おや、潜入捜査でしょうか、前編
とりあえず原点回帰。
昆虫採集部。
様々な事件を担当する国家の暗部特殊機関。
リーダー、深緑深層のマーダーマーダーこと蓮華を筆頭に。
元レベルブレイカーの殺人鬼、切り裂き円。
同元レベルブレイカー、白頭巾こと白雪。
この三人で構成。
異常者には異常者を。
今日も闇に蠢く犯罪者を取り締まる。
こんにちは、蓮華です。
とまぁ、大層な紹介された気はしますが。
実際は。
「いけっ! そこ、だっ!」
「お姉ちゃん、後、少しだよっ!」
ソファに寝転んで持ち込んだゲームをする円さんと白頭巾。
「ちょっと、貴方達、いい加減にしてください」
「よし、もう少し、なの、だっ!」
「まず、黄色い奴から倒してっ!」
聞いてませんね。
「こらぁあああああああああ、貴方達っ!」
つい大声も出してしまいます。
「うおっ! なんだ、どうした、急にっ」
「え、なに、更年期障害?」
この子達は全く。
「貴方達っ、ここに来ては毎回ゲームしてますけど、本来の貴方達の職業はなんですか!?」
「え、殺人鬼、なの、だ」
「うんうん」
「また出たっ!」
前に散々そんな職業はないってあれほど言ったのに。
「違うでしょっ! 貴方達は私付きのエージェントでしょっ!」
「ん、あぁ、そうだった、か」
「そういえばそうだったような」
「白頭巾は学生だからまだいいとして、円さんっ、貴方は目を離すとやれ人形の回収だ、裏格闘大会だと勝手にどこかにふらふらとっ!」
お陰で仕事が溜まる一方ですよ。
「あぁ、すまんの、だ。じゃあ、やるの、だ。やればいいんでしょ、なの、だ」
「お姉ちゃん、黄色を倒したら次は赤の奴だよっ!」
顔がこっちを向いてません。二人ともゲーム画面に釘付けです。
「はいっ、ゲーム没収っ!」
よもや、この歳でこの言葉を吐くとは思いませんでしたよ。
◇
ういうい、円なの、だ。
ゲームを没収されたの、だ。
よもや、この歳でゲームを没収されるとは思わなかったの、だ。
返してくれる条件は言われた仕事をこなすこと。
やれやれ、さっさと終わらすの、だ。
肝心のレンレンの仕事とは。
「違法店舗への潜入捜査?」
「そうです」
「それってあれか、違法カジノとか違法風俗とかそういうの、か」
そういうのなら普通に警察がやるの、だ。
「違います。捜査対象は違法レンタルビデオ店です」
「裏なんちゃらか、なにが違うの、だ」
「貸し出されてるのが普通じゃないんですよ」
「だから、なんなの、だ」
「・・・・・・所謂スナッフビデオです」
「・・・・・・・なるほど、それは普通じゃないの、だ」
なぜ、この事件をレンレンが担当したのか理解した。
スナッフビデオ。
実際の殺人の様子を撮影、それを娯楽用途で流通させた映像作品。
「その店では数百本から作品があり、年齢、性別、殺害方法など豊富なラインナップから好みの映像を選べるみたいですね」
少し前に三人殺して捕まった男が動機を語る上で自供したらしい。
当初はにわかに信じがたい話だったが。
男の証言がとても詳細で実際に店舗も存在していた。
「もし自供が本当なら・・・・・・」
レンレンの口調が重く。
「今もどこかで作品が作られているって事です」
そんなこんなで噂の店舗には来てみたが。
私達では入る事は不可能。
会員は非常に厳しい審査があり、身元は完全に調べられる。
ここまで慎重だとむやみに踏み込む訳にはいかない。
そして一見その辺の雑居ビルに見えるが、厳重に警戒されている。
監視カメラは無数にあり、入り口も奥になる。
扉を開けてもらうには、会員か、その紹介者。
そしてさらに異常者だけ。
管理人はカメラでそれを見極めるとの話。
となると、入れるのは身元がしっかりしていて尚且つ裏社会で顔も余り割れてない。
異常者。
私達が条件に当てはまらない以上協力者が必要になる。
心当たりは・・・・・・。
◇
こんにちは、種ちゃんです。
葵シスターズの一人で、女子大生やってます。
なんか円ちゃんに頼まれて来ました。
「〇〇さんの紹介で来ました~雨宮です~」
監視カメラを見上げて自己紹介。
さて、円ちゃんの言ってた第一審査は通るかな?
ほどなく扉が開く。
お、合格みたい。
中に入り、一本道の廊下を通り、階段を登る。
行き着いた先にまた扉。
ドアを開くと。
まずカウンターがあって、そこには一人の女性。
青白い顔、両腕にタトゥーがびっしり入ってる黒髪ショート。
「いらっしゃい。初めてだね。まずは会員登録、身分証だして」
私は表向きはちゃんと家族もいて学校も通っている今時の女子。
「大学生か。身元は確認した、三人家族で父親は〇〇勤務、母親は専業主婦、今は一人暮らしと」
この数分でよく調べたね。
「分かってると思うけど、こういう店だからね秘密は厳守させてもらう。なので、会員になるには一つ条件がある」
おや、なんでしょう。
私はその後、この女に連れられて店を出た。
目隠しをさせられ大音量のヘッドホンをつけさせられ車に乗せられる。
どれだけ移動しただろう、心で時間を数えようと思ったけどルート次第でどうにでもなるから止めた。
視界と聴覚が戻った時にはすでに建物の中だった。
そこには。
「今から新作の撮影。会員になるには共演者になってもらうよ」
鉄筋コンクリートの地下っぽい場所。
中央大きなブルーシート。
周りには複数のカメラ。
そして色んな器具。
後は・・・・・・。
「お、いい男」
口、両腕、両足を縛られた青年がいた。
かなり鍛えられてるね、
これはナイスバルクっ!
「リクエストがあってね。鍛えられた肉体が壊れていく様がみたいって」
「へぇ~、そうなんだ」
なるほど、会員からのそういう声も汲み上げて作品を作るのね。
「最初はうちの専属のスタッフがやる。あんたは最後の締めをしてもらうよ。秘密を共有するには共犯になってもらうのが一番だからね」
女がそういうと、黒い仮面をかぶった二人の男達が奥から出てきた。
「むぐぅ、ううううううううううううううううう」
男がそれを見て必死に身体を揺らすが拘束具はびくともしない。
見れば見るほど美しい肉体美。
ここまで仕上げるのにかなりの努力があったろうに。
でも、いくら鍛えていてもこの状況では逃げられない。
黒い仮面の男達が徐に器具を取り出し。
撮影は始まった。
太い上腕二頭筋が。
盛り上がった大胸筋が。
はち切れそうな大腿二頭筋が。
「切れてるよっ! 切れてるよっ!」
私も思わず声が出ちゃった。
血塗られていく。
あんなに屈強な肉体なのに刃物には勝てない。
簡単に肌を裂いていく。
「ふぐあぅうううう、ひぐぅうううううううううううう」
あぁ、いいよ、いいよ。
泣いてるの。そんなに涙。
あんなに強そうなのに。
痛そう、苦しそう。
どんどん壊されていく。
「ほら、お嬢ちゃん、そろそろ出番だよ」
あ、本当、もうヒクヒクいってる。
「じゃあ、仕上げは、そのボコボコに割れた腹筋を・・・・・・」
私は近くにあったメスを拾い上げて。
「六個に切り分けてあげる」
顔が熱い、息も荒いの。
こうして私は無事会員になれたのでした。
◇
ういうい、円、だ。
種が会員になれたの、だ。
「撮影場所は複数ありそう。そしてこれ絶対組織ぐるみだよ。上に別の奴がいる」
素人の仕業ではないとは思うが。
一体こんな素敵な、いや、悪趣味な商売誰がやってるの、か。
「私、もう少し探ってみるねっ」
種はいやに協力的なの、だ。
なんだかとても楽しそうな。
まぁ、種に任せておけば問題はないはずなの、だ。
それにしても、纏めてるの本当にどこのどいつなの、か。
◇
一人の少女が地下の階段を降りる。
「お疲れ~さま~」
少女はにこやかにその場にいた数人に声をかけた。
「十日さん、お疲れ様です」
ブルーシートの中央には四十過ぎの女性。
すでに所々肉体は欠損、シートが大量の血を弾いていた。
「あぁ、撮影中だった? これもリクエスト?」
「はい、美魔女風の女性との事で」
「ふ~ん、そうなんだ~。じゃあ私も見学させてもらおうかな」
少女は息絶え絶えな出演者の傍でしゃがみ込んだ。
「死ぬ間際の顔はやっぱりヤバいね。諦めとそれでも生きたいって矛盾が相まって、こんな顔普通じゃ見られない」
少女はとても機嫌が良かった。
「十日さん、最近なんか楽しそうですね」
いつもの表面上だけの笑顔ではない。
「ん~、そう見える? そうなの、最近新しい事始めたの~」
少女はポケットからペンを取り出すと。
「んゆあぁあああああああああああああああああああああ」
女性の眼球に突き刺す。
「なに私を見てるの? 見たってどうにもならないよ、助けないし、助からないし、死ぬし、死ぬしかないし、それが目的だし、それを喜んで見る人がいるし、人助けだし」
グリグリ刺したペンを回す。
その最中、少女の派手なスマホが音を奏でる。
「お、噂をすれば・・・・・・」
着信の相手を見て少女の顔はさらに明るく開けた。
「あ、タシイちゃん、うん、大丈夫。集会? 行く行く、じゃあ後でねぇ~」
少女はペンを抜くと立ち上がり。
「新しい遊び場を見つけたの。殺人鬼連合。あそこはヤバい、みんな頭おかしくて、みんないい人」
少女にとってこれは慈善事業。
求めるから与える。
需要があるから供給する。
彼女の名は。
殺人鬼連合、木目沢 十日。