後日談~スカイ、ヴィオラ~
本日三度目です。
大好きなあの子が、なんと王族だったという。
しかも一番の友達が留学に行くとか言い出した。
もう、びっくりなんてものじゃない。
「なんなのよもう…。あんた、あの子の出生が発覚したから逃げるの?」
「逃げるなんて、やめて頂戴。高等部に上がったばかりの頃から計画してたわよ。そろそろ、あの国取れそうだから」
「じゃあもっと早くから言いなさいよ!」
「リリーのことでごたごたしてて、それどころじゃなかったのよ。察しなさい裏切り者」
「裏切ってないわよ!大体あんたが次々味方ばっかり切るから、プレシアが泣きついて来たのよっ?謝りなさいよ!」
「泣いてるあの子も可愛いわよ!」
「知ってるわよ!でも泣かせないで頂戴!」
「泣き顔のほうが滾るじゃない!」
「あんたあのサド男と同類に成り下がってるわよ!?」
ぎゃいぎゃい騒いでいると、ふとセリアが真面目な顔をした。
「…それより、友人として忠告するけれど、あまりリリーと仲良くしないほうがいいわよ」
それが、もし『友人として』という修辞がなければ、またリリーを敵視して一方的に戦争してるのか、と呆れただろう。
でも、今のこの言葉は違う。
セリアは、私のことを友人だと言ってくれている。私も一番の友達だと思っている。セリアが性格が悪いのも、よーっく知っている。
だから、もし単純に気に食わないだけなら、『私のためにやめなさいよ愚民ども』ぐらいの態度で言う。イメージが悪すぎるのは、あの子の人徳よ。実際そのぐらいいいそうなんだもの。
とにかく、自分のために、と相手に要求してくるはずだ。
それが、『友人としての忠告』なら、対等な立場の友に言う助言なら、それは我儘ではない。
崖のあるほうに走っている友に、『危ないから減速しなさい』と叫んでいるだけだ。
それを、『そっちには崖があるから』とはっきり言わないのはセリアの性格の悪さゆえだが、セリアとの友情を信じる限り、忠告にはしたがっていて損はない。
セリアだって、私のことを友達と、失いたくない相手だと思ってくれているはずだから。
じゃあリリーと仲良くすることによって生じる危険とはなんだろう。
ついでにそこまで考えて、すぐに見つけた。
「わかってるわ。一度、告白してるものね。王族に、次期王妃に懸想してる男が迂闊に近づいたらあらぬ誤解を生むものね。身分が違うって言うものあるし、自重するわよ」
あの子は気にしないでしょうけど、周りがなんというかわからない。私は評判も悪いんだから、あの子のためにも、近づかないほうがいいだろう。
「…まあ、そんなところね。いい、忠告したわよ?あなたとの友情にかけて、あの子に近づかない限り、あなたが悪いことにはならないと誓うわ。だから、この忠告を無駄にしないで頂戴」
「わかってるわよ。元々失恋したてで顔を合わせるのも辛いし、近づかないようにして、新しい恋でも探すわ。あんたも良い子がいたら紹介してよね。プレシアとかあの子みたいな可愛い子が好みよ」
「あなた、いっそ清々しいほどに面食いよね。探してあげるから、近づかないで頂戴。あの子に縋られて助けを求められても、無視するか、私に回すようにして。間違っても自分で助けたり、お兄様に話を持って行ったりしないのよ。お兄様、何でもご自分で背負い込んじゃうんだもの」
「…あんた、本当にブラコンよね」
フランツとは、これでも一応友人なんだけど。確かにセリアの言うとおり、気持ち悪い男じゃなかったし、知人以上友人以下ぐらいの付き合いだけど、だからこそ素で話せる友人なのに。
でも、まあわからなくはない。あのお人好しは全部背負い込んでしまう、お腹真っ黒の悪食だから。そうやって溜め込まずに吐き出すなり切り捨てるなりすればいいのに、あいつも馬鹿よね。恋人さんにチクっておきましょ。好色な私が近づくなってまた笑顔で威嚇されるでしょうけど。
だから、恋人さんとかセリアとかみたいなガチの綺麗系は好みじゃないって言ってるのに。可愛い系が好きなのよっ。
「はいはい、何かあったらあんたに相談するわ。でも、それで状況悪化させに来ないでよ」
「ええ、大丈夫。現状を悪化させたりしないわ。傍観に努めて変に手出ししたりしないわ」
「ならいいけど…」
セリアのあの子への憎しみを見ていたから不安は残るけど、変に下手な嘘を吐くようなやつじゃないものね。本当に嫌なら『いいえ、最大限に拗らせて見せるわ』とか言うに決まってる。その時になって、『ああ、手出ししないって言ったわね。あれは嘘よ』とかしれっとどんでん返ししてくる気もするけど、少なくとも今その気がないのは本当だと思っていいでしょう。
「あと、あんたたまには帰ってきなさいよ。プレシアが悲しむんだから」
「あなたの頭の中ってプレシアしかないの?お兄様に会いたいから帰ってくるに決まってるじゃない」
「あんたの頭の中は兄しかないじゃない」
時間があれば、そのうちにセリアとあの子も和解してくれるかもしれない。セリアは性格は悪いけど良い友人だし、あの子も優しい子だ。今はすれ違っているけど、いつかお互いの良さに気づいてくれる。
だって二人とも、本当に素敵なんだもの。
セリアが手を引いたから、和解の兆しはある。
お日様の下で仲良く園芸する二人の目に浮かび、いつか来るその日が楽しみで仕方なかった。
***
皆々、大嫌い。
みんな、私のことを馬鹿にして、見下して、哀れんでる。
大嫌い。
お父さんとお兄ちゃん以外、みーんな大嫌い。
本があるから、寂しくなんてないもん。
ひとりぼっちでも、全然平気だもん。
お母さんがいなくても、可哀想じゃないもん。
お兄ちゃんが見下してても、見捨てても、私はお兄ちゃんのこと好きだもん。平気だもん。
お父さんが本当のお父さんじゃなくても、お母さんがあんな人でも、本当のお父さんから嫌われても、私のお父さんはお父さんだもん。
だから、平気だもん。
お兄ちゃんもお父さんも、好きだもん。
だから。
寂しくなんて、ないもん。
悲しくなんて、ないもん。
私、可哀想じゃないもん!
「あなたって馬鹿だけれど、学力はそこそこなのよね」
「セリアにもやっとわかったんですか?」
「あなたが馬鹿ってことも、それなりの学力があることも前からわかってたわよ。じゃないと、初等部から学園にいないでしょう。趣味も読書だし、決して学力がないわけじゃないのよね。むしろ平均より上はあるわ。中の上ぐらいはあるわ」
「照れますねえ。もっと褒めてください」
「ま、私は学年一位だけれど!上の上の特上だけれど!」
「どや顔ウザいです」
「まあそれはいいわ。ほら、勉強みてあげるから教科書出しなさい。あの家じゃ、そのぐらいじゃ馬鹿の部類でしょう?中等部での中の上って、内部進学組にしたら低すぎるわよ」
「えー、勉強は嫌いですー。勘とフィーリングでいいじゃないですかー」
「…だからテストの結果にムラがあるのね。わかりやすく説明してあげるからさっさとなさい。やれば出来るんだからやりなさい」
「そうですねえ、セリアが褒めてくれたらいいですよ」
「生憎だけれど、おべっかは好きじゃないの。褒められたければ褒められるようなことをなさい。…ま、あなたのそういう素直すぎるとこ、結構好きよ」
「そうですか?」
「嘘言ってどうするのよ。ほら、処刑されるまでの間、せめて少しは成長したら?」
「仕方ありませんね。他ならぬセリアの頼みですから、考えるだけ考えましょう」
「どこまでも偉そうね。勉強みてもらう立場だってわかってる?」
私は馬鹿じゃない。
見下す皆のほうが馬鹿なんだ。
だから嫌い。皆嫌い。いなくなっちゃえばいいのに。
…でも私のことを嫌わない、セリアと、セリアのお兄さんは嫌いじゃない。
面白いって笑って、優しくしてくれるお兄さんのことは、嫌いじゃない。
セリアは。
セリアは…。
「もう、いい加減にしてくださいよ!人の本をクソクソ言って!セリアのあんぽんたん!」
「何よ、ヴィオラのけちんぼ!褒め言葉じゃない!」
「クソは褒め言葉じゃありません!そんなこともわからないんですか?馬鹿セリア!」
「馬鹿じゃないわよアホヴィオラ!処刑寸前のくせに!」
「あ、そういえば」
「…急にテンション落とさないでよ。何?」
「セリアは私が処刑されれば良いって思ってますか?」
「なんでこんな面白いおもちゃをむざむざ壊さないといけないのよ。処刑を心待ちにしてるだけで、処刑されろなんて思ってないわ」
「意味がわかりません。セリアは馬鹿なんですか?」
「馬鹿はあなたよ。…だから、どうせあなたは処刑されるでしょう?それを阻止しないし楽しみにしてはいるけれど、わざわざ私自身が処刑するほどじゃないわ。早く死ねって恨んだりしてるわけじゃないもの。私、あなたのこと気に入ってるのよ?」
「セリアは私のことが好きなんですね」
「ええ、好きよ。それがどうかしたの?」
「なんて言おうとしたのか、忘れちゃいました」
「あらそう。あなたらしいわね」
「それにしても、このお菓子美味しいですねえ。セリアも一つ食べてもいいですよ」
「それ、私が持ってきたやつなんだけれど…。でも美味しいわよね。知人のお土産なのよ」
「セリアの知人にしては良い方ですね」
「それ、どういう意味?」
お兄ちゃんが落ちて、見捨てられて。
近いうちにシュペルマン伯の耳に私の出生の話が入り、一緒に私も追放されるだろう。
皆が、私を見下して、馬鹿にするだろう。
でも、寂しくも、悲しくもない。
誰もが私の処刑を心待ちにしていても、その中で一番純粋に期待している、セリアがいるから。
そのセリアがいなくなっても、誰も守ってくれなくても、良い。
きっと最後の時まで、見守って、好きでいてくれるから。
「ねえセリア」
「何よ」
「明日、留学行っちゃうんでしたっけ?」
「そうよ。あ、私がいない間に処刑されるんなら、ちゃんと知らせてよ。知らせなかったら許さないから」
「もう、しつこいですよ。何度目ですか、それ」
「何度も言わないと忘れるんでしょう、あなたは。で?何の話?」
「あ、はい。きっとゆっくり話せるのはこれで最後になると思うので、最後に訊いておこうかと」
「処刑の前じゃどたばたしてるものね。いいわ、聞きましょう」
「私って、可哀想ですか?」
「いいえ」
「そうですか」
「当たり前じゃない。あなた、私が羨むほど自由に生きて、どこが可哀想なの?頭の中身?」
「失敬な。これでもBクラスですよ」
「知ってるわよ。誰が勉強教えたと思ってるのよ」
「じゃあ、勉強嫌いでも、可哀想じゃないですか?」
「勉強が好きな子供なんてそうそういないわよ。普通じゃない?」
「空気が読めなくても?」
「あなたは空気が読めないんじゃなくて、空気読まないんでしょう。私以外にはそれなりに遠慮してるって知ってるのよ?…ま、空気を読まないのは私も同じだけれど、そのほうが楽しいじゃない。空気を読んだ上であえて無視するの、大好き」
「セリアらしいですねえ。じゃあ、友達がいなくても?」
「いいんじゃない?友達が全てってわけじゃないでしょう。友達より有益な人材よ」
「不義の子でも?」
「それは親の過ちであって、あなたを貶めるものじゃないわ」
「みんなに嫌われていても?」
「それはあなたが周りのことを嫌って見下してるからよ。自業自得って言葉がこれほど当てはまる例もないわね。…ていうか、もう全てに関わる話だけれど、結局のところ、自分さえ自分のことを認めていたら、全然可哀想じゃないわよ」
「…そう、ですか?」
「私はそう思うわ。たとえば私だって、ここまでハイスペックなのに婚約者に捨てられるほどで、真面目で良い子な特待生を身分で嫌って、挙句自分のことを思ってくれてる味方切り捨てて行くトコまで行って、全部放り投げて国外に逃亡するって見れば、随分お可哀想じゃない?」
「セリア、誰もが認めるほど性格が悪い、が抜けてます」
「真顔で言わないでここでこそボケなさいよ泣くわよ」
「でも、そう考えると、セリアも随分悲惨ですねえ」
「あなたのほうが惨状になってること、忘れないで頂戴ね?」
「同情しますか?」
「いいえ、あなたにかける情けはないわ。好き勝手してるだけじゃないの。同情の余地はないし、あなただって、同情されるような生き方はしてないでしょう?」
セリアは何でもないように、そう言ってくれた。
だから私は、今日も顔を挙げて、生きていく。
以下、ヴィオラNGシーン。腐臭がするので苦手な方は注意
ヴィオラ(以下馬)「じゃあこれからは前向きに生きます!」
セリア(以下セ)「あなたはいつでも前向きすぎるほど前向きだったわよ。たまには前以外も、周りも見なさい」
馬「趣味に生きることにします!」
セ「趣味って、クソ小説?」
馬「いいえ、登場人物をチョメチョメさせる妄想です!」
セ「あなた腐ってたの!?」
馬「腐ってませんよ!セリアは本当に失礼ですね!」
セ「今までのあなたの心情の吐露は人間的に間違いなく腐ってたし、発酵系女子的意味でも腐ってるわ!」
馬「腐ってません!なんですか発酵系女子って!」
セ「そ、そうね…。まだ決まったわけじゃないものね…腐女子的なあれじゃないわよね…」
馬「あんまり失礼だと、お皿×セリアで一本書きますよ!」
セ「駄目だこの子!自家発電出来る系の腐女だわ!ていうか、実際の人間相手でも妄想出来るって!無機物×昔からの知人が出来るって!人類には早すぎる!」
馬「お皿に陵辱されればいいんですセリアなんて!」
セ「お皿がどうやって!?やだ腐女子怖い!」
馬「ふふふ…新刊はお皿とコップにチョメチョメされちゃうセリアです!」
セ「いやああああ!」
こりゃNGですわ\(^o^)/