異世界転生してみた
どうもみなさんはじめまして。小説投稿はど素人ですが、なんか面白そうなのを思いついたので文章にしてみました。誤字脱字、意味不明な駄文満載でしょうが、どうか多めに見て、楽しんでいってほしいと思います。ちなみに作者はyoutuberでもなんでもありません。
「ではまた明日のタクティクスTVでお会いしましょー。さようならっ!」
物が散らばった狭っ苦しい部屋。ビデオカメラを自分に向け撮影を行っている少年がいる。彼の名前は黒森拓人。18歳の高校生であり、そして――動画配信者である。
――『動画配信者』とは、インターネット上の動画投稿サイトに動画を投稿する者たちのことである。近年、その人気は爆発的に伸び、平均動画再生回数、およびチャンネル登録者数が100万を超えるような人気配信者は、その再生数に応じた企業からの広告料等により、それだけで生活を成り立たせられるという。だが、そんな者は一握りで多くの者は視聴者数も再生回数もごくわずか、もらえるお金なんて0に等しい、いわゆる『底辺動画配信者』であった。そんな中、拓人も例外ではなく――
「今日の動画の視聴数は……っと。はぁ、132回か。なんでこんな人気ねぇんだよ」
――彼もまた、底辺動画配信者であった。
「はぁ…… 楽して生きていけるって聞いたから始めたのに全然じゃねぇか。なんなんだよ、まったく」
パソコンの画面に刻まれた現実を見て、ため息混じりに愚痴をこぼす。動画配信がこんなにも大変で、つらいものだとは思ってもみなかった。最初は気楽に楽して稼げるものだとはしゃいでいたのに、今では一時間おきに視聴回数を確認し、その数字に一喜一憂するほどノイローゼになっている。
――動画配信を始めたきっかけは、単純なものだった。
部活も勉強も真面目にやっておらず、アニメやネットにどっぷりと浸かった日々を過ごしていた拓人。いよいよ進路を決める時がやってきたが、受験も就職もする気がまったく起きていなかった。進路希望の面談でニートになりたいと言い放ち、親からも教師からも本気で怒られ、凹んでベッドに潜り込んでスマホをいじっていた時、あの動画を目にしてしまった。
普通の恰好をした普通の男の人。特別かっこいいわけでもないし何か芸を持っているとも思えない。だが、そんな彼がステージの上に立つと、大勢の観客が彼に黄色い声援を送り、熱狂しだした。彼の話す一言一言に大げさなほどの歓声を送り、彼への思いを叫んでた。まさにステージ上が彼一色に染まっているように思えた。そんな中で彼は、言っていた。
『俺は、元々なんの取り柄もない普通の人生を送っていた。でも、このままじゃやばいって思ってこの動画配信を始めたんだ。そして好きなことを全力でやってそれを動画にあげて…… そしたらいつの間にかここまで来ることができた。みんなも今からでも遅くない! 始めよう、動画配信っ!』
――その日から拓人の進路は決まった。すぐに貯金を崩し、親に内緒でビデオカメラを購入し、カメラと睨みあいっこする日々が始まった。有名どころの配信者の動画をくまなくチェックし、売れている人のやり方を真似てみたり、編集ソフトをダウンロードして、必死になって効果音をつけてみたり…… これまでの拓人からは考えられないほどに一生懸命努力をしていた。しかし、いくらやっても再生数は伸びることなく、チャンネル登録者数も横ばい、というかむしろ毎日ちょっとずつ減っているぐらいだった。ステージに立つあの彼の背中は思っているよりも遠い。
「はぁ、俺がもう少し早く生まれてたらな。そしたらこの流行の最先端を作っていける男になれたのに。それか、動画投稿サイトがまだ流行り始める前の世界に飛ばされる……とかだな。うん、そっちのがまだ現実味がある。俺の父さんは俺に負けず劣らず草食系だからな、今より早く生まれるのは期待できない」
どっちにしろ現実味のない妄想をしながら、拓人はパソコンに向かい、撮影した動画を編集し始める。と、
バンッ!!
突然、大きな音を鳴らしながら部屋に入ってくる人影がある。その影は拓人を見るなり、顔を真っ赤にする。
「あんた! なにやってんの!! 部屋がうるさいと思ったらそんなことやって。いい加減勉強しなさい!!」
その影――拓人の母親は、拓人を怒鳴り、しかりつけた。
「なんだよ、勝手に入ってくんじゃねぇよ。ふざけんなよ」
急に部屋に入り込んで怒鳴る母に驚く拓人。歯を食いしばって負けずに反論する。が、
「なんだよじゃない! あんた勉強はしてるのっ!」
「今やろうとしてたところなんだよっ!!」
「全然そんな風には見えないわよ! もうっ、パソコンはいいから早く教科書でも出しなさい」
「うるさいって、パソコンに触るなよっ! データが飛んじゃうかもしれないだろ!!」
「はぁ。パソコンパソコンって……いつまでそんなことやってんのよ、あんた将来どうするつもりなのよ」
――将来。その言葉が拓人に重くのしかかる。
「なんだよ…… 将来って……」
拓人は言葉になるかならないかぐらいの声で力なく言った。
「はぁ。もういいわ。ちゃんと勉強すること。いいわね」
そう言うと頭に血を上らせていたはずの母から怒りが消え、今度はため息とともに悲しさを漏らしながら、部屋から出て行った。
「なんだよ…… それ……」
うつむいた拓人はそばにあるカメラを取った。そこに収められている自分の動画を見返してみる。思いっきり作った感があふれる陽気なキャラを演じた少年がはしゃぎながら、なにやら熱心にしゃべっていた。そんな姿を見つめていると画面を見ている視界が徐々にぼやけていく。頬を流れるしずくが一滴、二滴とカメラの画面に垂れていった。
「このままじゃダメだって、こんなことしてる場合じゃないって、分かってるよそんなことは…… でも、もう後には引けないとこまで来ちゃったんだよ。ほんと、どうすりゃいいんだよ……」
自分が今すべきことはこんなことではないと、そんなことは分かっていた。受験勉強するなり、面接の練習をするなり、やるべきことはいくらでもあるはずだ。だが、もう今からやるのでは遅すぎるし、それを取り返すほどの貯金をしていたわけではない。周りのクラスメイト達は、ステージは違えど、あの動画で見た彼のようにはるか遠いとこにいってしまった。
「ほんと…… 誰か助けてくれよ……」
涙で頬を濡らしながら拓人は、祈りを捧げた。
あれからどれくらいの時間がたっただろうか。下を向き、うつむいてた拓人はふと顔を上げる。あたりはもうすっかり夜になり部屋は暗闇で覆われてた。その中で、白く光っている物体に目がいった。拓人はそれを拾い上げてみる。
「なんだ、電源消し忘れてたのかよ」
見るとカメラが暗闇のなかで淡いブルーライトを灯しながら光っていた。
「ッたく、バッテリーが無駄になっちまったよ」
拓人はすぐにカメラの電源を消そうとする。しかし、ボタンを押しても光は消えるどころかますます光り輝きだす。
「おいおい待てよ、電源ボタン押してるだろ。ちょっと、おいッ」
どこのボタンを押しても止まることのないカメラの発光。徐々に目が開けていられなくなり、拓人の意識は遠ざかった――
「ハァッ!!」
気が付くと拓人は空間の中にいた。その空間はアニメで見るような電脳的な空間で、網目状に張り巡らされた管のようなものを光の粒がせわしなく移動していた。
「なんだよ、ここ……」
拓人はあたりを見回す。
――と、当然目の前に巨大なスクリーンが表示された。そこには拓人が普段使っている動画投稿サイトが映っている。注目度ごとのランキングのページが表示されているようだ。目を凝らして見てみる。1位『異世界 魔法、ハーレム』 2位『VRMMO 無双、不死身』…… 様々なタイトルがスクロールしながら表示される。そして、何度も何度もスクロールを繰り返していくと、ある画面でスクロールが止まった。見てみると、あなたへのおすすめと表示されている。その動画のタイトルにはこう刻まれていた。
『攻略済み異世界 戦闘、異能 なし』
「なんだ、これ……?」
拓人がつぶやくとその声に呼応するかのようにその動画の再生準備が始まる。
「ちょ、ちょっと…… 見たいって言ってないし……」
拓人が文句を言い続ける間も画面のNOW LOADINGの文字は回り続けている。
そして、長い長い待ち時間を経て、ついに――
再生ボタンのクリック音とともに物語の幕が開けた。
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