれた。
道ばたの石くらいにしか見てなかった者が。
急に大岩に化けたのだ。
「っ!?」
紅子のナイフが母さんの腹に沈む。
◇
数日後。
シスト、タシイ、そして三姉妹が本家で顔を見合わす。
「ようやくくだらない喧嘩は終わったかい」
呼び出したのは現当主。
誰も声を出さない。
あのトリムでさえ面と向かえば大人しくなる。
「シスト、タシイ、私の可愛い孫達。どうだい、一日当主体験は?」
「はい、お祖母様、とても貴重な体験ありがとうございました。お陰で色々見る事ができました」
「そうかい。では、今回、これで何を得た?」
この質問こそが僕達を当主にした本題でもある。
「お祖母様は、これを機に僕や母さん達を分けさせ内輪揉めさせる事で分家の反応を見たかったと考えております」
「ほう?」
この場でそう思っているのはシストとマキナのみ。
他の三人は素で暴れていた。
「結論としましては、騒動後、序列が代わった事で責任をとって自害しようとした百目鬼、大下倉家の忠誠心は本物。そして当主の間全力で僕を守ってくれた九曜桜、甘露寺家も信頼にあたるでしょう。問題は、最後まで母さん達の責任問題を追及してきた万里小路、そして全く戦闘に参加しようとしなかった木目沢、ここらは粛正対象かと」
「ふむ」
特に万里小路の賜さんは危ういね。分家の中でも特に力を持ってるし。
「よし、分かった。各分家当主への対応は私がする。その代わり、時期当主候補はシスト、お前が傍に置いて見極めな。その殺人鬼なんとかってのに入れてもいい」
「はい、全てはお祖母様のご命令通りに」
「さて、後は、一日当主とはいえそれに逆らった馬鹿娘共への罰だが・・・・・・」
「ひい」「え、私もですか?」「うぐぐ」
「半年間の屋敷でのメイド業務を命じる。勿論他の使用人と変わらない扱いだ」
「えぇ、私は主婦だから家の事が・・・・・・」「え、私もですか?」「うがぁああ」
「異論は?」
「あ、りません」「喜んで」「ぐ、やれば、いいんだろ」
さて、人形は手には入らなかったけど、こうして一族の未来への見解も得られた。
最悪の結果は回避されたし。
後は、僕なりに対応していこうと思う。
◇
ういうい、円、だ。
「人形をどこにやったの、だっ!」
レンレンに隠されたの、だ。
「あれは新たな火だねを生むので私が管理する事にしました」
「なんでなの、だっ! あれは私達、姉御の意志を継いだ・・・・・・」
「仲間を失って、まだ言いますか。それにあれは貴方達の物ではありません。ドールコレクターの物です。後継者だか妹達だか知りませんが勝手にどうこうするものでもありませんよ」
「でも、だ、失ったこそ・・・・・・」
「黙りなさい。今後あれに触れたら全て潰す」
おぉ。
「葵シスターズだろうが、あの一族だろうが、狙うというなら今度は私が全力でお相手します」
やばい、久しぶりのマジモードなの、だ。
「それに葵さん自身完成とか望んでないんですよ。有名な画家の作品に死後誰かが書き加えてもそれに価値がありますか? ないでしょう? しかもそれをやろうとしてるのが書いた本人より能力が上ならまだしも。なのであれはあれで完成されてるんですよ」
「た、確かに、姉御の作品に、私達ごときが付け加えるのは・・・・・・」
「分かったら、通常業務に戻ってください。仕事は溜まってますよ」
「あぁ、でも種達がそんなので納得するか、どうか・・・・・・」
「それなら、こういえばいいのですよ。あれは未完成だから誰にも見られたくない、蓮華ちゃんに管理を任せるよぉ~って生前ドールコレクターが言ってたって」
「・・・・・・そんなのであいつらが納得するはずが・・・・・・」
◇
「あれは未完成だから誰にも見られたくない、蓮華ちゃんに管理を任せるよぉ~って姉御が言ってたらしいの、だ」
「え、姉様が?」
「なら、そうするしかないじゃないですか」
「そうだね、葵姉さんが言ったなら従うしかない」
「確かに完璧だった葵ちゃんならそう思うかも」
納得しちゃったの、だ。
こいつらの姉御の心酔具合を見くびっていたの、だ。
まぁ、管理するのがレンレンなら安心なの、だ。
見れば狂うと言われる姉御の人形。
レンレンも見てるはずなのに関心はない。
あれ?
なんだか今少し違和感があったが。
まぁ、気のせいか。
お遊び分岐も書くかもです。