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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎるプロローグ~幼少期~
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No.1は、もちろん私

2,3,4は家族たち。

 まずは時代の確認。現在、私は六歳だ。

 私は『王子様の婚約者』として国政に口出しまくっていた。祖父にもべったりで、前世の知識でべらべら難しいこと言いまくって、親にかなり不審に思われていた。その辺りのフォローは祖父と兄がしてくれていたそうだ。素敵すぎる家族だ。


 そんな状況だから当然、周りの子供たちにも遠巻きにされていた。『王子様の婚約者』で、その王子様が「あの女は怖い」と恐れていて、しょっちゅうお城に行って大人と難しい話をしていて、そりゃ遠巻きにされて当然というものだ。幸い、馬鹿にされることはなく、むしろ『怖い』と恐れられていたようだったが。


 だが、浮きまくっていることには変わりない。

 私は初めて出席したパーティ、王子の誕生祝いのパーティでそれを嫌というほど実感することになる。





 「この度は六歳の誕生日、おめでとうざいます、殿下」

 「や、やい!お前、俺の命令を聞かないなんて―――!」


 「あらあら、私、お前、などと呼ばれるような身分でしたでしょうか。殿下にとっては等しく『下々の者』なのでしょうが、それはつまり、私以下の身分のものも同じように見下している、と受け取ってよろしいのですか?いえ、私でこれほどなのですから、それ以下の方はもっとですね。お労しい。それに私はこの国のためにと思ってはおりますが、現在殿下に仕えているわけではございません。私がお仕えしているのは陛下であり、ひいてはこの国です。何かあれば弟君様が王太子になる殿下ではありません。あ、誤解なさらないでくださいね。決して、殿下の身に何か起こって王太子の地位から引きづり降ろされるということを示唆しているわけではありませんよ」


 「………っ」


 ひくっと引きつって今にも泣きそうな顔になっているレイヴァン。

 勝った。

 殊勝な顔のまま、内心勝ち誇っていると、


 「王太子様に無礼だぞ」


 声をかけられた。

 幼いその声のするほうを見ると、良い仕立ての服を着た男の子がいた。レイヴァンと同じような歳の子だ。


 さあこの子は誰だろう、と思いつつ近くのお兄様に目を向ける。

 お兄様は頷いて、その子に目を向けた。

 ここで挨拶をしない、ということは、この子の家は私の家より下、ということなのだろう。それとも、お兄様のほうが年上だから先に挨拶させる、ということなのだろうか。

 いずれにせよ、男の子が先に挨拶をした。


 「ジオルク・ウェーバーと言う。よろしく」


 ジオルク・ウェーバー。

 ああ、この子が、あのドS公爵か。

 そういえば性格の悪そうな顔立ちをしている。


 「ご丁寧にどうも。俺はフランツ・ネーヴィア。こっちは妹のセリアだ」


 兄に紹介されたので軽く頭を下げておく。こっちの家のほうが格が上だ。

 兄はそのまま、レイヴァンのほうを向く。


 「王太子様、妹が失礼をいたしました。負けん気の強い、我儘な妹なので…」

 「よ、よい。気にしてない」


 あからさまに気にしてるくせに、とは言わないでおく。言いたいけど。


 そして兄がとりなしてくれたので、私はしっかりこのドSと向き合える。


 「あなた、私のどこが無礼ですって?言いがかりはやめて頂戴」

 「無礼だろう。臣下でありながらあのような物言い……ネーヴィア家の教育も地に落ちたものだな」


 かちん、と来た。確かに父と母はお馬鹿だが子供を愛してくれてるし、祖父と兄は言わずもがな素晴らしい家族だ。この暴言を許してはおけない。


 「ではそう私に指摘するウェーバー家の教育は、さぞ素晴らしいのでしょうね。人の恋路を邪魔すると馬に蹴られるわよ」

 「恋路?誰と誰が?」

 「私とレイヴァン様よ。ご存知でしょうけど、私達婚約してるの」

 「王太子様もこんな女の相手を、大変だろうな」

 「あら、どういうことかしら?」


 ジオルクを睨みつける。


 「今の言葉は私に対する侮辱と受け取ってよろしくて?同時に、こんな女を婚約者に据えているレイヴァン様と、両陛下への侮辱と考えるわよ」

 「王太子様と陛下を侮辱する気持ちはない。そうやって後ろ盾がないと何も出来ないお前への苦言だ」


 ………うん。


 「いいでしょう、ジオルク・ウェーバー、あなたに決闘を申し込みます。断るような不甲斐ない真似は、まさかしないでしょうね?」


 長手袋を外してジオルクに投げつけた。

 ジオルクは、さすがに決闘とまで言うと思わなかったのか少し虚を付かれた顔をしていたが、すぐに手袋を拾った。


 「いいだろう。女だからって手加減はしないぞ」

 「いりません。お兄様、立会人をお願いします。私が勝てば、あなたには私とネーヴィア家に対して謝罪してもらいます」

 「じゃあ俺が勝てば、お前は王太子様への謝罪と、婚約の取り消しを求める」

 「婚約の取り消しは私の一存では決められませんが、それに順守出来るよう、私の誇りに誓いましょう」

 「ああ、それでいい」


 ばちばちと火花を散らしながら、中庭にでも移動しようと思っていたら、面白い出し物とでも思われたのか、広間の中心を開けてもらっていた。


 「ここでいいのか?赤っ恥を掻くことになると思うぞ」

 「あなたが、ですか?」


 睨み合い、ここでやることに決定。

 ジオルクは正装で腰に下げていた儀礼用のサーベルを持ち、私は兄が下げていたサーベルを借りて、向き合った。


 「それでは、セリア・ネーヴィアとジオルク・ウェーバーの決闘を行います。初めに注意しておくけど、二人共、怪我がないようにやるんだよ。特にセリア」

 「わかってます」

 「本当にもう、セリアは女の子なんだから…。…じゃあ、両者向き合って」


 私もジオルクも剣を構える。


 「では…初めっ」


 っ!


 兄の声で、私はサーベルを突き出した。これは前世の知識にある『剣道』とは違う。『フェンシング』に近い。突きなどが有効打になる。


 そしてジオルクには本当に申し訳ないのだが、私、運動神経がかなり良いのだ。


 これは前世でプレイしたゲームでもそうなっていたので、初期値からそもそも高いのだろう。悪役令嬢がいじわるするために屋根の上にわざわざ鞄を引っ掛けに行くところとか、『お前こそ田舎の猿だろ』とツッコミを入れずにはいられなかった。彼女もあれで、結構お笑い要員だった。


 それに加えて、追放だの暗殺されそうになった時だのに備えて、一応護身術は一通り嗜んでいる。


 いや、本当に申し訳ない。


 圧勝させて貰った。


 「……なっ」

 「あらあら、自信ありげだったのに、こんなもの?二次性徴前とは言え、女性に負けるぐらいなの?残念だわぁ、ウェーバー家の天才児と聞いていたのに、こんなものだなんて。こんなか弱い少女に負けるぐらいなのね。よくそれで突っかかってこれたものだわ。その面の皮の厚さにだけは、感服するわ。ああ、そうそう、早く謝罪してくださる?私と、ネーヴィア家に、心からの謝罪を要求します」


 にやにやと言ったら、兄に「やりすぎだよ」と窘められてしまった。ちょっとぐらいいいじゃないか、とその時の私は思ったのだが、その後始末をする兄としては切実な注意だっただろう。あの時は本当にごめんなさいお兄様。


 ジオルクは驚愕しながら、床に転んでしまっていたがよろよろと立ち上がり、


 「………すまなかった、セリア嬢、ネーヴィア家の方々。先ほどの非礼と暴言を謝罪する」


 頭を下げた。

 この、優越感。

 くせになりそうだ。


 「認めます。私も婚約者とはいえ、殿下に少々気安い口を利いて、誤解を招く言動をしましたから。……お兄様も、よろしいでしょうか」


 ちらっと伺うと、苦笑いで返された。


 「僕は全然構わないよ。セリアの好きにして」

 「ありがとうございます」


 さて、これで謝罪は済んだ。ついでに投げた手袋も返してもらって、兄の手を引く。


 「お兄様、じゃあ、お祖父様のところにいきません?私、お祖父様のお話したいことが、いっぱいあるの!」


 笑顔で言う。

 ジオルクを始めとする周りの人々が凍りついた。


 私の祖父といえば宰相を務める優秀な人物で、かつ私は決闘で『私とネーヴィア家に対する謝罪』を要求していた。祖父に『こんな侮辱を受けて、勝ってきた』と言えば、どうなるのか。決闘に勝ったということは、私のほうが正しいということだ。いくらウェーバー家の地位が高くとも、ここまで正当な理由があれば、どう転ぶか分からない。


 ついでに駄目押しで、無邪気を装って付け加える。


 「両陛下ともお話したいの!私と殿下の婚約を許可してくださったのは両陛下だし、殿下や一部の人が反対してるかもって、相談したくって!」


 両陛下の決定である婚約にケチをつけることは、陛下からの勅命に背くことと等しい。そして両陛下から許可が出て、普通に相談するぐらいには私と両陛下は仲が良好である。そう、言外に脅す。


 ますます青くなる人々と、レイヴァン。逆らえないぐらいしっかり骨身に染みておいてもらわないとね。


 じゃあ行こう、と兄の手を引いて、


 「セリア、駄目だよ」


 窘められた。


 「セリアは大人の人とよく話すから、つい大人目線で考えちゃうんだよね?それはわかるし、悪いことじゃないっていうか、むしろ良いことだと思うよ。でも、お友達を作ろうと思ったらそれじゃ駄目だよ。喧嘩したら、ちゃんと仲直りしなきゃ」

 「………ちゃんと謝罪は受け入れたもん」

 「それは大人の考え。お友達が欲しいなら、偉い人に言いつけるぞって脅したりしないで、自分の力でなんとかしなさい」

 「したもん!決闘して、勝ったもん!」

 「それじゃお友達になれないでしょ。ほら」


 兄に背を押され、ジオルクの方に行かされた。

 目が合い、うっと俯きそうになって、なんとかとどまる。


 「………あなたが、私の家族を馬鹿にしたからだからね。私、悪くないもん」

 「………」


 ジオルクはちらと兄を見て、私に向き直った。


 「俺も、言い方が悪かった。馬鹿にするつもりじゃなくて…えっと…つい注意したくなっただけだ。……悪かった」

 「うん、仲直り」


 兄が笑う。………渋々、それで手打ちにする。元々、本当に言いつけるつもりはなかったし。ただの脅しだし。


 そう思っていたら、「うん、セリアは自分の力で勝負するもんね。脅しただけで、本当は言いつける気なかったの、わかってるよ」と頭を撫でてもらった。

 わかって貰えてたのが嬉しくて、つい顔が緩んでしまった。


 「じゃあ、殿下もよろしかったらご一緒にどうぞ。二人も、あっちで食事しようよ」

 「うん!」

 「………わかった」

 「あ、じゃ、じゃあ、俺も…」


 兄が私達を端のほうに誘導して、「お騒がせしました」と頭を下げてくれていた。本当に迷惑をかけていたものだ。その時の私は、「やっぱりお兄様大好き!」とか脳天気なことしか考えていなかったのだが。


 ともあれ、移動して二人と交流する。


 「私のお兄様、格好いいでしょ!お兄様は格好良くて、優しくて、頭良くて、将来有望なんだから!」

 「………お前みたいなじゃじゃ馬を躾けているだけでも、すごいと思う」

 「あら、それはどういう意味かしら、ジオルク・ウェーバー」

 「王太子様も、この女はじゃじゃ馬だと思いますよね?」

 「………怖い」

 「ほら見ろ」

 「レイヴァン様、ひどいです…。仮にも婚約者に向かって…」

 「白々しい。……あ!」

 「あ!」


 二人が、謝罪を終えて適当に料理を取ってきた兄のほうを見た。心なし、瞳が輝いているような…。


 「あの、フランツ様と呼んでもいいでしょうか。俺…じゃなくて、僕のことはジオルクとお呼びください」

 「俺も、フランツ様と呼んでもいいですか…?」

 「ちょっと!私のお兄様よ!」


 むーっとお兄様に抱きついたら、よしよしと頭を撫でられて宥められた。


 「じゃあ、ジオルクって呼ぶね。俺のこともフランツって呼び捨てでいいよ。レイヴァン様も、呼び捨てで大丈夫ですよ」


 にこ、と微笑む兄。

 「は、はい…!」と喜ぶ男の子二人。


 ………なんか。


 「レイヴァン様、私が婚約者ですよ?お忘れじゃないですよね?」

 「え…あ、ああ…」


 ………これは、忘れていたというか、意図的に忘却していたに一票。

 ううん、ジオルクはどうでもいいけど、レイヴァンにここまで怖がられるのはちょっと面倒かもしれない。恐怖から心移りされても困るし、ある程度懐柔させておこう。鞭だけじゃなく飴も与えよう。


 「レイヴァン様、何かおありでしたら、遠慮なく申し付けてくださいね。偉そうな態度を取られるのは業腹ですが、婚約者として、レイヴァン様のお心に適うように振る舞いたいと思っておりますので」

 「それは何の企みだ?」

 「先ほどの決闘で懲りてなかったのかしら、ジオルク・ウェーバー。今度もお兄様が止めて聞くとは限らないのよ?……レイヴァン様、この無礼な男の言うことはお気になさらずに」

 「……あ…えと…」

 「はいはい、二人共、レイヴァン様が困ってるでしょ。レイヴァン様を挟んで喧嘩しないの」


 兄に止められる。

 そうして、四人でわいわいと騒いでいた。

 そう、四人で。

 今までの行いが悪かったのか先ほどのジオルクとの決闘が悪かったのか、私に声をかけてくれる子供は他にいなかった。

 ぼっち、という言葉私の辞書に刻まれた。





 その後、レイヴァンに『言わなくても怒られそうだから一応』と頼まれた頼み事を叶えてやった。もっと言えと言っておいたからか、数年後には結構遠慮無く言ってくるようになった。

 ジオルクは会えば口喧嘩をするが、そこまで険悪というわけでもなく、お互いにやりあう喧嘩友達になった。


 そして、『お兄様親衛隊』のNo.5と6が埋まった。

『下の人から挨拶する』『女性は紹介なしに挨拶なんかしない』『決闘は勝ったほうの言い分が正しい』というルールがあるってなんかで見た気がするから取り入れた。嘘だったらごめんなさい、この世界特有のルールと思って下さい。

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