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■ 6 (side課長)

ずっと気になっている、部下がいる。






吉木あずさ。







ずば抜けて仕事が出来る訳ではないが、自然な気遣いができる子だと。




ちょっと一息つきたいときに出てくるコーヒー。



「私が飲みたくて…ご迷惑でなければ」の一声と共に。






資料の並びが、前回直した通りになっている。




直接言ったわけではないが、「会議のあとの資料見せてもらってもいいですか?勉強させていただきたくて…」と言っていた気がする。






プライベート寄りで言えば、酒に弱い俺の酒量を数回で把握してくれていた。



「そろそろペース緩めてくださいね?課長さん」の声は、いつももうちょっと大丈夫だろうと思うあたりで掛けられる。





結局はまだ大丈夫だろうと思って飲み過ぎ記憶が曖昧になってしまうことが多いのだが、後から考えると吉木が声を掛けてくれたタイミングでやめておけばよかったといつも思った。










いい後輩、いい部下だ、そう思っていたはずなのに。









いつからか、かわいいやつだな、と思う自分がいた。









だが、俺なんかに吉木は振り向かないだろうと思っていた。




誰にでも分け隔てなく優しく、気遣いができる彼女。




普段から同僚とも仲良くやっていると思っていたが。








これはいかんせん、仲が良すぎるのではないだろうか。



エレベーターを待つ吉木を見つけた時は、いい歳をしてと自分で呆れるほど胸が高鳴った。



黒くしっとりとした背中までまっすぐのびた髪。そこにそっと添えられた、小さなピンクの花の髪飾り。



派手すぎず、また吉木の黒髪に似合っていてとても好ましい。






だが、吉木はこちらに気づくこともなく、同期の飯田としゃべっている。声をかける前、一瞬飯田と目があった気がしたが、気のせいだろうか。



エレベーターに乗っても二人の掛け合いは続き、しまいには飯田が吉木の髪を漉きはじめた。




吉木は気付いていなかったようだが、飯田は明らかにこちらを見てにやついていた。








そうか。





お前ら、そういうことか。









念のため、業務中にさりげなく今朝のやり取りについて問い質す。



その時の飯田の「課長が思っている通りですよ」という言葉が、いつまでも頭のなかでぐるぐる回っていた。









かわいらしく素直、なにより若い吉木に、40を迎えた男なんぞ相応しくない。



そんなことは自分が一番わかっていたのに、いざその状況になってみると予想以上の衝撃を受けている自分に驚いた。








この時、俺は気付いたんだ。





俺は、吉木のことが好きだと。





たとえ吉木が飯田と付き合っていたとしても、俺は吉木のことが好きなんだと。









*****









「優吾さんって…もしかして抱きつき癖がありますか?」



「いや、今まで考えたこともなかった。でも、吉木が言うならそうなのかもしれん」




ぜったいそうですよーと言いつつも、決しておれの腕の中から出ようとしないあずさ。




かわいいなぁ、かわいいなぁ。

これは年下だから、なんだろうか。





「…あずさはさぁ、年上って実際のところどうなの?」



勇気を出して聞いてみると、きょとんとした顔をするあずさ。



「うーん…別に年上、年下はあんまり気にしない、かな。かといって相手が見るからにおじいちゃんとか赤ちゃんだとちょっと複雑かもしれませんが、優吾さんくらいならどちらかというと…憧れというか…」




照れてもじもじしながらそう言ってくれるあずさ。



俺のことを憧れ、なんて。









本当は、君のほうが俺にとっての憧れだというのに。









だがかわいい年下の彼女に憧れと言われるのも悪くない。



お礼として、「大好きな低音ボイス」を意識した声で名前を呼んでぎゅっとしてみた。



「…そーいう大人なところは反則だと…」と言いつつ満更でもなさそうな彼女は、やっぱり誰よりもかわいいと、誰にも渡したくないと思うのだった。






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