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あのね、悪役すぎる令嬢なの。(葵誕生日記念回)

 

どうも、どうも~、葵だよ。


絡みつく無数の腕を振り払い。


 底の底から。


 小さな光へと。



 覚醒した意識。


 その視界は。


 見知らぬ天井。


「・・・・・・ここは」


 私の魂は最下層へ落ちたはず。


 落ちるだけで二千年、そこは地獄の中の地獄、阿鼻地獄。


 ありとあらゆる苦痛を人間時間で三百四十九京二千四百十五兆四千四百億年与えられ続ける。


 もしかしたらそれを乗り越えこうして私は転生したのかな。


 正直気が遠くなりすぎて覚えてない。



 目を覚ました部屋はかなり広く。


 豪華な家具や装飾品で彩られていた。


 歳は死んだ時と同じくらいか。


 窓に映る自分の姿はあの時のまま。


 ただ違うのは、抉られた片目も、切り取られた腕も足も健在していた。


「いや、違うかな。私は最後には無になったんだ。そう、あの人によって・・・・・・」


 どんどん前世の記憶が蘇ってくる。


 以前の私は。


 人を殺すために生まれた。


 最悪の殺人鬼。


 ドールコレクター。




 時代的には元の世界で十九世紀くらいか。


 私は貴族の令嬢らしい。


「お嬢様、今宵の社交界ですが・・・・・・」


 専属のメイド達が取り囲み、準備に追われる。 


私の場合はまだ未婚だからお父様の付き添い程度。


 一人娘みたいだから人脈を広げる意味合いかな。


 せっかくだしこの世界楽しむためにもまずは慣れないとね。



 その夜、宮廷で行われた社交界。


貴族の中でもそれなりの地位を持つ家柄だったせいか、周囲にかなり人が集まってくる。


 適当に相手をしていると。


「あぁ、女王様よ」


 どよめきが起き、皆の視線が一方に集中した。


「二人の王女様もご一緒ね。相変わらずアンジェリカ姫はお綺麗ですこと。・・・・・・それに引き替え」


 女王に続き奥から登場したのは二人の王女。


 その一人を見て、私は目を見開いた。


「・・・・・・円ちゃん」


 凜と進む二人に隠れるようにオドオドしている少女。  


その姿は。


 前世で私が愛した妹、そのもの。


「・・・・・・いや、似てるだけ。でも・・・・・・」


 本当に瓜二つ。


「アンジェリカ王女じゃない方はなんていうのかな?」


 近くの人に尋ねる。


「え? あぁ、アオーイ様はお初ですかな。あれは第二王女のマドーカ姫です。ここだけの話、あまり優秀ではないようで、全てを第一王女のアンジェリカ様に持って行かれた抜け殻とか・・・・・・」


 後半の話は耳に届いていなかった。


 名前を聞いて私は確信したの。


「うふふ、そうなんだね。私がここに来た意味がようやく掴めてきたよぉ」


 

 その後、さりげなくこの国の状況を仕入れていく。


 女王と第一王女は出来の悪いマドーカ王女をいつも忌み嫌って虐めてるみたいだね。

 その証拠に女王と第一王女はつねに一緒にいるのに、マドーカ姫は俯いて一人立ちすくんでいた。


 豪華絢爛、煌びやかな世界。


 それは多分・・・・・・。



 ずっと目で追っていたマドーカ姫が離れた。


 そのタイミングで私も動く。


 エントランスで風に当たっていたマドーカ姫に近づいた。


「どうも、どうも~。お初だよ、マドーカ姫」


「・・・・・・どなたですか、だ、です。あ、違う、あう」


 う~ん、王女なのに言葉使いがなってないねぇ。

 私も人のこと言えないけど。


「私は葵だよぉ。一応、コレクタ家の令嬢みたい」


「あ、そうか、です。私は、マドーカ、だ、ですわ」


 見れば見るほど円ちゃんそっくりだよ。


 今すぐ抱きしめたい気持ちを抑える。


「少しお話しようかぁ」


 もう私のやることは決まったの。


 それはこの世界に来てすぐ気付いた。


「うふふ。それでねぇ」


「うくく、アオーイ様、面白い、のだ、でございます」


 真っ赤なドレスを身に纏うマドーカ姫。


 対象的に真っ青なドレスを着る私。


 月が二人を照らし続ける。


「なんだか、アオーイ様とは、昔から知り合いな気がする、だ、でございます」


「うふふ、私もだよぉ」


楽しい時間はあっという間に過ぎる。


「あぁ、もうこんな時間なのだ、です」


「そろそろお開きかなぁ」


 さて、最後に本題に入りますか。


「ねぇ、マドーカ姫、いや、もう円ちゃんと呼ばせてもらうね」


「え、あ、はい、なんだ、でしょうか?」


「ここまで来るまで少しだけ市街を見てきた」


「はぁ」


「そこはこことは別世界。相当格差が進んでるね」


 痩せこけた民衆、腐敗したような町並。


 絶対王政。


 納税免除の聖職者と貴族の特権身分。


 アンシャンレジーム。


 それは必然。


「近いうち起こるよ」


 今、ここに並べられてる食事も。


 貴族達が身につけている装飾も。


 皆、平民の税金。


「これだけの贅沢。なのにこの国は財政難」


 貴族達は皆そこに目を瞑ってはいたが比較的まともな人もいた。


 新たな思想が生まれ。


 不満はいずれ爆発する。


資本主義なんかは結構なことだけど。


 今、それをさせるわけにはいかないの。


「このままじゃ円ちゃんは処刑されるねぇ」


「え?」


 そう破裂した不満は形になる。


 革命という名の狼煙が上がる。


「でも大丈夫」


 二つの瞳が合わさる。


 この世界でも貴方を。


「私が守ってあげる」



 知ってるからね。


 世界の成り立ちを。


 ここも例外ではない。


「まずはどこから手をつけようかなぁ」


 王族の権威を引き上げ。今はブルジョワジーが力をつけているせいで影響力が薄まっている。


 となると問題は社団、つまり官職を持つ新貴族の存在。


後は代替の財政。


 とりあえずは家の私財で手をつけていこう。

 口を出されないように仮の両親は生かさず殺さずって所かな。


 いつ導火線に火がつくかは分からない。


 全て同時に進行させなければ。


 そしてその功績は全て円ちゃんに集約。


 そのために邪魔なのは姉の王女アンジェリカ。


「とりあえずこっちは毒殺しておこうか」


 円ちゃんが台頭すれば絶対嫉むもん。


 それに姉は一人だけでいいんだよぉ。


 この時代ならなんでもいいけど、無味無臭の三酸化二ヒ素あたりでいいかな。


 円ちゃんを騙・・・・・・利・・・・・・手伝ってもらって使うのが早いかな。


 料理人か使用人を買収してもいいけど直後に口封じしないとまずいし。


「円ちゃん、現王政に力がつけば特権階級からの納税も可能になる」


今のままでは必ず反発が起こる。


 そのためにその他大勢の市民を味方につけなくてはならない。


 それに伴いめぼしい有力貴族の令嬢は落としておいたほうがいいね。


「さぁ、忙しくなるよぉ」


 三部会みたいなのが出来る前に終わらせないと。


 私の用いる知識でいくつかの問題はたやすく解決できる。


 農業、産業、ここらへんはもとより、影響の少なそうな技術提供で外資獲得も視野に入れる。


 後は。



    ◇


「こちらですわ、ネッカロ様」


「こらこら、どこまで連れて行く気だ」


 令嬢の一人を使って獲物をおびき出す。


 いつだってそう、こういうハニートラップには簡単に引っかかる。


 人気のない森の中、従者を置いて付いてくる。


 そこで待っていたのは。


「どうも、どうも~」


 ナイフを持った私。


「だ、誰だっ!?」


 貴方の考えは立派だけど今は必要ない。


 だから。


「蒼薔薇会だよぉ」


 首を切り裂く。


 男は呻き声すら上げずに崩れていく。


「あ、従者も呼んできて。一緒に始末しなきゃ」


「はい、葵様」


 彼は啓蒙主義者、それがこの後広く普及するのは厄介。


 ま、ポストコロニアリズムの例もあるし別にいいかな。


 こうして邪魔者はどんどん排除していく。


 勿論、反発する者も例外ではない。


「蒼薔薇会だよぉ」


 あるときは貴族を。


「蒼薔薇会だよぉ」


 あるときは思想家を。


「蒼薔薇会だよぉ」


 あるときは聖職者を。


「蒼薔薇会だよぉ」


 あるときは結束のために。


「さぁ、エリザベートちゃん、どうぞ」


「は、はい、で、ではっ!」


 木に括り付けている女にエリザベートちゃんが勢いよくナイフを刺し込む。


「あぎゃあああああああああああああああ」


「よし、次はリームちゃんっ!」


「あ、は、はいっ!」


 続いて突っこむは貴族令嬢のリームちゃん。


「ひぎゃあああああああああああああああ」


「あ、あ、あんなに血が、血が・・・・・・」


「うふふ、いいよぉ。ほら、みんなもどんどん行こうかぁ」


 取り巻きの令嬢達が震える身体にナイフを握り。


 滅多刺し。


「この子は、円ちゃんの事を影で悪くいってたんだよぉ」


 この子も結構家督が高い令嬢だけど。


 関係ない。


 双方のドレスが赤く染まっていく。


「うふふ、貴族の血はブルーブラッドというけれど・・・・・・」


 最後に私のナイフが喉を勢いよく切り裂く。


 飛び散るは。


「ちゃんと赤い血だねぇ」


 少しでも反抗する意志があれば容赦はしない。


 市民の反乱も一応想定して軍備にも予算は割いた。


 元よりこの時代隣国との戦争はつねに視野にいれておかなければならない。


 生活環境の改善、食料提供、減税等で市民の溜飲は充分下げた。


 神職、貴族からの納税も義務づけた。


 円ちゃんには市民に葵スペシャリテのお菓子を与え続けてもらった。


 仕上げは。


「さぁ、円ちゃん、新体制には犠牲も伴うよぉ」


 現女王の処刑。


 これまでの悪政の責任を取らせる。


 これを円ちゃん自身が行うことで新女王としての覚悟を示す。


「あ、あう、で、でも、姉御」


「大丈夫、大丈夫、ギロチンはとても人道的だから」


「あぁ、マドーカ、助けておくれ、マドーカっ」


 涙を流して嘆願してる。


 でも、駄目。


 貴方はいままで散々円ちゃんを蔑ろにしてきた。


 そのつけを今ここで払うんだよぉ。


「円ちゃん、さぁ、その縄を切るんだよぉ」


「マドーカっ! お願いっ! マドーカっ!」


 円ちゃんは第一王女の毒殺は認識してない。


 蒼薔薇回の会合にも参加していない。


 つまり人を殺すのはこれが初めて。


「さぁ、円ちゃんっ!」


「うううわぁああああああああああああああああああああああああ」


「マドーカ、マドー・・・・・・・・・」


 ゴロン、と。


 丸いものが転がる。


 わき起こる民衆の大観衆。    


「うふふ、よくできたよぉ」


「あ、ああ、ああ・・・・・・・・・」


 優しく頭を撫でる。


 円ちゃんは肩で大きく息をしていて。


 その目からは涙が流れでていたが。


 口元だけは。


「これからもっと色々教えてあげるね」


 笑っていた。

     


こうして革命は回避された。


 しかし、いつかは時代によって改革は必ず起こる。


 女王となった円ちゃんは。


「女王様、北方遠征の件ですが・・・・・・」


「姉御に任せるの、だ」


「女王、今年度の予算の振り分けですが・・・・・・」


「姉御に任せるの、だ」


「女王、今だに反発する貴族達への対応は・・・・・・」


「姉御に任せるの、だ」


 全部、私に丸投げしてケーキを食べていました。


「円ちゃん、その反発する一部の貴族だけど、今から蒼薔薇会が動こうと思うんだよぉ」


「お、まぢか、なら、私も、いくの、だっ!」


「うんうん、そうこなくっちゃ」


 すでに会員の私兵が標的は捕捉済み。


 今や淑女の嗜みとして社交界より開催されているの。


 

 反発貴族の屋敷に突入する。



 ここのスタシオ候は、納税は元より円ちゃんが発した奴隷制撤廃にも反対していた。


「蒼薔薇会だよぉ、使用人は投降すれば良し、じゃなきゃ・・・・・・」


 ナイフを両手に持って円ちゃん、そして蒼薔薇会の令嬢とともに廊下を進んでいく。


「皆殺しだよぉ」


 令嬢の皆は、斧や鞭を持って微笑んでいる。


「見て下さいませ、これ今日のために特別に作らせましたの」


「あら、私も外国から取り寄せたのですわ」


 きゃっきゃうふふと、自慢の武器を見せびらかす。  


兵に捕らえさせれば簡単なんだけど。


 それじゃ面白くない。


「うくく、その部屋か、姉御、私がいくの、だっ!」


 円ちゃんが真っ先にドアをぶち破る。


「アポは取ってないから地下に逃げる暇もなかったねぇ」


 そこにはこの屋敷の主が、妻や子供達と一緒に中央に固まっていた。


「お、おい、これはどういう事だっ!」


「五月蝿いの、だ。お前らは国家反逆罪で処刑、なの、だっ!」


 円ちゃんがスタシオ候のこめかみに一撃。


 ナイフは根元まで突き刺さる。


 瞳が天をさし、前から倒れ込む。


「きゃああああああああああああああああああああああああああああ」


 妻が叫び。


「わぁあああああああああああああああああああああああああああああ」


 子供達が泣き喚く。


「あらあら、どうしましょう。血の女王様がすぐに殺してしまったわ」


「残念ですわ、反逆者にはもっと苦しんでもらいたかったのに」


 遊び相手が減って淑女達は少し不満そう。


「まぁまぁ、まだこの人達がいるじゃない。こっちはゆっくり楽しもう」


「そうですわね、そうしましょう」


「葵様のいう通りですわ、では、わたくしはこちらを・・・・・・」


 でもこうなるとちょっと足りないかなぁ。


「ねぇ、やっぱり、さっきの使用人と庭師を連れてきて。こうなりゃ連帯責任だよぉ」


「まぁ、いい考えですわ」


「さすが葵さまっ!」


 元から殺すつもりだったけどね。


ここの私財は差し押さえて、軍備強化に企てますか。


「うくく、なんだ、もう動かないの、だ」


 血だらけで今もなお死体を切り裂いている円ちゃんを見る。


「まだまだ物足りなさそうだねぇ」


「そりゃそうなの、だ。もっといないのか、悪い奴」


「流石にもう表だって反旗を翻す者はいないねぇ」


「そうか、それは詰まらないの、だ」


 気を落とす円ちゃん。


 でも大丈夫。


「うふふ、安心して。近いうちにもっともっ~と殺せるよぉ」


 これからは周辺各国との戦争が始まる。


 もはや国力の差は歴然。


 当初市民との衝突を想定して増強してきた軍備は途中からシフトしている。


「本当、かっ! 誰だ、男、か、女、かっ! 子供か、老人、か!?」


「うふふ、全部だよぉ」

 

今度は国盗りといこうかぁ。


 皆が円ちゃんの首を狙ってくる。


 でも、大丈夫。


 どんな時でも。


 どの時代でも。


 私が守るから。



 血の女王と蒼の麗人がこれから起こすジェノサイド。


 それはまた別のお話。

 なんか書きたかった話とは別物になってしまいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが『悪役令嬢に転生してしまった』シリーズ、葵ちゃんバージョンですか。 沢山死人が出てますが、民の皆の暮らしがマシになったでしょうし、なんやかんやで戦争も終結させてくれそうですし問題ないで…
[一言] 今週もありがとうございます。 改めて葵ちゃんお誕生日おめでとう╰(*´︶`*)╯♡ 令嬢に転生しましたか、葵ちゃんなら普通の貴族でも通っちゃいそうなのがさすがです。以前お嬢様学校に通学した…
[一言] 葵ちゃんと円ちゃんが楽しそうで何より この葵ちゃんは時期的にドライゼ銃とかの超強力なのにまだ実戦デビューしてない有力兵器をしこたま溜め込んでそうですね
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