現在インストール中につき登場人物紹介~ヒロイン~
一応本日二回目です。
これで自己紹介シリーズは終了です。次からやっとセリアが起動します。
入学早々、なんでこんな目に合わなきゃなんないの…。
私はリリー・チャップル。孤児で、教会で育てられた。趣味は土いじり、特技は勉強の至って普通の、平凡な女の子だ。
たまに趣味と特技が逆じゃないのかと言われることがあるが、これであっている。土いじりは好きなだけでちっとも上手くない。下手の横好きだ。よく作物を枯らしては叱られた。
代わりに勉強は自信がある。頑張って勉強したから、これだけは私のとりえだと言っていい。誰にも負けない。
だから趣味土いじり、特技勉強、なわけだ。
将来はちゃんと神学を学んだシスターになって教会のためになることをしたい。そう思い、通える範囲にあり、学力さえあれば財産身分問わず学べ、特待生となればほとんど学費もかからないゴートン学園の高等部を受験した結果、見事特待生になれた。
これから色んなことを学べるのだと、わくわくしていた。
「私、あなたのことが嫌いよ!」
―――そこに颯爽と水を差してくれちゃったのが、貴族の中の貴族、淑女の中の淑女、セリア・ネーヴィアだ。
なんと成績は私よりいいらしく(満点だったそうだ)、入学式で新入生代表挨拶をしていたが、何故かそれが異国語だった。
誰も聞き取れなかった。
粛々とした表情で、慈愛に満ちた目で、まさに完璧な淑女というように読み上げているのはわかるが、何を言っているかさっぱりわからない。
数名、聞き取れたものもいるそうだが、あくまで少数派だろう。何を言ってるかわからなくて、それでも声をあげることもできず黙って聞いていた。
ちなみに式の後、彼女の兄で生徒会長の先輩が注意したそうだが、彼女は『お兄様に褒められちゃった!』と喜んでいたそうだ。どうしようこの子。
翌日、今日から授業が始まるので気合を入れなおし、教室のドアを開けて入ると、
「今日の私は臨床で危篤状態の横隔膜に代わりまして変人がお送りします、略して臨機応変でお送りしますよ!」
あの、壊れた子がハイテンションで叫んでいた。
今すぐ踵を返して出て行きたかったが、ホームルームまでそう時間もない。
何も聞こえなかった何も見えなかった何も知らない、と心中で念仏のように唱えて席について、
「あのね、あのね、新しく入学してきた平民で特待生のリリー・チャップルさんのことが好きなの!」
机に突っ伏した。
なんであの子、ここまで私に突っかかるの!?ていうか昨日、嫌いって言ってたよねえ!?ねえどういうことなの!?ホントなんなの!?
周りの視線が痛い。でも、平民だからって視線じゃなくて、『ああ、被害者になって可哀想に…』という同情のものだったり、『あのネーヴィア様が目をつけるなんて、どんな子なんだろう』という好奇の視線だ。なにここ生温かい。あ、あれ?平民いじめとかしないの?されると思って、いろいろ覚悟してたのに、しないの?
そしてついに、ぶっ壊れ令嬢さんが私の方に来た。やめて、巻き込まないで。私は平凡なモブなの。それがいいの。
「あ、あの、昨日は嫌いとか言って、ごめんね…?本当は、あの、…好きなのっ…!私と恋のランデブーしてください…!」
「………ごめんなさい」
ドン引きのまま頭を下げた。
本当は、相手は貴族だし、もっと回りくどくやんわり断ろうと思っていたのだが、あまりの…アレさに、他に言葉がなかった。
キチ令嬢は、驚愕の表情を露わにしていた。あれで受け入れられると思ってたの?そのほうが恐怖なんだけど。ねえホント、誰か助けて。
「………あなたの趣味と特技、聞いてもいいかしら?」
当の本人が、少しはマシな感じで聞いてきた。急に何?お見合い?やめてよ?
「え…。………趣味は土いじりで、特技は…一応勉強です、けど…」
「………………ふふふふふふふ」
笑い出した。やだ、怖い。ずさっと思わず後退していたが、誰も責めないはずだ。結構不敬だけど、うん、同情の視線しか来ない。だって本能。仕方ないよね?
狂令嬢は、じわっと目に涙を溜め、
「っあなたなんか、あなたなんか好きにバッドエンド迎えればいいのよ!もう知らないんだから!私が、私があなたのためにどれだけ尽くしてきたと思って…!」
ぽろり、と涙をこぼした。
その美しい容姿と合わさって、とても綺麗だった。ここだけ切り取れば。見た目だけなら。
「―――っあなたなんて、大っ嫌い…!」
まるで悲劇のヒロインのように、彼女は教室を飛び出した。
その後を、そういえば彼女と昨日も一緒にいた二人の男子のうちの一人、背の高いほうの人がその後を追おうとして、
ガラッ
普通に彼女が戻ってきた。
「っ戻るのか!」
背の高いほうの人のツッコミが炸裂した。よく言った。
しかし、その後彼女の話をよくよく聞くと、彼女は私のことを知っているようだった。
私は初対面だと思うが、もしかしたらどこかで出会っていたのかもしれない。
うだうだ悲劇のヒロイン気取って背の高い人に抱きついて云々するヒロイン(笑)の茶番が終わってから、「あの…」と話しかけた。ここで遺恨を残したくない。さっさと謝罪して無関係になりたい。
「私、覚えてなくて…ごめんなさい」
申し訳なさそうに見えるよう、謝罪した。いや、本当に悪かったと反省している。だから関わらないでくださいお願いします。
頭を下げられたら、さっきあそこまで八つ当たりしまくったんだから溜飲も下げてくれるかと思ったら、
「許さないわ」
睨まれた。
空気を読んで…!私のことも考えて…!
「よくも期待を裏切ってくれたわね。絶対に許さないわ」
「セリア!?ここは仲直りすることじゃ…!?」
彼女と一緒にいたもう一人の男子が言ってくれる。彼は見た覚えがある。王太子様だ。良く言ってくれた。
「そんなもん知らないわ。それともレイヴァン、あなたこの子の味方する気?それってつまり、私の邪魔をするってこと?なら、あなたでも容赦しないわよ」
でも自己中令嬢は止まらない。待って、それ不敬罪。反逆罪。何言ってるの馬鹿なの死にたいの?どこまで自己中なら気が済むの…?
彼女を二人の男子がなだめるが、彼女は止まらない。
そしてついに、
「リリー・チャップル。同じクラス内で面倒だろうが、できるだけセリアの視界に入るな。セリアに存在を感じさせるな。いいな?」
王太子様が私に言ってきた。
いえ、それ無理ゲーです。無理ですから。
「………それ不可能な気が…」
「何か文句でもあるのか?」
「………いいえ。かしこまりました」
でも逆らえませんよね。下手したら、話したというだけで処刑されかねないほどの身分差ですからね。
いいんです、これで関わらずに済むなら。無視しても、勅命なら仕方ないし。
無理ゲーだけど、よく考えたらそれしか道はない気がする。後押しありがとうございます、王太子様。本気で、感謝します。
だからあの女のお守りは切実によろしくっ…!
後から、同情したり好奇心なりで優しく話しかけてくれたクラスメイトたちの話によると、彼らは幼なじみなんだそうだ。
初等部に入る前からの付き合いで、ここまでずっと同じAクラスだとか。もう不敬とか反逆とか言う方が馬鹿なほど仲の良い三人組らしい。
また、あのお姫様()は幼い時から王太子様の婚約者で、陛下のお気に入りでもあるらしい。貴族筆頭の公爵の令嬢で、祖父は宰相として陛下からの信頼も厚い。彼女の父は商会持ちで、あの破竹の勢いで伸びていっているネーヴィア商会の代表者だそうだ。ネーヴィア商会は私も知っている。リュックサックやフライなど、庶民向けにも色々斬新なアイディアの商品を売り出している、まさに大注目の商会だ。
彼女には兄がいるが、その兄は生徒会長。優秀で人当たりがよく、色物揃いの生徒会を見事にまとめあげている人格者だ。自己愛令嬢とその幼なじみ二人も懐いているほど良い人なんだとか。なにそれ、聖人?神様なの?
馬鹿令嬢もその血を継いでいるからか、初等部からずっと成績優秀で、幼なじみの背の高いほうと一位争いをしているぐらいなんだとか。ただし行動は常識はずれで、女の子なのに決闘申し込んだり、貴族なのに料理したりする破天荒さん。外面だけは良いから悪い評判もないとか、詐欺でしょ。
幼なじみその一、背の高いほうの人はジオルク・ウェーバーという、公爵家の嫡子だ。彼は天才児と言われるほど賢く優秀で完璧な嫡子らしいが、…あの脳なし令嬢に惚れているらしい。アタックを繰り返してはあしらわれているとか、なんか可哀想。ていうかそんな人に惚れちゃうとか、恋って怖いね…。Aクラスは最優秀クラスだから大体メンバーも決まってくるらしいが、そのクラス内ではもう公然の秘密だ。全員が生暖かい目で彼らを見ている。気づかぬは鈍感令嬢ばかりなり…。
幼なじみその二は王太子様で、レイヴァン殿下だ。彼も優秀らしいが、いかんせん他二人の影に隠れている。テストでは何があっても三位。本当にそれでいいのか王太子。初等部四年のとき、ようやくいけないと思ったのか我儘娘に婚約解消を持ちだしたが、我儘娘の我儘で未だに保留中らしい。つまり、まだまだ実質婚約者。お労しい…。幼なじみの中でも虐げられているようなポジションとか、怒っていいんですよ?と言いたくなる。
ていうか男子二人を侍らしていい気になってるなんて、ホントどうなの…?
このAクラスはそんな様子を見てきたからか、全員優しい。権力や不敬もあるだろうが、駄目令嬢を悪く言うことがない。むしろ、『あれは笑えたよな』『楽しかったですわ』と笑っていらっしゃるほど。良い人すぎる…!平民程度あっさり受け入れてくれるはずだ。むしろ構えていた自分が恥ずかしい。
今まで私があの令嬢から隠れていられるのも、クラスの皆の協力があるからだ。『リリーさん、来ますわよ。ほら、こっちにいらして。ここで隠れていましょう』『あ、王太子様が合図出された。チャップルさん、逃げたほうがいいよ』とアシストしてくれた。もうもう、本当に足を向けて眠れない。貴族が傲慢で馬鹿ばっかりとか言ったの誰だ。そんなの、あのご令嬢だけだ。
医務室の先生もドジだけど優しくて、『困ったことがあったら何でも相談してね!頼りないかもしれないけど、頑張るから!』と言ってくれた。先生はそのドジのままでいい。教会で下の子たちの面倒を見てきた私にとって、お世話する対象がいるほうが頑張れる。
女性とよく付き合っている先輩に声をかけられて困ったこともあった。私は平凡がいい。目立ちたくない。でも、そう伝えると先輩は他の女性を全部切って、あとは妹同然に可愛がっている中等部の子と仕事関係の人だけにしてきた。驚愕して間抜け面を晒してしまったが、先輩は『面白い顔!』と笑ってくれた。その行動力には驚いたけど、仕事してるってことも驚いたけど、先輩は面倒見がよくて貴族社会に慣れない私のサポートをしてくれた。センスもよくて、目立ちたくないといえばそれもわかってくれて、本当に親切で良い人だ。
だから、あの小悪の根源がいても、想像以上に楽しい学校生活を送っていた。
「……あ、リリー・チャップル」
そんなある日、王太子様に声をかけられた。
ばっと周りを見たが、いるのは王太子様一人。よかった、あの傲慢令嬢はいない…。
王太子様はそんな私の行動に、やや罰が悪そうな顔になる。
「セリアが迷惑をかけてすまない。普段はもっとまともなんだ。よほどお前に思い入れがあったんだろう。あそこまで壊れたのは初めて見る」
「そんな、お気になさらずに…」
「なんとか説得しているんだが、お前のことになると譲らなくて、セリアの頑固さは筋金入りだし…。……もう本当、フランツ助けて…ジオルク助けて…俺のせいじゃないし、俺の責任じゃないし…なんとかしろって、俺がセリアに逆らえないの皆知ってるくせに…。助けてセリアー…」
んん?
王太子様が、すごく情けない、泣きそうな顔をしてる?
「な、何か…あるんですか?」
「あ、や、なんでもないぞ!」
つい訊くと、王太子様は慌ててびしりと背筋を正した。……もしかして、弱味でも握られてるとか…?
「とにかく、お前には悪いが、セリアを刺激しないでくれ。―――セリアを怒らせないほうがいい」
真剣な目で言う王太子様。
何があったというのだろうか。
私は彼女から逃げているので三人が一緒にいるところを見る機会はほぼない。ただ垣間見る彼女の様子から、確かに外面はいいらしい、ということだけはわかる。それでも貴族なのに取り巻きの一人もいないんだから、嫌われ者なんだろうけど。
「……私は、大丈夫ですから」
私は逃してもらったけど、彼はまだ彼女に苦しめられている。
そう思うとたまらなくなった。
「私は大丈夫です。だから、…頑張りすぎないでください」
「………」
王太子様は目を見開いて、―――柔らかに微笑んだ。
「……ありがとう」
……その微笑みに、心を奪われたと言ったら、軽薄だと言われるだろうか。
いけない、身分がある。私みたいな平民が慕うなんて、恐れ多い。
でも頬が染まるのは隠しきれなかった。
そして王太子様の頬もほんのり染まっていたように見えたのは、私の妄想なのだろうか―――…。
◇◆◇◆
リリー・チャップル
本作におけるヒロイン。自称傍観系平凡モブ。
容姿がいいことを自覚していない。フラグを立てていることにも気づいていない鈍感さん。まさに乙女ゲー転生ものにおけるヒロイン。
常識人枠なので、セリアに関してはドン引きしている。第一印象がそれで、その後出会えないしセリアは恨んでいるので、正す場所がなく、とことん引いている。関わり合いたくないと逃亡中。
若干の誤解もある。クラスが平和だからセリアが許されているのではなく、あの三人組が平和だからクラスも気が抜けている。原因と結果が逆。
平民だから、と気遣って皆が面白エピソードを出して、『セリアも悪い人じゃない、傍から見てる分には面白い』とアピールしようとしたが裏目に出た。じゃあとセリアのスペックを開示したが、『だから傲慢なのか…』と斜め上に解釈された。リリーは周りの生徒がセリアの悪口を言わないのは権力のためだと信じて疑わない。あの第一印象じゃ仕方ないね!リリーは何も悪くない。ぶっ壊れてたセリアが悪い。
癒し系教師とスカイは落とされたが、後輩はゲーム展開を知っているのでリリーから逃げているので出てこない。彼の狙いは中等部の白髪少女です。まだ諦めてないよ!
フランツは意中の相手がいるし、妹を下手に刺激したくないのでリリーをさりげなく避けている。だからフラグも立っていない。
本来
主人公兼ヒロイン。
ヴィオラに影響されてお笑い要員も兼業することに。
趣味迷子、特技どじょうすくいのまさにお笑い要員だった。本来のリリーならセリアと仲良くなれたはず。
悪役令嬢の妨害にも負けず恋愛するが、悪役令嬢より攻略対象のほうがよほど敵であることには気づいていない。気づいた時にはもう遅い。
俺様王子はそのギャグで面白がられて落とした。
ドS公爵はヴィオラ張りのタフさで落とした。
癒し系教師は世話やきスキルと優しさで落とした。
優しい生徒会長は優秀さで落とした。
女遊び先輩は警戒心と容姿で落とした。
ミステリーな後輩は真心で落とした。
そして堕ちた。
第一印象って大事だねって話