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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
やっとたどり着いた本編~高等部~
43/76

脇役だって人間だ。それぞれの人生を精一杯生きてる。

でもお願いだから、一回だけでいいから、殺させてくれない?

 「いや、マジでありえねえンだけど」

 「言葉遣い」

 「ご主人、マジぱねーです。ありえねーです。ドン引きです」

 「最近毒の種類が豊富でねぇ…」

 「すみませんでした!」


 一応今回初登場、エリオンから紹介してもらった諜報員のウィル。歳は兄の一つ上。普通に茶髪に茶色の目の、どこにでもいそうな中肉中背の男だ。

 これでも腕はかなりよくて、私が何度殺しに行っても逃げられる。毒は先生のお陰で精通しているから、それだけは私に分があるけど、それ以外は全然だ。色々教えてもらいつつ、密偵として仕事をしてもらっている。


 「……なんでこんな殺伐として主人に仕えてんだろ…エリオンからの紹介で、くれぐれも注意しろって言われたから断るつもりだったのに…貴族のお嬢様の小間使いとか嫌いなのに…」

 「そうね。あなたって諜報員とか密偵というより暗殺者だものね。アサシン、だっけ?」

 「はい…。…断りついでで脅そうと思って斬りかかったのが不味かったのか…?悲鳴をあげてるからって油断して背中を見せたのがいけなかったのか…?まさか後ろから刺されるなんて…!」

 「背を向けたあなたが悪いのよ?」

 「しかもまともに斬り合ったら強いし!マジで手強いし!背中の傷のせいで劣勢になったから逃げようとか思ったら、刺したナイフに毒が塗ってあるとか…!」

 「基本でしょ?」

 「暗殺者のでしょうがそれは!ご主人みたいなお貴族様の常識じゃあないでしょう!…それで解毒剤を渡す代わりにって交渉されて…俺は、もう…」

 「最終的に、面白いって言って決めたのはあなたじゃない。恨むならそのときの自分を恨むのね」

 「ううう、優しく丁寧に手当とかされたら、情の一つも湧きますよ!その間も毒針構えてるとか、容赦なさすぎて心折れますよ!なんか同類っぽいんですもん!」

 「仲良しさんね」

 「ご主人殺伐すぎるし、任務もマジで密偵とか人を陥れるのばっかだし、護衛なんて言われたこともないし…」

 「え?必要なの?」

 「ないッスね。俺以上の手練でも来ない限り不要ッスね」

 「じゃあいいじゃない。お給料もきちっと払ってるし、殺しに行っても毎回逃げられるし、何が不満なの?」

 「…もう、殺しに来られるのはいいです。ご主人に殺されるほどじゃないですし、最近めきめき腕上げてるから怖いですけど、本気でやばくなったらやめてくれそうですし」

 「自分で自分の駒壊しはしないわよ。当然じゃない」

 「腕試しですよね、自分と俺の。俺も、緊張感があるし腕も鈍らないし、それはいいです。むしろメリットです。仕返しで殺しに行っても許されるし」

 「ただ私に傷は付けられないから寸止めになるけどね。で?何が不満なのよ」

 「エリオンとの会談のときは、友達だからって同席を許してくれますよね」

 「ええ。使用人だから一応傍に立たせてるし、厳密には同席ではないけれど」

 「そこですよ!」

 「そこ?」

 「疲れたら座ってもいいって言ってくれるし、お茶も出してくれるから同席で良いと思いますが、ご主人は最初は俺を数に入れてない!そうですね!」

 「そうよ」

 「それなんですよ!―――なんで俺には菓子がないんですか!」

 「そこ?」

 「そこです!人間の三大欲求、食欲睡眠欲性欲の一つです!任務中抜けだして遊びに行ったらあいつ、チョコレートなんて高級品食ってんですよ!?ネーヴィア商会の大人気商品、チョコレートを!俺も欲しいって言っても、見せびらかすだけで一口も分けてくれない!ちょこたると、とかいう菓子らしいけど、どれだけ美味しいか散々語っておいて…!」

 「あ、それ私がエリオンにあげたのだわ」

 「っ俺も欲しいです!」

 「任務中に抜け出して友達のところに遊びに行ってる身で何言ってるのよ。ていうか本当になにしてるのよ」

 「抜けても任務に支障はないからいいんです!それよりチョコレート下さい!エリオンにチョコレートなんて贅沢です!」

 「いや、あの子一応王族だから。王子だから。贅沢でもなんでもないわよ」

 「っじゃあご主人は!?」

 「ネーヴィア商会作ったの私だし。チョコレートの原料が採れる地域が領地内にあるし。チョコレート三昧の毎日よ」

 「っブッ殺してやらぁあああ!!」


 ウィルがどこからか出したナイフを持って襲いかかってきた。

 これは流れで予想出来ていたので、ウィルが来る方に本日のお茶菓子、チョコチップスコーンをさっと出した。

 ウィルははっとして、チョコチップスコーンの手前でナイフを寸止めする。全速力で襲いかかっておいてぴたりと止まれるなんて、そうできることじゃない。やはりウィルは腕の立つ密偵なんだろう。


 「こ、これは…?」

 「あなたと業務連絡を終えたら、レイヴァンたちと生徒会室に行くの。その時の手土産よ」


 現在、お兄様は生徒会長を務めているが、私達もそれに便乗して生徒会に入ろうと思っている。レイヴァンを生徒会長に、というのは難しいだろうが、お兄様が生徒会長なら下働きでもいいわ。お兄様と過ごせるなんて幸せ。精一杯良い子ぶっちゃうわ。

 というわけでお兄様とレイヴァンとジオルクと、ついでに生徒会に人たちにお茶菓子でも提供していい子ぶろうという魂胆だ。


 「だから、これって後で必要なのよねえ。ヴィオラや後輩やスカイとのお茶菓子ならなくてもいいのだけれど」

 「そ、そんな…!チョコレート様が目の前にいるのに…!」

 「………あんたね、雇い主に様付けないくせに菓子にはつけるって何よ」

 「ご主人が好きにしろって言ったんでしょう。お要望なら今度からチョコレートのご令嬢って呼びますよ」

 「やめて頂戴。……で、話を戻すのだけれど、…これ、人数分ぴったりじゃないのよね」

 「っ!!」

 「渡らないってことがないようにやや多目に持ってきてはいるんだけれど、…ねえ?足らなかったら困るわよねえ?」

 「き、きっと一つぐらいなら大丈夫ですって!ご主人が我慢すればいいだけです!ご主人が欲しいって言ったら王太子もウェーバーもくれますよ!」

 「そりゃね。…でも、あの二人の分もないと、寂しいわあ…」

 「平気ですって!ウェーバーは甘いもの苦手なんでしょう!?だから俺にください!甘いもの好きです!」

 「甘いものって言ったら、エリオンにこの前のお礼してなかったわ。残ったら残り全部あの子にあげようかしら」

 「エリオンへのお礼参りなら俺がしますから!あのクソガキをご主人に逆らわないように体に教えてやっときますから!」

 「まあ、全ては余ってからの話よね。余らないかもしれないし、余っても生徒会の方が召し上がるかもしれないし」

 「ご、ご主人…!」

 「生徒会の方って、何人いて、どんな方々なのかしら?」

 「っすぐに調べてきます!!」


 ウィルは風のように……は消えなかったけど、ダッシュで校舎に向かって行った。まあここ屋外だし。周りに隠れるような場所ないし。ダッシュするしかないわよね。


 「っお待たせしました!」

 「あら、早い」


 そして三分も待たない内にウィルが現れた。早すぎる。


 「いえ、どうせご主人が言うだろうと思ってたんで、生徒会の人間についてはすでに調べてました。今は生徒会室の人数を見に行っただけです」

 「ぶっ殺すわよ」

 「用意周到と言ってください」


 目にペーパーナイフを突き刺してやろうとしたが、あっさり避けられた。私もまだまだね…。


 「それで?どうなの?」

 「はい。まず生徒会室には五人いました。ご主人のお兄さんもいましたよ」

 「六人、ね…。…それは役員の人数でしょう?生徒会の使いっ走り、もとい生徒会庶務も合わせた人数は?」

 「………ちっ。十一人です」

 「あなた今、舌打ちした?雇い主に向かって舌打ちした?ていうかお兄様を出しておけば簡単に誤魔化されるって思ってない?」

 「違うんですか!?」

 「何その驚きよう!一発殴らせなさいよ!」

 「ご主人の拳は重いから嫌です。マジで痛いッス」

 「殺意がこもってるもの。それで?」

 「生徒会長、副会長、書記、会計、広報、全員勢揃いでした。庶務は六人いましたが、ご主人一行がくれば遠慮して逃げ出すような輩です。つまりご主人たちを合わせて、実質八人です」

 「督促がしつこいわよ。どんな感じだった?」

 「生徒会長は腹黒で、副会長は片眼鏡なんてかけてるギザ野郎で、書記は居眠り、会計は退屈そうで、広報は鏡とにらめっこでした。会議ではなく、ただ雑談していただけのようでした」

 「ふうん…。怪しい人物は?」

 「お兄さんが大丈夫ならそれ以上はいないかと…。……つかてめー以上の強者なンてそうそういねーだろ。警戒してンのか逆に滑稽だぜぇ…」

 「今、何か言った?」

 「いいえ、何も」

 「ならいいわ。口は慎みなさい。…まあ、八人なら、四つほど余るわね」

 「十二しか作ってなかったんですか!もっとあンのかと思った!」

 「言葉遣い。全部エリオンにあげてもいいのよ」

 「ご主人の厚意に感謝します」

 「貰うのは決定なのね…。…まあいいわ。じゃ、これね。あとオマケで単体のチョコレートも」

 「っマジッスか!?ご主人ぱねえ!最高ッス!」

 「はいはい。あとスコーンは紅茶と食べなさいよ。口の中がパサパサになるから。厨房の私専用棚の一番左の手前にある、黄色い箱に入ったお茶っ葉で紅茶を入れたらいいわ。何ならお茶っ葉だけ持ってエリオンのところに行ってもいいわよ」

 「あいつにスコーン取られそうだからやめとく。じゃあご主人、お先に失礼します」


 ウィルがそそくさと去っていく。ご機嫌だ。実はスコーンは十六作ってきたから、あと四つ余りがあるんだけど、それは別の人にあげることにしよう。エリオンあたりにあげたら自慢してくれそうでいいな。


 「セリア、そんなところでなにしてるんだ?さっきの、誰だ?」


 心中でほくそ笑んでいたら、レイヴァンに声をかけられた。そろそろ待ち合わせの時間だったらしい。そちらに行く。


 「ほら、第四の方よ。偶然出会ったからお話してたの」

 「ふーん」


 ウィルは目立たないから、第四の、と言っておけば疑われない。兄にだと苦しいところがあるが、レイヴァンなら問題ない。三つも上の学年の、どうでもいい人間まで把握してはいないだろうから。


 それからジオルクを待ち、三人で生徒会に行った。




 生徒会の役員は無駄に濃かった。


 「へえ?会長の妹さん、ねえ…」

 陰険片眼鏡の副会長。


 「ふーん…。ふわぁあ…僕ねむーい…」

 いつも寝ている書記。


 「あははは!なにそれ君たち面白そー!」

 明るく子供っぽい会計。


 「ふん、まあまあ認めてやってもいいわ。私ほどじゃないけど、美しいじゃない」

 紅一点、ナルシストの広報。


 この先二度と登場しないような人物のくせに、やたらと濃かった。ていうか、王太子にその態度って傍若無人にも程があるでしょ。兄がにっこり笑っていたから何も言わないでおいたが、本来なら怒っているところだ。兄が後でお仕置きする、と微笑んでいたから見逃したけど。


 そういえば、ゲームでも生徒会役員は出ていた。脇役のくせに妙に濃くて、じゃあ重要な役割をするかと思えばそうでもない。優しい生徒会長との仲を取り持ったりとか、そんなの全然だった。あれには『背景のくせに濃すぎだろ!』と画面に向かってツッコミをいれたものだ。


 その日は主にお兄様と楽しい時間を過ごして、翌日の放課後。

 後輩と会合だ。

 もっと早くに話したかったのだけど、先生と話したりエリオンと情報交換したりプレシアと打ち合わせしたりスカイと罵り合ったりヴィオラを虐げたり兄と家族団らんしたり祖父と国政について考えたり商会の仕事を片付けたり密偵と業務連絡したりレイヴァンとジオルクとまったりしたり、いろいろ忙しかったのだ。ていうかこうして見ると本当に忙しそうね、私。よく頑張ってるわ。今度の休み、ジオルクが誘ってくれた観劇でゆっくり羽を伸ばしましょ。ジオルクとレイヴァンは、『通算四十二回目にしてやっと二人での出かけに承諾してくれた…!』『おめでとうジオルク!あとはプランニングだけだな!』とか騒いでたけど、何なのかしら。それにしても、レイヴァンも来られればよかったのに、用事があるなんて残念だわ。二人じゃどうせ喧嘩になるし、お兄様でも誘おうかしら。


 脱線自重。

 とにかく、後輩に会いに行った。


 「あ、先輩。リリーどうでした?」

 「ッシャァアアアアルラァアアアップ!!!」


 後輩を叱りつけた。


 「せ、せんぱい…?」

 「っあんな子リリーじゃないわ!面白みの欠片もない、あんなのリリーじゃない!あんな子のために頑張ってたわけじゃない!あんな子許さない!絶対許さない!嵌めて学園にいられないようにしてやる…!」

 「先輩が悪役令嬢にチェンジした!?」

 「なんであの子ああなのよ!あんたがなんかしたんでしょそうなんでしょうそうじゃないとおかしいわ!ブッ殺す!!」

 「え、えええ!?俺何もしてないですから!違います!」

 「じゃあなんであの子ああなのよ!おかしいじゃない!ていうかあんたのせいじゃなくてもそうだってことで八つ当たりさせなさいよ!殴らせなさいよ蹴らせなさいよ殺させなさいよ!」

 「嫌に決まってます!八つ当たりってわかってるならやめてくださいよ!」

 「うっさいわね、あんたもこの学園にいられなくしてやるわよ!ネーヴィア舐めんじゃないわよ!」

 「悪役令嬢だー!」


 怒鳴りつけて少しすっきりしたところで、話を戻す。


 「で、どういうことなの?これって私達の他にも前世の記憶持ちがいるってことなの?」

 「かもしれないッスね。俺達だけって保証はないんだし…」

 「つまりあの子の身辺の怪しい人間をぶっ殺せばいいのね?」

 「違います」

 「じゃあ誰を殺すの?」

 「誰も殺さないで下さい。…でも、転生者なら、リリーの友達かもしれませんね」

 「リリーの友達?…ああ、学園のことについて手紙を出したりしてる相手ね。市井の子で、昔から一緒で仲が良いんだっけ?」

 「え?……そっか、詳しく出たのは特典ディスクのほうだから…」

 「何よ、そういえば特典で主人公の過去が詳しく語られて、その友達についても出てたとか言ってたけど…」

 「はい。リリーは孤児で、ある教会の前に捨てられていたからそこで育てられたんですけど、一緒に教会で育った同い年の女の子がいるんです。その子が明るくて面白くて、とても大事な親友だ、と言っていました」

 「…なるほど。リリーの人格形成に深く携わっているわけね。その友達に何かあったから、リリーは面白みもない真人間になっちゃった、と…」

 「その子は親に捨てられて教会に来たらしいんですけど、いつも明るくて自分のあこがれだ、とまで言ってましたからね。そうだと思います」

 「それで?その子の名前は?」

 「調べるんですか?殺さないでくださいよ?―――ヴィオラです」

 「………は?」


 間抜け面を晒してしまった。

 でも、脳が追いつかない。

 後輩は待たずに続ける。


 「ヴィオラ、という女の子がリリーの親友です。リリーが学園に行くときに『何かあったら保健室登校だよ!』と示唆したことや顔立ちから、癒し系教師の妹だと推定されています」


 脳が、理解を拒否した。



主人公がやっと登場したので、一気に投稿しました!

ストックはこれで出し切ったので、今後更新は遅くなると思いますが、愛想を尽かさないでやってくださいお願いしますm(_ _)m

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