魔王に娘を押し付けられた
新しい物を書いてみました。
お目に留まれば、読んでやって下さい
勇者は魔王一派を倒す者━━。
何時の頃からか……、この世界へと魔族の侵攻が始まった。
多数の魔王は、大陸中へ散らばり自分達の居城を築いてしまう。
それに対し人間側も反撃を開始、魔族軍との激しい攻防を繰り広げた。
戦乱の世は、長きに渡って続く内に一人の勇者が現れ、魔王軍を一掃する。しかし魔王の数は減る事が無い。一人の魔王が倒れても、次の魔王が新たに現れその座に付く為に、一時的に勢力が弱まっても暫らくすると元の状態へと戻って行った。
魔族と違い人間の勇者には、寿命がある。
数十年の後。
勇者はその命数を使い果たし、此の世を去った。
処が……数日後に、ギルドにてスキルの洗礼を受けた際に。
一人の若者に、『勇者』のスキルが発動し再び人間は、希望を取り戻した。
以後、勇者がこの世を去ると、新たな勇者が大陸のどこかで誕生した。
そして、『勇者のスキル』は二つと被る事は無い、一世代に一人きり。
先代の勇者がこの世を去って、一年が過ぎても次は現れなかった。
人間は希望を失いかけていた……。
一人の少年が現れるまでは。
俺の名はアレン。
魔王軍との戦いで死亡した父の遺志を継いで、剣士に成った。
十歳で受けたスキルの洗礼で、俺に『勇者』のスキルが発動し。
それ以来、魔族との戦いに参加して魔王一派との戦いを潜り抜けてきた。
八年の戦いの末、俺は無敵に近い『勇者』と成り、遂に魔王の居城へ攻め入った。
『魔王バエル』。
数多く居る魔王の内最強クラスの一人、バエルがこの地域に居据わって数十年、これまでに限りない魔王軍との戦が続き、多くの犠牲者を出しながら戦乱は続いて来た。
だが、ようやく奴と対峙して決着を付ける時は来た。
居城を守る雑魚魔族と魔物を蹴散らし、バエルと三日三晩の激戦の末に。
遂に、俺の剣はバエルを貫いた━━!。
「流石だな、やはり勝てなかったか……、最期に頼みがある、聞いてくれんか?」
玉座に倒れんだバエルは、あろう事か俺に願いを聞いてくれと言う。魔王が勇者に頼み事をする等、聞いた事が無いが面白そうで興味が沸いた。最期に一騎打ちを相見えた宿敵に敬意を評し、話だけは聞いてやろうか。
「言ってみろよ……、話だけは聞こうじゃないか」
「頼みと言うのは……、他でもない我が娘を守って欲しい!」
「はあああ?、アホかぁ! 、何で俺が魔王の娘を守る義理があるんだよ! 。一瞬だけでも、話を聞いてやったのが間違いだった!」
馬鹿馬鹿しくなって剣を納めて立去ろうとする俺を、バエルは既に立つ力は無く、玉座から俺を呼び止めると、その次に娘を呼んだ。
「勇者よ待てっ……、そう邪険に言うな、我が娘は絶世の美女なのは魔王の私が保障する。シーラきなさい!」
『絶世の美女』、その言葉にほんの一瞬、心か揺らめいてしまったが。
魔王の娘だぞ、俺が保障するとか言ったが、そんな物があてに成る訳がない。頭に牛みたいな角が生え、どんな化け物が出てくるんだ?。
第一、魔王の娘なんか連れてたら、教会側が引き渡せと言うに決まっている。拒否しよう物なら、俺は人間に対する反逆者扱いされてしまい、聖騎士団や教会暗部の連中に狙われる事になり兼ねないじゃないか。
別に狙われても怖くはないが、仲間に剣を向けたくは無い!。
玉座の真横に女性が、姿を現した。
「父上、シーラ傍に参りました……」
現れて魔王を、父と呼んだ女性を見て驚愕した。
確かに黒と赤のローブを纏い、見た目の服装だけは魔族に違いないが、彼女の身体から出るオーラは、魔族の禍々しい物ではなく、それはまるで……。
「なあにぃ! 、魔王貴様っ女神を攫ってたのか、許せん!」
そう、魔王が娘を呼んだらそこには女神が姿を現した……かに見えた。
天界の何処からかバエルが女神を攫い、まんまと自分の娘に仕立てていたのかと、怒りが込み上げてきた。
「シーラは間違い無く、私の娘だ。女神では無い……一応はな」
「一応てなんだ?、どう見ても魔族のオーラじゃないぞぉっ」
「娘の肌を見ろ……、青いだろ。魔族の証だ」
言われて彼女の顔をもう一度見ると。
「青だ……」
「それは、『逆異転生』による物だ。数億に一回、神と魔が逆の種族に転生するのだよ。シーラはその稀な確立で、女神から魔族へと転生してしまったのだ。普通なら、どちらのケースも即座に消滅される運命だが、私には殺せなかった……」
人間を散々殺しておいて自分の子供は守ってくれとは……、これは又、随分と虫の良い頼みだが、最期の別れくらいはさせてやってもいいだろう。
娘を守ると言う約束は…………。
「父上……、お別れなのですか…………?」
「あぁ、私はもう助からん。だが、お前は生きなさい、勇者が守ってくれるだろう」
ちょっと待てっ!。
まだ俺は、守るなんて一言も口にしていないぞぉ!。
勝手に俺が娘を守る話に成って行くのを、中断させようと口を割って入ろうとした時に、娘のシーラの顔が目の中に飛び込んで来た。
魔王の娘シーラは、バエルの手を握り大粒の涙を流し続けている。
何だこれは……、魔族はもっと冷酷で残忍な者だろう。
この人間の親子の死に別れの様な場面はなんだ?。
ここで断ったら、俺は非道な勇者じゃないかぁ!。
困惑して悩み倒している俺に、魔王バエルは更に一つ提案を告げた。
「娘を守ってくれる代わりに、私のスキルを一つ譲ろう!」
「おいっ、魔王から『スキル』を譲られても、勇者が使えると思うのか?」
バエルの座る玉座の床を激しく踏み叩いたが、奴はそんな事を気にも留めずに話を続けてしまった。
「貴様には、強い魔法等必要なかろう。これを受け取れっ」
「うわっ!」
バエルは、黒い靄に包まれた手をかざして俺に靄を打ち込んだ。
痛みも違和感も感じ無い事から、毒や呪いでは無さそうだがいい気分はしない。
「おまっ、俺に何を入れたんだ?」
「スキル『魔族強化』だ、最初は少量しか……、出んが……お前なら……すぐに」
「勇者の俺にっ、魔族を強化しろってかっ!」
おいおい悪い冗談だろ……、仮にも勇者の俺に『魔族強化』のスキルを譲渡したぁ?。どこの世界に、魔族を召喚する勇者が居ると言うのだ?、魔王めぇろくでも無い事をしてくれたものだ。
「父上っ!」
「お別れだシーラ……、勇者よ……むす……めを……」
「おいっ、待てぇ俺は約束なんかして……
魔法バエルは真っ黒い霧にとなり、消滅して果てた。
俺は、約束するとは言っていないぞ、勝手に消滅されても納得してねえ!。
シーラと呼ばれた魔王の娘は、父親の消滅した場所で両手をついて泣き続けた。
その姿は、俺が抱いてきた魔族のイメージからは、確かに懸け離れた物だ。
一頻り涙を流したあと、彼女はゆっくりと立ち上がり俺に頭を下げてきた。
「この身の一切を、勇者様に委ねます……」
その立ち振る舞いと、物言いといい本当に魔族なのかと疑ったほどだった。肌の青い事と、先程のバエルとの会話で涙した姿を見ていなければ、否、見ていたけどとても魔族には見えない。
あの哀しみ方は、やはり本当に魔王の娘なんだな。
しかし、勇者が倒した魔王の娘を守る…………?。
有難うございました。
続きは、本日中に投稿します!。