勇者、奪還に動く
よろしくおねがいします
俺は、魔族収容施設が嫌いだっ!。
この世界には、魔族収容所が幾つも存在するが。
殆どの収容施設には、魔族はほぼ存在していない。
なぜならそこに送られた魔族たちは、三日と生命を維持している事は無いから。
収容とは名ばかりで、実際には『魔族討伐隊』等と言う大して実力の無い者達が、戦場で死に切れなかった魔族を捕らえ、手足を拘束し動きを封じた状態で嬲り殺しを行なっている。
俺達も魔族は、星の数ほど倒して来た。
命を奪う事には変わりは無いかもしれないが。
少なくても、戦場に措いてお互いの雌雄を決する為に戦った結果としての死で、ここの私設の連中の様に、相手を縛り上げて嬲り殺しにする様なマネを、俺には許せない……。
それは……、魔族、人間の区別などしない。
捕縛した魔族が見付かった時。
所長の様なタイプが執る行動を、俺は見誤ってしまった。
見付かれば魔王から襲われるのを恐れ、俺に引き渡すかもと読んでいたが。所長は、一番愚かな方を選択するかもと予測できなかった。
そして奴は、シーラの存在を消してしまう手段を選択した。
俺に引き渡せば、仮に魔王達が痕跡を辿ってもこんな誰もいない収容所なんか、見向きもせずに俺に矛先を向けてくる物を……。
処刑なんかすれば、痕跡を辿って来た時に魔王に即座にばれてしまう。
そうれなれば、シーラを殺した者を彼等が許すはずが無い。
その事を理解出来ない所長は、一番愚かな選択を命令してしまった。
所長は自が……、自分で死の宣告をした様なものだ。
愚か者の奴の事など同でも良いが、シーラを死なせたら村の子供達や小母さん達が悲しむ、それ故に彼女を殺させる訳にはいかない。
理由は、本当にそれだけか…………?
〝それだけに決ってる〟
嘘付き……!
処刑場へ急ぐ俺の頭の中で、自問自答している俺が居た。
視界の先に刑場が見えてくると、自然とそれは消えてきた。
ちっ、拙いなぁ……もう縛り付けられた。
広いスタジアムの様な処刑場に、太い柱が大地から聳え立ち。
彼女はそこに縛られていた。
長い髪が風に揺れ、支柱を叩いていた。
彼女は目隠しをされてはいない。
処刑する方は、遠く離れて居る為に彼女が睨んだとしても、その目を彼等が怯える必要は無いが、シーラの方は自分を殺す相手を、死の直前まで眼にする事に成る。
処刑人は、合図で一斉に火球を放ち彼女を焼き殺そうと、宙に走らせる。
横一列に並んだ処刑人達。
そこから、少し離れた位置に『魔族討伐隊』のリーダーと所長は立ち並び、シーラを見据えていた。
時間の余裕は無さそうだ。
俺は究極の選択を迫られ、窮地に陥ってしまった。
「この馬鹿者がっ、厄介な魔族女を連れてきおって!」
「へへへ、すいやせん。以後は気を付けますんで」
「当たり前だ馬鹿者っ!」
所長の右腕が天を仰いだ。
はぁ……、やるしかないのか!
俺は覚悟を決め、転移魔法を使用…………
する直前に、天を指していた所長の右腕が切断されて、刑場の大地へ転がった。
「うぎゃあああっ! 、腕があぁ!」
所長の断末魔の様な叫び声の後。
いけぇ━━! お嬢様をお救いいたせっ━━!
何処からか、女性の甲高い叫び声が響くと刑場へ魔族が雪崩れ込んだ。
その数、ざっと十数名……、決して多い兵力ではない。
腕を押さえる所長に、付き添っているリーダーも叫ぶ。
「何をしているっ! 魔族を殺せっ!」
刑場へ雪崩れ込んできた魔族と、討伐隊の戦闘が開始された。
乱入を阻まれた形の俺は、その戦闘を観覧席から見詰めている。
良いタイミングで魔族が現れたが、連中は何者だ?
遠くて顔は確認できないが、叫び声をあげたと思しき魔族の女が、シーラへと接近したのは確認出来た。
「お嬢様、御助けに参りましたっ!」
「ミュール……、貴女は無事だったのね?」
「はいっ! 今すぐ自由にして差上げます!」
シーラに近付いた魔族は、柱から彼女を解き放ち仲間の援護を受けながら、刑場の外へと向っている。
間一髪の処で、勇者が魔族の処刑を阻止するという。
前代未聞の珍事は乱入してきた魔族の一団によって、未然と成った訳だが。
彼女を守る存在が現れたなら、俺がもう手を貸す必要は無いなと立去り掛けた。
次に対面する時は、彼女の命を狙う事に成るのか?
村に戻って、どう説明したものか思案している内に、如何にも不安に成った。
俺は村へと転移せずに、シーラ達が逃走した方向へと俺の足は移動を始めた。
収容所に乱入してきた魔族達は、処刑される寸前のシーラを奪還する為に、約半数の犠牲を出して用意していた地竜に乗ると、村とは反対の方角へと逃走していった。
俺は後を追う為に、近付き過ぎて連中に察知されない様に距離をとり、転移と千里眼を繰り返し彼女達を追跡した。
最終的に、収容所からかなりの距離を逃走し。
岩山の小さな小屋の前で、地竜を降りた。
「ここまで来れば、もう安心です。お嬢様、良くぞ御無事で……」
「ええ、勇者様がずっと守ってくれていましたから」
「勇者ですとっ! 、馬鹿なっ敵では有りませんか。それだけじゃ有りませんっ、バエル様の仇ではないですか! お嬢様、何故?その様な者と一緒に居たのですか?」
「それは、父がそう望んだからからよ」
「そんな馬鹿な……、自分を倒した敵にお嬢様を託すなんて……」
ふっ、嘘ではない。偽り無くシーラは勇者に守られていたわ!
遠目でも分かる。
あの姿は、確か最初に現れた魔王で、名前は『ベルゼ』。
もうシーラの居場所を嗅ぎ付けてきたのか?。
魔王ベルゼは、よほどシーラにご執心と見える。
「魔王ベルゼ様、何故この様な場所に?」
「我が妻と成るべきシーラを、よくぞ不遜な人間から取り戻した。礼を言う、しかしもう貴様達には用が無い。早々にシーラを渡し消えるか良い、命は助けてやろう」
「御待ちを、我らそんな話はバエル様からは、聞き及んではおりませんが?」
「そんな事は私の知った事では無いな、余計な詮索をせずにさっさとこの地より立ち去れっ! 。さもないと……、命を無駄に散らせる事に成るが?」
遠くに離れて居るせいで、会話の内容は把握出来ないが。
まぁ、何を言っているのかは大体の想像は付く。
ありがとうございました