社会人として事前連絡?じゃあ私は学生だから関係ないわね!
ネタに走ってます。
また時間を遡り、高等部入学前まで戻る。
その頃、セリアは悩んでいた。
セリアは後輩の言葉により、自分がゲームのシナリオにそって動いていることに気づいていた。ゲームの強制力を挫くために行動してきたのに、それが逆にゲーム通りの展開に誘導してしまっている。
これはなんとかしないといけない、と考えていた。
先生は雇用しているし、校医になることはない、はずだ。
レイヴァンより両陛下に気に入られているから、レイヴァンの独断で追放されることはない、と思う。
ジオルクの密偵の姿は見えないし、そのフラグは折った、と思いたい。
兄やスカイや後輩は私を追放しはしない、だろう。
どこまでも不安材料は残る。どこで修正力が働くかわからない。
そこで、セリアは考えた。ゲームの展開通りになるのなら、してあげようじゃないか、と。
どうせ事実として決まっているなら、その意味合いを変えて先に実行してしまえば良い、と考えた。
自分で自分を追放させ、事故死させ、乞食に落としたら良い、と。
だからそのためにどうするか考え、留学を決めた。
追放ならば、国外に自分から出れば良い。事故死なら、そういう噂を流して姿を消せば良い。乞食は、知らない町で平民として生きていれば、そう見える。
セリアは友好国で内乱を起こさせたついでに、留学としてその国に乗り込み、ばっちり政権奪って従属国にして来ることにした。
そうと決まれば、と学園側、国立なので国に打診した。
従属国ゲット作戦を滔々と話せば認めてくれた。
国外に出るので両陛下にも許可をもらいに行った。
国外に出ることは大反対されたが、期間限定の留学なので渋々了承してくれた。
そうして留学を決定事項にしてから、根回しついでに祖父やエリオンにも話した。
しっかり疑われ真意を問いただされたが、「この前気球で遊んでたらあっちの国の近くに新しい島を発見したのよ。発見者として、調査と統治をしとかなきゃ」と言えば諦めてくれた。留学先の近くに発見したのは偶然でこじつけにすぎないが、言う気がないということが伝わったから良いだろう。
よし、これで逃げ道ばっちり。いつでも来なさい強制力、という心構えで入学式を迎えた。備えがあるからか思ったよりはしゃいでしまったが、まあ楽しかったから良し。
なんだかんだでセリアがここ最近エリオンを結構頼り、癒着していたのも、もういなくなるから。
ジオルクの求愛に付き合って遊んでたのも、国外に出るから評判なんて無視できるから。
リリーをパーティまで半ば放置していたのは、ハッピーエンドになっても逃げ道が用意されているから。
一人だけベリー・イージーモードでプレイしていたわけだ。ある程度寛容にもなる。そのせいで油断が生まれていたのは否定できないが、過ぎたことを気にするセリアではない。反省して次に活かすだけである。
そう、次に。
国外の留学先で。
「………明日から?」
彼女の兄、フランツはいきなり聞かされ、目を丸くした。
彼女の父母も同じである。事前に聞かされていたのは家族の中では祖父のみで、祖父も口止めされていたので誰にも漏らしていなかったからだ。
「前日って…言うの遅すぎない?」
フランツが時計を見ながら言う。朝、会って何気なく言われたので、学校に行く時間も気にしながら話さなければいけない。明らかに打ち明けるのに適切な時間ではない。
「ごめんなさいお兄様。ちょっと色々あってごたついていたものだから…」
「セリア、白々しいよ?」
「止められると思って意図的に黙ってました。ごめんなさい」
「もう、素直に謝れば良いって問題じゃないよ」
言いつつも、フランツは『セリアは仕方ないなあ』という、甘やかす兄の顔をしている。セリアは当然それを見抜いて、兄の優しさにご機嫌になる。そうなるとますます兄は可愛い妹に甘くなってしまう。
結局、父母も交えて『セリアがやりたいことなら反対はしないが、もっと早く言いなさい』と注意することで終わった。セリアの意志を尊重して自由にさせてくれるのに、きっちり心配もしてくれる大好きな家族に、セリアも心から感謝した。それでも家族に隠れて暗躍するのはやめる気はない。やめる気はないが、留学の件を誰よりの先に伝えておこうと思うぐらい、セリアにも家族愛はあった。
朝から甘やかされ、セリアはご機嫌で学校に行った。
そして会った順に報告して、大層驚かれた。
スカイは「留学ぅ?この忙しい時に?あんた何考えてるのよ。しかも明日からって…、言うのが遅すぎるわよ!」と怒り、
ジオルクは「………は?」と驚きと怒りを混ぜたような感情を一文字で表し、
ついでに近くで聞いていたレイヴァンやクラスメイトたちも騒いで、
プレシアは「えっ、セリア様遠くに行っちゃうんですか!?」と別れを嫌がり、
後輩は「あー、先にゲーム展開やっちゃうんスね。先輩マジ乙」と頷き、
ヴィオラは「そうですか。それよりですね!セリアのどうでもいい話より私がこの前ですね!」と聞き流した。
一部驚いていないのがいるが、大半以上からは驚かれた。
まあちゃんとお別れは言ったので、早々に死なない限り今生の別れってわけでもないからいいのだろう。
ゲーム展開のこともあるから、長くても三年だろう。プレシアが高等部第一学年になったとき、つまりセリアが第四学年になっときには、すでに修正力はない。確かに悪役令嬢は出て来なかったが、同時にジオルクと後輩以外の攻略対象キャラも登場していないんだから、もう全て終わった後ということだ。その時なら、もう修正力も役目を終えている。
悪役令嬢は、あくまでハッピーエンドの傍らで不幸になるのであり、彼らのハッピーエンドが存在しない未来では縛られていない。彼らが無事でいる間は、いつあの『めでたしめでたし』のスチルのシーンを迎えるか分からないが、『めでたしめでたし』のその後の運命まではゲームで描かれておらず、確定していない。
だから、第四学年には戻るつもりだ。それまでにまた軌道修正があるかもしれないが、今のところは知人もいるし三年後は戻るつもりだし、逆に言えば三年経つまでは戻るつもりはない。
そうセリアは頷き、青空に拳を突き上げた。
―――さあ、楽しい楽しい旅路の始まりよ!私の冒険はこれからだ!
セリアさんの次回作にご期待ください、とテロップが彼女の脳内だけで流れた。
「…でも、こうして考えると、本当に私、ゲームに振り回されてるわよね。その時々に応じて精一杯努力してきたのに。なんでかしらね?」
―――超常的な力はないじゃろう。因果応報じゃ。
「バタフライ効果、仕事しすぎよ。ていうか、ヴィオラの時点でもう狂ってたと思うわ。あの子が市井に落ちさえすれば…」
―――ヴィオラ・シュペルマンが運命から外れたのは、父親のコラソン・シュペルマンの心に余裕が生まれたからじゃ。コラソン・シュペルマンの心に余裕が生まれた原因は、お前が国政に介入して改革していたことじゃ。因果応報じゃろう。
「え、そこまで影響出てたの?…いくら整理整頓したかったんでも、あそこまでやるべきじゃなかったわね。はぁ…」
―――しかし、バグともいえる存在が紛れ込んでおったとはのう…。それも複数人も。大局的に見れば概ねストーリ通りじゃから気づかんかったわい。
「複数人って、まるで私と後輩以外にもいるとも取れる意味深な言い方ね。ていうか、なんで私と後輩みたいなのが紛れ込んだの?しっかり管理しなさいよ」
―――ううむ、返す言葉もない。
「こんなザル管理で、でも結果はストーリ通りでしょう?『ヒロインは王族だと発覚し、王子様と結婚しました。邪魔者の悪役令嬢は国内からいなくなりました。めでたしめでたし』って、修正力仕事しすぎだわ」
―――…修正力が働いた、というより、なるべくしてそうなったと言うべきじゃろう。
「はんっ、全ての偶然は必然なのだって話?それとも修正力とか強制力って言い方が気に食わなかった?ならストーリー補正でもゲーム補正でもいいわ。やっとそれから解放されるんだから」
――――そう、じゃな…。
「あと、言おう言おうと思っていたんだけれど、その『~じゃ』口調って、別にご老人とかが使うわけじゃないのよ?上方の方言がそんな感じだから、当時は『上方の人間=賢い』ってイメージがあったために博士とか知識人の口調として採用されて、博識といえば人生経験豊富な年寄りだからって老人口調になっただけよ。勿論これでも一説に過ぎないけれど、つまり、キャラ付け以上の意味はないってことよ」
―――わかりやすいんじゃからいいじゃろう!
「…ていうか、あなた誰?」
―――今更かい!ワシはこの世界を見守っている…。
「やだ、下手したら私、独り言ブツブツ言ってる変な女じゃない。やだやだ。幻聴に付き合ってらんないわね」
―――神じゃ…って、幻聴扱いかい!
―――おお…、行きおった。ガン無視とかされたのワシ初めて。
―――…しかし、因果な子じゃのう。あれだけ周りに影響を与えておいて、様々な人間を運命から外して自由にしておいて、肝心の自分の運命からは逃れられんとは。
―――その自分の運命通りに進むために、一度運命から逸らした人間をもう一度、無理やり運命に乗せて、強制的に運命通りに行くようにさせるなど、…一体どれほどの因果を背負っておれば出来るんじゃろうな。
―――強制力がいるとしたら、それはお前自身じゃ。
「―――うっさいわね。殺すわよ」
―――ひっ、やめてやめて!いきなり銃で蜂の巣にされるのは別のやつの役目じゃから!エントロピーとか興味ないから!消えるから!
「まったく…帰ったら荷造りの前に耳掃除しましょ」
なお、『~じゃ』の博士口調については諸説あります。これが正解というわけではありませんのでお気を付けください。




