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異世界テクノロジーをレビューしてみた

「ごちそうさまでしたー!!」


手を合掌し、命の糧となってくれた食材に感謝する拓人。なんやかんやあったが料理はちゃんとおいしかった。まさに母の味、多少の失敗も意に返さずにおいしく仕上がるのは器のでかさが違う。異世界で食べる肉じゃがはどことなく安心感があった。


「いやーおいしかった。味付けがサイコーだった。さすがだよミーシャ」


「そんなことないよ。タクトが食材をきれいに切ったから味がよく染み込んだんだよ」


拓人の言葉に反応するのはミーシャである。


「そんな褒めるなって。そんな褒められるってことは、俺、もしかしてこの世界で料理無双できるんじゃね」


謙虚なミーシャとは対照的に自慢げにふんぞり返る拓人。


「なんでそこで偉そうにするんじゃお主は。全く」


そんな天狗になっている拓人の頭をゴードンがポンと叩く。


「うげー、今の頭ポンはミーシャにやってもらいたかったよ。なんでおっさんにやられるんだ」


「やかましい。……お主に話がある」


不満げな拓人にゴードンはまじめな顔をする。と、彼は机の上に何やら金属の物体を置く。見ると、


「あ! 俺のカメラ!!」


拓人とともに異世界にやってきたカメラの姿があった。


「そういえばそうだ。どこ行ってたんだよお前……」


拓人はカメラを拾い上げるとカメラを抱くように抱えた。


「お主を運んできたときに見つけたから、夕飯ができるまでの間にちょいと調べてたのじゃが、これは――」


ゴードンの言葉を遮るようにして拓人は叫ぶ。


「分かったぞ! これが何なのか知りたいんだろう? これは、『カメラ』だ。これを使えば、かわいいあの子のあんなとこやこんなとこを永遠に保存できるんだぞ」


言いながらカメラをミーシャの方へ向け、ニヤけ顔をする。拓人は直感した。このカメラを使って異世界無双がしろと神がささやいていると。

――だが、そんな拓人をミーシャが真顔で見つめながら答える。


「そんなとこ撮ったらタクトのカメラなんか壊しちゃうからね」


予想外の反応に戸惑う拓人。


そこは『カメラ』ってなぁに? ってなるところだろう。


「もしかしてカメラのこと知ってるの?」


拓人の問いに当たり前だと言わんばかりにミーシャは答える。


「そりゃあ…… 知ってるわよ。ねぇ、おじいちゃん」


当たり前のことすぎて逆に不安になるミーシャはゴードンに同意を求める。


「まぁ、知ってるのう」


ゴードンもその言葉に賛同した。


「そんな…… 俺の無双物語がはかなく散った……」


肩を落としながらつぶやく拓人。だがそんな拓人をよそにゴードンは神妙な顔をしている。


「だが気になることがあってな。それは見た目も性能もカメラそのままなのじゃが、魔石が埋め込まれてなくての。原動力が分からんのじゃ」


魔石? なんだそれは? なんか急にファンタジーっぽい名前が出てたけど……


「魔石ってどういうことだ? これの原動力……ってか動かしているのは中に入ってるバッテリーだぜ」


このカメラは拓人が現実世界で買った物だ。特殊な構造になっているわけでもないし、そこら辺の家電量販店で買ったごくありきたりのカメラだ。当然、バッテリーに内蔵された電気で動いている。魔石なんてものは知らない。


「ばってりー…… なんだそれは?」


だが、拓人の疑問に対して、驚いた顔をしながら疑問で返してくるゴードン。彼の頭には無理解が浮かんでいる。


「いや…… バッテリーはバッテリーだろ。俺もよく分かんないけど。確かそれに蓄えられた電気で動いているはずだよ」


家電の使い方こそ知っているが、家電の構造なんてよくわからない。だが、電気で動いているのは確かだろう。間違ってもその魔石なんてものじゃない。


「分からんな。『ばってりー』だの『でんき』だの、急に突飛な単語を出されても。要するに、『魔石』という呼び方がその『ばってりー』に変わったというとらえ方じゃいかんのか」


うーん…… そうなのだろうか。確かにゴードンの言うように魔石とバッテリーは対応関係にある気がする。とすれば電気に対応するのは――


「その魔石に魔力……みたいのが蓄えられてんのならその考え方で間違ってねぇと思う」


「うむ。お主の言う通りじゃ。魔石には魔力が蓄えられるようになっておる」


――なるほど。

バッテリーが魔石なら電気が魔力。

そう考えられるならこの世界の仕組みについてもなんとなく分かってくる。この世界は電気などの科学的な要素がまんま魔法に置き換えられているのではないか。


「ようやくファンタジーみたいになってきたな」


思わずガッツポーズをする拓人。異世界に来たからには、こういったものがなくては面白くない。


「てことは魔力なんてものがあるってことは、この世界では魔法がバンバン出てくるのか?」


この世界に対する希望でテンションが上がる拓人。しかし、そんな希望をゴードンが崩しにかかる。


「いや……そんなことはない。統一戦争のことは言っただろう? その戦争の後にクラウドによって魔法は危険なものとして扱いに制限をかけられたのじゃ。だから、魔法……というよりは魔力じゃが、魔力は『スマホ』やそのカメラみたいな次世代機器ぐらいにしか使われておらん」


なんだよそれ!! それじゃあせっかくの異世界なのに意味ないじゃないか!! 派手な魔法なくしてどうやって異世界を過ごしてけってんだ。


悲しくなるほどに現実的な異世界に心底落胆する拓人。クラウドのおかげで異世界の触りは困ることなくいけたが、ここまで整備されていると有能すぎて面白みがない。


「全く…… クラウドさんってばそこまで頑張なくていいんだよ。多少の不便さも異世界の醍醐味だよ……」


肩を落とす拓人。だが、聞き逃せない単語を聞いてしまった。


「聞き間違いだと思いたいけど…… もしかしてスマホって言った?」


スマホ――確かにそう聞こえた。まだ現実世界要素が出てくるのか。


「なんじゃ。聞こえているのではないか。そうじゃ、スマホじゃよ。スマホ」


「いや、聞こえてると思うなら何回も連呼しないで。……現実を思い出してつらくなる」


意気揚々に語るゴードンとは対照的にうんざりとした表情の拓人。これ以上シュールな単語は聞きたくない。


「なんじゃその反応は…… もしや見たことがないからそんなことを言っておるな。ミーシャ、見せてやりなさい」


そんな拓人の様子に何を勘違いしたかゴードンはミーシャにスマホを見せるように促す。


「いや、そういうんじゃないから。なんならこの中で誰よりも知っている自信ある――」


――と、拒絶の言葉を言いかけた拓人の目の前に突如、白くてやわらかいものが現れた。


「じ、ジーザス クラウド……」



――ミーシャが自分の胸を拓人の目線の位置に持ってきたのだ。


白い衣装から露出する彼女のすべすべで健康的な胸。その肌は魅惑的に膨らんでいて、拓人を悩殺しにかかっている。



そして、そんな彼女の体を彩るように赤い宝石が彼女の左胸に埋め込まれていた。


「なんだこれ……」


拓人が思わず手を伸ばして触りかける。と、その宝石が途端に光輝きだした。


「うっ」


思わず目をつむる拓人。伸ばしかけた手で目を隠す。


「な、なんだ!?」


その宝石から放たれる光。それはいつも行っている撮影のための照明のように明るくて、まるで何かを投射するように鋭い光線を描いている。


拓人はその場から一歩二歩と後ろに下がってみる。と、




――目の前の空間にホログラムの画像が展開していた。



「あっ! これはあの時の!!」


ミーシャの胸に埋め込まれた赤い魔石。そして、そこから投射されるホログラム。それはこの世界に来てから何度も目撃した物であり、この世界の本質ともいえるものであった。


「これが、『スマホ』。この胸に埋め込まれた魔石によって構築されたネットワーク。それでさまざまな人々と情報を共有することができるの」


そういうと彼女は目の前の空間を指ではじいた。すると、その動きに合わせてホログラムの画面がミーシャの方を向いていた方向から拓人からも見えるような向きに反転した。


「す……すげぇ……」


「触ってみていいよ」


ミーシャがそう言ってきたので恐る恐るホログラムに手を伸ばしてみる。


「おお……」


不思議な感触だった。触った感触はないが、空をただ切っただけような感じはしない。まるで光に直接触っているかのような感じを覚えた。右に左に指を動かしてみる。するとその動きに合わせてまるでタッチパネルをいじってるときのように画面がスライドしていく。


「はじめて見るっぽいのになんか操作がこなれているわね」


「まぁ、似たようなのを使ってたからかな」


画面をいじってみて分かったが、本当にスマホのような操作感だ。指でなぞればその通りに動くし、タッチすればそれに応じてのアクションを起こしてくれる。拓人が知ってるスマホとの違いは、画面がホログラムであるということくらいだ。


「ていうか、似ているっていうかほんともう、まんまスマホじゃん」


画面を見回してみるともうただのスマホの画面にしか見えない。アプリのアイコンのようなものもあるし某検索エンジンみたいなレイアウトの画面もある。


――それに拓人が一番見たくないページも見えてしまっている。


「……もしかして、もしかしてだけどさ、動画配信とかって流行ってたりするの?」


拓人の額から冷や汗が吹きだす。


スマホがある。それはまだいい。検索エンジンがある。それもいい。だが、動画配信サイトだけは、それだけはあって欲しくなかった。それがあってしまったらどうやってこの世界で生きていけというのか。どうやって無双してけばいいというのか。


そんな拓人の感情とは裏腹にミーシャはとてもうれしそうな顔をして、悪魔のような言葉を言い放った。


「よく知ってるわね。今はみんな自分が撮った動画を動画サイトとかでアップしてるのよ」


そういうと画面に動画サイトを表示し、トップに表示された動画の再生ボタンを押すミーシャ。


身なりのいい格好をした男が動画に現れる。


「やあみんなごきげんよう。僕はシューリョー御曹司。今日もみんなで動画を楽しもうっ!!」



――さよなら俺の異世界生活……




ホログラムから投射される画面。そしてそこに映し出される動画配信者たち。

この異世界に現れるにはいささか早すぎたテクノロジー。そして、拓人の異世界無双の物語には絶対にあって欲しくなかったテクノロジー。それが浸透してしまった世界でどうやってほかの人からリードを奪えばいいのだろう。どうやってナンバーワンの配信者になればいいのだろう。

拓人の悲鳴が世界に木霊こだまする。







「ジーザス クラウド!!!!」




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