ういうい、決勝なの、だ。
ういうい、円、だ。
蛇師匠に連れてこられた裏格闘技大会。
ついに決勝戦を迎えたの、だ。
闘技場への扉が開かれる。
私達は一歩一歩前に。
「さぁ、いよいよ残るはこの試合のみになりましたっ! 決勝は、チームメイザーズ 対 チームスティグマータっ!」
メイザースの五人はすでに闘技場の真ん中にて待ち構えていた。
そして私達も中央へ。
「おっ~とっ! これはどういう事だ、チームスティグマータはメンバーが三人しか見当たらないっ!? これはなにかアクシデントでもあったかぁああ!?」
知ってか知らずかアナウンスがそんな事をいう。
そう、こっちのメンバーは私と蛇師匠、瑞雀の三人しかおらぬ。
残りの二人はきっと今頃・・・・・・。
「あれあれ~、残りのお仲間はどうしたのかな~?」
わざとらしい言動、五人の真ん中に立つキツネ目の男、確かエナクイとかいったか。
「もしかしてどこかで捕まってたり~? それなら大変だよっ! いつ死んでもおかしくない状況にいるかもしれないねっ!」
魔鏡と汐見は自ら囮を買って出てくれた。
こいつらの妨害を想定して、だ。
「控え室にマスク無かった?? 忘れたんなら取りに戻ってもいいよ~?」
確かにご丁寧に置いてあったのだ、あの黒いマスクが、三枚。
「必要ないね。元々ギブアップするつもりはこちらにはない」
「へぇ~・・・・・・」
エクナイも予想していた反応と違ったのか少しだけ困惑している。
「てことでどうだろう、こちらから提案があるのだが」
「提案~?」
ここで蛇師匠が両手を広げ、観客席に向かって叫ぶ。
「この決勝、私達はルールの変更を要請するっ! 変更後のルールはギブアップ不可、死ぬまで試合は続行、そして勝ち抜け戦ではなく、全員参加のチーム戦っ!」
蛇師匠の提案にざわつく観客達。
だが。
デッドアデッド。それは元々観客も望んでいる展開。
すぐに賛同する声が会場全体から上がった。
「えっと・・・・・・少々お待ちください・・・・・・」
想定外の事態にアナウンサーも戸惑いを見せておる。
だが、私達は確信していた。
「ただいま運営から指示がありましたっ! 運営は蛇苺選手の提案を受け入れ、そのルールでの決勝を容認するようですっ!」
より派手に、より残虐になりうるこのルール。
ここの運営が認めないはずはない。
なにより観客がそれをすでに望んでいる。
「おいおい、お前ら正気か??」
メイザースにすればこちらから無謀な条件を突きつけた形。
ただでさえ5対3で人数が劣っているというのにだ。
「まぁ、いいか、お仲間を思っての事かね、もう今頃・・・・・・あぁなんでもない」
メイザースは各々武器を取り出した。
そして全員の顔に笑みが浮かぶ。
これからお楽しみの時間だと。
そう、思っているのだろうが。
「うくく、お前ら、今日が生まれてから一番不幸な日になる、ぞ」
私もまた同じように笑っていたの、だ。
◇
囮になった魔鏡と汐見は捕まっていた。
二人でいる所を数人の男達に拉致さえどこかの寂れたビル内へ。
二人は一切抵抗はせず、静かに車から降ろされた。
だからだろう、拘束は両手だけ。
ビル内にはさらに数人の輩が待ち構えていた。
最奥で椅子にどっしり座っている男。
電話をしながら連れてこられた魔鏡達を見た。
「今、連絡が来た、何故かルールの変更があったようだ」
この事はすでにチーム内で決められていた。
試合寸前でルールの改正を求め、それが通れば私達の役目は終わる。
「てことは、こいつらを生かしておく意味はなくなったって事だ」
にやつきながら男が立ち上がる。
元々生かすつもりはないくせにと二人は思ったが口には出さない。
「さて、こっちはこっちで楽しもうか」
室内の男達が二人を囲む。
「どうやら提案は通ったようだ。なら・・・・・・・」
「私達の役目も終わりねっ」
二人の役目は、試合に出る三人へ妨害が及ばないように人質役になること。
ルールが変更され、人質の意味が無くなった今。
二人にとってもここからは自由。
「人数は・・・・・・8人か。奥の奴はそれなりに修羅場を潜ってそうだが・・・・・・」
「私はいいけど、貴方大丈夫? 両手封じられてるけど?」
「誰に言っている。矛盾という言葉がある、あれは最強の矛と最強の盾がぶつかったらという話だが・・・・・・それがどちらもこちら側にあればどうだ?」
「そりゃ矛盾にならない、ただの最強よっ!」
それが掛け声になり二人が同時に動いた。
汐見が床を大きく足で叩く。
反響。
両目をあえて塞いでいるのは、目に頼らず他の全器官で状況を判断するため。
汐見にはこの瞬間、この部屋の位置関係を完全に把握。
武器は取り上げられていたが、鍛えられた肉体がすでに凶器と化す。
「なんだっ! てめーらっ!」
戦闘態勢に入った二人に遅れて男達は構える。
だが、全てが遅い。
汐見のつま先が相手の顎を粉砕。
周囲の男達は銃を向けるが。
銃弾はあらぬ方向へ。
魔鏡が頭をぶつけ強制的に軌道修正。
「この狭い室内で銃を使うか。まぁ好都合だ」
魔鏡の反射、跳弾を計算、それを利用して他の男達に弾を当てる。
「うぎゃあ」「いぐぅっ」「ぐああ」
その間にも、汐見の蹴りが骨を断つ。
下段、中断、上段、ほぼ同時に受けた男は。
膝が曲がり、肋骨が割れ、脳をシェイク。
「お前らっ、女二人にっ!」
不甲斐なく次々と倒れておく部下を目に。
ついにリーダー格の男が動く。
強烈な拳が魔鏡を襲うが。
「っ!?????」
全く見当違いの場所に腕があった。
「っ! くそがぁっ!」
構わず左腕。
「っ!?????????」
これも脳が指示していない方へ向かって振られた。
確かに前に打ちだした拳。
だが、実際にあるのは頭上。
男の身体が言う事を聞かない。
蹴ろうとすれば、身体はグルリと一回転。
殴ろうとすれば、これもまた身体が回る。
「銃花式、六面想花、足だけバージョンっ!」
汐見が愉快に踊る男へ距離を詰める。
下から、金的、鳩尾、喉、顎、鼻下、一直線。
槍のように突き刺したのち。
最後に全力でこめかみを蹴りつけた。
「足だけだから技終わりまでコンマ数秒遅くなったわ」
「いや、充分だろう」
男は激しく痙攣しながら地面に寝ている。
「こっちの仕事は終わったわ。後は、あっちがうまくやってくれれば・・・・・・」
「それは問題なかろう。あの二人だぞ。できれば観戦したかったよ」
◇
ういうい、円、だ。
「さぁああああ、特別ルールでの決勝戦っ! 始めっ!」
試合開始。
その前に私は軽いステップで後ろへと下がった。
前の二人が小さくなっていく。
悔しいが。
私にはまだあの二人の境地には達してない。
一緒に戦えば平均値を大きく下げ、足手まといになるまである。
今は、よく目に焼き付けようと思う。
いつか、あの場所へ並び立てるように。
開始のアナウンス。
その瞬間。
真ん中のエクナイ、その両端の二人が消えた。
後方、魔鏡の時と同じようなフェンスを叩く激しい音。
消えたのはその二人だけではない。
蛇師匠、瑞雀、この二人も初期位置から大きく移動していた。
エクナイ、他三人はまだ振り返らない。
その間に、会場に広がる大きな音が二度、三度、続いていた。
ここで漸くエクナイ達が後ろに首を回した。
「・・・・・・は?」
そこには壁にめり込む仲間の姿。
額は割れ、腕はひしゃげ、足はあらぬ方向へ。
ドゴン、ドゴン、と轟音が鳴り響く。
その度、男達の身体が小さくなる。
押し込まれる。
圧倒的な攻撃力の前に肉が肉にねじ込まれていく。
二人の攻撃は止まらない。
どんどん人の形から遠のいていく。
中央の三人は振り向いたまま動けない。
見ているしかなかった。
仲間の目玉が飛びでていく様を。
首に強度がなくプラプラしていく様を。
「おりゃっ!」
蛇師匠が壁に食い込む男の耳を掴む。
そのまま、引き離すように半月を描き投げ飛ばす。
地面に血肉が叩き付けられ、蛇師匠は千切れた耳を投げ捨てると。
その肉塊を蹴りつける。
それは、中央のエクナイを越え。
私の隣。
反対側のフェンスへ衝突、血と肉が飛び散った。
瑞雀はそのまま拳、蹴りを打ちつけ続け。
男の身体は完全に壁の一部を成り下がる。
「さて、後三人」
蛇師匠と瑞雀が、中央三人に視線を移した。
「・・・・・・ひっ」
三人の身体は勝手に後ずさる。
まぁ気持ちは分かるの、だ。
「円、面倒だ、止めとけ」
「ういうい」
逆側で腕を組んで見守っていた私だったが。
ここで、三人を睨み付けた。
この闘技全体に私の狂気が一気に広がり充満する。
三人の足が止まる。
私が届かないと言ったのは、蛇師匠と瑞雀の事で。
お前らは同類だ。
なら分かるだろう。
同じ土場なら私はお前らの遙か上、にいる。
「さてと・・・・・・・」
前にも後ろにもいけず、三人は完全に蛇に睨まれた蛙状態。
「観客に応えようか」
「・・・・・・無論」
エクナイを残して。
二人はその両隣へ。
相手は立ち尽くしたまま。
二本の指で眼球を潰され。
蛇師匠、瑞雀の拳が膝が、肘が、頭が相手を破壊していく。
地面に血が溜まって、そこには異物が混じる。
肉片か、元々身体についていた物が血を共に流れ落ちていく。
その間ずっとエクナイは震えながら前だけをまっすぐ見ていた。
両隣の仲間はもう自分で立つ力などなく。
髪を掴まれ無理矢理立たされているだけ。
「・・・・・・ぁ」「・・・・・・ぅ」
小さな呻き声だけが会場に残る。
観客は完全に声を失い見入っていた。
「お待たせ~」
「・・・・・・順番」
掴んでいた髪を離すと、赤い何かが地面へと吸い込まれるように落ちる。
残ったのはエクナイのみ。
「蹴りだけで腕千切れるかな?」
「・・・・・・股裂き」
ここから試合はまだまだ続きそうなの、だ。
エクナイの腕、足が、会場に散らばっておる。
「ほら、逃げろ、逃げろ」
「・・・・・・芋虫」
地面を這うように、もそもそと動く手足のない男。
「流石にそろそろ終わるか、瑞雀、最後だ、派手にいこう」
「・・・・・・了承」
蛇師匠がエクナイの尻を蹴り上げるとその物体は大きく空を飛ぶ。
顔だった部分から地上へと落ちてきたが。
そこから。
二人からなる交互攻撃。
手足のない胴体が。
会場を駆け巡るように。
上下左右、縦横無尽に高速移動。
追いかけるように二人も動く。
残像が光の線のように見える。
蹴りつけられる度鮮血が飛び散り、文字通り血の雨が会場を彩っていく。
「ラストっ!」
肉の塊が会場の丁度中央に打ち上げられ。
それはゆっくり下降し。
最後に蛇師匠と瑞雀。
滑り込んだ二人の足に上下からプレスされ。
「お、なんか、ダンベルみたいな形になったの、だ」
さらに形が変化した。
こうして、私達は無事この大会を優勝で飾った。
表彰式にでてきた主催者であり、蛇師匠の今回のターゲットだったが。
近くに寄った時には首が後ろを向いていたの、だ。
護衛は勿論何人もいたが。
守るべき対象が一瞬でいなくなってしまった。
「みんな、お疲れ様~。今回の報酬だけど私の報酬を山分けしようと思う」
勿論、大会の賞金はもらえるはずもなく。
元々この仕事に支払われる報酬で補填するとの事。
それでも大会の賞金より多い。まぁ当たり前かそれより少なかったら優勝した時点で寝返るの、だ。
さて、そうなると五等分でもかなりの額である。
私の個人資産は完全にレンレンが管理しているから普段無駄遣いはできないの、だ。
これはへそくりにして。
ゲームや漫画買いまくって、いやいっそ店ごと買い占めて・・・・・・。
「うへ、うへ」
私が気持ち悪い顔をしていたその時であった。
「報酬はいらんよ。でもどうしてもというなら私に一つ提案がある」
まず魔鏡が余計な事を言いだし。
「そうね、私もそんなつもりで協力したわけでもないし、でももし使い道がないというのなら・・・・・・」
汐見も続いて余計な事を言い出し。
「・・・・・・同感」
さらに瑞雀も余計に続いて。
「・・・・・・そうか」
なぜか蛇師匠はなんか納得したみたいな感じを出し。
「フラワーガーデン、あいつらの街に花でも植えてやろう。一面を覆うほどの綺麗な花を」
全員が声を揃えてそう言ったの、だ。
そして私は。
「私もそう思っていたの、だ。あいつらへのせめてへの手向けとして」
今までで一番きりっとした顔でそう告げたの、だった。
まぢで完全に今回の旅は骨折り損の草臥れ儲け。
とほほ、なの、だ。(アイリスアウト)