現在再起動中につき登場人物紹介~第二王子と密偵~
くれぐれも気をつけろ、と言われていた。
あいつがそう言うんなら危険な人物なんだろうと警戒していたし、そんな人間に紹介するなと八つ当たりしたくもなった。
この話は俺の友人、エリオンが持ってきたものだ。
エリオンからは『取引で、俺の知る中で一番の腕利きの諜報員を紹介すると約束した』と正直に聞かされていた。取引材料に使われたことは嬉しくはないが、まあそう言われると、悪い気はしなかった。
エリオンは変わり者だ。
俺達みたいな、いわゆる汚れ仕事をやるやつや、いわゆる下賎の民と親しくしている。
王子なのに。
継承権第二位の、王族なのに。
エリオン自身も優秀だし、俺達仲が良いからって王家としての義務も忘れていない。国の安寧のために画策して、王家であることを捨てるつもりはないようだった。
じゃあ物見遊山なのかと言えば、そうでもない。
これでも人を見る目は長けている自信があるが、エリオンは純粋に俺達と親しくして、一緒に遊んで、普通に友達でいた。
つくづく不思議な男だと思う。人気取りかといえばそうでもなく、しかし虚心で接しているわけでもない。現に情報収集などで友人を使っているようだ。でもそれが目的ではなく、あるから使う、というような感じで、強かではあっても汚くはなかった。
そんな彼だから、自分も恩義だけでなく友情を感じているんだろう。
そう、恩義。俺はあいつに恩がある。
あいつに恩が出来たのは、俺がまだ未熟な弟子のころだった。
しくじった。
師匠に命じられて城に潜入したのまではいいが、見つかりそうになり慌てて隠れた先で、閉じ込められた。
いや、相手に悪気はなかったんだろう。俺にも気づいていなかったと思う。ただ、普通にドアの鍵を閉めただけ。
その中に侵入者がいるなんて、思ってもいなかっただろう。
さあ、どうしようか。
物置なのか、窓などはない。出入口は目の前のドアしかないが、鍵がかかっている。内側から開けることは考えていないのか、外側から南京錠をかけられていて、内側からは物理的に鍵に手が届かない。畜生、鍵穴があればピッキングぐらい出来るのに。
ついでに、体当たりなどしてドアを壊すことも出来ない。そんなことをして見つかれば牢屋行きだ。師匠にも見捨てられてしまう。
気長に誰かが開けるのを待つしかない。
そう決めて、数時間待った。
ああ、腹が減った…。
いっそ強行突破してやろうかと考え、ドアをこつりと叩いて強度を確かめると、
「あ、やっぱ人が入ってんだ」
ドアの外から子供の声がした。
びびった。
心底、それはもう心臓がひっくり返るかと思ったぐらい驚いた。
ドアを挟んでいるから気配を感じられず、足音に気づけなかったのだろう。
だがまさか息を潜めて見張られているとは思わなかった。
本気で、驚いた。
それでも奇声を発したりしない程度には俺もプロだった。
むしろ、子供なら与し易いと、チャンスだと思った。
「誰かいるの?隠れんぼしてたら閉じ込められちゃったの。開けてくれない?」
努めて、子供らしい声で言った。
「へー、誰と?」
相手も子供らしい声で、しかし非情に訊いてきた。
まるで、俺が答えられないと思って面白がっているような、そんな声色だ。
「トムとだよ」
「残念、お城にはトムって人もいるにはいるけど、今お使いに行ってて隠れんぼなんか出来ないんだよね。後は大人になっちゃうけど、それでも隠れんぼしてたの?」
「………」
まるで、じゃなくてまんまそうだった。
このガキぶっ殺してやろうかな。
「でも、トムって言ってたよ?」
「ん、オッケー。なら大人呼んできて鍵開けてもらうわ。兵隊さんも呼ばなきゃなー」
「………嘘ついてましたゴメンナサイ」
殺意を抑えこんで止めた。
なんか、このガキとやりあって勝てる気がしない。まずは出してもらってからだ。
「覗き見してたら人が来たから隠れたら、そのまま閉じ込められたんだよ。助けて」
「はい、ダウトー。そんだけなら嘘つく必要ねーだろ。つまりそれ以上のことしでかしたってこと。大人を呼ばれたくないってんだから、叱られるじゃ済まないことしたんだな」
「………」
「ついでに、お前数時間はそこにいただろ」
どきっとした。
ついでに、気づいてたならさっさと出せ、とも思った。
「あ、物音がしたからなんかあるなーって思ってただけで、特に確証はなかったです。あるならもっと早く声かけてたし。俺も俺で、数時間扉の前で読書するのはだるかったでーす」
「………」
「んで、その間、ほとんど音は聞こえなかった。隠れてる証拠。閉じ込められて途方にくれた子供がやることじゃねーよ。さらに俺が声をかけたことに驚かなかったことを合わせると、―――お前って、スパイさん?」
「………」
無言を貫いた。
それが、答えだ。
ドアを壊してこのガキの口を封じようか本気で迷ったが、ひとまずそれはやめた。意外とドアが頑丈そうで、壊してる間に人を呼ばれると思ったからだ。
ガキは軽い声でなおも続ける。
「お前も人呼ばれて牢屋行きたくねーだろ?取引しまショ?お前の素性と目的を素直に吐いて、俺に危害を加えないって約束してくれるなら、俺はお前を出して、見なかったことにしてやる。…ど?」
「俺が素直に言ってないって反故にされる気しかしない」
「だいじょーぶ、俺も約束破って殺されちゃうかもしれないんだから。ま、でもマジで大丈夫大丈夫、―――んなこと気にしてられないほど、あんた詰んでるから」
「………は?」
「ははっ、ここにおわすお方をどなたと心得るー、ってね。―――俺は第二王子のエリオン・サルトクリフ。継承権第二位の王族だ」
絶叫しなかったのは、本気で褒めて貰いたい。
いくらなんでも、何がなんでも王族に手は出せない。そんなことしたら国が全勢力を挙げて犯人探しに躍起になる。俺はその捜索をくぐり抜けられるほどでない、どころか、下手すれば現行犯で捕まる程度の腕だ。
ついでに俺も一応、この国の民だ。保身のために王族に手をかけるのは恐れ多いし、やりたくない。
掛け値なく、傷ひとつでもつけたら処刑ルートだ。
「わっかるよねー?あんた、紛いなりにもうちに侵入出来るぐらいの腕あんだし、俺サマに見つかった時点で詰んでるって、後はどのぐらい軽傷で済ませるかって話だって、わかるよねー?」
「………」
「ってわけで仲良くしまショ?まず、お名前はー?」
俺はこのくそ生意気なガキに、答えるしかなかった。
さすがに師匠のことなどを誤魔化したが、相手もそれをわかっているように「いーよいーよ、そのへんは適当で」と言ってくれた。どこまで見透かしてやがるんだ、と苛立ちが募った。
「そんじゃ、開けゴマー」
そして、実はそのまま引き渡されるんじゃないかと危惧したがそんなことはなく約束通りドアを開いて貰って、その先にいたガキに、目をひんむいた。
そこにはガキが、ちょこん、といた。
どっからみても幼児な、とても幼い子供が、いた。
「よっ、ウィル。改めて、エリオンだ。ちなみに四歳。よっろしくぅ」
四歳児に手玉に取られていたことに、俺のかすかなプライドは粉微塵に砕けた。
そこから、もうどーにでもなーれ、の心境になった俺に、「水飲む?」「トイレ大丈夫?」とエリオンが世話を焼いてくれて、腹が減ったと言えば「えー、今日のおやつ異国ので美味そうなのに…」とお菓子を渋々半分分けてくれた。
お菓子は甘くて、初めて食べた美味しさだった。あんな旨いものを食べたのは生まれて初めてだった。感動のあまりエリオンの分も力づくで奪ったけど悪かったと思ってる。
エリオンは四歳児とは思えないほど賢くて、聡くて、殴りたくなった。
いや、生意気だから、とかもあるが、嫉妬で、だ。
こんな賢いやつ、反則だ。
こんなやつと自分を比べたくない。比べて、自分が凡夫であることを実感したくない。自分で自分に幻滅したくない。
なんでこんなに賢いんだ。
なんでこんなに優秀なんだ。
レベルの違いを、安々と見せつけてくる。
こんなやつといたら、アンデンティティが崩壊する。
自分がわからなくなる。自己崩壊する。
だって今まで優秀だと自負していたのに、いかに矮小で愚かだったかをわからせてくるから。
こいつと相対評価したら、……役立たずのゴミでしかないと、評されるから。
エリオンは良いやつだ。王族なのに気さくで、約束も違えることはなかった。どころか、『あ、そいつなら邪魔なやつだから手伝うわ』と俺が手に入れていたより多くの重要機密をくれ、帰り道も安全に送ってくれた。また遊びに来いとも言ってくれた。
だからなんだかんだで友達付き合いを続けていた。
でも、本当にエリオンと理解しているとは、とてもじゃないが言えなかった。
エリオンは気さくで良いやつで、だから友達がいるだけで、『王子だから』と一線引く言い訳がなければ、頼ってくれなかったら、とてもじゃないが一緒にはいられない。
完璧じゃない。隙もある。だから人間味があって付き合えていた。
なんとか、友達でいられた。
―――きっと、エリオンと言い訳なしで心から親しくできるのは、対比して自分を卑下しないやつだけだ。元から、幻滅する余地もないほどの馬鹿か、あるいはエリオンと比べても遜色のないような同類。
「初めまして、セリア・ネーヴィアですわ」
今回エリオンに紹介されたのは、その後者。エリオンと並べても遜色ない、異端。
すっかり鍛えられた観察眼が、警戒音を発している。
ああ、こいつは駄目だな、と思った。
とにかく逃げろ、と本能が叫んでいる。
だから、脅して、背中を向けた。
ナイフで脅せば青ざめて泣きそうになっていたし、悲鳴をあげて取り乱していたし、油断していた。
エリオンがそもそも暴力に弱い質だから、こいつもそうだと思い込んでいた。
華奢な美少女だから、その見た目に騙されていた。
―――完璧で、隙がないそいつから、とにかく目を逸らしたい欲求を押さえ込めなかった。
「がっ…!?」
「―――背中が、がら空きよ?」
それが命取りだった。
震えていたはずの令嬢は、くすりと笑って俺の背中にナイフを突き立てていた。
油断してた、油断してた、油断してた、油断してた…!
脳内でアラームが鳴り響く。
短剣を抜いて、なんとか応戦したが、
「っ…!?」
ご令嬢は、その容貌に似合わず、腕が立った。
後から、近衛兵仕込みの剣術があると聞き、その実力に納得した。近衛兵って、忠誠心もあるが、かなり腕が立つやつらが行くポジションじゃねえか。そんなやつらに仕込まれてりゃ、そりゃ強いよな。『一度も勝てないのよね、この前惜しいところまで行ったのに…』とか悔しがっていたが、近衛兵といい勝負するとか、何目指してンだとツッコミたくなった。
それでも、やはり正当な、真っ当でお綺麗な剣術。
俺の敵ではない。
背中の傷が疼いているために攻め切れないだけで、万全の調子でやれば勝てる相手だ。
しかし傷の手当もしたいし、仕方ないから、ここは一度引いてやろう。
そう思い上がったのがいけなかったんだろう。
「良い忘れたけれど、そのナイフ、毒が塗ってあるわよ。新薬だから、解毒剤は私と師匠しか知らないわ。―――逃げたら死ぬわよ?」
「っ毒…!?」
虚を突かれ、その隙に彼女は武器を取り替えていた。
それまでの儀式用の、刃が潰されているサーベルを投げ捨て、ぬいぐるみに隠れていた刀を取り出した。
そう、刀だ。
刀身がやや沿っていて、『断つ』ことに比重をおいている、東洋の武器。
刃は片側しかないが、その切れ味は折り紙つきだ。
これも後から聞いた話だが、元々彼女は刀のほうが好きらしい。サーベルは決闘用に鍛えているだけで、刀は実戦用に鍛えているとか。貴族のお嬢様で、どんな実戦を想定しているんだと呆れれば、『いつ暗殺者が来ても返り討ちに出来るように』とすまし顔で言われた。何も言い返せなかった。
いずれにせよ、その実戦的すぎる、人を斬ることを念頭に置いた武器に、俺はさらに混乱した。
逃げないと、と逃げることを優先し、先ほどより汚く、容赦のなくなった斬撃からなんとか身を交わし、
―――スパァン、と頭を殴られた。
彼女はまたも、どこからか棒のようなもの――後で知ったが竹刀、というものらしい――を取り出して、それで俺の頭を打っていた。
威力は少ないが、打たれたのが頭だし、あの軽快な音。
呆然となった。
その俺に、彼女はくすりと、刀も竹刀も捨て、仕込み扇子を持って、笑った。
「そろそろ毒の効果が出始めるわよ。死にたくなかったら大人しくしてなさい。話を聞くことと引き換えに、手当してあげるわ」
お前どんだけ武器仕込んでンだよとかお前がつけた傷だとか毒を早く回らせるために応戦してたのかとか色々言いたかったが、その前に両手を挙げた。
降参だ。
「痛いわよ?しっかり苦痛に顔を歪めて頂戴」
「痛くないようにしろよ…」
「無理ね。それと、言わずもがなだけれど、片手に毒針持ってるから、あまり動かないほうがいいわよ。うっかり刺したらまた解毒しなきゃいけないもの」
「片手に毒針持って治療すンじゃねえよ…」
「だって、そうじゃないと安心して近づけないもの。当然でしょう?」
「あんたマジでお貴族のご令嬢かよ…信じらンねぇぜ…」
「エリオンだってそうでしょ?」
「エリオンは部屋中に武器仕込んだりしねぇよ…」
「まあ意外。でもそんなの関係なく、アウェーで意気がったあなたが悪いんじゃなくて?ここ、敵地よ?」
「敵地だったのか…」
手当はきちっとしていて、言うほど痛くもなかった。
手当のあと、令嬢は「じゃ、話しましょうか」と茶を持ってきて、茶を飲みながら話すことになった。
毒やら剣の腕前やらはともかく、仕草などは完璧な淑女なのに、俺みたいなやつと同席してもいいらしい。茶も自分で入れていたし、本当に変な令嬢だ。
「もう一度改めて自己紹介するわね。私はセリア・ネーヴィア。誇り高きネーヴィア家の長女よ。エリオンとは利害関係ね。情報収集してくれる手足が欲しいわ」
「………ウィル。エリオンのダチ。諜報員なンだが、暗殺のほうが好きだ」
「まあ、物騒ね。それは戦闘狂とかじゃなくて?」
「そっちのほうが向いてるっつーだけだ。サーベルより刀のほうが好き、ぐらいだ」
「なるほどね。…あ、菓子でも食べなさいよ。毒なんか入ってないから」
「信用できねぇよ…」
ゲンナリとそうは言ったが、彼女は平気で食べている。異国の菓子なのか、見たこともないものだ。茶もいい匂いがする。
………そっと一つだけ、割って何も入ってないことを確認して、欠片を舌に乗せた。
甘い。
美味い。
いただきます。
「マドレーヌ、気に入った?」
「美味ぇ。もうねぇのか」
「後で土産に包んであげるわ。で、気も緩んだところでビジネスの話に戻るのだけれど」
おっと忘れていた。
すぐに警戒をオンにする。
「今、仕事が入ってンだ。エリオンの紹介だから会っただけで、断るつもりだった」
「それはあの態度を見てたらわかるわよ。引き抜きに応じる気は?」
「ねえな。仕事放り出す気はねえ」
「じゃ、次空きが出来るのは?」
「さあねえ、俺にもわかンねぇわ」
俺はこの話を断るつもりだった。
最初から、エリオンから警告を聞かされた時点でもう断る気でいたが、令嬢とやりあった今では、そんなもん関係なく、何が何でも断ると決めていた。
こいつは、エリオンと同類だ。
ガキなのに、ガキらしくなくて、優秀すぎる。
エリオンは周りが潰そうとするほど優秀だったが、こいつは周りが潰れるほど有能だった。
エリオンはあれでもまだ幼げがあったが、こいつにはまるでない。もう大人であるかのように、成熟していた。
とにかく、避けて通りたい。
そう思わされる人物だった。
「じゃあ待つわ。その間に小さな仕事なら出来るんでしょう?頼める?」
「………遠回しに断ってンだよ」
「言うほど遠回しでもないけれど、それって無意味よ?だって私、あなたが断ってもエリオン経由で情報仕入れるもの」
「おい、エリオン」
「あなたはエリオンのお友達だもの、ひどいことはしないわよ。家名にかけて、給金の支払いを滞ることもしないわ。それでも嫌なの?」
「嫌だな。気に食わねえ」
「………ふうん、理解出来ないわね」
「あン?」
「だってそうでしょう?捨て駒にはしない、支払いはきちんとする、エリオンから保証もついている、それなのに断ろうとする気持ちがわからないわ。
あなた、エリオンからのスパイなんじゃないの?
適度に断って最終的に引き受けて、私の情報をエリオンに流すつもりなんじゃないの?
それとも、もしかしてエリオンはあなたにそんなこと、言わなかったの?
……あの子って、本当に友達思いね。折角密偵を送り込むチャンスなのに、友達の安全のほうを優先しちゃうなんて。馬鹿じゃないのかしら。
本当に、笑っちゃうほど良い子ね。
いいわ、いくらでも待ってあげるから、気が向いたら来なさい」
笑顔でそう言われて、意味がわからなかった。
これは俺が馬鹿なんじゃなくて、本気でこいつの言い分がわけがわからないんだと思う。
だって、エリオンが俺の安全のため、こんな危険人物と関わらせなかった、と、自分の利益より俺の安全と優先した、と言った直後に、自分のところに来い、と言った。
それは嘲るような、裏のある笑顔ではなく、優しくて清々しい笑みで。
分からない。
エリオンの気持ちは嬉しい。
でも、こいつの考えが、分からない。
「本当に、もう、いっそ良い子すぎて馬鹿だと思わない?」
困惑を見透かしたように、彼女は笑う。可笑しそうに、微笑ましそうに。
「私と一緒にいさせるのは危険だと思っているのに、私のところにいさせたいのよ。
だって、私のところなら、安全じゃない」
「………」
「あなたが私を嫌がるのも予測済み。だから強くは言えないし、強制も出来ない。私をスパイして欲しいって言わなかったのは、それを言えばあなたが嫌々でも引き受けてくれるってわかってて言わなかったのは、強制させたくなかったからと、危ないから。私が間者を切り捨てるリスクを少しでも減らしたかったのね。
で、私にわざわざ、どうでもいいような取引で紹介したのは、私が一番信用できるから。あなたをきちっと使って、使える駒を自分で傷つけないってわかってるから。エリオンへの義理だけじゃなくて、損得でも厚く扱うっていう、信用があるから。
ついでに、言わなくてもエリオンの意図を読み取れるって信用も、してくれたのかしら?あなたは飼い殺しにするには惜しい人材だし、そもそも性分が密偵に向いてる。だから引退もさせられない。けど、危ない目に合っているのは心配で、止めたい。
多分だけれど、あなた今、結構ヤバ目の仕事やってるんじゃないかしら。
だから心配したのよ、あの子。
私なら手駒を大事にするし、読み違えない限りさほど危険でもない。
そう考えて行動したけれど、よくよく冷静になって考えれみれば、あなたは私を嫌がりそう。スパイを頼んで事実上強制させるつもりだったけれど、情が出た。
で、引き継ぎもせず私に丸投げして、この結果よ。なんとか丸く収めてくれって、無茶はやめて欲しいわ。友達思いもいいけれど、信頼も嬉しいけれど、引導ぐらい自分で渡しなさいって話よね。
あなたが私のことを気に喰わないのはわかったわ。
でも、エリオンが心配する気持ちもわかってるの。だから、逃げ場になって、利用されてやるわよ。
気が向いたら来なさい。歓迎してあげるわ―――使える駒ならね」
エリオンの同類だ、と実感した。
あの生意気なガキに、年下の友人に、こいつは似ている。
エリオンより非道で完璧ではあるが、よく似ている。
―――身内に甘いところとか、それでもなお計算を忘れないところとかが、とても。
そう思うと、なんというか…、
「―――面白いな、お前」
意外性の塊で、面白い。
令嬢なのに、淑女なのに、貴族らしからぬ振る舞いが目立ち、汚くて強くて、そうかと思えば優しい。
なんだかとても、おかしいやつだ。
「あらどうも。…一応賄賂でも渡しとこうかしら。私の分の残りのマドレーヌ、食べてもいいわよ」
「っマジで!?あんた良いやつじゃねぇか!」
土産で渡されたマドレーヌと、追加で付いてきた焼き豚に、完全に落ちた。
仕事を早々に切り上げて、色々後始末をして、そいつの専属の諜報員になった。
言葉遣いは直されるが、結果さえ出せば五月蠅く言われないし、エリオンともよく会えるし、護衛とか面倒な仕事ないし、かなりいい職場だ。
さあ、今日もご主人に仕入れた情報を報告して、エリオンにも耳打ちしとくか。ご主人の情報は流さないが、このぐらいならただの世間話の範囲内だ。
ご主人の、一応現婚約者でエリオンの兄さんの王太子が、以前調べさせられたリリー・チャップルっつー女と内通してたってことだから、あいつも無関係じゃないだろ。
◇◆◇◆
ウィル
本作における従者キャラ。ほかに従者系がいなかった。
エリオンの友達で、観察眼に優れている。エリオンとセリアが同類でアレなことも見抜いている。見抜いていて、なお親しくしている。
現在はもう独り立ちして、人脈豊富なエリオンが『一番腕が立つ』というぐらいの腕前に成長している。暗殺系が好きだけど、殺人が好きなわけじゃなくてただの好み。諜報員というよりはアサシンだけど、まあどっちもできるし?って感じ。
初対面のときにエリオンから分けてもらった菓子が美味しくて美味しくて、それで甘いもの好きになった。
素では口が悪いが、セリアに現在矯正され中。
エリオンのことは大事な友達だと思っているし、セリアのことも結構気に入ってる。
本来
名も無き密偵。
セリアではなくジオルクの元に送り込まれることになっていた。
ただし、その時はエリオンも友達を気づかえるほどの余裕はなく、スパイとして行ってくれと頼んでジオルクのスパイをさせていた。
セリアが懸念していた密偵の正体。複数いるようにも見えたが、本当は全部この人が一人でやっていた。
ジオルクはあくまで諜報先。主はエリオン。だからジオルクに忠誠心なんかなかった。
エリオン・サルトクリフ
本作におけるMVP。一番すごい人。
前世の知識持ちのセリアと対等にお話できるすごいお方。前世知識とかの補正がなくても、幼少期から策略練っていた猛者。多分作中で一番の頭脳の持ち主。
セリアとは同類で良い利害関係。脳を酷使する影響か、甘いものが好き。セリアのお菓子は大好物。セリアもエリオンの情報が大好物。仲良しさんです。
友達や身内に甘いところがある。出来ないことがあるってこともわかってるからちゃんと周りに頼る。結果、友達沢山で意外と愛されてる。ここがぼっち予備軍なセリアとの違い。
第二王子なのに優秀すぎて、野心がないことを過剰なまでにアピールしないとバランスが取れないほど聡い。本気で国の一つ二つ乗っ取れそうなほどの才人。本人にそんなつもりはないのに。兄とのバランス考えて頑張ってる。だから兄を引き立ててくれたセリアには感謝してる。
本来
特典ディスクにおけるヒーロー。
様子見はしていたが、俺様王子の傲慢な性格に『駄目だこりゃ』と見切りをつけ、ウェーバー家を味方に付けてクーデターを起こそうと画策する。そのためにウィルをスパイとしてドS公爵に送り込む。
が、主人公のあたりで本格的に見捨てる。そのうち適当な罪で俺様王子を追放するなり暗殺するなりして、ドS公爵も『事故死』させ、優しい生徒会長も悪役令嬢の咎で没落させる。その準備と平行してウェーバーの将来の跡取り候補のプレシアに取り入り、好印象を与えて操る準備を整える。お互い家があるから結婚とかは一切考えてないけど。
そして正々堂々と国を乗っ取る。悪役令嬢と主人公?どうでもいいけど邪魔だから処刑逝っとく?癒し系教師は医療の腕を買われて生存可能。ただし主人公に拘泥していたらいつでも胴体と頭が別居しちゃう。女遊び先輩、ミステリーな後輩は権力もない端役なので基本スルー。でも逆らったらサヨナラだからね?という立場。
原作ゲームでの黒幕。ラスボス。倒すなんて無理ゲー。ご愁傷さまです。
自然と人に好かれるキャラがいるなら、自然と人に嫌われるキャラがいても良いと思う。
でもそれが主人公なのは正直どうかと自分でも思う。




