悪い知らせに勇者、怒りを覚える
続編です、どうかよろしくお願いします!
魔王バエル討伐は、首都でも確認されていた。
その魔王を倒した肝心の勇者の姿が、居城から消えていた事は。
当然の様に、聖騎士団や対魔族機関へも報告されていた事もあって、首都に俺が姿を現すと大騒ぎと成ったのは言うまでも無い。
「勇者アレンよ、一体今迄で何をしていたのか?」
聖騎士団の団長アイギスに詰問された。
魔王討伐後の俺の行動を尋ねてきたがその真意は、心配しての事ではなく寧ろ、何かを疑っているかの表情を見せた。
「ああ、バエルを倒した後に奴の腹心達が現れて襲ってきたんです。四人居たから意外と苦戦しましたけどね。やたらと雑魚を消し掛けて来て、鬱陶しかったけど返り討ちにしてやりました。あはははは!」
「ふむ、然しだ。何故二週間も戻らなかったのだ?、皆が心配したのだぞ」
アイギス団長はかなりの切れ者だ。
例え相手が勇者であろうと疑わしい事には徹底して調べ上げてくる。
下手な良い訳をすると。
かえって、拙い状況に陥りかねないなと想いから。
故郷に帰っていた事だけは正直に話す事にした。
「ああそれは、逃げた腹心の魔族を追って倒した場所が故郷の村に近かったから、多少の怪我もしていたし、久々に故郷へ顔を覘かせてみただけですよ」
アイギス団長は、柔和な言葉遣いとは別に、鋭い眼光で俺を返事を吟味して見える。確かに俺を怪しんではいたが、これまで魔族に対して一切の容赦をしてこなかった俺が、まさか倒した魔王の娘を故郷へ連れ帰った事等は、流石に想像だにしなかった様だ。
「ふむ、相分かった。魔王の討伐、本当にご苦労であった。これで暫らくは、この地も随分と平和に成るだろう」
それだけ言った後。
白いマントを翻し銀鎧をガチャガチと鳴らしながら、自室へと戻って行った。
正直にその時の心境を言えば、内心ではホッとしていた。
その後に、対魔族機関の連中の審問みたいな事を受けたが、やはりこれまでの俺の魔族への行為が、功を奏したのか俺の嘘を暴かく事を隠し通した。
一度は首都へと戻ったが、間を措かずに姿を消してしまうと、又、要らぬ疑いを招く事を恐れた俺は、三日程滞在した後に故郷へと戻った。
首都から戻った俺を、彼女はどんな顔で迎えるのだろうかか?。
遂、そんな事を考えながら家のドアを開ける処で、俺は例の小母さんから悪い知らせを聞かされた。
「大変だよぉ! 、シーラちゃん連れて行かれちゃったよっ!」
「なっ! 、誰にだよ?小母さん!」
俺は、シーラが連れ去られたと聞き我を忘れてしまい、その知らせを知らせてくれた小母さんの肩を掴み、激しく揺すって問い詰めてしまう。
「『魔族討伐隊』の連中だよっ、行き成り村に現れて連れて行かれのよ!」
名前は大そうだが愚連隊の様な連中で、単に魔族を殺したいだけに集っている。
確かに俺達も魔族を殺してきたのは事実だが、奴らは自分達の正義を振りかざしては人にすら、不埒な振る舞いをしていると聞いた事がある。
そんな連中に連れて行かれたと成ると、彼女の命は長くは無い。
彼女は魔族だが、俺がここまで連れて来た以上は、俺に責任がある。
横から割り込んで来て、勝手な事をされては気分が悪い。
「小母さん! 連中はどっちへ向った?」
シーラの身を案じた指は、震えながら丘の方角を指した。
魔族収容所へ連れて行くつもりか……
「ありがとう、俺が行って来るよ」
「頼むよぉ、あの娘を連れ戻しておくれぇ」
まるで自分の子供が連れ去れた様に、怯えて心配している。
俺が想像していた以上に、彼女はこの村に受け入れられていた様だ。
丘を登り『千里眼』で遠視したが奴らを見つけられず、既に収容所近辺まで行ってしまった感じに思え、転移でその近辺へ移動すると、門を潜り抜ける連中の姿を確認した。
遅かったか!
上手くいくとも思えないが、黙っていたら直ぐにでも殺されかねない。
ここも、勇者の肩書きを利用して収容所内へ入り話をつけるしかない。
案の定、ここでも勇者の看板は伊達ではなかった。
直ぐに門は開けられ、所長と話をする事だけは何の抵抗も無く叶えられた。
「ほぉ?、勇者殿はあの魔族の女を解放せよと仰る?」
三十顎を片手で摘み、葉巻を咥えながら嫌味な物言いに、思わず殴りたくなる。
この男の一言で、何時でも彼女は処刑される。
殴りたいのは山々だけど、ここは我慢して彼女を解放する交渉を続ける。
くそっ、本当にバエルの遺言通りになり掛けてるぞ……
「何故に、あの魔族を解放せよと?」
「所長さん、あいつは無害だからですよ」
「わはははははっ! 、勇者殿は全く可笑しなことを仰られる。此の世に無害な魔族等が存在せぬ事は、貴殿が一番御存知なのでは?。わはははは、いや実に愉快な事を言われる」
その唯一無害な魔族が、そこにいるんだよ!
襟首を引き寄せ葉巻を引っこ抜き、所長が何を自慢気にしているのか知らないが、見っとも無い三十顎に擦り付けて消してやりたくなる衝動を、拳を握り締めて耐えた。
このまま押し問答をしても埒があかない。
そこで怪しげであるが、本当の様な嘘をでっち上げて突き付けてみた。
「実は所長、あの魔族の女は少し沸け有りな厄介な奴でね」
「ほぉ……、どんな?」
その言葉に所長は、反らせた体を起こし興味を示して喰い付いて来た。
しめた……食いついたか
「あの魔族の女は、魔王達のお気に入りで俺が倒したバエルが囲って隠れて居たんですが。俺が奴を倒すと、命乞いして姿を現したのを捕らえたんですよ」
「ほうほう、しかし何で又、その様な魔族を連れまわしているのですかな?」
「それは、さっきも言った様に他の魔王達が気に入っている魔族女ですよ?。バエルが死んだ後で、殺された形跡も無くあの女が居なくなったら、何処かへ逃げたと思うのが普通でしょう?。魔王達は当然、彼女を手に入れようと、躍起に成って探し回るに違いないでしょ?」
「つ、つまり……、何処かの魔王が襲ってくるかも知れないと?」
「そうですよ! 、だから俺が……
ガタンッ━━!
「た、たい……大変だぁ、こんな所で葉巻等を吸って居れんっ!」
所長は俺の話を聞き終らぬうちに、部屋を飛び出して行った。
俺も急いで、所長の後を追って部屋を出た。
所長は太った体を左右に揺らしながら、地下の独房へと急いでいる。
どうやらシーラの居場所へと案内して貰えそうだ。
暫らく後を追ったが、予想通りに所長はシーラを捕らえていると思われる、頑丈な独房の前へとやって来た。
だが、そこで奴の台詞を聞いた俺は、頭を抱え込む事に成った。
「おいっ! 、急いでこの魔族を表に連れて行け!」
「えっ! 、まだ放り込んで間も無いですが?」
「喧しいっ言われた通りにしろ! 、早く処刑してしまわんと魔王がこの収容所へ襲撃しに来るかもしれんのだぁ!」
その言葉に、刑務官と思しき男も焦りを見せて独房へと入り、シーラを連れ出して表へと引っ張って行く。
「勇者様、私……
「おらぁっ、さっさと歩けぇ!」
「嫌ぁっ!」
刑務官の肩を掴んで、文句を言うしか出来なかった。
「おいっ、余り手荒に扱うなよ!」
俺の言葉に耳を傾けずに刑務官は、乱暴に彼女を連れ去って行った。
所長は、刑務官がシーラを連れ出したのを見送りながら、俺の肩をポンっと叩き言葉を掛けてきた。
「いや本当に良い事を聞かされた。もう少しで魔王から襲われる所を、勇者殿の情報で命拾いをしましたぞっ!、いや本当に感謝しますっ!」
失敗した━!、威しが強すぎて処刑を早めてしまったぞっ
我ながら、軽率な判断で所長を脅してしまった事を後悔した。
ありがとうございました。
『感想が書かれました』、『レビューが書かれました』
っと、言う文字を見てみたい……、ブクマも欲しい今日この頃