おや、潜入捜査でしょうか、後編
こんにちは、蓮華です。
今回、円さん達にある仕事を任せました。
スナッフビデオレンタル店への潜入捜査。
はたしてあの二人はどう解決するのか。
私は仲間を信頼しておりますので一切口出ししません。
元殺人鬼とはいえ、多分倫理的に解決してくれるでしょう。
まぁ、なにかあれば連絡があるかもしれません。
その時は上司としてきちんと指示をしたいと思います。
◇
ういうい、円、だ。
ゲーム機は取り上げられたが。
「お姉ちゃん、次のターンで全体バフかけて」
「ういうい、任せろ」
今はスマホでもゲームはできるの、だ。
とあるカフェで一休み。
今回、私達はレンレンから仕事を受けていた。
だが、私達だけではどうにもできない状況であり。
なので、助っ人を頼んだ。
雨宮 種。
葵シスターズの最古参。
本来、こいつの方が姉御の後継者に相応しい。
高い知能、的確な判断力、私よりよっぽど姉御に近い。
そんな種だから私は。
安心して任せられるの、だ。
まぁ、なんかあったら連絡してくるの、だ。
その時は、現葵シスターズの長としてびしっと指示をしたいと思うの、だ。
◇
こんにちは、種ちゃんです。
円ちゃんに頼まれてただいま潜入中。
コンクリートに囲まれたどこかの地下。
私は大量に返り血を浴びてその場に立っていた。
スナッフビデオの撮影。
最初は会員になる条件として参加を強制されたけど。
「はぁ~、もう動かない。もう終わりかな」
その後、何件か撮影を手伝うことに。
四方カメラに囲まれた死体を見下ろし。
私は漸く刃物を下げた。
撮影が終わると。
階段を降りる足音が。
「おぉ~、ちゃん種~、お疲れ様~、いいよ、いいよ~、今回も良かったよ~っ!」
手を叩きながら受付をしていた女性、黒森さんが現れた。
「あ、黒森さん、お疲れ様~、え、ほんと、私、良かった?」
「もう最高、ちゃん種の参加してる作品はもう大好評っ! 顔はぼかしてるけど可憐な少女が躊躇なく人を殺していく様子がもう会員から絶賛よっ」
「わ~、ありがとう、嬉しいっ」
「うんうん、もうちゃん種、この際うちの専属になっちゃいなよ~、上の者もちゃん種の作品、めちゃくちゃ気に入ってたよ~」
ついに声が掛かったね。
完全に信頼は得た。
今まで楽しんで素の状態で撮影していたかいがあったよ。
「え~、専属かぁ、それもありかも~、それじゃ今度詳しく話聞かせて?」
「お、乗り気で何より。よし、じゃあ今度紹介するよ」
さて、これで繋がった。
普通の潜入捜査では不可能だね。
まさかこんな簡単に人殺すような人間が。
捕まえる側なんて。
綺麗事はいらないの。
最短ルートを取るには。
倫理など邪魔なだけ。
◇
はいはい、紅子です。
殺人鬼連合で、第三殺(紅子調べ)やってます。
第三殺、これは私が勝手にメンバー内での序列を作ってる訳だけど。
それが今崩れようとしていた。
「今回、うちに新しく入る、木目沢 十日だ。みんなよろしく頼みよ」
シストさんが紹介したのは。
褐色の制服ギャル。
垂れ目でとても化粧が濃い。
「木目沢十日で~す。シストくんとタシイちゃんの従姉妹で~す。みんなよろしく~」
前に一度見た事がある。
確かシストさんやタシイさん一族の分家、木目沢家の時期当主。
「じゃあ、僕達はこの後用があるから、十日はもう少しみんなと交流していったらいいよ」
「は~い、そうする~」
ここでシストさんとタシイさんが先に帰った。
その後、この女の態度が豹変する。
「あ~、改めてみんなよろしくね~。あ、ここではみんなが先輩かもだけど~、私ってシストくんとタシイちゃんの従姉妹だから、つまり繋がりではみんなより上で~、私中途半端な人って嫌いで~、認めてるのはシストくんとタシイちゃんだけっていうか~」
この女、いきなり見下し始めたぞ。
「だから基本私が何しようが許されるっていうか、誰も口出せないっていうか~。そう・・・・・・例え古参の幹部だかの貴方でも~」
垂れ目ギャルが、目黒さんを見下げた。
「そうかい、なら勝手にすればいいよ。だけど、メンバーである以上、最低限のルールは守ってもらう」
「はぁ? 誰に言ってんの。あんたも知ってるでしょ? 木目沢家は裏社会でもかなり大きな力を持つ。基本的になんでももみ消せる。さらに今の私は殺人鬼連合、もうなにをしても許されるから」
確かに、殺人鬼連合は多少無茶してもシストさんが庇ってくれる。
だけど一つだけ明白な禁忌があった。
ある人物だけは敵に回してはいけない。
勿論状況にもよるけど、それはみんな分かっている。
あれとはうまく付き合い、やり過ごすしかない、と。
「じゃ、私はここでしばらく遊ばせてもらうね。なにかあったら手伝わせてあげる~」
「ご自由に。だけど一つ忠告はさせてもらう。くれぐれも深淵に足を踏み込まないことだね。じゃないとどこまでも引き釣り込まれる」
「は? 何言ってんの? 意味分からないし、馬鹿じゃないの~」
「あ、あんた、目黒さんになんて口聞いて・・・・・・」
目黒さんを慕う私がその態度にいくらなんでも我慢ができなくなり口を出したが。
「あ?」
「・・・・・・いや、大丈夫です」
こっわ~、超怖っ。なに、今の顔ぉおお。
これが、分家、木目沢家。
伊達にシストさん達の血筋ではないであります。
◇
ういうい、円、だ。
「というわけで、上にいたのがこれまたびっくり、超大物、木目沢十日だったんだよ」
種の定時報告。
木目沢十日。
確か、キラキラの親族だったか。
これは中々厄介な事になったの、だ。
「とりあえずアポは取ったよ。指定された場所にいけばそこに現れるはず」
「・・・・・・そうか」
さて、どうする。
「とりあえず行こうよ、お姉ちゃん」
私が少し悩んでいると、白頭巾が背中を押した。
「そうだな。とりあえず捕まえるの、だ」
レンレンからは丸投げされている、となればその後の事は今度はこっちが丸投げするの、だ。
護衛はついているだろう。
種に先行してもらって周囲の護衛を排除してもらい。
その後、外にもいるであろう邪魔者は私達でなんとかするか。
作戦を決行。
アポをとってるため種はすんなり中に入れた。
程なく、種からの合図。
私達は後を追うように入り口にいた数人の男の喉をかっきり中へ。
部屋に踏み込むと。
そこには、女が二人、死体が数体。
血がついたハサミを手にする種。
そして。
「え、これどういう事~?」
この状況でも慌てることなく種と対峙する。
木目沢十日。
「木目沢 十日、だ、な」
声をかける。
「あ~? あんたは、確か・・・・・・切り裂き。あぁ、そういう事か」
状況を理解したのか、十日は納得した表情を見せた。
「で、切り裂きが私に何しようっての? まさか、捕まえるとか?」
護衛が誰もいなくなった状態で、この余裕。
やはり、自分でも分かっているのだ、な。
「捕まえてもいいけど無駄だよ、知ってるでしょ、私は一族の分家、そして今は殺人鬼連合のメンバーなの~」
こいつ殺人鬼連合に入っていたの、か。それは初耳なの、だ。
そうなるとさらに面倒な事になる。
「お姉ちゃん、もう、いいから、この人、殺そ?」
「あぁ? なんだ、この糞餓鬼ぃ」
ここで初めて十日が本来の本性を現した。
分家ってのは伊達ではなく、途轍もない狂気なの、だ。
「餓鬼じゃない、白雪。いいから黙って殺されて」
まぁ、当の白頭巾にはそんな威嚇効くはずもなく。
「まぁ、待つの、だ。キラキラの所の奴だ、勝手に手を出せばレンレンに迷惑がかかるかもしれない」
分家はともかく、キラキラの本家は色んな所に顔が利くのだ。
それこそ、国家自体にもそれは有効。
「一応、聞いてみるの、だ」
「そうそう、それがいいよ、あんたの上司も困る事になるから、多分、必死に止めるんじゃないの~」
レンレンに指示を仰ぐ。
「・・・・・・これこれこういう訳で、木目沢で分家で、殺人鬼連合なの、だ」
私が報告するとレンレンは即座に判断を下した。
通話を終える。
「あ、終わった? で、あんたの上司はなんて言ってた~? なにもせずに帰ってこいって? それとも殺人鬼連合には絶対手を出すなかな?」
「いや・・・・・・。関係ない、行け、と」
「は?」
私の言葉に、十日の余裕が消え去った。
「まぁ、そういう事なの、だ」
「ねぇ、殺していいの? 駄目?」
「暴れるならそれも仕方がないんじゃないかな?」
私達が武器を向ける。
「え、ちょっと、待って、待って、私も、電話させてっ! あんたらの上司、ちょっと頭おかしいってっ」
十日が慌てて派手なスマホを取り出す。
「あ、タシイちゃん? 今、切り裂きが、その上司が、関係ないって、行けってっ・・・・・・え、でもっ、なんで、そんなっ! 嘘でしょっ!」
手からスマホが滑り落ちる。
「・・・・・・深緑深層」
あ、こいつ知らなかったのか、私達の上司がレンレンて事に。
元々、昆虫採集部は国家暗部だし、天敵のいない土場で好き勝手やって来た奴には周囲を気にする感覚はなかったか。
「というわけで、木目沢十日。殺人教唆の罪で逮捕するの、だっ!」
こうして私達の任務は終わったの、だ。
後は、他が引き継ぐ。
ここで私達に殺されていた方が多分ましなの、だ。
◇
はいはい、紅子です。
新メンバーが加入してしばらく立ちました。
「お疲れ、十日戻ったんだって? どんな様子?」
タシイさんがアジトに顔を出し目黒さんに声をかけた。
「・・・・・・あぁ、ありゃ、もう駄目だね。しばらくは使い物にならないよ」
部屋の隅っこで。
指全部、片目、片耳が無く、鼻は削られた女。
額には焼きごてによる刻印。
「自分で手を汚してなかったのと、他の証拠が不十分だったので、今回はレベル4だったみたいだけど、さっきから一人でブツブツ言ってるよ」
角で身体を丸め小さくなっている女。
「コワイ、コ、ワイ、トートバック、覗ク目、オ、ソロシイ、無理、モウ無理、ユルシテ、ゴ、メンナサイ、ゴメンナサイ、モウシマセン、モウシナイカラ、ユル、シテ・・・・・・」
「こいつ最初は一級だか二級だかが担当だったのに、それをイキって追い返したみたいんだよ。そんで来たのが特級で、そいつが相当ヤバい奴だったみたいね。完全に折られてるよ」
あんなイキリギャルがこんなになるなんて、一体どんな事が行われたのか。
私も一歩間違えればあぁなってたかと思うと。
紅子、また恥ずかしい事になりそうっ。
◇
一人の女が合同執行室に運ばれていた。
「私に指一本触れて見ろ、必ず調べて、お前、家族、友人、隣人、ペット、全部殺す、殺してやる」
稀に見る狂気を振りかざし女は担当していた拷問士に牙を剥いた。
裏社会でも名の通った一族の時期当主。
潜在する闇が周囲を呑み込んでいく。
まだ経験の浅い拷問士では対処は困難であった。
そこで担当が急遽変更になる。
代わりに現れたのは。
13人しかいない特級拷問士。
その中でも天才と称された一人。
トートバックをかぶり、一つ開いた穴から覗く目は。
「あ~? なんだ、今度は誰・・・・・・・・・」
その目に撃ち抜かれた女は言葉を失う。
自身が放った闇にさらに上から覆い被さってくる大きく濃い黒いモノ。
「執行を開始するっす」
オレンジ色のペンチが握られ。
言葉と共にトートバックの女の雰囲気ががらりと変化した。
巨人の手に握り潰される感覚。
「おらぁああああああああああああああああああああああああ、覚悟はいいか、この屑女ぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
その怒声に心臓が破裂したように飛び跳ねる。