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勇者、別の魔王と対峙

続編です

「死にたくないから大人しくシーラを渡せ」


それは俺の想像の中で、あそこに浮かんでいる奴の台詞だが。

シーラを救い出した魔族達は、戦意を見せていない。

皆が一様に膝をおっている処からも自分達が仕えた主では無いにしても、『魔王』には敬意を示すらしい。


  さて、俺が飛び出していったらどうなるかな?


瞬間移動で割って入り、魔王と一戦交えても良かったけど。

助けに来た魔族がどうするか興味が沸いてきた。


  あいつら…………、シーラを引き渡す方を選ぶか?

  そうなりゃ、飛び出すだけだが

  



魔王一人と従者に、雑魚七名。


普通に考えて、シーラの従者側に勝機が在るとは思えない。

従者の中には確かに『魔王』に匹敵する者も存在してはいるけど、それは今あそこでベルゼと相対している者では無い。

まるっきしの雑魚魔族では無さそうには感じるが、魔王ベルゼと戦えるだけの器量は持ち合わせていない事は直ぐに分かった。


  ん、頭をあげたぞ、何か返事をしてるみたいだけど

  何を言ってるかわからんなぁ



「お断りします、ベルゼ様。我等は亡きバエル様の僕で御座います。その御息女であられるシーラ様を、御本人が拒絶なされている以上は、命に代えても貴方様の御言葉には従えません。どうか、お引取りを」


「ほぉ、従者魔族如きが『魔王』の私に物申すか。一度は目の前で連れ去られるのを黙認したが二度は無い。最期のチャンスをやろうシーラを引き渡せ!」



雑魚魔族に囲まれ守護されているシーラが、前へ出来て何かを伝え様としているが、彼女の性格からして、従者達を見殺しには出来ないだろうし、その台詞も自然と予想が付くと言う物。


「ミュールもう下がりなさい、貴女まで死ぬ事はありません。私がベルゼに従えば良いだけなのですから……」


「御嬢様こそ、お逃げ下さい! この場は命を賭して時間を稼ぎます。どうか御無事で!」


従者が立ち上がって手を振り払った。

それに合わせて他の魔族達も、一斉に立ち上がり武器を構えたのが見えた。


「いけませんミュールっ! 止めなさいっ!」


「一人御嬢様に付けっ、残りはここで時間稼ぎだぁ!」


「さあ御嬢様、こっちへ早くっ」


「駄目よぉ、ミュール止めなさい!」


一人の魔族がシーラの手を執り走り出した。

ほんの少しの距離を移動したあたりでその魔族の頭が吹き飛び、身体は地面にバタリと倒れて行くのが遠い先で見える。


六人で命を賭して時間を稼ぎシーラを連れて離れようとした魔族の苦肉の策は。

指一本から放たれた魔王の一撃で、その思いは叶えられずに露と消えた。

そもそも、魔王が従者魔族の一桁台の人数でどうにか成るなら、その座を長期間に亘って維持できてる道理が無い。


「なんという事を……同族ですらも、こんなにも簡単に殺すなんて!」


「愚か者の末路よ、素直にお前を引き渡せば命だけは見逃したものを、我が眷属とその一党以外は例え同族といえど、我が敵。従わぬ者には死あるのみ」




距離が遠すぎて連中が何を言っているのか定かでは無いが、そろそろ限界と見た。

タイミングを間違って後悔はしたくない。


『転移』


転移と念じる前に。

  

  俺は、何を後悔したくなかったのだろう?





「消え失せろ雑魚どもがっ」


「やめてぇ━━!」



シーラの身体を震わせた渾身の叫びも虚しく、魔王は魔弾を従者へ放つ。

その威力は、転移直後に張った結界によって威力を失い掻き消えた。


「貴様っ! 、又も邪魔しにきおったかあ!」


「喚くなよ、俺からすりゃあお前の方が邪魔だぞ」


「勇者様っ! 助けに来てくれたのですね」


背中にビタリとシーラに張り付かれて、言いようの無い照れくささが生まれる。

幾多の戦乱を潜り抜けた俺だが、女性のこういう態度には慣れてはいない。

一瞬、赤面するほどドキリとなる。


「悪いが、少し離れてくれるか?あそこに浮かんでいる奴を追い払うから」


「はい、どうかお気をつけて」


シーラの背に手を廻し守りながら、従者は俺に話しかけてきた。


「勇者の貴様が何故に我らを助けるのだ?」


「そういう事は、後にしてくれないかな?」


「分かった。後で聞かせて貰うぞ」



俺と魔王ベルゼをその場に残してシーラを連れた従者達は、速攻で離れていった。

以前に、パエルの城で最初に姿を見せたのがこのベルゼだったが、実力の程は如何な物だろう?、宙に浮くこいつが、バエルと同等以上な事だけは確定している。


だがまあ、実際に戦わないと本当の処は分かりはしない。





ベルゼが静かに剣を抜いた。

右手に持たれた黒い刀身からは、闇の気が放たれ続けている。


「ふん、行くぞっ」


「ああ、いつでもいいぞぉ!」



俺も剣を抜いてベルゼを睨む。


俺の右手の剣は奴の様な、派手な効果は無い。

至って普通の多少は高価な物というだけで、誰でも手にはいる一品だが俺が手にした事で、奴の持つ闇の刀身にも勝るとも劣らない物となっている。



ベルゼが地上に降り立つと同時に戦闘が開始された。

お互い地を蹴り、瞬速の動きで相手へ剣閃をむけた。

二人の切り合う空間には、刀身が弾け合う際の閃光が舞う。


「わははは、面白いぞぉ! 流石はバエルを倒しただけの事はあるではないかあ」


「それは光栄だねっ。でも勘違いして貰っては困るんだよな」


「ほおお?、私が何を勘違いしていると?、言ってみるがいい」


「勇者の『スキル』の本質にだよ」


「なあにぃ?」



そう勇者は、一世代に一人しか生まれない。

だが、その能力は一人分ではなく代々勇者として戦ってきた者達の、全てを受け継いでいる。その事は、勇者を継いだ者にしか理解出来ないし、分かりはしなかった。


つまり……。


「俺が本当に勇者の力を解放したらお前一人なんか、相手に成らないって事さ。長引かせるとこの辺りの地形が変わってしまうから、速攻で勝負を付ける。今からは、多少力を解放してやる」



「何を戯けた事をほざ……


「ほらぁ、折角いま言ったやったのに、ぼけっとしてるからこうなる」


ベルゼの胸には、俺が繰り出した刀身が背から突き抜けている。

だが、ほんの少しばかり急所を外したのは、魔王の手柄と言えるだろう。


「うがぁ……、動きが見えなかった! おのれぇぇ!」



不利と悟った魔王ベルゼは、早々に亜空間を開き 退散していった。

あと少し、その場に居れば倒せていた。


「やっぱ逃げるよなぁ、もう一撃いれるべきだったか?」



この前バエルの城に現れた者だけで四人も居た事もあり、この場で一人減らせなかったのは俺の失態と言っても良い。


魔王の特質からして連中が手を組むとは思えないが。

もし万が一、そうなった時は多少厄介な事に成ってくる。

そう考えれば、この場で奴を締め損ねたのは実に残念な結果だ。



魔王が去った後、シーラの気を辿り従者達と避難した彼女の元へと転移した。



よろしくお願いします

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