勇者、魔王の娘と故郷に帰る
続きです、よろしくお願いします。
親の因果が子に報う。
まあ……、この世界では当然の事なのだが……。
親の罪を、子供にまで背負をわせるやり方には。
俺は、疑問に感じていた。
「アレン! 本当に大丈夫だろなっ!」
「あぁ、勇者の俺が保障する。彼女は無害だ」
「勇者のお前が言うなら……、だが何か有った時はお前が責任もってくれよっ!」
「勿論、そうするさ」
村長の許可が下りて、俺はシーラを連れて昔済んでいた自分の家へと足を向けた。
四人の魔王から転移魔法で逃げた俺は、咄嗟に生まれ故郷の村の傍へと移動場所を設定していた。他の場所は、聖騎士団や教会関係者の目が光っている所しか無く、この村を選ぶしか思い浮かばなかった。
シーラを連れ故郷の村に戻り、最初に昔の友人と顔を合わせる。
友は勇者のアレンが帰省したと触れ回り、最初は村中が大喜びをしてくれたが。
「おーい! 皆ぁ、勇者アレンの帰省だぞぉっ!」
懐かしい顔ぶれが、笑顔で駆け寄ってきたのだが。
俺が青い肌の女性を連れているのを見ると、逆の大騒ぎを始めてしまう。
「おい! アレンの連れて来た女を見ろ、肌が青いぞ……」
「ま、ま……魔族の女だぁ!」
友の騒ぎで掛け付けて来た村人達は俺が魔族の女を連れていると知ると、即座に後ずさりを始め遠く離れて、俺達が歩くのを顔を歪め観察していた。
「勇者様、あの……私なんか連れて、人の村へ来たりして大丈夫でしょうか?」
彼女は村人達からの刺す様な眼差しに、声色を震わせていた。
肌が青い為に、表情が青ざめたという表現は似つかわしくないが、声の感じと顔付からして人なら青ざめた物と成っていたことだろう。、
彼女が心配するとおり、当然、大丈夫ではない。
今、遠巻きに見物するに留まっているのは、俺の『勇者』の肩書きのせいだ。
本当なら、青い肌を確認した時点で四散して、家に閉じこもっているところだ。
そして……、対魔族機関へ通報へと脱兎していて不思議じゃない。
変に隠すより勇者のお墨付きを前面に出して、あえて彼女を魔族と曝した状態で村に入る事にした。この村なら首都の街からも遠く、聖騎士団の権威も薄く暫らくは彼女をこの村に隠し、後の事を考える事にした。
村の大人達は、彼女を遠目でチラリと見る程度で通り過ぎていくが。
子供達は、青い肌の綺麗な女性が気になって仕方が無い様で、立ち止まり見詰める。
「見ちゃダメでしょ! 、ほらあいくよ!」
「あぁーん、青い人をもっとみたぁいぃ!」
母親は、見たいと駄々を捏ねる子供の手を強引に引き摺っていく。
最初は警戒を解かなかった村人達も、日が経つに連れて少しずつ警戒心を緩めていく。俺が傍に居る限りは、青い肌の女に興味津々の子供達がシーラに近付く事を、親達が拒まなくなった。
「お姉ちゃんは、魔族なの?」
幼い子供は、見たままを正直に口にする。
だがそこに悪意は無く、純真に興味本位の物だ。
「ええ、そうよ。……、私が怖い?」
庭の椅子に座っているシーラを、幼い子供達は見上げながら大きく首を振る。
「んーん、全然こわくなあい。お姉ちゃん綺麗だし」
「ふふ、ありがとう……」
その光景を見ていて、ふっと思う事があった。
先入観に捕らわれる事無く、魔族と交流を持てばひょっとしたら……。
俺は、浮かんだ想いを頭を振って否定した。
戦乱を好まない魔族ならいざ知らず、現状の魔族達は人を見れば襲いかかる。
そこには、一切の情けは無く例え子供といえど容赦無く引き裂いて殺す。
魔族と交流?、有り得ないな……
そんな想いとは裏腹に、子供達がシーラと村人の架け橋となり。
殆どの住人が、警戒心を解いていった。
「ほらぁアレン! 晩御飯持って来たわよ!」
子供の頃に良く叱られた隣の小母さんが、料理を運んで来る様にすら成った。
しかも……。
「アレン、あんたあの子を嫁さんにしちまいなよぉ」
とんでもない事を、口にし始めた。
「シーラちゃんが勇者のあんたの嫁さんなら、村中も安心するってものさねっ!。あははははは」
ど田舎の小母さんだけにシーラが魔族だと知っても、遂に受け入れる処か俺の嫁にしろとまで言い出し、ど田舎の大らかさを発揮した。
首都に近い村や街ならこうは行かない所だった。
「勘弁してよ……」
勇者が魔王の娘を娶るなんて事はこの村以外は認めないぞ絶対に
そして数日後の事だ。
俺が少し目を離した隙にシーラが居なくなった。
大慌てで探し回ると、近所の小母さんから呼び止められた。
「アレン大変だよっ! シーラちゃんがぁ」
「小母さん! 、彼女がどうかしたのかっ!」
小母さんは俺の袖を掴み、彼女の居場所へと案内を始めて、村の傍に在る野原へとやって来た。そこには、野原に人だかりが在り子供達の泣き声が聞こえ、嫌な予感に自然と駆け出していた。
「ちょっと、通してくれっ」
人を掻き分けて子供の泣き声がする中央へ入ると、青い肌を裂かれ真っ赤な血で染まったシーラが、横たわっていた。
「これは……一体、おい、シーラしっかりしろ!」
「大丈夫だ、怪我の痛みで気を失っただけだ、俺達が駆けつけた時には意識が有った。村の医者を呼んだからもうじきやって来る筈だよ!」
「それにしても、何故シーラが血塗れなんだ?」
俺が口にした質問には、意識を失っているシーラの体に縋り付いて、泣きじゃくる子供達が答えてくれた。
「わたしたちがぁ……山犬に襲われたのぉー」
「そしたら……お姉ちゃんが飛び込んできてぇー、代わりにぃかまれちゃったああ」
「お姉ちゃん……、死んじゃうのぉ……?」
泣き叫ぶ子供達の頭を撫で、『死なないから安心しろ』と言い聞かせ流れる血で汚れ無い様に離す。医者が到着して手当てを始めると彼女は目を開き、そこで漸くのことに子供達の泣き叫ぶ声が、途絶える事になった。
山犬とは、魔物であり最下級の魔族と言える。
それが子供達に近付いて行くのを察知した彼女は、慌てて飛び出して行った。
家の庭から姿を消した理由は、そういう事だったと判明した。
意識を取り戻した彼女は、真っ先に子供達の安否を尋ねてきた。
「勇者様、子供達は無事ですか……?」
「うん、あんたのお陰で一人も怪我をしてないぜ、ありがとう」
無事な事を聞いた彼女は、再び眼を瞑り眠ってしまった。
医者の話では、痛み止めの薬に強い睡眠を誘発する成分がある為だと言った。
この事が切っ掛けとなり、青い肌の住人を村中のほぼ全員が受け入れた。
子供達に至っては、毎日の様に家にやって来てはシーラの様子を心配そうに見守り、小さな姿が絶え間無く家を出入りしている。
「あんた、子供達のスッカリ人気者に成ったな」
「皆さんは私を……、もう怖がってはいないのですか?」
「そうみたいだな、安心したか?」
「はい……」
彼女を生まれ故郷の村へ連れて来た時には、かなり不安が有ったのだが。
この雰囲気だと、俺が村を離れても問題は無いだろう。
魔王バエルとの戦闘の後、あんな事に巻き込まれたせいで一度も首都へは踏み入れてない、一度戻って顛末を報告しておく方が、色々と面倒な事に成らない気がする。
勿論、シーラの事は絶対に口外するつもりは無かった。
更に数日後、自分で動きまわれるシーラを見届けた後。
彼女と村長には、事情を説明して措いた。
「じゃ、多分数日で戻れると思うから村長さん、彼女を頼みます」
「うむ、彼女の事はわしらが面倒見よう。心配はいらんぞ!」
「勇者様、いってらっしゃいませ! お戻りになるのをお待ちしております」
「う、ううん」
魔王バエルの遺言と成った事を、少し苦々しく感じるが。
シーラの言葉を耳にした時に、言い様の無い照れ臭さを感じていた。
二人に説明を終え、一人首都へと転移魔法を使った。
しかし……首都から戻った時に、やはり彼女を置き去りにしたのは間違いだったと、後悔する事に成る。
俺は、更に厄介な事へと巻き込まれて行く事に成った。
ありがとうございました