未来を知る者は口を閉ざし、ただ祈るのみ
本日二度目です。一応これで本編終了です。
「留学行くから」とかるーく言って去りゆく先輩の背中を見送る。
……そういえば、次の格闘ゲームは孤島でのサバイバルだったな。
漂流して孤島に流れつき、そこで禁忌を犯して呪われ、島から出るために呪いをかけた主を倒す話だった。くっそ強い野獣がうじゃうじゃいるし、呪いとかオカルトチックなことも普通に出てくるし、サバイバルで普通にキツいし、人間関係泥沼状態で、仲間割れやアッー!な展開もある、恐ろしいゲームだった。ちなみに一人でも死ねばそいつが超強力な悪霊となって襲ってくるから、初期に仲間が死ぬと一緒に全滅してた。
格闘というよりRPGやサバイバルゲーム、ホラーゲームの内容だけど、それでも格闘だったのは、理由がある。
後半展開では、皆疑心暗鬼になって、『殺られる前に殺れ』とコロシアイになったからだ。最後の一人になり、かつラスボスこと呪いをかけた主を倒せていたら、島から出ることが出来る。うんまあ、最強になるまで戦い続けるのはすごく格ゲーっぽいけど、戦って勝たないと行けないのは格ゲーだけど…ウン…。
……前半展開で人間関係知ってるし、敵も『倒す』というより『殺す』だし、殺したら悪霊になってレベルアップして襲ってくるし、確かに格ゲーだけどコレジャナイ感が半端なかった。殺し合い阻止のため仲間を作ろうとしても、どうやっても仲間割れが起きて、協力プレイとかが不可能になる設定だった。恐ろしすぎるゲームだ。
なんていうか、あのゲーム会社は『楽しい牧場生活』みたいなまともなゲームで堅実に利益を出す裏で、『今夜、君に会いに行くよ』みたいなキチってるゲームを出し、しかも結構ヒットさせてるから怖い。先輩は『ジャンルと路線ぐらいは揃えなさいよね』と言っていたが、中には嵐の山荘でホラーと見せかけた推理物のようでいて脱出ゲームで最終的にカーレースに着地する迷走しすぎな名作があるから大きなことも言えない。先輩がお亡くなりになった後に発売されたゲームだけど、あれは面白かった。先輩の存命中にはまだまともなゲームが多かったけど、『今夜、君に会いに行くよ』がヒット飛ばしたあたりで完全にキチ路線に切り替えたからなあ。たまーにまともなのもあったけど、それじゃ物足りないって思うから恐ろしい中毒性だった。
さて話を戻して、そんなキチったホラゲだが、その後半展開への布石として、あるキャラクターが出てくる。
前半のホラーサバイバルRPGのお助けキャラ、『賢者』だ。
この賢者は主人公一味の仲間ではなく、前半にしか登場しないが、とにかくもう強くて強くて、このキャラがいなければただの無理ゲーだっただろうというほど重要なキャラクターだ。
賢者は長い黒髪をポニーテイルにした少女で、ホラー効果を出すためか惨殺シーンでは血のように真っ赤な目で描かれていたこともあるが平時は寒色系の深い色合いの瞳で(設定でそこまで詳しくかかれてなかったから断言出来ないが、藍色とかそっち系の色だった)、真っ白な肌の美少女だった。
その容姿に、少女で、しかも名前が『賢者』だ。こりゃもう霊能力者とか、いっそ超能力が使える特殊設定の少女だと思うだろう。仲間ではないし普段は姿を表さないのに、呼べば来てくれる神出鬼没さからも、オカルト的要素のあるキャラなのかと思われた。
ところがそんな思いは、ついでに少女にhshsしていた変態の妄想は、見事にぶっ壊される。
『じゃ、殺せば?』
賢者はそんな言葉とともに、様々な武器を巧みに操り敵を殺す、超攻撃特化型の戦士だった。
ちなみにその『じゃ、殺せば?』というのは彼女の決め台詞で、事あるごとに『じゃあ殺しましょう』『つまり殺せばいいんでしょ?』『なら、殺すわ』と言って躊躇いもなく殺しに行く。
賢者の得意武器は日本刀で、機嫌のいい時は刀一本で主人公たちを一網打尽にした猛獣の群れをどんどんぶっ殺していた。その『ざまあみろ』の爽快感は素晴らしかったが、賢者の、血が滴る日本刀とホラー効果で真っ赤な目と唇が夢に出そうなほど怖かった。
じゃあそれほどまでに前衛戦闘タイプなら幽霊などは無理なのかと思うが、そんなことはなかった。
『へえ、幽霊。あっそ。じゃあ殺せば?』
幽霊のほうが腰が引けていたほど、迷いなく殺しに行っていました…。呪文とか念仏とか、皆無でした…。幽霊が幽霊でいられなくなるほどの圧倒的暴力で退治してました…。
その他、戦闘以外(水がいる、とか、家が欲しい、とか)でも力押し(水なら地面掘り起こして水脈を見つける、家なら山繰り抜いて洞窟を作る)だった。
その物理一択の様子から、『とある物理の殺人鬼』だなんて呼び名がついていた。正直あれはホラーだった。『幽霊より生きてる人間が一番怖いってこういうことだったんだね(違う)』なんてコメントもあった。そのコメントの後ろに『賢者は本当に人間なのか…?』とかいうガチなコメもあったけど見なかったふりをした。
そんな皆殺し系最強キャラがいたから、後半で『じゃあ、殺せばいいんだ…!』と殺し合いに発展してしまう。そりゃあそこまで吹っ切れてる破壊神みたらそうなるわな。実際、お助けキャラだからかとことん強くて、とりあえず賢者に依頼すれば助かってたから、ああすれば助かるって思うのも仕方ないよね…。
上手くやれば賢者が登場する前半でボス戦に挑めるが、その時にも助っ人はお願いできたし、ラスボスをそこらの雑魚と同じように瞬殺できていた。ちなみに前半終了は主人公覚醒イベントが起こったらなので、なんとかボス戦まで引っ張れる仕様だ。
だが、もう賢者に頼めば万事うまく行くじゃん、と思うかもしれないが、あくまでサポートキャラなので、賢者に頼んだ戦闘はほとんど経験値が入らないし、対価として野獣から拾ったアイテムや貴重品を要求された。後半戦のための経験値やアイテムが取られるというのは結構厳しい。だからいかに賢者に頼まずにゲームを進めるかが問題になっていた。
中には裏ルートというか裏ワザで、『賢者からの一定以上の好感度』と『レアアイテム』が揃っていた場合、なんと仲間を殺してもらうことも出来た。実際に俺は前半戦の最後、賢者になんとか頼んで一番手強い仲間を殺してもらい、命からがら生き延びたことがある。やっぱこのゲーム会社キチってなあ、としみじみ思った。
女性キャラも仲間にはいるから、サイドストーリー的に誰か攻略することも出来る。仲間を女性キャラばかりに設定して(二周目からは出来た)ハーレムを築くやつや、逆に女性キャラを選んで逆ハーを築くやつもいたとか。恐ろしいのはその攻略対象が異性に限られていないことと明らかに強姦されただろって匂わせる描写もあるところだが、まああのキチ会社のゲームなので諦めている。R-18指定(グロ含む)がついていなかっただけまだマシだ。
だが、そんな節操なしの恋愛泥沼でも、お助けキャラで普段一緒にいないからか、賢者は攻略出来ないようになっていた。上手にハーレムや逆ハーが築けたやつはラスボスまで口説き落とせるという恐怖の仕様だったのに、何がなんでも賢者は落とされなかった。
後に公式で、『「賢者を味方につけたら勝ち」という図式が出来るとゲームの本題から外れるし、それがあながち間違いでもないから、初めから除いておいた』と発表された。乙女ゲーをホラーコメディに変え、格ゲーをホラー&どろどろの人間関係泥沼劇に変えておいて本題なんてどの口が言うんだ、とブーイングは巻き起こったが、まあ確かにそれはそうだった。それぐらい、一人でゲームバランスを崩しかねないほど、賢者は強かったし『じゃ、殺せば?』で万事解決してしまいそうだった。
前半戦終了後、プレイヤーの成長度合いによって別れの言葉は違ったが(飛躍的に成長していたら『もう私の助けはいらないでしょ』と、あまりに成長がなければ『もうここで得られるものはないから』と言う)、一般的な成長であれば、彼女は『ちょっとお気に入りの子が勝手に処刑されそうになってるから』と言って去って行く。
ところで、先輩は長い黒髪で、深い青色の瞳をしていた気がする。
笑えないほど強くて、身内以外にはいっそ笑うしかないほど非情だった気がする。
『やっぱ日本人は刀よねー』とか言いながら日本刀を振るっていた気がする。
賢者と言われてもおかしくないほど賢かった気がする。
よく知らないが、処刑秒読みで通称が『あの馬鹿』なお気に入りがいた気がする。
そして、先輩が留学ついでに調査に行く島は、気球ぐらい使わないと見つけられないような孤島だった気がする。
………先輩はまだまだあのゲーム会社の魔の手の内らしい。いや、ああいうキチってるのが好きらしいから、いっそ波長が合いすぎているだけなのかもしれない。なにそれ救いがない。
さあ、あの会社は一体あといくつのゲームを出していただろうかと心中で指折り数えながら、先輩と、先輩の周りの人たちに深い黙祷を捧げた。
以下、付け足そうと思ったけどくどいからカットした部分
ところで、完全に蛇足だが、もう一つ。
この世界には惑星の名前に類するものはない。つまり前世で言う『地球』にあたる名前がない。
ただしこの世の中すべて、『世界』という意味の固有名詞はある。
完全にゲーム会社のおふざけで付けられた名前。
ゲーム会社フェイト、和訳すると『運命』。
そしてこの世界の名前、フェイト。
まあなんだ、運命と思って諦めてください、先輩。