勇者、初めて体験する
第二話目です、よろしくお願いします
改めてシーラを見詰めた。
腰の辺りまで届く長い髪、整った面立ちにバランスの良いスタイル。
魔王が自慢げに言った通り、間違い無く絶世の美女だ。
「あ、あのぉそんなに見詰めないで下さい。恥かしいです」
薄青い顔の頬を、僅かに染めて恥かしそうに訴えるシーラ。
反射的に謝罪してしまう。
「あ、いや……、ごめん遂見惚れて……」
反射的に頭を掻き謝ったが、マテっ、魔王の願いを叶えると俺は約束していない。
魔王バエルが勝手に言い始めただけで、俺は全然納得してないし娘を守ると承諾してない。余りに魔族離れした場面を直視した為に気後れしてしまい、ハッきりと拒否してなかったがここで言わせて貰う。
「えーっとシーラさん?」
「はいっ、なんですか?勇者様」
うぐっ、言い辛いっ……!。
なんと言う魅力的な微笑み方をするんだ、この娘は……。
勇者として君を保護して守る事は、出来ないから他を当ってくれ。
その言葉を、思わず飲み込んでしまった。
「悪いんだが……、俺は君を守れないっ!」
思い切って眼を瞑った状態で、彼女に宣告したあと少し間を空け、下げた頭を上げながらそっと彼女の様子を窺った。魔族相手に、なんで勇者が頭を下げて謝罪をする必要があるのか?、討伐するのは無しにするとしても、無視してさっさと帰るのが普通だろう。
彼女の様子は……。
声を立てず、目に一杯の涙を浮かべ俺を見詰ているではないかっ!
ズキンッ!
心臓に……、杭を打ち込まれた様な衝撃に曝された……!。
よりによって、勇者が魔王の娘に罪悪感を感じてしまったぁ。
「ちょっ、そんな泣く様な事かぁ?、勘弁してくれぇ!」
「すみません……なんだかとても哀しくて、私をお嫌いでしょうか?」
「いや……そう言う……
言い掛けて視線をずらした。
この女は一体どう言う思考をしているんだ?。俺が彼女を、好きとか嫌いとかじゃなくて自分の父親を殺した仇じゃないか、その相手に好意を問う場面かこれ?。
「あんた一体……
言葉を続け掛けた時に、空間に小さな光が走り彼女を目指しているのを見つけ、咄嗟に剣を抜き光の物体を叩き落した。
痺れ針……?
何者かがシーラを狙い痺れ張りを飛ばしたのだ。
柱の一部に、気配を感じ取り光弾を飛ばすと、柱大きな破壊音を上げ一部を弾き飛ばした。その物陰から逸早く離脱した影に、二発目をお見舞いした。
二発目も見事に避けた黒い影は、笑いながら語り掛けてきた。
「ギャハハハ、流石に勇者っ!」
ガーゴイル。
典型的な雑魚の魔物だが、シーラに気を取られ過ぎて不覚にも接近を許したか。
しかし何の問題物無い、所詮は雑魚の魔物だ。
光弾を連射。
奴は素早く回避して、弾道から逸れていく。
「なんだ?、雑魚の癖にいい動きじゃないか。仕方ない、シーラとか言ったな、ちょっとそこで待っててくれ、先にあの雑魚を片付けて来る、話の続きは後でするから」
「あのぉ、勇者様……他にも大勢来てるんですけど……」
「なにぃ━?」
シーラに指摘され周囲を索敵する。
ひい、ふう、みいって……おいおい、囲まれてるじゃないか!
シーラと会話中に周囲を取り囲まれていた。
倒すのは簡単だけど、そう成ると魔王との戦闘で崩れかけた城が、完全に倒壊する恐れが在り、シーラがそれに巻き込まれたら……。
って……、なんでこいつの心配を……!
魔族に囲まれて戦術を思案している中に、彼女の身の安否を自然と気にしていた。
バエルの願いを叶えるとは、一言も言っていないのに彼女の身を案じた自分が、魔王にしてやられたような気がして、無性に気分が悪くなってきた。
やり場の無い怒りにむしゃくしゃしていると、シーラから袖を引かれて後ろを向いた。彼女が、何かを言いたそうな顔をしているので、耳を傾けた。
「私……、少しならお手伝いできます……」
「へぇ、伊達に魔王の娘じゃ無い訳か、では見せてくれる?」
何だ、一人で生きていけそうじゃん!
魔王は俺に娘を守ってくれと懇願したが、娘だって魔王の娘だそれなりの魔力が有り、雑魚キャラなら簡単に一掃出来たりしそうじゃないか、俺が必要に成るとは思えないな。
我が眷属よ、来たりて我を守りなさい……
なる程、魔族の眷属召喚か……。
やはり俺は必要ない、眷属を呼び出して守護をさせれば良いだけだ。
俺は、ふぅっと、息を吐き肩の荷が取れた様に感じた。
みゃあー♪
………………ねこ?。
「おいぃっ、何だこれはっ!」
シーラを見つけると、彼女の足元に縋り付いてジャレ付くねこ。
彼女の足元のねこを指差して、大声で説明を求めた。
「私の眷属の一匹です。名前はタマと言います」
「名前なんかどうでも良いよ! 、その子猫でどうやって戦うんだよっ!」
怒りを通り越して、ただ呆れるばかりだ。
雑魚とは言え、子猫の数十倍の相手にどうやって挑むつもりだ?。
「勇者様、この子の頭に手を当ててあげて貰えますか?」
「へ?……、こうか?」
不思議と彼女の言い成りに、子猫の頭に手を当てる俺が居た。
みゃあ♪
うっ……、くそっ……何か可愛いぞ……
「勇者様、そのまま『強化』と仰ってください」
「……『強化』」
子猫の真上と真下に魔法陣が現れ、次第に巨大に広がりを見せると。
子猫もそれに同調して、巨大化し更に別の姿へと変貌を遂げた!。
グオォ━━!
「タマ……、私に害成す者と遊んであげて!」
シーラがタマに声を掛けた後に、一声吼えてガシッと床に爪を食い込ませたかと思うと、一瞬消えた様な超速で跳ねて、適の群れへと突入して行った。
確かに魔王と比較すると、雑魚には違いないが空中で呆気に取られている奴、あのガーゴイルよりは遥かに強そうな魔族の一団を、両足の爪と鋭い牙を持って暴れ周り、瞬く間に全滅させてしまった。
地上の雑魚を一掃するとタマは、空中に眼光を光らせガーゴイルに狙いを定め、身を屈め空中へ飛び跳ねてた。ガーゴイルに回避する時間を与えずに、タマの両足の爪で引き裂いてしまう。
「ギャアアアアッ!」
最初に召喚された時は、普通に可愛い『ねこ』だった物が俺が手を当て後に、『強化』と口にしたら『魔獣』に進化しやがった。
「よしよし……、いい子ねぇ」
ゴロゴロォ♪
地上へと降りたタマは、ゆっくりとシーラに近づき彼女から頭を撫でられると、床に現れた魔法陣の中へと姿を消して行った。
その一部始終を見学させられた俺は、全てが終った後で自分がやってしまった事に気が付いた。そう、魔王から押し付けられたスキル『魔族強化』を、シーラに言われるままに使用してしまい、『子猫』を『魔獣』に強化してしまった事を。
有難う御座います!
次も早めに投稿したいです。