雨コイ
さて今日はほっかほかの今朝見た夢のお話!
趣向を変えて今回は起き抜けに見た夢を使って短編を書きたいと思います。
まず夢のシチュエーション。
①女の子帰宅途中突然上空の風が動き始め雷鳴、雨の気配がする。
②直ぐに近くの軒下へ逃げ込み雨宿り。
③少し遅れて男の子登場。彼が折りたたみの傘を持っている情報は外から映像を見ているだけの傍観者である私には与えられている。
④二人は顔見知り程度。
⑤男の子傘を出して誘う。
⑥小さい折りたたみ傘で雨の中。濡れる制服の匂い、雨の冷たさ、互いの体温。
さてこれを使って物語を書いてみますね。
上手く書けるかな?
☆20160220☆
埃っぽい匂いが微かに漂い、痺れるような冷たさから雪でも降るのかな?と思って空を見上げると灰色の雲が風で流されてさっきまで見えていた青空があっという間に見えなくなった。
足を少しだけ早めてみたが、ここから家までは歩いて15分はかかる。
無駄な抵抗かな?
ちょっと諦めかけた心を見抜いたかのように途端にゴロゴロと腹に響く雷鳴が轟いた。
「ふぁ……っ!」
稲光はなかったけどすごい音。
思わず息を飲んで雨の予感に慌てて近くの軒下へと入り込んだ。
恐る恐る天を仰ぐ私の頬にぽつりと雫が落ちて。
「あー……降ってきた」
慌てて顔を引っ込めて雨粒を拭い溜息をひとつ。
風が連れてきた雨雲は雷の音を鳴らしながら勢いよく地面を濡らし始めた。
立ち込める水しぶき、アスファルトが濡れる独特の匂い。
ザアザアと辺りを包む雨音。
雨は嫌いじゃないけれど、備えが無い時に降られるのはちょっと困る。
朝の天気予報じゃ晴れのち曇りで、降るなんて一言も言ってなかったくせに。
恨めしく思いながらもう一度覗いた空はやはり鈍い色の重い雲に覆われていて止む気配はない。
――――ぱしゃり。
できたばかりの水たまりを抜けて人影が飛び込んで来た。
同じ学校の制服を着た男の子。
確か同じ学年だけど一度も同じクラスにはなったことが無いはず。
でも、全く知らない間柄ではないんだけど。
彼はきっと覚えていない。
あの日も雨で。
天気予報は傘を持ってお出かけ下さいっていってたのに、私はこれだけ晴れてるんだから大丈夫だと判断して。
結果どしゃ降り。
逃げ込んだ小さな商店の安っぽいビニールの庇の下で止みそうもない雨を眺めていた。
そんな視線の先を猛スピードで走って行った自転車。
余りの速さにあれじゃ前だけびしょびしょに濡れるだろうに、と唖然としていたら通り過ぎた自転車が戻ってきて目の前で止まった。
『乗っていく?』
唐突な言葉に『え?』と驚いた後で言葉を失った私に彼は雨に濡れた前髪を額に張り付かせたまま困ったように首を傾げた。
『どうせ、止まないよ。それなら少しでも早く家に帰った方が良くない?』
特徴のないどこにでもいそうな顔の彼は地味で、やぼったい髪形が濡れているせいで更に胡散臭そうに見える。
そんな彼を間抜け面して見上げている私もお世辞にも可愛いともいないレベルの顔なのでどっこいどっこいだった。
『…………いい。大丈夫』
誘ったものの別に深い意味は無かったのか『そう』という素っ気ない言葉を残して彼はまた颯爽と走り去って行ったのだ。
あれから接点はなにひとつなく今日まで時間は過ぎたのに。
また雨が引き合わせた。
不思議だな……。
これもなにかの縁なのか。
それでもなんだか居心地が悪くて、雨に濡れて帰ろうかと考え始めた時。
彼がごそごそと鞄を漁り徐に折り畳み傘を取り出した。
紺色の傘。
くるっとまとめて開かないようにしているバンドを外して、左手で把手を右手で傘を開こうとする彼の手が一番上までスライドする前に骨がバラバラにあちこち動いて上手く開かない。
もたもたとしながらもなんとか折り畳み独特の形に広がった。
鞄を持ち直してひょいっと傘を掲げて一歩軒下から出る。
バラバラバラッ。
傘の表面を透明の粒になり雨が滑って行く。
どうやら使い込まれていない新品の傘のようだ。
綺麗――――。
意外にも背筋の通った美しい立ち姿と雨粒の煌きが相乗効果になって目に焼き付いた。
「一緒に、入っていく?」
大したことでもないように何気なく向けられた言葉にまたしても私は「え?」という色気も面白味も無い返答をしてしまう。
誘うように傘が上げられ、彼が二度瞬きして。
悪いかな。
二度も断ることに罪悪感を覚えたのがひとつ。
それから気負わずに声をかけられたのがもうひとつ。
だって私だけが意識しているみたいじゃない。
断ったら負けのような気がしたのも私の足を動かした一因。
お礼も挨拶も無いばかりか、言葉ひとつ無しに私は傘の中へと移動した。
後から考えたら失礼だし、傲慢だったと思うけどこの時はなんだか上手く言えなくて。
ザアザア。
パラパラ。
ぎこちなく歩き出した二人の歩幅はなかなか合わずに気まずさばかりが募っていく。
小さな折り畳みの傘の下では腕が触れ合うほどに身を寄せても反対側はゆっくりと確実に濡れて。
湿った制服の匂いはどちらのものか。
雨は冷たく、触れ合う体温は恥ずかしいくらいに熱くて。
どきどき早まる鼓動が聞こえそうで、息をするのも苦しい。
早まったかも。
負けたくないと意地を張らずに断っていればこんなことにはならなかったのに。
「…………ねえ、どうして今日は自転車じゃないの?」
気まずさを誤魔化そうと口をついて出た言葉に彼は少し嬉しそうな顔をした後で「あれから自転車は止めた」と返した。
あれから?
もしかして、彼も覚えていたのか。
あの雨の日のことを。
しかも今日は自転車じゃないの?って言った時点で私が覚えていることを知られてしまった。
墓穴掘った。
悔しい。
「ずっとあの時みたいに突然雨が降れって、『雨来い!』って念じてた」
「ばかじゃないの?」
男の子って本当にガキだ。
意味の解らないことを真剣に考えて。
でもあの時のことを忘れずに、同じような状況になればいいと祈るように念じていてくれていたのはちょっと嬉しかった。
感動もしたけど口には出さない。
だってそれって私も待ってたってことじゃない。
期待して。
「ばかみたい」
「なんだよ。ばかばかって」
膨れっ面をした彼の子供っぽさに心が疼いて。
なんだ――って思う。
「雨来い、じゃなくてこれじゃ」
雨恋じゃないの。
見上げて絡んだ視線の中に甘酸っぱい揺らめきを見た気がして苦笑いした。
☆ ☆ ☆
さて如何だったでしょうか?
苦手な一人称で拙いなりに頑張ってみました。
私の作品には雨のシーンが結構出てきますが、個人的に雨に思い入れがあるわけではないのでなんでだろう?と純粋に首をかしげてしまいます。
今日夢を見ていたころにはまだ雨は降っていなかったのですが、目覚めて10分後には降り始め今日は一日雨でした。
次はいつもの形式でお届けします。
日時は未定ですが、気が向いたらまた書かせていただきますね。
ではまたお会いできる日まで、良い夢を。
この物語を今日誕生日の貴女のために。