ういうい、なんか唐突に死合が始まったの、だ。
ちょっと抗争の話が纏まらなかったのでとりあえず先のお話。
ういうい、円、だ。
あの悪夢のような抗争から半年。
私は蛇師匠に呼び出されていたの、だ。
「おお、円か。よく来てくれた」
「なんか、用なの、か?」
私はゲーム、ラストファンタジーを今トロコンするためにハードモードで二週目をやってるの、だ。
正直、忙しいの、だ。
「うんうん、いきなりなんだけど、今から海外へ一緒に飛んでほしい」
「ほえ?」
蛇師匠の話はこうだ。
今回の仕事のターゲットが大物で相当用心深いらしく。
なのである条件の下でしか姿を現さないと。
「それがそいつ主催の裏格闘技大会で優勝した時だけなんだよ」
「ほう、それなら蛇師匠がさっさと行って優勝してくればいいの、だ」
私が付いていく理由は思いつかない。
セコンドでもやらせる気か?
「私もそうしたい所なんだけどねぇ。それが駄目なんだよ」
「ん、なんで、なの、だ」
蛇師匠が肩をすくめる。
「その大会ってのが5人対5人の団体戦なんだよ」
「なるほど、それじゃ駄目なの、だ」
蛇師匠はハイレンズという殺し屋集団のボス。
前はもう少し人数はいたが以前姉御と私でほぼ壊滅させてしまっていた。
今も人数は補充しておらず、多分蛇師匠のお眼鏡にかなうメンバーが見つからないのだろう。
「てわけで、残りの三人も円が見つけてきておくれ」
「ういうい、残りのメンバー三人、私が見つけてくる・・・・・・えーーーー」
そんなこんなで私は三人の候補を探す事になったの、だ。
蛇師匠にはなんだかんだでお世話になってるからその頼みとあらば無下にはできない。
「とはいえ・・・・・・」
誰がいるというの、だ。
勝ち抜け戦らしいので蛇師匠さえいればどうにでもなりそうだが。
そう提案したら。
「いや、裏社会の力自慢が数多く集まる。どんな奴がいるか分からない、仕事は可能なかぎり全力でやるのが私の流儀だ。なので、できるだけ強い奴がいいね」
なんて、無茶ぶりしてきたの、だ。
まぁ、すぐに頭に浮かんだ人物はいることはいるが。
「この頼みを聞いてくれるかどうか・・・・・・」
某日、某国。
私達、五人は海外のある国に降り立った。
「すぐに迎えの車が来る。エントリーは済んでるからね」
蛇師匠のいう通り、すぐに黒光りのリムジンが到着。
私達はそれに乗り込む会場へ移動した。
会場は地下にあった。
現場を下見、中央に広い闘技場。周りは金網で囲った観客席。
「まずは予選みたいだね、実績のあるチームは免除らしいけど、私達は初出場だからそれを勝たなくてはならない」
なるほど、思った以上に出場者は多いらしい。
「本戦に出れるのは8チームのみ。だから、ここで足きりってやつだ」
ここで名を売れば大きなコネもでき、そもそも賞金も破格。
野心の大きい者達が数多く集まっておる。
「予選はチームで一番強い奴を出してのバトルロイヤル」
それを何組かに分けるらしい。
私達は三組目。参加チームは10組、つまり各チーム一人ずつ出すから闘技場には10人集まっての殺し合い。
「ルールは本戦と同じ、銃火器は省く武器有り、生死問わず、禁じ手なし、ただ降参はあり、気絶したら負け」
いざとなれば降参すれば死にはしなそうか。
「そんじゃ、誰が出る~?」
皆顔を見合わす、正直、この中で誰が最強か私には判断できん。
あ、私は勿論この中では断トツで最弱なの、だ。
「チームで一番強い奴なんでしょ? なら私が出る」
名乗りを上げたのは。
着物柄の布で目を隠した女。
「私はつねに一番強くなんてはならない。それが今できる贖罪」
こいつだけは私が探してきた奴じゃないのだ。
どこで話を聞いたのか、こいつは自分自身で私の前に現れた。
「詳しい話は知らないけど、お前が困っている時は手を貸せと上に言われている」
どういう経緯かは知らぬが、一応蛇師匠に見てもらったら一発オーケーだった。
少なくとも蛇師匠には認められたという事。
ならば、その強さも約束されたようなものだが。
「大丈夫なの、か? これで負けたらそれで終わりなの、だ」
実際の戦闘は見てはいない。
「問題ないからっ」
彼女はそう自信たっぷりに答えた。
そしてその予選の時は来た。
「はらはら、なの、だ」
私達は観客と同じ席で見守ることに。
「まぁ、大丈夫でしょう」
当の蛇師匠は余裕綽々。
「さぁー、皆様、お待たせしましたっ! この予選ですが本戦と同じく賭けは可能でございます! この10人の中で一番最後まで立ち上がっているのは一体誰なのかっ!?」
アナウンサーの声、答える観客。
予選というのに会場は満員御礼、熱気は最高潮。
「注目はチームケルベロスのロガリゲス、殺し屋界での有名人ですっ!」
なんか筋肉隆々のドレッドヘアの男がいるの、だ。
確かにあれは強い、の、だ。
他の参加者も皆、只者ではない。チームの最強を出してきてるのだ、当たり前か。
女はうちだけなの、だ。
てか、チーム全員女なのはうち以外はおらぬ。
それだけ異質な存在。
闘技場では逆に目立つ。
「おいおい、女がいるぞっ!」「はは、面白いっ! これは大会の余興か?」「いいぞ、切り刻めぇえっ!」「まず最初に全員で剥いちまえっ!」
会場からヤジが飛ぶ。
皆好き勝手言っているが。
その口もすぐに開いたまま閉じなくなった。
「では、予選第三組目っ! 始めぇえええええええええええええええ」
思惑は全員バラバラ。
近くの者から攻撃しようとする者。
弱そうな者から攻撃しようとする者。
注目されているロガリゲスから攻撃しようとする者。
その中で。
うちの汐見だけは違った。
9人全てを最初の標的にした。
素早く出した警棒。
一番最初は誰に打ち付けたのか。
最後は誰だったのか。
それすら分からないまま。
ほぼ同時に9人が体勢を崩す。
「・・・・・・・・・・・・」
私を含め誰も声をしばらく出さなかった。
「はっ! し、勝負ありっ! 勝ち抜けたのはっ! なんと、チームスティグマータのシオミ選手だぁああああああああああああああああっ!」
お、おう、なんか勝ったの、だ。
私もよく見えてなかった。
「おー、やるねぇ。最初の踏み込むが見事だね」
「・・・・・・最後もなかなか」
「途中の切り替えも流れるようだった」
わあ、私以外のチームのみんなはちゃんと把握しておる。
「これで次は本戦だ、一応他の勝ち抜けチームも見ておこうか」
こうして予選を全部見ることに。
一日おいての本戦。
私達は二回戦。
「本戦は勝ち抜け戦だ。補欠は一人まで認められてるけど、私達はぴったりしかいない。死んだら単純に勝ち上がっても人数は不利になるからなるべく死なないようにねぇ~」
先鋒、次鋒と剣道の試合のように進む。
先鋒が勝ち続け相手の大将を倒せば良し。
「さて、誰が先鋒をやるかね?」
実はこの時点で皆のテンションはかなり上がっていた。
今すぐにでも試合をしたい(私を除く)感じになっていた。
「私が出よう」
その中で彼女が一番早く手を上げた。
「そうだね。私は貴方の戦いを見た事がない。なのでここで見せてもらおうか」
お互い名を知っていたが出会うのはこの大会に出るとなってから。
なので、自己紹介もかねてという事なのか。
小さな、とても小さな身体が闘技場の中央に向かって行く。
「おおおおっと、これはとても可愛らしい参加者だぁ、チームスティグマータからは選手マジックミラーっ!」
姿を見せた瞬間、会場から笑い声がわき起こる。
「ぎゃはははは、なんだ、あいつっ!」「ここは保育園じゃねーぞっ!」
対する相手チームからは。
「おいおい、なんだこのコロポックルはっ!」
対象的にでかいレスラーのような大男。
「・・・・・・・・・・・・」
子供と大人どころの体格差ではない。
「こいつをボールにサッカーでもしろってかっ、あぁあああああああああああああ?」
顔を近づけ挑発する男。
だが、彼女は男の言動も、会場のヤジにも動じてない。
「ひねり潰せぇえええええええええええええ」
「肉団子にしちまええええええええええ」
「虐殺ショー期待してるぞぉおおおおお」
観客席からの声が五月蝿いの、だ。
こいつら好き勝手いいやが、る。
「トーナメント第二試合、先鋒戦、始めぇええええええええええええ!」
アナウンスがかかり。
試合が開始。
「おらぁ、潰れろぉおおおおおおおおおおっ!」
大男が全力で両手を振り下ろす。
そして。
闘技場を囲むフェンスから激しい音が響いた。
先ほどまで中央にいた大男が。
一瞬で移動した。
後方。
フェンスに押し潰されるように。
「さっきの威勢はどうした? 木偶の坊」
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお、流石なの、だ。
「大男も口だけじゃなかったね。あんだけ吹っ飛んだ」
「そう、あれは本来あの男の力」
魔鏡は相手の力を利用して反射させるの、だ。
なので、相手が強ければ強いほどその反動は大きい。
「わぁあああああああああ、格好いいの、だっ!」
対戦者や観客の心ない言葉も全て反射し黙らせた。
「もうどんな言葉も聞き慣れてる。だからこうするしかないのさ」
静かに味方のいる方へ戻っていく。
「噂に違わない実力だ。こりゃこのまま全勝かな?」
「・・・・・・当然。私が勝てなかった一人」
「・・・・・・ふん、なかなかやるじゃない」
「うひょぉおおお、スカッとしたの、だっ!」
蛇師匠の言葉通り。
この後、魔鏡は対戦者全員を倒し見事五人抜きを果たし。
私達チームスティグマータは。
準決勝進出なの、だ。