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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
本編後のおまけ~その後の話~
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後日談~フランツ、ジオルク~

本日四度目です。

 事の顛末を聞いて、フランツ・ネーヴィアは何も言わなかった。

 妹が年下の友人を捨て、嵌めたことも。

 応援すると言った女の子がどうにもならない状況に追い込まれたことも。

 年下の友人と女の子が貴族を侮辱したことも。

 自分を慕ってくれる友人がそれをわかった上でただ傍観していたことも。

 何も言わず、何も責めなかった。


 フランツは、元々『ネーヴィア家嫡子』としてではなく、『フランツ・ネーヴィア』という個人として応援しようと思っていた。

 すなわち、レイヴァンに王位継承権を放棄させ、臣籍に下させるつもりだった。


 二人が結ばれるにはそれしか道はないし、自分が想い人との仲を反対されるなら市井に降ろうと思っていたぐらいなので、その道が頭にあった。

 二人が無事思いを確認できたら、レイヴァンを説得して二人で市井に降ろさせ、リリーの生まれ育った教会ででも暮らせばいいと思っていた。その場合、友人として、立案者としてレイヴァンの学費などは工面するし、職も紹介するつもりだった。レイヴァンはセリアやジオルクに隠れてはいるが、十分に能力はあるし、素直で人が良い。多少の苦労はついて来るが、幸せに暮らせると思っていた。


 だが、フランツは二人があのパーティの時点で思いを確かめ合ったことなど知らず、

 パーティ襲撃の後始末に追われて忙しく、

 彼の妹があまりに用意周到で迅速過ぎた。


 パーティの翌々日、フランツは妹から全てを聞いた。

 レイヴァンが平民の女の子を王族に仕立てあげることに賛成したこと、妹がそれを誘導したこと、わかっていてジオルクが静観していたこと、全て聞いた。

 フランツは、レイヴァンの侮辱に怒ることも、妹の非情な罠に憤ることも、ジオルクの態度に失望することもなかった。

 いつも通りに柔和に微笑んで話して、心中で深く後悔した。


 ―――もっと早く、妹が動く前にレイヴァンに話しておけばよかった。思いを伝えるまで、なんて待たなければよかった。応援すると言った時に、パーティの前に話しておけば、きっと二人もそんな犯罪に手を染め、王家と貴族に背くこともなかったのに。妹にそんな業を背負わせることがなかったのに。ジオルクに友を見殺しにさせることなどなかったのに。

 勿論フランツにもわかっていた。王家の血を流出することの恐ろしさが、それが生む火種の大きさが、よくわかっていた。情を捨てるならセリアの案は妥当で、即刻処刑にせず少しでも猶予を与えて幸せな時間を過ごせるようにしている優しさもある。


 でも、きっとフランツが頼めばセリアも折れてくれたはずで。

 レイヴァンとリリーもきちんと説明されれば理解し対処してくれたはずで。

 皆幸せになりました、という展開も、フランツ次第ではありえたはずだった。


 めでたしめでたしで終わらせることが、フランツにだけは出来た。妹からの信頼があり、レイヴァンやジオルクやリリーからも慕われているフランツなら、人望があるフランツなら、きっと火種を残しつつも丸く収めることが出来た。別の未来も選べた。

 だが、遅きに失したせいで、皆が傷つけあう『最適解』になった。

 多かれ少なかれ皆傷を負う結果になった。


 フランツ・ネーヴィアは、愚かな選択をしたレイヴァンも、無知だったリリーも、引導を渡したセリアも、見殺しにしたジオルクも、責めない。

 ただ、手遅れにさせた自分を責めた。


 「………ごめんね。歳上なのに、生徒会長なのに、応援するって言ったのに、守ってあげられなくて…ごめんね…」


 これから、少しでも幸せな時間を伸ばそう。二人を支持して、何も気づかせず、良い方に誘導しよう。汚いやりとりは知らなくて良い。根回しして、チャンスを作って、なんとか二人を生きながらせよう。

 ―――たとえ二人の子を殺すことになっても、離反者として処刑されることになっても、レイヴァンとリリーを、セリアとジオルクを、祖父や陛下やエリオン殿下を、守っていこう。


 二人の恋物語を広めさせ民衆の支持を集め、二人の身辺に信用のおける護衛を置き、二人をそれとなく導きながら周りを『二人の子供は作らない、もしできたら自分が始末する。だから見逃して欲しい』と説得し、尽力し続けた。



 フランツ・ネーヴィア。

 後の宰相であり、誰もが認めた腹黒の、優しい優しい人間である。




            ***





 セリアが留学に行くと聞いて、しかも明日と知らされて、とにかく焦った。

 まだまだ隣にいると思っていた。

 今までどおり、喧嘩出来ると思っていた。

 でも遠くに行くなんて。

 離れて、知らないところに巣立っていくなんて。

 黙って見ていられなかった。


 「…セリア」

 「あら、どうしたの?お見送り?」


 一晩寝ないで考えぬいて、決めた。

 いや、もうずっと前から腹は決まっていたが、素直になれなかっただけだ。


 セリアの見送りでそれなりに人もいる中、フランツもプレシアも見ている中、セリアの前に片膝をついて跪いた。

 片手を取って、セリアを見上げる。


 「愛してる。どうか俺と結婚して欲しい」


 「………」


 セリアは、珍しくぽかん、と目を丸くしていた。

 だからその間に、取った手の甲にキスを落とした。


 「お前が評判とか気にしなくても良いように画策していたから許容していただけだということはわかっている。俺のことを好きなど思ってもないことも、勘違いしてウザいと思っていることもわかっている。だが、何度断られても諦める気はない。さっさと折れたほうが身のためだと思うぞ。…好きだ、セリア」

 「………」


 セリアはまだよくわかっていないように俺を見つめて、吹き出した。


 「あなたが、プライド高いあなたが片膝ついてまでしたことがストーカー宣言…!ふふふっ、プロポーズするなら贈り物の一つでも用意しなさいよ!だから断られるのよ!」

 「…お前が明日行くとか言うから用意する暇がなかったんだ。もっと早く言え」

 「嫌よ。計画が漏れたら困るし、そのほうが面白いじゃない」

 「ちっ…、こんな性格の悪い女、誰が惚れているんだ」

 「あなたよ。それもストーカー宣言するほど…ぷぷっ!」

 「五月蠅い。…だから、好きでもない男に迫られるより、にくからず思っている男に迫られるほうが良いだろう。観念しろ」

 「どんな脅し方よ!あははは!やっぱりあなた、最高!その格好も、素敵だわ!」


 セリアはひーひー笑いながら、俺の頬に手を伸ばし、え、と思う前に頬に唇を重ねていた。

 今度は俺がぽかん、とする番だった。


 「はい、家の住所と学校名。そんなにしつこくするなら、調べ上げられる前に自分で渡すわ」


 ぽん、と手の上に乗せられた紙には、セリアの新しい住所と留学先の学校名が書かれていて。

 事前に用意されていたということは、俺宛てとは限らないが渡す気はあったということで、…やはり脈はあるんだろう。


 立ち上がって、渡された紙をしっかり確保しておく。


 「じゃあ暇を作って会いに行く。その時は、手土産を持参しよう」

 「ええ、楽しみに待ってるわ」


 遠距離でも、諦めなくていい。

 セリアにとって俺のアプローチは、こうして自ら情報開示してくれる程度には迷惑ではない。そのぐらいには、好意を持ってくれている。

 …絶対に手に入れてやる。

 渡された紙を握り絞めて、ライバルを見据えた。







 「ねえ、あれってどうなったの?」

 「あー…確か放置したままだな。レイヴァンも護衛がいるし、大丈夫だろう」

 「王太子様の心配なんて、私達風情がおこがましいわよ。あと、それ取って」

 「自分で取りに行け。太るぞ。…ん」

 「ありがとう。毎日なんだかんだで動いてるから大丈夫よ。次太るとか言ったら殴るわ」

 「どうだかだ。…あ、あれどこだ」

 「クローゼットの上に自分でしまってたじゃない。よく来るから家に私物や着替えを置いておくのはいいけれど、ちゃんと整理整頓してよね」

 「…使用人の仕事だろう。…お、あったあった」

 「出来ないわけじゃないでしょう。やりなさい」

 「…仕方ない。じゃあ代わりというわけでもないが、出かけないか?」

 「あら、今日はお休みじゃなかったかしら?」

 「いや、適当にぶらぶら散歩でも」

 「ああ、じゃあいいわよ。用意してくるから、十分後に玄関に集合ね」

 「わかった」


 前言通り足繁く通っていたら、ある時の会話を聞いていたウィル(セリアの手駒)に「熟年夫婦かよ!」と言われた。熟年夫婦より新婚夫婦になりたい。


蛇足だけど、セリアとジオルクの会話(訳)




 「ねえ、あれってどうなったの?」

 (リリーとレイヴァンの様子はどうなったの?)


 「あー…確か放置したままだな。レイヴァンも護衛がいるし、大丈夫だろう」

 (進展なし。レイヴァンの身に問題もない)


 「王太子様の心配なんて、私達風情がおこがましいわよ。あと、それ取って」

 (いやレイヴァンの心配はしとらんわ。そこのインク瓶とってー)


 「自分で取りに行け。太るぞ。…ん」

 (パシリに使うなデブれ)


 「ありがとう。毎日なんだかんだで動いてるから大丈夫よ。次太るとか言ったら殴るわ」

 (ありがとう。だが黙れ)


 「どうだかだ。…あ、あれどこだ」

 (怠け者ブタれ。そういえばネクタイどこだ?)


 「クローゼットの上に自分でしまってたじゃない。よく来るから家に私物や着替えを置いておくのはいいけれど、ちゃんと整理整頓してよね」

 (クローゼットの中だ自分でしまってただろ痴呆始まってんのかボケ老人。散らかすからわからなくなるんだ、大体ここ誰ん家だと思ってんだクソガキ)


 「…使用人の仕事だろう。…お、あったあった」

 (普段やらないからつい。あ、みーっけた)


 「出来ないわけじゃないでしょう。やりなさい」

 (言い訳すんな黙ってやれ。ああ勿論?できないって言うなら話は別だけど?まさか出来ないの?ぷーくすくす)


 「…仕方ない。じゃあ代わりというわけでもないが、出かけないか?」

 (無視します。話題変えて、お出かけしましょう!)


 「あら、今日はお休みじゃなかったかしら?」

 (お出かけ?今日はお仕事お休みだけど、なんか用事あったっけ?)


 「いや、適当にぶらぶら散歩でも」

 (仕事じゃなくてデートで)


 「ああ、じゃあいいわよ。用意してくるから、十分後に玄関に集合ね」

 (おk把握。六百秒で支度しな!)


 「わかった」

 (スルーします)


 セリアの前世は多分ねらー(現世では煽り耐性皆無だけど)


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