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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる前フリ~初等部~
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打ち明けられた悩みを一緒に考えるなんて、馬鹿じゃない?

 時を一年進めて、私が七歳のときだ。

 私は将来主人公が入学してくることになる国立ゴートン学園の初等部に入学した。

 ゴートン学園は国内で三つしかない、優秀な人材を育てるための国立学校だ。お城に近いから一番人気がある。国立なのに一貫校か、と前世の知識でツッコミを入れておいた。


 ゴートン学園は初等部五年、中等部三年、高等部四年で、優秀者が望めば大学に進めることになっている。七歳からの入学だ。

 このゴートン学園で言われているのが、『初等部からの内部進学組は貴族、中等部からの外部入学組は貧乏貴族、高等部からの外部入学組は天才児』というものだ。

 というのも、初等部は学力もだが家の力も見られる。幼いころからしっかり教育を受けている、というのも金があり将来を見据えているからやることだ。

 兄は当然初等部から入学していたし、私も今年入学する。ゲームでも初等部からの内進組だったから、実家の力に物を言わせたんだろうと邪推している。だってゲーム内のセリア、お馬鹿だったもん。エスカレーター式でよかったねってぐらい。


 中等部からは、初等部に通わせることができなかった人たちが入ってくる。実家の力が足りなかったり、学力が足りなかったりした子たちだ。ここで、ある程度の人数を確保して、そのまま卒業まで行く場合が多い。退学や留年などで人数は減っても、増えることはない。

 しかしそれにも例外があり、それが高等部での外部入学だ。

 基本的に一貫校だから高等部で人を取ることは考えていない。優秀なら特待生として取るが、普通はお眼鏡に適わず誰も入ってこない。純粋な学力のみを見るここでの入学者は、だから『天才児』などと評されるのだ。

 馬鹿に見えるギャグ要員の主人公も、かなり頭がよかったのだ。



 話を戻して。

 実家の力で学園に入学した私だが、同じように同い年のレイヴァンとジオルクも入学していた。

 また、初等部は人数が少ないため、クラスは二クラスしかない。そこは成績か家柄かで分けているらしく、三人とも同じAクラスだった。ちなみに現在三年生の兄もAクラスだ。


 「ご機嫌麗しゅうございます、殿下」

 「セリア、えと、この前はありがとう」


 この『この前』というのは、レイヴァンに頼まれて両陛下に話を持ちかけ、三人でピクニックに行かせたことだ。祖父も協力してくれたので、警備をばっちり手配してもらい、陛下たちがいない間のお仕事も一緒にやってもらった。お陰で久しぶりに親子水入らずの時間が楽しめたと、レイヴァンも両陛下もご機嫌だった。


 「いえ、当然のことをしたまでです。が、祖父にも殿下がそうおっしゃっていたと伝えておきますね。私一人の力ではありませんでしたから」

 「あ、ああ」


 やや怯えているが、逃げ出すほどではない。よし、この位置だ。この立ち位置が完璧。


 「お久しぶりです、レイヴァン様、フランツの妹様」


 私の挨拶が終わったからか、ジオルクも挨拶してくる。

 無論、笑顔で応対する。


 「お久しぶりね、ウェーバー家の嫡子様。以前お会いしたときと変わらないわね」


 言外に「成長してないな」と皮肉る。


 「お前も、変わらないな。どうせまたフランツに迷惑をかけているんだろう」


 ジオルクも言い返してくる。


 「私のお兄様だもの。妹がお兄様に甘えていけないのかしら?」

 「こんな妹を持って、フランツも大変だな。お労しい」

 「こんな嫡子をお持ちになったウェーバー家ほどじゃないと思うわ」

 「口が減らない女だ」

 「狭量な男だこと」

 「いい加減、学園にも入学したんだから落ち着けばいいのにな。ぎゃんぎゃん吠えて噛み付いて、飼い主がいないと止まることも出来ない」

 「野良にはわからないでしょうね、守るべき者がいる誇りは」


 軽口の延長で言ったのに、ジオルクはぐっと言葉に詰まった。

 お?

 レイヴァンを目を合わせる。貴族の子供である私とジオルクが会う機会といえば限られていて、大抵その場にはレイヴァンもいた。私とジオルクの喧嘩なんかいつものことで、レイヴァンもよく見てきている。

 だから、言葉に詰まったジオルクなんて珍しくて、お互いに目で『どうしたんだろう』と問いあう。


 「ええと、ジオルク、私なにか不味いことでも言ったかしら」

 「セリア、フランツを呼んできたらどうだろうか。ジオルクも、フランツになら素直に言うかもしれない」

 「そうね、さすがですレイヴァン様。でも、お兄様今頃お勉強してらっしゃるから…」

 「………フランツが来るまで、待とう!」

 「そうね!そうしましょう!」


 二人で意見を一致させ、兄が来るまで放置しよう、という結論に至った。


 「じゃあレイヴァン様、ガイダンスが終わったらお兄様を呼びに行って、お兄様にご用事がなければ、一緒にお茶でもしませんこと?」

 「それはいいな!フランツに用事がなければいいが…」

 「大丈夫です!お兄様にとって、今日は可愛い妹の入学式!きっと私のために時間を開けてくださっているはずです!」

 「………いいなあ…」

 「あら、レイヴァン様にとっても、今はお兄様は義理の兄ですよ。将来義弟になるかもしれない、と攻めてみたらよろしいのでは?」

 「っそっか!」


 「………おい」


 きゃっきゃとお兄様談義で盛り上がっていたら、やっと回復したジオルクに不機嫌そうに水をさされた。


 「なあに、野良。素敵なお兄様がいる私と、私の婚約者でお兄様の将来の義弟のレイヴァン様に、何かおありなの?」

 「………平気で傷を抉りに来るのか…お前も性格悪いな…」

 「当然よ。弱みなんて、見せるほうが悪いのよ。それで、どうしたの?お兄様にしか話したくない?お兄様にも話したくない?」

 「………別に、大したことじゃない」


 そう言う割に、ジオルクの顔は浮かない。いつもの軽口を言う時の憎たらしい笑みがない。

 レイヴァンも私もそう思って、『やっぱりお兄様を』と思っているのがわかったのか、ジオルクは仕方なさそうに白状した。


 「俺は、家族と仲が良いというわけでもないし、何かにこだわりもないし、レイヴァン様のように使命があるわけでも、……お前のようにやりたいことがあるわけでもない。だから、少し考えさせられただけだ」

 「………あなた、いくつ?」


 その内容に、馬鹿馬鹿しくなって、つい呆れ声でジオルクに問いかけていた。


 「あのね、私達はまだ初等部に入学したばかりの、十歳のお子様なの。その歳から人生の目標とかがっちがちに決まってたら、逆に融通が効かなくて困るわよ。そりゃあ家を継ぐとかで決まってる子もいるわ。お兄様とか、お祖父様の跡を継ぎたいって頑張ってらしてるもの。でも、漠然とただ『自分は嫡子だから家を継ぐんだろうなあ』と思っているのと、『これから何をやりたいのか、何を為すべきなのか見極めよう』と思ってるのに、差はないんじゃなくて?私からしたら、ぼんやり日々を過ごすより、積極的に学ぼうとしている姿勢のほうが評価出来ると思うわ。つまり何が言いたいかと言うと―――」


 腕を組んで、当然のことを言う。


 「目標に向かって頑張るお兄様最高、よ」

 「黙れブラコン」

 「ブラコンじゃないわ。ねえレイヴァン様、レイヴァン様もお兄様は格好いいと思うでしょう?」

 「え、あ、ああ。…セリアを止められるところが特に…」

 「何か、おっしゃいまして?」

 「い、いいいいや!なんでもない!」

 「おい、レイヴァン様を脅すな。……もういい。なんだか、真面目に考えるのが馬鹿らしくなってきた」

 「あら、それはいいことね。お兄様の話でないのなら、あなたみたいな野良を励ますなんて面倒臭いもの。好きにうろついてすでに売却済みの飼い主から餌をねだっていればいいんだわ。美味しい食事に惚れても、その人にはもう番犬はきちんといる現実に、打ちひしがれればいいんだわ」

 「………性格が悪いにも程があるな」

 「あなたが私のものを物欲しそうに見るんだもの。縄張りを主張するのは当然でしょう?」


 そろそろ教師が来そうだ。席を目で探す。


 「まあ、目標を見つけることが当面のあなたの目標ね。中には一生かかっても見つからない悲劇もあると聞くから、気長に構えてやりなさい。間違っても、人のものに手を出さないようにね」


 席発見。男女で分けられているようで、私の席は二人から遠いようだ。レイヴァンに一応挨拶をして席につく。


 放課後、お兄様と何しようかな!お祖父様も来てくださるよね!楽しみー!

幼少期のセリアは前世の知識の比重が大きかったため、庶民の考え方と口調です。この頃になると、子供なりに社交もしていて、貴族の考え方とお嬢様口調が板につき始めています。

前世の記憶があるだけでちゃんとお子様なので、自分に優しい兄に懐きまくってます。

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