九割五分真実で構成された誤解
短すぎたのでもう少しプラスして、それでもなお短かったです…
シリアスは!苦手です!
な、なんなのあの令嬢!信じられない!
今までずっと一緒いた、無礼を許してくれるお優しい王太子様に、用済みとか!最低すぎる!しかも、それで開き直るとか!ありえない!
「……王太子様、無礼を承知で申します。彼女をどうして今まで放っておいたんですか?」
「………今回のように壊れているのが稀なんだ。普段は、厳しいが優しいところもあって、型破りだが明るくて、とても良い…人間なんだ。性格はとても悪いが…」
「………わかりません」
王太子様が彼女を庇うのも、『婚約者』といいそうになって言い直したことも、それでも彼女のことが好きなのも、わからない。
だって、どう見ても変人で、おかしい人でしょう?
礼節も身分も弁えず、自分勝手で、なんでそんな人のことを庇うの?自分のこと虐げてきてる相手を守ろうとするの?
―――そんなに、好きなの?
…胸がぎゅっと苦しくなる。
でも、相手が彼女でなければこんな気持ち封印して応援したけど、あの人は駄目。王太子様の目を覚まさなくちゃ…!
「今の彼女はまともとは思えません。相手から言ってきたんですし、距離を置いたらいかがですか?」
「………それも、いいかもしれないな。しつこく言って、セリアが怒ったら…」
王太子様は表面上は変わらないが、やや顔色が悪くなり、つぅっと冷や汗が滴っている。よほどのトラウマを植え付けられのだろう。幼少期から、ずっと…。
―――そのせいで彼女から逃げられないのだとしたら、私は彼女を許さない。
幼いころに、地位目当てで王太子様の気持ちなんて無視して婚約して、その後将来の夫だからって王太子様を洗脳して、挙句いらなくなったからって捨てるなんて、ひどすぎる。
幼少期のトラウマがどれほど心を傷つけるかも知らないくせに。
本当に―――本当に親から捨てられた子供の気持ちも、わからないくせに。
ずっと依存させてたんでしょう?王太子様の世界の中心に、あなたが無理やり座り続けて来たんでしょう?心をずたずたにして、攻めこんで、制圧して、そこまでしておいて、途中で投げ出さないでよ。
欲したなら、手に入れたなら、愛してよ。
産んだなら、捨てないでよ。
そこまで、傷つけるほど熱烈に欲したのに、なんで今更捨てるの?最初から地位だけだったから?最初から情なんてないから、そんなにあっさり捨てられるの?
捨てられた後、どうなるかなんて、わかってないんでしょう。
自分の世界の全てから背を向けられて、自分を望んだ者から捨てられる気持ちなんか、考えたこともないんでしょう。
自分をこの世界に産んだ存在に、お前なんかいらないって言われる気持ちなんて、分からないんだわ。
誰からも必要とされてないことの恐ろしさなんか、あなたには永遠にわからない。
人は、誰かから愛されないと、必要とされないと、生きていけないのに。
一人じゃ、生きていけないのに…。
「………でももう一回、謝ってくる。セリアは逆らったら怖いけど、いつもは優しいから」
王太子様は儚く微笑んで言う。
ほら、そうやって支配する。逆らえば罰を、平時は褒美を与えて、逆らえないようにする。飴と鞭。DVの典型例。
愛なんて最初からないのに、優しかった時のことだけ思い出して、あの頃のように、とすがりつく。何も悪くないのに、自分が悪かったと謝罪する。
私は教会で、シスターたちや一緒に育った孤児たちに徐々に癒され、立ち直れた。
でも王太子様はまだ囚われている。愛がなかったっていう現実を直視したくなくて、目を逸し続けている。
―――相手が欲しいのは、『王太子の婚約者』っていう地位だけなのに…。
「……レイヴァン殿下」
地位だけじゃない。私は、頑張り屋さんのあなたのことが―――…。
「私は、殿下の味方ですから。何があっても、殿下のことを、思ってますから」
だから忘れないで。
あなたのことを必要とする誰かがいるってこと、覚えていて。
殿下は「ありがとう」と……作り笑顔で言ってくれた。
まだ今の私じゃお心を溶かすことが出来ないことが、自分の不甲斐なさが、悔しかった。
***
テストの順位発表の日。
テスト結果と順位が壁に張り出される。
第一学年
一位 セリア・ネーヴィア(0)
ジオルク・ウェーバー(0)
三位 リリー・チャップル(-5)
四位 レイヴァン・サルトクリフ(-8)
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「毎回、権力順でお前のほうが上にあるのがむかつく」
「私も、今回特に頑張ったのにあなたと同点なんてむかつくわよ。なんでテストって満点までしかないのかしら」
「本当にな。満点なんてなければ、お前を越してやれたのにな」
「あら、それは笑える冗談ね」
「お前こそ、中々面白い冗談を言うじゃないか」
「ふふ、まあいいわ。これからもその調子で、私の下にいて頂戴」
「次はお前の上に行く予定だが、…どうした?」
「大抵、私、ジオルク、レイヴァンの順だったじゃない?でも、あの子がその間に割ってきたから、ね…」
「……あいつに寝返ることはしない。俺の宿敵はお前だからな」
「まあありがとう。その調子で頑張って頂戴。……レイヴァンが、あんな子に負けるから…」
「………」
「…特待生は二度以上三位以内に入っていなければ退学になるのに、負けるから…!」
「そこまであいつが嫌いか」
「ええ、大っ嫌いだわ!いいことジオルク、決して、あの女に一位二位を取られてはいけないわよ!あの女に負けたら許さないから、心しておきなさい!」
「……まあ、お前の隣を譲る気はないからいいが…、…お前こそ、変なことに夢中になってあいつに負けるなよ」
「当然じゃない!私があんな平民に負けるわけがないわ!次も一位よ!」
「次は二位だろう?俺が一位になるんだから」
「何言ってるの?あなたは次は二位でしょう?寝言は寝て言って頂戴」
「お前こそ、また壊れたのか?次二位に落ちるのはお前だろう?」
「ふっ…ジオルク」
「ああ、そうだな…」
「っ剣を抜きなさい!どっちが上か、今日こそ白黒付けてあげるわ!」
「上等だ、今日こそ敗北の味を教えてやる!」
「―――あ、二人も成績見に来たの?」
「っお兄様!あのね、私ね、一位でね、満点でねっ!」
「っフランツ!あのな、満点で、セリアと同位で…」
「うんうん、二人ともすごいね。頑張ったね」
「きゃーー!お兄様大好き!」
「……っ!フランツに褒められた…!」
「二人とも、もう高等部になったんだから落ち着いてくれないかなあ…。…あ、ごめんね。ちょっと妹たちが決闘でも始めそうな雰囲気だったから」
「…妹さんと、あっち、どなた?」
「ああ、俺の友達で妹のクラスメイトのジオルクだよ。前話した、あの友達。…それにしてもセリアのやつ、剣も持ってないくせに決闘ふっかけて、すごいよね。そのセリアに食いついていくジオルクも、すごい男なんだよ。今回も二人で満点で一位だったし、それにね―――…」
「………フランツは妹さんたちのことが好きなのね」
「………まあ、ね」
「じゃあ精々遊び呆けて、一位を逃してればいいわ」
「今回負けちゃったからね…。今までセリアがやってたのが回ってきて、いろいろ忙しかったし…」
「………」
「でも、次は負けないから。覚悟しててよ」
「…言い訳しないところは、…結構好き。けど、私だって負けないわ」
「え?……ねえ、もう一回、言ってくれない…?」
「…あーあ、仲良くしちゃって、ちょっかい出したくなるね。フランツは怖いからしないけど。…こういうとき、セリアに愚痴りたいのになあ…。プレシアやリリーは可愛いからそんなの出来ないし。
……本当に、勘違いしないで欲しかったんだけどなあ。
見栄張って格好付けたい意中と、何でも曝け出せる友達は全然違うのに。
なんか味気ないって言っても、聞いてくれないよね。だってセリアだし。
ま、そのうち仲直り出来るだろうから、その時言ってやろうかな。
恋愛と友情は別物で、そうやって敵とか味方とか、勝ちとか負けとか言ってるから、セリアはまだまだ子供なんだよって」
「テスト結果ですかー。へー。いつテストなんてやったんでしょうかねー。皆さんご苦労様ですー」
「………」
「あー、今回四位かあ…」
「っ!?お、王太子様!?」
「ん?…ああ、リリー・チャップルか。三位だったな。おめでとう」
「………おめでたい、ですか?」
「おめでたいだろう?…あ、あの表の見方がわからないから戸惑っているんだな。あの横の括弧と数字は、満点からどれだけ離れてるかというのを表したものだ。ゼロは満点、-5だと五点分ほど満点に足りなかったってことだな」
「……つまりあのお二方は揃って満点だったんですね」
「そうだな。よくあることだ。セリアとジオルクは、たまに問題の不備を指摘して満点以上になったりもするぐらいだから」
「……想像以上に、頭脳明晰でいらっしゃるんですね…」
「セリアとジオルクだから、そんなの当たり前だろ。三位ってのは、だから喜んでいいぞ。おめでとう」
「別格なんですね…勝てるわけがないんですね…。…でも、諦めません。次は、私が一番になってみせます…!」
「………そうか」
(そして、王太子様を、助けてみせる…!)
(セリアとジオルクに勝つなんて、無理に決まってるのになあ…)
▽ フランツルートへの強制進行フラグ:一回目のテストで一位を取ること が達成されませんでした。
▽ レイヴァンからの好感度 が 100 上がりました。
▽ セリアへの勘違い度 が 5 上がりました。