死ぬ前の話
頭上を低い位置から灰色の雲が覆いつくしている。十二月の冷気が体に吹き付け、マフラーに顔を埋めた。今日は、午後から雪が降るそうだ。
ここに来るまでの間、すれ違う人々の手には傘が握られていた。だが、俺に傘なんて必要ない。それから、今後も必要ない。
なぜなら、俺は今日を境に世界へ「さよなら」を告げるからだ。
すまない。どうにも、俺は、死を間近にして、彩を感じなかった人生をかっこつけて終わらせたいようだ。言い換えよう。
俺は、今日、この廃ビルから飛び降りて死ぬ。
廃ビルの屋上に冷たい風が強く吹いて、俺の髪を靡かせた。
誰も俺の死を止めるはずがないのに、冬の風だけが、死ぬな、と言ってくれているような気がした。気がしただけだ。
フェンスを越えようと掛けていた手を放し、フェンスに寄りかかり地面に腰を下ろした。
どうせ、俺を止める人もいないのなら死のうと思った理由を語らせてもらおう。同情してもらおうなんて思っていない、目立ちたいわけでもない。
だから、俺は、雪の降る十二月の今日を選んだ。誰もが空から降る雪に目を奪われ、体温を求め合う人々が寄り添う、そんな日に死にたかった。
俺の人生を語るには、少し遡らなくてはいけない。
今年の三月一日――高校を卒業し、友達と別れを告げ合ったあの日――から語らせてもらおう。
そんなに長い話にはならない。これを聞く人がいるのならラジオだと思って欲しい、とてもくだらない童話だと思ってくれればいい。
俺は、マフラーに顔を埋め、目を閉じ語りだした。






