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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる前フリ~初等部~
9/76

猫かぶりのほうが仲良くやっていけるのは事実よ?

 そんなこんなで友達のいないまま一年が過ぎました。

 今日も私はぼっちです。


 「お兄様、お友達ってどうやったら出来るのかしら…」

 「自然と出来るものだよ。学校に馴染む三年までは同じクラスのままだし、クラスの人に話しかけてみたらどうかな?セリアのクラスは穏やかな人ばかりじゃないか」


 兄に相談するともっともなことを言ってくれるが、もっともすぎて何の参考にもならない。


 「何度か挨拶して見たわ。相手も挨拶を返してくれたわ。でもそれで終わりよ…」


 私だって、挨拶をしたり頑張りはした。でも、話題は合わないしお昼は三人で食べるし、それ以上になれない。どうやったら友達って出来るのよ。前世も前世でぼっち予備軍だったから当てにならないし!


 「もっと話しかけてみるとか…」

 「遠巻きにされて、『浮気したら奥様がまた怒りますわよ』って言われる…」

 「ぷっ!あの夫婦設定、まだ生きてたんだ…」

 「うちのクラスで父さん、あるいは旦那様といえば私のことよ。母さんと奥様はジオルク・ウェーバーで、お子さんとご子息様はレイヴァン様を指すわ」

 「おなかいたい…!」


 兄がぷるぷると震えている。どうにでも笑えばいい。同じ理由でジオルクにも友達が出来ないんだから、もう道連れだ。


 兄はひとしきり笑ってから、顔をあげた。


 「でも、良いクラスだね。レイヴァン様やセリアたちのおかげだよ」

 「……そうなの?金持ち喧嘩せずだからじゃなくて?」

 「俺達のクラスはぎすぎすして騙し合いで大変だったよ」


 兄が苦笑する。確かにそれもそうだ。


 「じゃあ、なんで私のクラスは穏やかだったのかしら…」

 「だから、レイヴァン様たちのおかげだよ。レイヴァン様を初めとする身分の高くて、セリアみたいに成績優秀な子供たちが、率先して馬鹿やってるんだもん。気が抜けるし、暗躍するのも馬鹿みたいになるよ」


 ……そういえば、王太子様、王太子様の婚約者かつ公爵令嬢、公爵令息が、そろって家族ごっこやってるのよね…。一番身分が上の王太子様を子供にして、公爵の子供二人が性別逆転で夫婦を演じて…。


 「………確かに、そうね」


 確かに、そんな状況なら画策するほうが馬鹿になる。諍いも生まれようがない。


 「ね、そうだろ?本当に良いクラスとだと思うよ。だから頑張って」

 「ええ、そうね!私頑張るわお兄様!」





 「ごきげんよう」


 朝、とりあえず見かけて女の子に挨拶をしてみる。


 「ごきげんよう、セリア様」


 よし、返事は返ってくる。上々だ。

 いつもはここで終わるけど、今日は引き下がらないぞ…!


 「あの、今お時間ありまして?」

 「セリア様、浮気は奥様が泣きますわよ」


 これが日常である。やはりジオルクこそ小悪の根源だ。


 「浮気じゃありませんわ。その、祖父が異国のお菓子をくださって、珍しいものだからクラスの方にも分けておあげなさいと言ったので、よろしかったら…」


 祖父の協力の下、取り寄せてもらった異国のお菓子を差し出す。ちなみにそのお菓子はどこから見ても金平糖だった。まあ、珍しくて日持ちするから良い。


 「あら、可愛らしいお菓子ですこと。でも、よろしいんですの?奥様とご子息様の分はありますの?」

 「心配なさらないで。子供の分はちゃんと取っていますし、これ、砂糖菓子なんですの。妻は甘いお菓子が苦手なので…」

 「まあ…。それじゃあ、いただきますわ」


 事前に二人の言い訳を考えておいてよかった。レイヴァンは意外と甘いものが好きだけど、ジオルクは辛いもののほうが好きなのよね。だからこれはあげない。


 「甘くて可愛くて美味しいですわ。ありがとうございます、セリア様」


 ご令嬢は喜んでくれたようだ。


 「ありがとうざいますわ。あの、みなさんもよろしければ…」


 ついでにクラスの人にも声をかけて、食べてもらう。やっぱりガキは餌付けが一番だと思うの。コネがあるんだから使わなきゃね。


 これで、まず第一の布石、『好感度アップ作戦~お菓子で餌付けしよう~』は終了だ。上手く行った。


 「……セリア、あの…」


 それを見ていたのか、レイヴァンがもじもじと言ってきた。欲しいらしい。本当に甘党だ。


 「勿論レイヴァン様の分もあるわ。日持ちするから、すぐに全部食べなくても大丈夫よ」

 「そっか!ありがとうセリア!」


 素直に喜ぶレイヴァンは可愛らしい。丁度いいからもう少し餌付けをしておこう。


 「よかったらまたお菓子を用意するわ。任せて頂戴」

 「本当か!?ありがとう!」


 喜ぶレイヴァン。なんて扱いやすくて可愛いのだろうか。このまま手懐けていきたいものだ。


 「で、俺にはないのか」


 ジオルクにも、レイヴァンの素直さを見習って貰いたい。レイヴァンなんか最近ではお世辞も上手に言えるようになってきたというのに。


 「あなた甘いもの苦手でしょう?ほら」


 一つぽんと投げて渡したら、「食べ物を投げるな」と文句を言いつつ食べて、


 「………もういい」


 ギブアップ宣言をした。


 「だからあなたの分は用意しなかったのよ」

 「想像以上の砂糖だった…」

 「ジオルクは甘いのが苦手だからなあ。そういえばセリアは好き嫌いはないな」

 「ええ、美味しければなんでも食べるわ」


 前世でも、『美味しいのにこしたことはないが、とりあえず食えりゃいい』という食への関心のなさだったからか、現世でもそこまでこだわりはない。美味しいもののほうが嬉しいけど、特にあれが好きこれが嫌い、などという拘りはない。


 「ああ、でもこれはお兄様にも好評だったわね」


 ついでに、とおかきを出す。

 お兄様はあの王子より王子の見かけで、かなりの辛いもの好きだ。食に対してこだわりのない私が食べても、「辛っ!」と言いたくなるようなものを好んで食べている。正直ちょっと引いた。


 ちなみにおかきは元々なかったお菓子だけど、餅はあった。から、その餅を貰って乾燥させて適当に割って揚げた。塩をかけて食べると美味い。カロリーは気にしない方向で。


 「なんだ、これ。セリア、食べてもいいのか?」

 「ええ、どうぞ。野良も食べていいわよ。甘くないから」

 「確かに甘そうには見えないが…これはなんという菓子なんだ?」

 「おかき、というお菓子よ。結構お腹にたまるわよ」


 毒味を兼ねて一つ食べてみせる。さくさくして美味しい。


 「へえ…。これ美味しいな!父上と母上にもあげたい!」

 「さっきの砂糖よりマシだな。どこの菓子だ?」

 「どこのっていうか、私が作ったのよ。欲しければ後でまた作って届けるわよ」

 「「え!?」」


 ジオルクとレイヴァンが仲良く声を揃えて驚いた。まじまじと見られて、ついつっけんどんな口調になる。


 「何よ、私が作ったものが食べられないって?」

 「い、いや、そんなことは全然ない。とても嬉しい。でも…まさかセリアが料理なんてすると思わなくて…」

 「………ネーヴィア家は人手不足なわけでは、ないよな?なんで公爵家の女が厨房に…?」


 ああ、そういえば、身分の高い女性は厨房になんか入らないものだっけ?

 でもねえ…。


 「食べたい時にすぐ食べたいんだもの。一々言いつけて待ってるのも面倒だわ。軽食で良いって言うのに大仰に持ってきたり、一々料理人を呼び出したり、おちおち夜食も頼めないじゃない。自分で作ったほうが早いのよ」

 「いや…それはちょっとおかしいぞ…」

 「……ごめん、俺もそう思う…」

 「自分で作ったものを自分で食べるだけよ?お祖父様やその職場の方々とか、お兄様やお父様お母様に振る舞うことはあるけれど、公式の場に持って行ったりはしないわよ?」

 「今、俺達に食べさせたのはなんだ」


 ジオルクの言葉に、むっとする。


 「レイヴァン様は婚約者じゃない。あなたは野良でしょう。野良に施すのに畏まる必要があるの?いいわよ、嫌なら食べなくて結構だから」

 「あ、俺は勿論嬉しいから!こんなに綺麗な婚約者から手料理を振る舞われて、とても嬉しい!ありがとうセリア!」

 「別に不満というわけでもない。それから、いい加減野良呼びはやめろ」

 「あら、そういえばずっと野良だったわね。じゃあ次は『お前』にしようかしら」

 「やめろ」

 「セリア、俺も、もう様つけなくていいから。婚約者だし…」

 「そうは行きません、レイヴァン様。無礼な口を利くことは出来ても、呼び捨てなんて恐れ多い」

 「フランツと同じこと言う…」

 「お兄様と同じ!?やだ素敵!やっぱり兄妹なのね!」

 「………レイヴァン、フランツから説得したほうが早いと思うぞ」

 「俺もそんな気がしてきた…」

 「レイヴァン様、ジオルク・ウェーバー、お兄様に迷惑かけないでよ」

 「だから呼び方を改めろ」


 呆れた、というように言われて、むっとする。それを感じ取ったレイヴァンはさっと退く。もう手慣れたものだ。


 「じゃあ言わせてもらいますけど、あなたもあなたで、私の事『お前』だとか『ネーヴィアの』だとかしか言わないじゃない。言われる筋合いはないわ」

 「お前のように『野良』だとか『負け犬』だとか言わない分、マシだと思うがな」

 「嫌と言ってこないからでしょう。だから改めたじゃない、文句あるの?」

 「一々フルネームで呼ぶな、うっとうしい」

 「フルネームとあだ名以外だと様付けしなきゃいけないから嫌なのよ。なんで自分より格下の相手を『様』だなんて呼ばなきゃいけないのかしら」

 「じゃあ敬称をつけなくていいから名前で呼べ。というか、家族ごっこのときは俺のこともレイヴァンのことも呼び捨てにしているだろう」

 「妻子を呼ぶ時に敬称を付ける夫がいて?それとこれとは別よ」

 「無礼とか今更だという話だ」

 「妻子は呼び捨て、婚約者と腐れ縁の同級生は敬称が必要、何か間違っているかしら」

 「婚約者なら呼び捨てでもいいだろうが」

 「王太子様にそんな無礼は出来ないわ。どこかの誰かは、私とレイヴァン様の婚約を事あるごとに解消させようとしているみたいだし」

 「自分がレイヴァンに悪影響しか与えないことに自覚がないのか?とにかく仰々しいフルネーム呼びはやめろ。敬称はいらないから」

 「……まあ、あなたから言い出したのだから、問題はないわよね。じゃあウェーバー、あなたも私のことをまともに呼びなさい。敬称はいくらつけてもいいわよ」

 「………お前なんかに敬称を付けたくない」

 「私の気持ちがわかってくれたみたいで嬉しいわ。でも呼んでもらうわよ。ああ、ネーヴィア様とかはやめてね。お兄様と見分けがつかないから」

 「………」

 「さあどうぞ」


 ふふん、と勝ち誇って促すと、ジオルクは心底嫌そうに顔をしかめていたが、ぱっと見事な作り笑顔になった。


 「ではセリア嬢と呼ばせて頂いてもよろしいでしょうか。これからもよろしくお願いしますね」


 あら、とやや驚く。レイヴァンもびっくりしている。私達の前で猫を被るような良い子じゃなかったから。

 でも、こうなったら乗るしかないわよね?


 「勿論ですわ、ウェーバー。あなたがこんなに素敵な人だったなんて知りませんでしたわ。こんなあなたなら、これから仲良くやっていけそうね」

 「……光栄です、セリア嬢」


 ジオルクの作り笑いが、やや引きつったというか陰った。

 ので、鼻で笑ってやった。


 「ウェーバー、笑いが引きつったわよ。あなたもまだまだ青いわね」

 「そうでしょうか…?」

 「不安げにとか、わざとらしいわ。もう茶番は結構よ。それより、結局おかきはいるの?いらないの?」


 さっきから放置されているおかき。レイヴァンは暇なのかそれをぽりぽりかじっている。怒られる、怒られないのボーダーがわかってきたからか、レイヴァンも結構自由になっている。


 「お前はどうして人を嘲笑う時が一番輝いているんだろうな…。いる」


 ジオルクもため息をついて、おかきに手を伸ばす。


 「仕方ないじゃない、楽しいんだから。レイヴァン様は?」

 「あ、いる。父上と母上の分の他に、俺の分も欲しい。甘くない菓子も美味いな」

 「甘くない揚げ菓子が好きなら、他にも作って持ってくるわよ。私もそういうの好きだもの。ウェーバーは?」

 「いる。…セリア、家名で呼ばれると自分を呼ばれている気がしない。父とも判別がつきづらいだろう。名前で、呼んでくれ」

 「ウェーバー公は爵位をつけて呼ぶからわかるわよ。ただ、あなたを呼び捨てにして婚約者のレイヴァン様を敬称をつけるっていうのは、あらぬ噂を呼びそうだから」

 「だから俺も敬称をつけないでくれ。いや、命令だ、つけるな」


 レイヴァンも知恵をつけてきたようだ。

 いくらレイヴァンを躾けているとはいえ、きちんと命令されたら…、


 「………かしこまりました、殿下」


 臣下として、了承するしかない。


 「じゃあ、言い出したのあなたたちなんだから、後悔しないことね、レイヴァン、ジオルク」

 「ああ、ありがとう、セリア」

 「問題があったらフランツに言うだけだ」


 本当にレイヴァンは、素直ないい子だ。ジオルクからはおかきをとりあげておいた。





 その日、帰宅後に兄に「あれ、呼び方変わったね」と訊かれたので説明すると、「じゃあ俺も呼び捨てにしよっと。婚約者のセリアが敬称つけてるから、俺も敬称外せなかったんだよね」と言われた。深慮なお兄様も素敵。

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