後日談~レイヴァン、リリー~
完結したのにまだおまけがついたよ!
夜型なので、独白の話が出て来てカタカタして、出来立てほやほやです!誤字脱字あったらすみません!
いつも隣には誰かがいた。
セリアが厳しく躾けてきて、ジオルクがそれに反発して、フランツがにこにこ微笑んでいた。
幸せな日々だった。
満たされていると、幸せだと気付かないぐらいに、幸せかどうかなんて考えないぐらいに、幸せな日々だった。
どこで道を違ったのだろうか。
セリアがいきなり壊れてリリーを嫌って、でもそんなのは日常の延長線上だった。リリーと話していたことで裏切り者だと切られたが、それだってセリアには普通のことだ。現にフランツとあの馬鹿以外、セリアに切り捨てられていた。ジオルクだって一度は切り捨てられていたし、フランツも敵にこそなっていなかったが味方のままではいられなかった。
それでも、今ではもう、みんな仲良く笑っている。
自分以外、もう一度関係を結んでいる。
何が悪かったのだろうか。
リリーのことは、最初は興味がなかった。我儘なところがある自分は、特待生なんてどうでもよかった。情報収集なんてしなくても誰かがやってくれるから、それに甘えて、自分のやりたいことしかしなかった。
いや、たとえ知っていたとしても、きっと変わらなかった。
知っていたも、きっと好きになった。
彼女に、頑張りすぎるなと、そう労われて、初めて自分が張りつめていたことに気付いた。
王太子だから、という前提が根底にあって、みんな支えてくれて、疲れる前に助けてくれて、だから辛い思いも自覚していなかった。恵まれすぎていたからこそ、気付けなかった。
驚いたと同時に、たぶん、一目惚れしていた。
労われたことにも、恐らく偶然だろうけど自分ですら自覚がなかったことを言い当てられたことにも、驚いて、好きになっていた。
どうしてこうなったのだろうか。
セリアはそれでも保護者でいてくれた。ぎすぎすはしていたが、それは他のやつらでも同じことだったし、長年一緒にいた間合いで、嫌われているわけではないことはわかっていた。
保護者をやめたのは、どこだったか。
セリアが他人だと、今までを捨ててしまったのは、何がきっかけだったか。
話していたら急に保護をやめ、守ってくれたと思ったら他人だと宣言され、実感もないままに切り捨てられた。
どうすればよかったのだろうか。
ジオルクが自分の気持ちに気付いたとき、応援して身を引いたことは、間違いではないと思う。あの時点で自分もセリアもそういう気持ちはなく、思い返せばジオルクは幼いころからセリアに惚れていて、顔を合わせば飽きもせず喧嘩する似た者同士の二人は見ていてもお似合いで、だから父母に睨まれても婚約解消を願い出た。
妬みもなく、純粋に友の恋を応援できたのは、当時でも誇らしく感じた。今でも、あの時の行動を後悔していないし、その行動を誇らしく思う。フランツを通じて今の楽しげな二人を知っているから、なお二人を祝福できた自分を嬉しく思う。
リリーを好きになり、それを貫いたことも、後悔はない。こうなっても、彼女と一緒になれて幸せだと思うし、気持ちが揺らぐことはない。
どこで間違えたのだろうか。
きっと、自分がまだ子供だったことが、なによりも悪かった。
親は守ってくれるもので、頑張れば報われて、人を好きになるのは悪いことじゃなくて、そう甘えていたことが間違いだった。
自分は王族で、親は親である以前に王で、セリアが『命じられれば誰にでも嫁ぐ』と言っていた意味を理解しきれていなかった。実感が伴っていなかった。
リリーは平民で、だから自分がしっかりしていなければいけなかったのに、いつまでも甘ちゃんで、彼女まで巻き込んでしまった。わからなければ相談すればよかったのに、一人で頑張らないといけないと思い込んで、失敗した。
これからどうなるのだろうか。
自分の指針をセリアに押し付け、王族の重責をエリオンに任せきりにして、周りとの調和をフランツに強い、思いの代弁をジオルクにさせていた。
その結果、セリアに切り捨てさせ、エリオンにさらに後始末を押し付け、フランツを酷使し、ジオルクに傍観させることなった。
ジオルクは、嫌味っぽくて冷静そうなのに、意外と行動派で、セリアの次にアグレッシブだと思う。セリアと嫌味合戦してるように、気に食わなかったらさっさと行動してなんとかする性質だ。
でも、そんな友を、動けないような状況にしてしまった。積極的に排除はできないほどの友情を持ってくれているのに、止めるために動くこともできないほどの行動をしてしまった。行動派の友が、動けず何もできず、ただ見ているしかできないようにしてしまった。
後悔は、ない。
けれど、反省は、謝意は、抱えきれないほどにある。
大事に育ててくれたセリアには申し訳ない。尻拭いさせていた弟には責められても仕方ない。見捨てずに尽力してくれたフランツには感謝しかない。板挟みになって、それでも『友』と言ってくれる友人には、―――言葉もない。
「………お時間です」
わかった、と返事をして部屋を出る。
改めて、こうなっても彼らを、彼女を、責める気持ちが浮かばない自分を誇りに思う。
セリアは、なんだかんだで楽しむだろう。セリアはセリアだ。エリオンは、なんだかんだで図太いから上手くやってくれる。フランツも色んな人に好かれているし、あれほど尊敬できる人物を、自分は他に知らない。彼が幸せになれないのなら、それはそんな世界のほうが間違ってると思うし、そんな不幸を良しとしない凶悪な番犬が二人、彼の傍にはいる。きっと大丈夫だ。ジオルクも、セリアが幸せにしてくれるだろう。どうか、自分がセリアを好いたせいだとか見殺しにしたとか、気に病まないで欲しい。不幸にさせるために婚約を解消したんじゃない、幸せになって欲しいから応援したんだ。
セリアは、自分のせいだなんて思わないだろうけど、エリオンも躊躇なんてしないだろうけど、それでも恨んでなんかないと伝えたい。悲しまないように、これから先も躊躇わないように。
美しく微笑むリリーに笑みを返し、手を取る。
―――願わくば、彼らのこれからに、幸あらんことを。
***
「ねえねえ、今どんな気持ちですか?
愛に生きて結局捨てた孤児院がなくなって、今どんな気持ちですか?
孤児院に、教会に恩返しするために学園に来たのに、結局見捨てるなんて、最低ですよねえ。広い世界を知ったら、裕福になったら汚らしい過去は捨てるって、それってどんな了見なんですか?良い子の私にはちょっとよくわからないんですけど。
え?私が悪い?何でですか?
今まで、あなたは一度も来なかったじゃないですか。私がここに来たことを秘密にしてたわけでもないのに、知らなかったじゃないですか。それって捨てたから、どうでもいいからですよね?ね?ねぇええーーー?
忙しかった?はあ、だから未来に生きて過去を捨てたんですねって言ってるんですけど、話通じてます?大丈夫ですか?もっとわかりやすく言ったほうがいいですか?
玉の輿ゲットしたから、貧しい恩人を捨てたんですよね?
…ちょっと、大声出さないで下さいよ!私の耳が悪くなるじゃないですか!私は繊細なんですからもっと大事に扱ってください!
というか、なんで今更来たんですか?
はあ、それはご愁傷様ですね。それでやっと調べて、私のところに来たんですか?迷惑なんですけど、他人の気持ち考えたことあります?空気読めます?
あーはいはい、そういうことですね、わかります。
言い訳ですよね。
え?違うんですか?お利口さんの私が間違えたって言うんですか?私は今まで一度も間違えたことがないお利口さんですよ?
や、知らないですね。あなたが間違ってるんじゃないですか?私のことは私が一番知ってますから。
いえ、あなたと私なら私のほうが断然信用できますから、あなたのことでも私の意見を採用します。だからあなたのそれは言い訳です。
忙しくて、平民で、努力してて、だから何ですか?
あなたは、そういうお偉いさんの努力を切り捨てたんでしょう?
そういう努力を幼いことから当たり前って顔でこなしてるのを、馬鹿にして、侮辱したんでしょう?
それでいざとなったら免罪符にするって、都合がよすぎますよ。
ええ、はい。私はセリアと違って人気者ですから、いろいろ噂話も聞いてますよ。だからあなたが頑張ってたことも知ってます。
いい子いい子、頑張りましたねー。
いえ、隙があればセリアが喜んで責めてたと思うので、本当によく頑張ってると思いますよ。平民なのにすごいですねー。あれ?王族だったんですっけ?まあどっちでもいいですね。
はい、だから頑張ったのは知ってます。
だから、そうやって未来に生きて、過去を斬り捨ててたんでしょう?
…だから五月蠅いですよ!もう!何が違うんですか!あなたごときが私の言うことを否定しないでくださいよ!
だからだからだーかーらー!
……なんでしたっけ?
ああ、そうそう、その話でしたね。隣の花屋さんの話かと思いました。勘違いさせないでくださいよ。
王家の一員として頑張って、セリアにも付け込まれないぐらいになって、本当にご苦労様です。
でも教会に今まで一度も帰らなかったことも事実です。
だから賢い私はあなたが貧しい過去を捨てたんだと推理したんです。名探偵みたいでしょう!
は?違う?
いえいえいえいえ、だから言い訳はいらないんですって。ていうか私の名推理を否定しないでくださいよ。ちゃんと話を合わせてくださいよ。困ります、そういう態度は。
そんなつもりはなかったって、犯人はみんなそう言うんですよ?
大体ですねえ、そんな風に私を責めること自体的外れなんですよ。
私がそんな大それたこと、出来るわけないでしょう。
普通に経営難ですよ。そうに決まってるじゃないですか。なんで私のせいになるんですか。
…ああ、私のせいなら責められるからですか?経営難なら、支援しなかった自分が悪くなるからですか?
気にかけてたら防げたはずですからね。ありえないですけど仮に私が犯人だとしても、気にしてたら防げましたよね。
つまり悪いのは過去を捨てたあなたです。
大丈夫ですよ、責任転嫁はよくありますから。サンドバッグも欲しくなりますよね。ええ、わかりますわかります。
じゃあ、話は以上ですね。
はい、ぐずぐずしてないで帰ってください。これから本読むんですから。邪魔です。
もうあなたの逃げ場はありません。
それまでの関係全部断ち切って、王族になったんでしょう。
だったら今更振り返らないでください。惜しんでも、あなたの帰る場所はありません。
前を向いて。
前だけを向いて。
『王族』として生きて。
勝手に死んでください」
かつて、とある王子がいた。
王子は平民の少女と恋に落ち、元婚約者の妨害にも負けず愛を貫き、そのうちに少女が王族であることが発覚し、二人は結ばれた。
それはよくある恋物語の一つとして語り継がれ、その話を基にして劇や音楽も作られている。研究家も存在し、当時の時代背景を加えた考察もある。
その恋物語は時代を超え、今もなお愛されている。
―――だが、ハッピーエンドのその先は、決して語られていない。
リリーの話なのにヴィオラが出張ってきたよ!ヤッタネ!
この後も、忘れたころに婚約騒動の話上げるかもしれません。
ついでに、誰も何も言ってくれないのが寂しいので、『後日談~ウィル~』のほうにネタ晴らし載せとこうと思います(´・ω・`)