ういうい、準決勝なの、だ。
ういうい、円、だ。
蛇師匠が仕事上裏格闘大会に出るというので。
私も一緒につれて来られたの、だ。
五対五の団体戦、蛇師匠は私に残りのメンバーまで探させたのだが。
そのメンバーの一人によって。
第一回戦は。
圧巻の五人抜きで突破したの、だ。
Bブロックの対戦までは時間が空いた。
「汐見は先に戻っていてくれ」
「え、なんでよ?」
蛇師匠が汐見にそう告げる。
「大会参加者は他の参加チームから妨害を受ける可能性があるんだよ。私達は序盤から相当目立ってしまった。なので帰り道と宿泊先の安全を確保してもらいたい」
「・・・・・・理由は分かったけどなんで私なのよ。それなら他の人でも・・・・・・」
「これは君にしか頼めない。私達は一応他の対戦チームも見て今後の対策をたてたい。でも君の実力なら別に相手が誰であろうと関係ないだろう」
「そういう事なら、そうね。しょうが無いわねっ」
こうして体よく汐見を先に帰した。
汐見は胸を張りながら外へ出て行く。
「蛇師匠、なんで、汐見を帰したの、だ?」
流石の私でも今のやり取りが不自然だと感じたの、だ。
「次の対戦、オッズを見てみな」
視線の先には備え付けられている巨大モニター。
そこには次の対戦の賭け金の動きが表示されていた。
「ん、片方が1.0なの、だ」
これはつまりそのチームに賭けても儲けは一切でない。
「相当強いって事、か?」
「・・・・・・それもあるけど、これがそもそもこの大会の目的だ」
言ってる事がさっぱりなの、だ。
そうこうしている内にBブロック、三回戦が始まったの、だ。
「皆さん、大変長らくお待たせしましたっ! 次はいよいよ前回の優勝チームの登場ですっ!」
割れんばかりの歓声があがる。
「チーム、メイザースっ!」
5人が闘技場に姿を見せる。
「・・・・・・おお」
思わず声が漏れる。
なんとなく分かるの、だ。あいつらやばい、ぞ。
「対するは、チーム、スレイヴっ!」
逆側からは対戦チームの五人が。
「ん、なんだ、あいつら」
前回優勝チームのメイザースからは肌を伝うような警告感を抱いたのに対して。
こっちのスレイヴはまるで感じない。
むしろ、それは平均的な一般人よりも。
全員黒い皮マスクをしている若い男女混合チーム。
なんだか、全員震えているような。
「では、第三回戦、始めっ!」
何故、汐見を帰したのか。
何故、極端なオッズがついたのか。
試合が開始されて漸く気付く。
「むぅうううううううううううううう」
ただ一方的に。
ただただ残虐的に。
片方のチームが蹂躙されていく。
「まだ、まだ、死ぬな、まだ殺さない、マダマダ」
肌が、肉が裂かれていく。
地面が血を吸っていく。
「これは、どういう事なの、だ」
これは試合ですらない。
なんせ片方は全く抵抗していないのだから。
「・・・・・・観客にすればこれがこの大会の醍醐味だ」
対戦者は逃げようとしても足を必要に狙われ動けない。
そこから馬乗りになると背中を何度も刺した。
「こうして対戦の中に主催者好みの残虐ショーを織り交ぜる。相手はどこから連れてきたのかそのためだけの相手」
なるほど、あの皮のマスクはギブアップさせないための物。
こうして死ぬまでいたぶり続ける。
「あれ、動かない、もう死んじゃったの?」
チーム、メイザースの優男が立ち上がる。
キツネのような目をした細身の身体は返り血で真っ赤。
「勝負ありっ! 勝者はチーム、メイザースのエナクイ選手っ!」
男は両手を挙げて観客の声援に応えた。
そして次の対戦、この優男はすぐにギブアップ。
続いてまた別のメンバーが現れる。
「今日の生け贄は、おお、やった女だっ!」
代わったのは結構太めの男。手には大きな斧。
こいつはまず最初に逃げようとした対戦者の両足を切断。
その後、両手にも巨大な斧を振り下ろした。
「・・・・・・ごくり、こいつら、なかなかやるの・・・・・・」
私は正直見入っていた。
なのだが。
ぞくり、と。
言いかけた言葉が途切れた。
それは。
「・・・・・・ゲスが」
「・・・・・・屑共」
「観客も楽しんでる。これだから人間は」
他の三人からは明らかな不快感。
それは仲間である私がたじろぐほど。
うお、危ないの、だ。
「・・・・・・あぁ、そうか、だから蛇師匠は汐見を帰したのだ、な」
「・・・・・・そう。あの子はこの中で一番まともだ。こんなの見せたら全力で止めようとするだろう」
汐見は拷問士の顔も持つ。私達とは元々が違うの、だ。
「でも、それだと諸悪の根源まで辿り着けない。私達は決して善人ではないが・・・・・・」
「・・・・・・あいつらよりはまし」
「そうだね、形は違えど、それぞれに正義があって。私達はそれに従って前を向くしかないのだ」
よく分からんが、信念とかそういう奴か。
私には理解できない。
それはやはり私だけはまだあちらに近いからなのだろうか。
虐殺は代わる代わる行われた。
闘技場はすっかり血で染まり。
「準決勝進出はチーム、メイザースですっ!」
奴らは上へと駒を進めたの、だ。
その後の四回戦は普通に試合と呼べるもので。
勝ったのは、チーム、フラワーガーデン。
チーム名の割りにはメンバーはおっさん達であった。
準決勝は後日。
その後、私達は宿の近くのレストランへ。
そこで偶然出会ったのは。
「お、あんたら」
ん、たしかさっき試合に出てた・・・・・・。
「フラワーガーデンだ。俺はタジロ。あんたら参加者だろ、いやーそこのおチビさん強いねぇ」
「・・・・・・誰がおチビだ」
「あぁ、悪い、悪気はないんだ、ただその小さな身体で大男を吹っ飛ばす姿が壮観だっただけだ」
めっちゃいい笑顔。
これでそう言われたら魔鏡もこれ以上なにも言わない。
「貴方達も中々やるじゃない、是非対戦したいね」
蛇師匠も気さくに声をかける。
確かに皆かなりの手練れだったのだ。
「そうだな、でもそれにはあの糞野郎共にまず勝たないと」
そう口にした瞬間、さっきまでの笑顔が消えた。
「噂には聞いてたが、ありゃひでぇ。俺らも真っ当ではないがあそこまで腐ってはない」
うちと同じような事言ってるの、だ。
「貴方達はなんでこの大会に?」
蛇師匠の問いかけ。
見た感じ、この国の人間のようだが。
「あぁ、この国は中央に金は集まってるが、地方は格差がでかくて貧しいんだ」
そういやここは結構最近まで内戦やらなんやらでかなり荒れてたのだ。
「この大会主催者は武器やらなんやらで相当儲けたようだが、争いはそれはもう長く続いた」
争いが長引くと色々問題も生じる。
「俺らは元軍人で、だからって訳ではないが戦争孤児を集めて小さな街を作った。今は一日食うのも困るほど。だから金がいる」
ほう、親を亡くした子供達のためか。
「今は寂れた街だけど、いつかは花いっぱいの綺麗な街にしてえ」
そういう意味もこもったチーム名。
「・・・・・・そうか。あんたらいいねっ、気に入った、今日は私のおごりだ、大いに飲もうっ!」
蛇師匠が気に入ったようだ。
といっても蛇師匠は酒は飲まないけど。
その後、二チームは大いに盛り上がった。
フラワーガーデンのおっちゃん達は皆気さくで明るい。
私はというと、この後やる予定のトレーニングを考えると飯も喉を通らなかったのだ。
ここに来ても毎日この人達は身体を鍛えている。
それはもう私がついて行けないようなメニューなの、だ。
足に数十キロの重りをつけてドラゴンフラッグしたりするの、だ。
正直もう逆に身体に悪いの、だ。
そして準決勝。
私とはいうと、全身筋肉中で立つのもやっとなの、だ。
普段は蛇師匠とそこまで一緒にいないからいいものの。
こう四六時中共にしてると。
「よし、円、今のサーキットメニュー周回っ!」
「し、周回、て、なん、なの、だ。せめて何周か、いうの、だ、ごふ」
暇さえあれば身体を鍛えておる。
それに付き合わせられる私。
そして悲鳴をあげる肉体。
そんなこんなでボロボロの私に蛇師匠はとんでもない事を言ったのだ。
「今日は円が出ようか、修行の成果を見せてやれ」
「・・・・・・あ、いや、私は、あの、もう全身、痛くて・・・・・・ちょっと無・・・・・・」
「・・・・・・期待」
「深緑深層の子飼いの実力、この目で特と見せて貰おう」
「大丈夫、貴方が負けても私がいるわ」
くそぉ、この前は全員あれだけやる気だったくせに。
「おう、ならやってやるの、だっ! そこでしっかり見てるの、だっ!」
フラフラになりながら闘技場に向かう。
レンレンの名前を出されたらやるしかないの、だ。
もうどうにでもなれ。
こうして。
「チームスティグマータからは円選手っ! 対戦者は・・・・・・」
こなくそーっ!
「勝者、円選手っ!」
こなくそーっ!
「勝者、円選手っ!」
こなくそーっ!
「勝者、円選手っ!」
こ、こ、こなくそーっ!
「勝者、円選手っ!」
次が、最後。
おんどりゃーーっ!
「勝者、円選手っ! 苦戦しながらもなんとか勝利をもぎ取りましたっ!」
おっしゃー、なの、だ。
超ギリギリだったが五人抜きしてやったのだ。
ひいひい言いながら自軍へと戻ると。
「う~ん、勝ったけど動きがとろい」
「・・・・・・愚鈍」
「相手が一回戦より弱くて良かったね。じゃなきゃ負けてたよ」
「はぁ。もうしっかりしてよね。チーム全体が弱いと思われるじゃない」
こいつらぁ。
何はともあれ私達は決勝進出。
次はフラワーガーデンの試合か。
できれば勝ってもらいたいが。
あいつら夢を語っていた。
街を彩る花々。
綺麗に咲いて。
それは子供達の笑顔のように。
登場したフラワーガーデンを見て目を疑ったの、だ。
「・・・・・・円、汐見をどこかに連れてきな」
全員が黒い皮のマスクをしている。
とっさに感づく。
「し、汐見、私と飲み物買いにいくの、だ」
「え、なんでよ、これから始まるってのに。自分で買ってくれば・・・・・・」
素直にいう事を聞く奴ではないのは分かってはいたが。
「汐見、行け・・・・・・」
蛇師匠の重い一言。
「・・・・・・わ、分かったわよ。なんなの、もう」
隣にいた私ですら死を感じるプレッシャー。
これには汐見も従うしかない。
「私がいいと言うまで戻ってくるな」
「わ、わかったの、だ」
私にはなんとなく理解した。
この後、闘技場で何が行われるのか。
経緯はどうあれ。
フラワーガーデンの面々はまんまと大会の思惑に飲まれたの、だ。
私達の決勝の相手が決まった。
「チーム、メイザース」
その夜行われたミーティング。
なんだか雰囲気が重い。
「まだ試合に出てないのは、君と血色か」
蛇師匠と瑞雀こと血色はまだステージに上がっておらぬ。
先ほど行われた準決勝、聞いた話で結果だけを言えば。
チームフラワーガーデンは全員が死亡。
前のチーム同様の残虐ショー。
それはもう暴力の限りを尽くしていたという。
「メンバーはもう誰が誰だか分からないほどまで遊ばれていたよ」
大将戦での一コマ。
「・・・・・・こ、子供、達には・・・・・・手を・・・・・・」
振り下ろされた斧は顔面を割り、マスクも縦に裂かれた。
ようやく発せられた言葉は降参ではなく。
「はぁ? 馬鹿だねぇ、最初っからもう全員死んでるよ。お前らが準決勝にあがった時にはもう街は火の海になってたのっ!」
キツネ目の男はそれはもう愉悦に笑う。
「あ、泣き叫んでたなぁ、刺せば刺す度泣いて、叫んで、ぷぷぷ」
それはまだ幸せだったのか。
「なんか抵抗してきた生意気な餓鬼がいたなぁ、そいつは特に念入りに殺しておいたぞ、骨という骨、歯という歯を折って、後は・・・・・・あれ、聞いてる?」
そんな言葉も聞く前にタジロは息を引き取った。
私達には知るよしはないが、フラワーガーデンはなんらかの妨害を受けたのだろう。
「私達も何かしらの接触があるかもしれない。試合までは充分警戒しよう」
「私達が囮になろう。試合で目立ったのは私と汐見だけだ。狙われる可能性があるとすれば私達だろう」
え、私は?
「なら、決勝は私と瑞雀に任せてもらおうかな」
え、私は?
「さて、じゃあ寝ようか」
この時、蛇師匠と瑞雀がどれほど感情を抑えこんでいたのか。
私だけはその後知る事になる。
いわゆる溜め回的なやつでした。