趣味読書。好きなジャンルはクソ小説
一応本日二回目です。
ちょっとお下品な話があります。ご注意を
「セリアって、馬鹿ですよねえ」
「処すわよ?」
「図星突かれたからってキレないでくださいよ!セリアってば短気なんですから!私も大変ですよ!」
「図星じゃないし短気でもないしあなたに迷惑なんて一欠片もかけてないわよ」
「照れなくてもいいんですよ。私は一緒にいてあげますから。感謝してくださいね!」
「あなたにさよならしなかったのはあなたがどうなってもどうでもいいからよ?早く破滅してくれない?」
「あ、セリアなんかの話はどうでもいいんでした。これからそんなくだらない話より大事な話をするんですから、邪魔しないでくださいね」
「あなたがしなければね」
「なんと新しく読んだ本がとっても面白くってですね!推理小説なんですけど、犯人がまさかの幽霊だったんですよ!」
「清々しいほどのネタバレだし、推理小説でその解決はクソ小説よ」
「いやあ、私も途中で全滅したときはどうなるかと思いましたけどね、まさか幽霊になってまで謎解きを続けるなんて!」
「え、なにそれ。そこまで行くとクソすぎて逆に面白そうね」
「祟りだったんですよ!その洋館で殺された怪獣の!」
「怪獣なら踏み潰しなさいよ。ちまちま呪ってんじゃないわよ」
「一人、また一人と死んでいくんです。第一の被害者は探偵でした」
「クソじゃない。その本貸しなさいよ。すっごく読みたいわ」
「第二の被害者は怪獣でした」
「怪獣生きてたの!?じゃあ探偵殺したの誰よ!」
「第三の被害者は殺人鬼でした」
「そいつが犯人よ!」
「そうやって次々に死んでいくんです…洋館にいた百八人全員」
「多いわね!なんとか出来なかったの!?」
「最後の怪獣が死に、残ったのはゴリラだけ…。そのゴリラもすぐに…」
「最後の怪獣って、一体じゃないのね?複数いるのね?そして何故ゴリラが洋館にいるのよ。洋館どこにあるのよ」
「普通に町中にある、おしゃれな洋館ですよ。夜な夜な人が死ぬので、隣家から五月蠅いと苦情が来ました」
「やだ、クソすぎる。貸してよ」
「えー…セリア、ちゃんと本を大事にしてくれるんですかー?信用できませんねー」
「殴るわよ?」
「ほら、人も大事に出来ないのに、本を大事に出来るわけがありません」
「あなたにしては一理あるけれど、あなたはクソ小説以下の人間だから仕方ないわ」
「………ん?」
「けなしたのよ。かなりストレートに」
「なんですとー!絶対に貸しません!」
「あ、ごめんなさい。じゃあ題名だけでも教えて?ね?」
「私がそんなもの覚えてると思ったんですか?セリアは浅はかですね」
「それもそうね。あなたに期待しすぎていたわ。ごめんなさい」
「そうそう、そうやって謝ってくれればいいんですよ。私に期待するセリアが間違っているんです」
「ええ、本当に。で、本貸して」
「いいですよー。明日持ってきますね」
「ありがとう。よろしくね」
「いえいえ、あの手の本は多いですから」
「………あなたの本棚が気になるわ。そんなクソ小説ばかりなの?」
「ちょっとセリア、謝ってください。クソクソ言ってますけど、一生懸命魂込めて書いてくださってるんですよ?作者さんと、その本を買って所蔵している私に、謝ってください」
「………そうね。作者さんには、謝罪するわ。ごめんなさい」
「ふふん、それでいいんですよ」
「どうしてあなたが威張るのかはもういいわ。それで?そんなクソ小説ばかりなの?」
「クソじゃないって言っているじゃないですか。一度でちゃんと理解してくださいよ。これだからセリアは困るんです。記憶力がないんですか?」
「これでも学年一位なんだけれど、よくそこまで言えるわね。すごいわ」
「あ、褒めてくれました?ついに私を認める気になりました?じゃあ仕方ありません、私も寛大に許してあげましょう!」
「私は許す気ないわよ」
「え?セリアごときに私が許しを請わないといけないことってありましたっけ?」
「むしろどうしてあなたは私の許しを得なくていいと思ったのかが聞きたいわ」
「聞きたいんですか?そんなにですか?仕方ありませんね、もうっ」
「つまらない理由だったら退学にさせるわよ」
「は?セリアにそんな権力あるわけないでしょう。いいですか、ちょっと成績がいいからって鼻にかけてそんなこと言ってたら、すぐに友達なくしますからね」
「ぼっちの実体験だものね。重みがあるわ」
「いえ、私は元々、友達ができたことがありません!ですから友達をなくしたこともありません!」
「私も友達なくしたことはないわよ。少ないもの!」
「ですから、その数少ない友達をなくさないようにと、忠告してあげてるんですよ」
「そうね…あなたみたいにはなりたくないものね…」
「で、なんの話でしたっけ?セリアが婚約者に捨てられた話でしたっけ?」
「いいえ、あなたの本棚のラインナップの話よ。他にどんな本があるの?」
「そうですねえ……主人公が夢を見る話とかですね」
「ふうん、夢オチ?」
「違います。ちゃんと話を聞いてください。ちょっとの間黙ってることも出来ないんですか?」
「相槌ってもんを知らないのかしらこの子」
「主人公は夢の中で蝶になってるんです。夢の中でひらひら舞って、花の蜜を吸って、蝶として生きて、目が覚める。主人公は起きている今が現実なのか、それともさっきの夢が現実なのか、と考えるんです」
「へえ、『胡蝶の夢』ね。あなたにしてはお固いの読んでるじゃない」
「自分はさっきの夢の中の蝶なのか、それとも現在の怪獣なのか、と…」
「前言撤回。あなたやっぱりクソ小説ばかりしか読んでないのね」
「そしてある朝、怪獣は芋虫になっているんです。巨大な芋虫に。気持ち悪くてページ閉じそうになりました」
「あなたに嫌悪感というまともな精神があることにほっとしてるわ。で、今度は『変身』?主人公が怪獣ってところはクソだけれど、内容は一概にクソとも言えないわね」
「そして兎を見かけて、食べようと思って追いかけ、穴に落ちてしまいます。そこからよくわからないことうだうだ言って、首を刎ねられそうになったところで目が覚めます。ああ夢だったんだよかった、と起き上がり、その日の晩食は兎を食べます」
「『不思議の国のアリス』ね。食べようとかはアレだけれど…まあ怪獣だものね」
「そして死にます」
「は?」
「それらは全て、死ぬ前に見た回想だった、ということで終わりました」
「………走馬灯ね。なんというか、その話の作者はいろいろな文学に知識はあるみたいだけれど、テーマも『夢』や『睡眠』で合わせたみたいだけれど、どうにもクソね。パクリだし」
「あ、題名は『怪獣は世界征服の夢を見るか』でした」
「題名までパクリ!」
「後は、じゃあ感動物なんてどうですか?」
「感動物。いいわね、私は感動物とかお涙頂戴系が不得手なんだけれど、読まないからその分評価も甘くなるものね」
「まず主人公は天涯孤独です。気づいたら生まれていたんです。主人公は親もいないからどうしていいのかわからない。けれどとりあえず、近くを冒険してみたんです」
「ふんふん、これから理不尽に虐げられるのね」
「先に言うなんて、ちょっと空気とか読んでくださいよ。話す私の気持ちにもなってください。だからセリアは嫌われ者なんですよ」
「その言葉、そっくりそのままあなたに返してあげるわ。で?」
「主人公は異形だから、と暴行を受けます。攻撃されて、死んでしまえ、いなくなれ、と罵声を浴びます。主人公はその対応に困惑して、悲しみの慟哭をあげながら、それでも歩み寄ることはやめません。近づくごとに、なお一層の攻撃を受けます。主人公も倒れてしまいそうになります」
「ありがちね」
「そしてとうとう、主人公は殺されてしまいます。主人公が死んだ、と皆喜び、誰一人として主人公の死を悼みません。死の間際、主人公は、こんな社会では第二第三の自分が出現してしまうだろう、と思いをはせながら、事切れました。それで終わりです」
「バッドエンド、というかデッドエンドなのね」
「題名は『ゴジラゴンの襲来』です」
「っゴジラゴン!?ありふれた怪獣物だった!?ていうかあなた怪獣好きなの!?」
「えへへ、照れちゃいます」
「照れる要素ないわよ!ゴジラゴンって、怪獣が主役なの!?なんでそっち目線で読んじゃったの!?逆に器用ね!?」
「セリア、話聞いてなかったんですか?題名が『ゴジラゴンの襲来』ですよ?じゃあ主役はゴジラゴンでしょう!」
「あなたって馬鹿ね!知ってたけど!」
「知ってたんですか!?」
「驚かれたことに驚いたわ!むしろ知らない人はいないわよ!」
「ふふん、私は知りませんでしたね!」
「なんでそこでここ一番のキメ顔で胸を張るのよ!もう一発殴らせてくれない!?」
「嫌です!痛いから!」
「正論ね!」
「で、何の話でしたっけ?セリアがニートになったって話でしたっけ?」
「どうして私がここにいるかわかる?学生だから、学校にいるの。ニートにはなれないわ」
「じゃあ退学するんですか?」
「何が私を突き動かしてそこまで積極的にニートになろうとするのかしらね」
「なるんですか?ならないんですか?はっきりしてください!」
「ならないわよ。はっきりしてるじゃない」
「なら思わせぶりなこと言わないで下さいよ!もう!困ります!謝ってください!」
「早合点しないで頂戴。謝罪しなさい」
「ごめんね」
「いいよ。ごめんね」
「いいよ。…それで、これからセリアは何をするんですか?」
「それを探そうと思ってるの。生きる目標を探すために、一度全部リセットして、まっさらな状態で考えたいの」
「充電期間ってやつですか。怠けるときの言い訳の」
「ぶん殴るわよ」
「じゃあ何かするんですか?ええ?」
「柄悪いわね…。でもまあ、よくぞ訊いてくれたわ!実はね、今、飛行機を作ろうと思ってるの!」
「訊かれるの待ってたんですか?ウザいですねー」
「黙りなさい。さっき散々話し中には黙ってろって言ったのは誰よ」
「その私の話し中に話してたのは誰ですか」
「…それもそうね。じゃあいいわ。勝手に話すから」
「はあ。そうですか」
「まずね、ダイヤモンドでも掘り当てて一山当てようかと思ってたの。金銀は産地の特定も難しいし、星が爆発するぐらいのエネルギーがないと生成できないから、渋々ダイヤモンドで妥協したわ。で、ダイヤモンドは何億年もかけて生成させるものだから、この辺りの新期造山帯じゃなくて安定陸塊にあるはずなのよ。新期造山帯には活火山が分布していてある資源があり、古期造山帯では石炭がある。ついでに安定陸塊は造山運動も停止して久しく、そのため侵食もかなり進んでるわ。新たに生産されることがなく、減るばかりだから当然ね。つまり、活火山がなく石炭も産出されないなだらかな平地にあるはずなのよ。……でも、そこに行くまでに時間がかかりすぎるのが問題でね。もし空が飛べたらびゅーんって行けるのに、って考えて、飛行機がなければ作ればいいじゃない!ってことで作ることにしたの」
「つまり?」
「ダイヤモンドで一攫千金狙う、現地に行く足がない、飛行機作ろう」
「なるほど、わかりません」
「最初から理解できるなんて思ってないわ。とにかく私は空を飛ぶのよ」
「セリアは馬鹿なんですか?空を飛べるのは魔女だけですよ」
「あなたは今、ほぼ全鳥類と一部哺乳類や甲骨類などの生物に喧嘩を売ったわ」
「セリアは虫ケラだったんですか!?」
「その返しが出来るようになったあなたに成長を感じるとともによりによって虫をチョイスし貶めるあなたの性格には脱帽するわ」
「いえ、セリアの宇宙語はわかりませんでしたが、空を飛ぶのは虫ですから」
「鳥は?」
「美味しいです」
「そうね、私も鳥好きよ。で、飛行機を作ることにしたのよ」
「あれ食べたいです。セリアが前食べてた、フライドチキン!骨にしゃぶりついて、すっごくみっともなかったですけど、美味しそうではありましたね!」
「一定以上の速度と風を捉えるための翼があればいいわけでしょう?軽量であることが望ましいから、とりあえず自転車に翼つけて飛ばすか、火薬でびゅんびゅん飛ばすジェット機スタイルか、最初の浮上だけ火薬のお世話になって後は風を捉えることで飛ぶ鳥真似スタイルか、電気とモーター作って何とか回すヘリコプタースタイルか、一番簡単で一番危険な気球スタイルか、どれにしようか考えてね」
「あと前に恥も外聞もなく作っていた、からあげ、とかいうのでもいいですよ。料理なんて使用人みたいなことをするセリアははしたなかったですが、匂いはとても美味しそうでしたから」
「とりあえず水素集めて気球で飛ばして、次に自転車がいいかしら。文明順的に言って。じゃあ気球は比較的簡単だから、その間に自転車でも作らせましょ。今の自転車じゃスピードも出ないし命を預けられないわ。自転車の次に、それを動力とする飛行機ね。魔女宅みたいな。その後変化球の、自力飛行でない飛行機に行くわ。何、ライト兄妹や二宮忠八だって一応理論上成功させてるんだもの。協力者たちに原理を話して鬱になるほどトライ&エラーを繰り返させれば出来るわよ。ちなみに『飛行機』や『航空機』の言い回しは面倒だから頓着してないわ。妙にマニアニックな知識引っ張り出してきてうだうだ言わないでね」
「まじょたく、ってなんですか?」
「そこ?あなたって悪い意味で人の予想を外して来るわよね」
「誤魔化さないでください。どういう意味何ですか?納得の行く説明をしてください」
「書籍の題名の略称よ」
「なるほど!」
「本といえば、だから、明日あのクソ小説持ってきてね」
「だから、クソとか言わないでくださいって何度言ったらわかるんですか?セリアのうんちは何色ですか?」
「気持ち悪っ!そこは『お前の血は何色だ』ってところだし排泄物の色を訊くとか気持ち悪っ!健康状態を見る意味で訊くこともあるけどただただ気持ち悪っ!兎のように自分の垂れた糞でも食べてなさいな!」
「っなんてこと言うんですか!セリアは本当にうんちマンですね!セリアのうんち!」
「はあ!?意味わかんないわよ!ヴィオラのおもらし!」
「漏らしてなんかないです!名誉毀損です!」
「黙りなさい!今も暴言垂れ流しだし、私のほうが酷い侮辱を受けたわよ!謝罪と撤回を要求するわ!」
「いいえ、セリアのほうが酷いです!私は漏らしたことなんてありませんが、セリアはうんちしたことは数え切れないほどあるはずです!」
「甘いわね、ヴィオラ!あなたの罵倒は私がクソだって言っているのよ?私がいくら排泄をしていたとしても、私自身がクソでない以上、あなたの言葉は侮辱よ!」
「他人が一生懸命書いた小説をクソクソいう人はクソです!」
「確かに!」
「だからセリアはうんちです!」
「うっさいわよ、同じ肥溜め仲間のくせに!私達は皆、糞と尿の間から生まれてくるのよ!」
「いいえ、私達はお父さんとお母さんの間に生まれています!」
「馬鹿ね、コウノトリさんに運ばれてくるに決まってるでしょう!」
「セリアったら、未だにそんなこと信じてるんですか?いいですか、子供っていうのは夜、夫婦で一緒にキャベツ畑に行きまして…」
「あなたこそ、そんな妄言を吐くのはやめてくれない?いいこと?子供はコウノトリさんに運ばれて来て、橋の下に落とされるの。それを夫婦が発見して連れて帰るの。だから親は皆、お前は橋の下で拾った子だ、って言うのよ」
「セリアってば、そんなこと言われてたんですか?嫌ですねえ、私はそんなこと言われたことなんてありませんよ?母親の不倫相手の子だって言われただけで」
「なお最悪じゃない。ふざける要素がない分、マジでアウトな回答じゃない」
「ふふん、どうです?負けを認めますか?」
「どんな勝負してたのよ、私達は。どう考えても私の圧勝よ」
「はああ?馬鹿ですか?私に勝てるとでも思ってるんですか?橋の下風情が」
「思ってるっていうか、勝ってるわよ。―――だって結局、私は公爵家に拾われたもの。伯爵家で産まれたあなたとは違うのよ」
「身分振りかざしていい気になってる人って、醜いですよね」
「身分制度って知ってる?」
「知ってますよそのぐらい!だからさっきから会話途中に声をかけてきて五月蠅い王太子様を無視する程度で許してあげてるんじゃないですか!」
「いえ、身分制度的にいえばそれはアウトだけれど、まあ、あなたに話しかけてるわけじゃないものね。イエローカードで許してあげるわ」
「はい。セリアのせいで五月蠅いです。いい加減にしてください!話してる私に失礼ですよ!」
「その物言いは私に失礼よ」
「折角セリアみたいな、友達から捨てられたぼっちと話しに来てあげたって言うのに!」
「レッドカァアアアアド!!退場よヴィオラ!」
「じゃ、またねーセリア」
「小説忘れないでよ。楽しみにしてるから」
「………相変わらずあの子は元気ね。私も、あんな子にほだされちゃったのかしら」
「それはないだろう…」
「そうかしら、ジオルク」
「……出会い頭、唐突に顔面に正拳突きしてふっ飛ばしておいて、苦情を『八つ当たりよ』で済ませるようなやつは、絶対にほだされてなんかない」
「だってむかいついてたんだもの。本当は鼻の骨折ってやるつもりだったのに、鼻血程度なんて、あんなにぴんぴんしてるなんて、やっぱり甘くなってるわよ。もう一発殴っておけばよかったわ」
「………そうか」
「セリアー!ごめんなさいー!無視しないでぇー!」
会話文って楽でいいよね!