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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
やっとたどり着いた本編~高等部~
61/76

変わらないものはない

本日三度目です。短いです。

 パーティの翌日。

 高等部第一学年Aクラスは、いつもどおりだった。


 「だから、なんかむしゃくしゃするから殴らせなさいって言っただけじゃないの。素直に顔面差し出しなさいよ」

 「断る。お前のその物言いに腹が立ったから、お前を蹴りたいんだがいいか?」

 「レディに暴力をふるうなんて最低ね。後で校舎裏に来なさい。ぶっ殺してあげるわ」


 セリアとジオルクはいつも通り喧嘩し、


 「今日も平和だなー」


 レイヴァンはいつも通りそれを眺めてのほほんとし、


 「予習しなきゃ!」


 リリーはカリカリ勉強し、


 「昨日は、会長格好良かったですね!」

 「本当に!もう、素敵でしたわぁ…」


 クラスメイトたちはきゃっきゃと話す。


 あの惨劇の翌日とは思えないほど、平和的だった。

 そこに、ノックの音が響いた。


 「あの…セリア嬢、少々お話よろしいでしょうか…?」


 エリオンがそろりと顔を出した。

 昨日の、姿が見えなかったとはいえ話題の中心だった人物の登場だ。自然と、無礼でない範囲で注目も集まる。


 「なあに?今日はおやつないわよ?」

 「いえ…その…。…昨日、僕のせいで危険な目にあったと聞いて…」


 目を伏せ、申し訳なさそうな声をだすエリオン。


 「危険な目にあったのはお兄様よ。あと、ジオルクとあの女もかしらね。私とレイヴァンは一切危険な目にはあってないわ。だから、謝罪するならお兄様になさい」

 「あ、あの、でも…」

 「ていうかノコノコと、何の用よ。よくもおめおめと顔を出せたわね。あなたのせいでお兄様が危険な目にあって、私のドレスも汚れたのよ?謝罪ぐらいで許せるわけないわ。だから帰って。顔も見たくないわ」

 「僕のこと…嫌いですか…?」


 うりゅ、と目に涙を溜め顔を歪ませるエリオンは、ショタコン垂涎の可愛らしさだった。兄のレイヴァンが思わず二度見したあと、そっと目を逸らすような表情だった。


 「嫌いとか嫌いじゃないとかじゃなくて、許せるとか許せないとかの話よ。泣くなら泣けば?泣きなさいよ。許さないから」

 「あなたや、お兄さんに迷惑かける気じゃ、なくて…。ぼく、ほんとに、どうしたらいいか…」


 エリオンは今にも泣き出しそうになり、ぐしゅ、と袖で目元を拭う。


 「で?」


 セリアはそれを見下す。


 「あんたのブレなさが異常」

 「あら、いい子ぶりっ子はいいの?」

 「そのまま話しててもあんたとまともに会話できる気がしなかったから。昨日はなんか俺のせいとか言って来る馬鹿の始末してもらってどーも。バウンドケーキ美味かった。ちゃっちゃと教えてよ。どーなったの?」

 「ウィルから聞きなさいよ。それでわかるでしょう?」

 「それじゃわかんないとこ訊いてんの。あんたに嫌われたくないし、味方出来るならしたいなーって思ってるんだけどさ」

 「気持ちだけで十分よ。ありがとう。大好きよエリオン」


 セリアはそうにっこり微笑んで、エリオンの額にキスをした。

 クラスメイトたちはさっと散りレイヴァンは未だ勉強中で周りが見えていないリリーに声をかけ火の粉が降りかからない位置に移動させジオルクはセリアを睨みつけた。


 「おい」

 「何よ」

 「……エリオン殿下と、随分、仲が良いんだな」

 「男の嫉妬って醜いわよね」


 さらりとばっさり切り捨て、天を仰いでいたエリオンにしっしと手を振るセリア。


 「生憎、今日は忙しいの。遊んで欲しいならまた今度いらっしゃい」

 「何かあるんですか?」

 「友人の失恋祝いで騒ぐつもりなの。あと、しつこい男を諦めさせるにはどうしたらいいかも相談したくて」

 「待て。今、激しく落ち込んで自信喪失している。そういうことを言うな。心が折れる」

 「薄っぺらいのね。風が吹いただけで折れるなんて」

 「……普段絶対にお前から行動を起こすことはないのに、エリオン殿下にはあっさりキスしておいて『風が吹いただけ』か…つまりこれは俺が嫌われているんだな…そうなんだな…」

 「えっと、俺はこいつのことおねーちゃんみたいに思ってるから、そういうのはねーかんな?恋敵じゃねえから。勘違いしないで欲しいッスマジで」

 「…そうね。エリオンはそんなんじゃないわね。それと、別にあなたのこと嫌いじゃないわよ?ね?」

 「………」


 いじけるジオルクを、セリアとエリオンが不器用に慰めている。

 それを見ながら、リリーがこそりとレイヴァンに話しかける。


 「結局あの方々って、どんな関係なんですか?」

 「……俺にエリオンのことを訊かないでくれ。エリオンのこと苦手で、今までろくに関わってないから。セリアのほうがエリオンと仲良いぐらいだから」

 「え?そうなんですか?確かに…ちょっと、癖の強いかたでしたが…」

 「へ?話したことあるのか?」


 レイヴァンが目を丸くする。彼にとって、弟はよくわからない、得体のしれない人間だ。見透かされているような感じがして、気味が悪い。嫌いというわけでもないが、苦手だ。


 「はい、一度だけ。色々教えていただきました。とても賢くて、あの方のことを姉として慕っているようでした」

 「セリア、変なやつが好きだからなあ…。リリーは、あいつのことどう思った?」

 「……率直に申し上げれば、…苦手かと」

 「だよな!俺もあいつは苦手だ!」


 レイヴァンとリリーが話す。


 いつも通りに戻ったかのような、日常。


 それが見せかけに過ぎないと暴かれたのは、放課後だった。


 「あっ…!」


 癒し系教師ことアルバートが、コケた。

 いつものように、いつも通りに、コケた。


 いつも違ったのは、その手に劇薬を持っていたことで、セリアからしっかり教育されたアルバートがそういう重要なときにドジるわけがなくて、でも転んだ。


 「………え」


 そしてその前に、リリー・チャップルがいた。


 いつも通りの日常は、壊れる。

 もう二度と、戻らない。



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