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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる事前準備~中等部~
39/76

腹黒の妹は腹黒。腹黒は腹黒を呼ぶ。

反省してます。本当に。

 セリアとエリオンが、嬉々として男性たちを連行して行く。


 「……あれ、確か侯爵の息子だよな…だからあんな偉ぶってたのか…」

 「いきなり振られて普通に乗れるあいつもあいつだがな。俺が言えた義理ではないが」

 「ジオルクもノリいいもんな…」


 レイヴァンとジオルクはもう諦めきった目でそれを見送った。


 「やあ、二人とも。面白い茶番だったね」


 二人で雑談でもしようかとしていたところに来たのは、フランツ。

 二人とも、即座に目を輝かせた。


 「フランツ!俺達より女のほうがいいんだな!ひどいぞ!」

 「レイヴァンより優先するなんて、国家反逆罪だな。処刑されたくなければ少しここにいろ」

 「あははっ、ごめんね。レイヴァンとジオルクも大事だよ。勿論、セリアもね」

 「セリア、フランツがいなくても仕方ないって言ったんだ。自分は家で会えるからって余裕ぶって。ひどいだろ」

 「男装したあいつが、思いの外フランツに似ていて驚いたが、内面はまるで似ていないな。あいつは尊敬する気にもなれない」

 「セリアはセリアだからね。仕方ないよ」


 仕方ない、か…、とジオルクが繰り返し、フランツを真剣な目で見つめた。


 「なあ、聞きたいんだが、……ちゃんと好きだと告白して求婚しても、なんであいつは本気にしないんだ…?」


 二人共、黙ってそっと目を逸らした。

 彼らの頭痛の種である彼女に関しては、何も言えない。そのレベルで、彼女は彼女だ。


 「フランツ、お前があいつの兄で、あいつに限らず周りをよく見ている賢人であることを見込んで、頼む。どうか助けてくれ。どうやったらあいつに伝わるんだ?最近はもう誤魔化したり回りくどくしたりせず、誤解のされようがない表現で言っているのに、なんであいつには伝わらないんだ?」

 「ジオルク…いくらフランツにでも、無理はあるから…。無茶言うなよ…」


 セリアに教育(ちょうきょう)を受けてきたレイヴァンは、すでに諦め顔で諭す。


 「なんたって、セリアは三歳のときに宰相室に乗り込んで大人顔負けの議論して、あの優秀な宰相室の人員をねじ伏せたんだぞ?当の宰相だって、セリアの言うことがもっともだって採用したぐらいだぞ?その後、宰相の相方として仕切ってるんだぞ?そんなセリアを言い負かすなんて、無理だろ」

 「………非常に口惜しいが、今回はあいつを地べたに這いつくばらせなくても良い。こ、婚約も、追々努力する。ただ、俺があいつに求婚していることを理解して欲しいだけだなんだ」

 「………なんでジオルクもセリアも好きな相手をいじめるのが好きなんだろ…?俺はジオルクもセリアもいじめたくないぞ。だからいじめるな」

 「愛ゆえだ。受け入れろ」

 「やだ。あんな愛情表現認めない」

 「………ジオルク、二点ほど確認があるんだけど…」


 そこで、それまで考えていたフランツが会話に加わった。


 「なんだ?なんでも聞いてくれ」

 「どんな風にするんだ?俺に出来ることならなんでも協力するから!」


 途端、期待に満ちた眼差しで二人はフランツを見る。フランツが良案を思いつくと信じて疑わない瞳をしている。

 フランツは密かに、その期待が重いなあ、と心中で苦笑する。自分がこの優秀な友人二人からここまで尊敬されるような才人でも人格者でもないことは、他ならぬ自分が一番よくわかっている。

 でも、その期待が嬉しかったりするんだから、自分もほとほと馬鹿だよね、と目を細めて、「あのね」と話しだす。


 「まず、ジオルクはセリアに思いを伝えたいの?それとも求婚してるってことを伝えたいの?」

 「できれば両方。だがどちらかと言えば…」

 「求婚のほうだろ。ジオルク、言っとくけどな、セリアが俺の女避けになってたのと同じように、俺もセリアの男避けになってたんだぞ。セリアほどいい女はいないからな」

 「……それはあいつがお前の飼い主だからそう感じるようにされているだけだろう」

 「違う。目を逸らすなよ。セリアは―――保護者受けが、すごくいいんだ」

 「……っ!?」

 「俺の時も、俺の親に自分の有用性をプレゼンして、とにかく気に入られて婚約結んだんだぞ?婚約破棄を申し出た時も、『友人がセリアに惚れているから』『セリアは婚約とかなしでもよくしてくれるから』『宰相継ぐ予定のフランツで釣ってでも出仕させるから』って言って、なんとか許して貰えたんだからな。あの時の父上と母上、すっごく怖かったんだからな!偶然セリアが遊びに来て乱入してくれなかったら泣いてたぞ!」

 「そ、それはすまなかった…」

 「だから、上手く行かなかったら許さないからな!せめて婚約だけでもして縛り付けないと、他国になんて嫁がれたら、俺、本当に追放される…!エリオンがいるからって継承権剥奪される…!」

 「セリアは本当に大人受けがいいからねえ。よしよし、レイヴァン、大丈夫だよ。もしそうなったらレイヴァンのお父さんが黙ってないから。俺もジオルクも一緒に、なんとか陛下を説得するから」

 「ありがとうフランツ…!とにかく、だから婚約優先で!セリアの性格なら、親と商談して利益があると踏めばそこに嫁ぐぞ!相手の顔も名前も知らないままでもな!」

 「うんうん、レイヴァンはそれやられたもんね。経験談だもんね。……ジオルク、レイヴァンのためにも、婚約優先でいいかな?」

 「ああ…。その、すまない、レイヴァン…」

 「幸せにならないと許さない…!下手なことしたら、セリアのおかげでまだ婚約中だし、かっさらって行ってやる…!」

 「ははっ、セリアは人気者でいいね。兄として嬉しいよ。じゃあ婚約なんだけど」

 「何をしたらいいんだ?」

 「どう協力したらいいんだ?」

 「先に、やっちゃいけないことの確認からするよ?」


 フランツが気が早い二人を笑顔でなだめる。


 「まず、消去法は駄目。他の選択肢全部潰して、残った本命を選ばせるってのは、セリアに対しては絶対にやっちゃ駄目。どっかからとんでも案を作り出しちゃうから」


 三歳のセリアがゲームシナリオに逆らうため選択した消去法を真っ先に却下するフランツ。


 「次、こっそり外堀を埋めるのも駄目。途中で勘付かれたら確実に修復不可能なほど壊されるし、上手く行っても拗ねて意地だけで嫌がらせをしてくるから」


 世のヤンデレが大好きな外堀埋めも却下。


 「最後、真っ向から告白も、無駄だったでしょ?仮に伝わっても、セリアはセリアだから一筋縄じゃいかない。長期戦になる。これは平行してやって行ったらいいけど、ひとまずはレイヴァンのために却下」


 原点復帰の真っ向からも却下。

 じゃあもう何をしたらいいんだ、と自分を見つめてくる二人にフランツは、


 「セリアへの有効的なアピールは一つ、―――自分の有用性と結婚によって得られる利益を説くことだよ」


 あのセリアの兄なんだなあ、と思わせることを言った。




 「え?逆に、他にどんな方法があるの?だってセリアだよ?猪突猛進で結構短絡的で自分勝手でそのくせ優秀で要領のいい世渡り上手だよ?お祖父様や親に話を通してもいいけど、セリアが納得出来ないと論破されちゃうし、それならもっと条件のいいのをって見繕ってきちゃうから、とにかくセリアを説得しないと駄目でしょ?」

 「……具体的には?」

 「そうだねえ、ジオルクと結婚したらジオルクはセリアの行動に一切口出ししないから、とか言って好きに商売させることを条件に持ち出すとか?一緒に俺とプレシアがお願いしたら結構いい線行くかも。あとウェーバーの領地って水が豊富だよね。その利水権で交渉するとか、親戚を徹底的に追い出すからそれを特等席で見ないかって誘うとか、レイヴァンが泣いて傍にいてくれって縋るとか、そのあたりかな?」

 「………」

 「一番真っ当で望み薄なのはジオルクが国一番の優良物件になってセリアに熱烈に求婚すること。手段を問わないなら一番うまく行きそうなのは、ジオルクがお酒に酔ったフリでもして、人目のある中でセリアに迫って、なんとかセリアを寝所に連れ込んで既成事実作っちゃうこと。翌朝に謝罪して責任取るって言えば、さすがのセリアも渋々婚約はしてくれると思うよ。お手つきになったら自分の価値が減ることをちゃんとわかってるからね」

 「………」

 「問題は、セリアって負けん気が強いから、決闘で負けないためにお城の近衛兵に頼んで、相当鍛えてもらってることなんだよねえ。無理やり押し切るには強すぎるから、セリアにも騙してお酒でも飲ませなきゃいけないね。俺が頼んだら行けるかな?警戒して断っても、言いくるめて飲ませるけど。いっそ熱でも出してくれたらその時に襲わせるんだけど、無駄に健康なんだよねえ。……ところで二人とも、なんでそんなに震えてるの?」

 「………フランツがセリアの兄なんだって再認しただけだ…。そう、だよな…あのセリアの兄で、ただの良い人なわけがないよなあ…」

 「フランツがただの聖人ではなく、あいつの邪悪さも持ち合わせながら善人であることの感動に打ち震えている。よし、フランツが考えてくれた案で行こう。よく考えたらあの女に嫌われたからなんだという話だ。嫌がるのを手篭めにするのも楽しそうだ」

 「ジオルクがフランツを尊敬しすぎてる…!?」

 「照れるなあ。じゃあ手引きするから夜這いでもかけちゃって」

 「フランツのセリアの扱いがひどい!?駄目だ、セリアを守れるのは俺しかいない…!セリアを魔の手から守らないと…!」


 レイヴァンがセリアを守るため立ち向かい、「ちゃんとセリアのことも考えてるよ。ジオルクにならセリアを任せられるって思ったから後押ししてるだけだから」「好きだと正面切って言っても通じない女に好意をわからせるにはそのぐらいするしかないと思う」と反論を受けたじたじになっているところで、


 「あらレイヴァン、泣きそうな顔だけれど、誰かにいじめられでもしたの?」


 セリアが帰ってきた。

 レイヴァンは即座にセリアに飛びついた。


 「っセリア!大変なんだ!この二人がセリアにひどいことしようとしてるんだ!」

 「……ああ、お兄様が悪巧みしてジオルクがそれに乗って、被害を被りそうな私をあなたが守ってくれたのね。ありがとうレイヴァン。もう大丈夫よ。怖かったわね」

 「セリア…!」


 うるうるとセリアにしがみつくレイヴァン。セリアも優しく微笑んでレイヴァンを撫でてやっている。


 「義姉様、やっぱり兄さんと結婚しませんか?」


 セリアと一緒に来たエリオンが、その二人の様子を見てにこやかに言う。


 「それも悪くないわね。でも今夜の私のパートナーはスカイなのよ」

 「では、スカイ様と…?」


 探るように問うエリオンに、ジオルクが睨みつける。が、エリオンはわかっているというように、実にチャーミングにウインクを返した。


 「スカイとなんて、ありえないわね。スカイに嫁ぐぐらいなら、まだあなたに嫁いだほうがマシよ」

 「じゃあ僕のところに来ますか?歓迎しますよ?」

 「とっても魅力的な申し出だけれど、あなたとはお友達のままのほうが上手く行くと思うの」

 「セリア様と僕が手を結べば、王権ぐらい取れますよ」

 「そうね、レイヴァン王権の参謀になれるわね。あなたは敵対国の内部掌握担当ね。私は友好国を乗っ取ってよりよく動かすわ。他国に行っても忠誠はレイヴァンに、レイヴァン王万歳」

 「え?友好国って…あれ、冗談じゃなかったんですか?」


 それまでにこやかだったエリオンが、怪訝そうな表情になる。


 「あそこですよね?セリア様が行くほどの国で友好国と言えば。でも、あそこの王子は婚約者がいて、しかも好色で知られていますが…。本気なんですか?まともそうな末の王子に取り行って王権を取らせるのですか?」

 「本気よ。それに、そんなまどろっこしいことしないわよ。現行の王に後妻として嫁いで実権握って、年老いた王に代わって政権握るだけよ」

 「っあんたものすげえこと考えるな!?」

 「邪魔になれば先生から習った薬を使って、自然死にしか見えないように殺すわ」

 「先生が泣いてるぞ!そんな使い方させたくて教えたわけじゃねえって!」

 「好色王子を始めとして、まともな末の王子以外は適当に理由を付けて臣籍に下して、末の王子のところに国の適当な娘を嫁がせておいて、その子供を後継者にするわ。気づけば属国だったっていう素敵なサプライズプレゼントよ」

 「そんなサプライズいらねえ!」

 「あなたも頑張って、レイヴァンへの貢物をこしらえるのよ?最低でも国一つレベルね」

 「兄さんどんだけ覇王なんだよ!最低で国って!」

 「最高は、無能な政治をし始めた場合、極刑をあげることよ」

 「っ兄さん逃げて!」

 「大丈夫、私とあなたが組めば、国の二つ三つ軽いわ」

 「俺とあんたが敵対国と友好国を落とすことは確定なんですね!あとはこの国を落とすかどうかなんですね!兄さん超頑張って!」

 「エリオン、レイヴァンにばかり頼るのはいけないと思うわ。あなたも頑張らなきゃ駄目よ?」

 「俺に政権とれって!?俺が積極的に国取りしろって!?」

 「そんなことは言ってないわよ。ただ、世の中には傀儡政権ってものがあってね…」

 「うわあそれは素敵だなあ!もう本当、ボクお姉さんに一生ついていくよ!」

 「ま、冗談よ」

 「冗談じゃなかったら怖いわ。あんたならやりかねないって思うところが最高に怖いわ」

 「ていうかあなた、地が出てるけどいいの?」

 「いーのいーの、出ちゃったもんは仕方ないし。これであんたに直接文句が言えるし」

 「何よ、文句って」

 「あんたさあ、兄さんも含めて、今結婚したいって相手いる?あ、他国の王とかはなしで」

 「国内なら、残念だけれど、レイヴァンを含めて、いないのよね」

 「身近な男なら結構いる気がするけど?俺とスカイが駄目でも、その他には?」

 「まずお兄様はお兄様だから駄目でしょう?レイヴァンは、嫌って言うんだもの。独り立ちしたいのなら止めないわ。ジオルクは妻で敵だし、先生はドジで先生でヴィオラがいるから絶対嫌だし、後輩は生理的に無理だし、お城で仲良くしてもらっている人たちは既婚者ばかりだもの。無理ね。ないわ」

 「じゃあ、その中で一番マシなの?」

 「そりゃ勿論レイヴァンよ。婚約したぐらいだもの。あの中でどうしても一人選べって言うんなら、レイヴァンね」

 「じゃ、次は?」

 「次?……そうねえ…」


 セリアが考えるように視線を落として、


 「じゃあジオルクね」


 と言った。

 ジオルクが出てくる前に、エリオンが「どうして?」と訊く。


 「だって、あなたとは政治的な理由で無理でしょう?他国に婚約者もいるし、何より手を組んだら冗談じゃなく、国一つぐらいなら余裕で取れるじゃない。お兄様はお兄様だし、意中の方がいるから端から無理。先生と後輩と既婚者も選考外。スカイも、お友達にならいいけれど、あんな悪条件ばかりのところと縁を結びたくないわ。そもそも異性じゃないし。その点ジオルクは、一応釣り合う家柄で、喧嘩ばかりの敵だけれど息は合うし、昔から一緒で気心しれてるもの。レイヴァンが駄目ならジオルクね。次がスカイで、その次にあなた。他は何があっても無理」

 「じゃ、兄さんとの縁談が壊れた以上、ウェーバーのとくっつく気はないの?今、求婚されてんでしょ?」

 「それより国乗っとり作戦のほうがときめくわ。ふふふ、まかせてレイヴァン、王権を取った祝の品は、属国よ」

 「兄さんは絶対、そんなもの望んでないと思う」

 「あ、ああ!属国なんていらないから!それよりセリアが国外に出るほうが嫌だ!ずっと一緒って、言ったじゃないか!」

 「言ってないわよ」

 「言ってないけど!」

 「じゃあ、何が欲しいの?言ってご覧なさい」

 「えーと、じゃあ前作ってくれた上生菓子、煉切が良い」

 「じゃ、属国ね」

 「言えって言ったのに!」

 「言えとは言ったけれど、それを叶えるとは言ってないわ」

 「セリアの馬鹿!あれ食べたいのに!美味しかったのに!」

 「え、何作ったの?菓子ってことは甘いの?甘いの?」

 「我儘言わないの、レイヴァン。弟が見てるでしょう。エリオン、お菓子と聞いた途端に目を輝かせないで頂戴。甘いことは甘いけれど、あれ作るの面倒なのよ」

 「……ああ、すごいやりきった感を漂わせて持ってきたあれか。抹茶とかいう苦い茶と一緒に食ったな。美味かった」

 「無駄に凝って、色んな花の形のとか、くず餅、だっけ?透明なのをくっつけたのとか、いろいろ作ってたよね」

 「ねーちゃん、俺も食べたい!俺も!俺のもー!」

 「セリアはお前の姉じゃない!俺の父さんだ!」

 「……どっちも違う、と言ってもいいと思うか?」

 「俺の妹なんだけどねえ…」

 「うっさいわよ、決闘申し込まれたくなかったら今すぐその口閉じなさい。あれは、白いんげんを何度も潰して濾してを繰り返して、綺麗な形に整えて、すっごく面倒なんだから。ぜーったい嫌よ」

 「………俺の知る中で、一番優秀な諜報員。仕事人だから今時間が合いてるか知らないけど、紹介は出来る」

 「いいわよ、作ってあげる。追加でもう一品リクエストしてもいいわ」

 「マジで!?じゃあ生チョコ!生チョコ食べたい!」

 「っエリオンだけずるい!セリアは俺の婚約者なのに!俺が兄なのに!」

 「エリオンはちゃんと対価を支払うもの。お兄ちゃんなら我慢なさい」

 「やだー!エリオン、俺にも半分分けろ!分けないと父上に言いつけてやる!」

 「じゃあレイヴァン、その分前の半分を寄越せ。さもないとウェーバー家の誇る最終兵器、面倒な親戚どもをけしかける」

 「じゃあセリア、エリオン殿下に渡す分の半分を俺に頂戴?俺も、セリアのお菓子が食べたくなったんだ」

 「っわかりましたわ!お兄様のために、腕によりをかけて作ります!お兄様に食べていただけるなんて、なんて光栄なんでしょう…!」

 「……出たよ、このブラコン…」

 「じゃ、俺が貰った分の半分を、レイヴァンとジオルクで分けたらいいよ。残り半分は俺とセリアで半分こしよう」

 「っお兄様と半分こ…!?なんて素敵なの…!?もうもう、お兄様素敵すぎ!大好き!嬉しいから、ちゃんとレイヴァンたちの分も作るわね!」

 「うん、ありがとう」

 「あ、それで何の話だったかしら」


 セリアはしれっと話を戻す。

 話している他の四人も、普通にそれについていく。


 「あんたってウェーバーのと結婚するのが嫌ってわけじゃないんだろ?じゃあ兄さんとも婚約解消するし、結婚しちゃえば?って話。他に良い人いないんだし」

 「は?なんで?」


 セリアは怪訝そうに、若干嫌そうに眉を寄せる。


 「なんで身近で結婚しないといけないのよ。友好国乗っ取り、楽しそうじゃない。国内にしても、探せばウェーバーより良い縁談はあるわよ。そもそも、なんで妥協してあげてまで結婚しないといけないの?跡継ぎはお兄様がいるし、金銭的にも余裕があるし、結婚しないといけない理由はないのだけれど」

 「………フランツが消去法はいけないと言った理由がわかった…」

 「ね?セリアにそんなことしたら、ぽーんと国外に亡命しちゃうよ」

 「ジオルク、お兄様、何の話?」

 「こっちの話。気にしないで」

 「そーそー。ウェーバーとって、そんなに嫌なの?色ボケ爺に嫁ぐほうがマシなほど?」

 「何馬鹿言ってるの?貴族だもの、嫁ぐ必要があるなら色ボケ爺にだって生後一ヶ月の赤ん坊にだって嫁ぐわよ。私一人が嫁いだ結果一国が手に入るなら、どこに躊躇する理由があるの?」

 「つまり、勅命があれば誰にだって嫁ぐってこと?」

 「ネーヴィアにそんな勅命を出してごらんなさい、国中の貴族がこぞって敵に回るわよ。ついでに私も、決闘でも申し込んで破談にして、国外で身を起こして攻め込んでやるわ。そんな屈辱を受けるほど、ネーヴィアの名は安くないもの」

 「あんたを気に入ってる父上と母上がそんなことするわけないから、マジでやめて。本気で」

 「じゃあ口を慎むことね。で、何が言いたいの?」


 じろりとセリアがエリオンと、他三人の男たちを睨む。

 レイヴァンは首を縮めたが、他三人は揺るがない。


 「ちょっと意識調査しただけ。んじゃ最後に、あんた何があったらウェーバーと結婚する?今のウェーバーにどんな価値が付けば妥協する?」

 「………あら、あなたもお兄様の回し者?」

 「……んー?」

 「かわい子ぶって首をかしげても駄目よ。どうせ無駄だから無視していたけれど、わざとらしすぎて無視も面倒だわ」

 「え、せ、セリア、それってどういう…?」

 「レイヴァンには怒ってないわ。むしろ、あなたは私の味方で、被害者でしょう?もう、お兄様ってば…」

 「んっとー、俺マジでわかんないんだけどー、教えてくれる?」

 「……あなたも案じていたようだけれど、私がレイヴァンと婚約破棄した後、どこに嫁ぐのか、考えない?影響力がありすぎて、どこに押し付けるか悩まない?」

 「悩む。実際、今悩んでる。俺は最悪、あんたの国外案もいいかと思ってるぐらい」

 「でしょう?で、ジオルクはお兄様の信者で、お兄様に近づきたいし、喧嘩相手とはいえお兄様の妹である程度似ているから私に妥協できる。親戚一掃作戦で後ろ盾も必要になる。じゃあ、ネーヴィアなんて最高よね」

 「誂えたように全部の要素も揃ってるもんなー。ついでにあんたのお兄さんも、幼い頃から一緒のウェーバーのにならあんたの操縦を任せられるし、義弟になっても歓迎するところだろーしな。ぜひウェーバーのに押し付けたいわけだ」

 「あら、それだけじゃないわよ?ジオルクは私と結婚したがっていて、私は我儘で悪賢くて生意気な嫌な妹。もしそんな目の上のたんこぶの妹を出し抜いて罠に嵌めて婚約結ばせてやったら、―――すごく清々すると思わない?」

 「うわあ…。でも、あんたのお兄さん、なんだっけ?ものすごく素晴らしい人間なんじゃなかったっけ?そんなこと考えるの?」

 「考えるに決まってるじゃない。だってこんな妹、むかつくどころじゃなく、憎たらしいもの。で、どうやるか。お兄様は私のことをよくご存知だから、私がやられたら一番困ることをしてくるでしょうね。……つまり、公衆の面前で手篭めにさせることね」

 「わあ、そこまでする?可愛い妹に?」

 「やるわよ。だってそのほうが、面白いじゃない」

 「………面白い?」

 「ええ。正攻法で口説かせて落とさせるより、そのほうが面白いわ。私が頬でも染めたら、嫌がって泣き喚いたら、醜態を晒したら、胸がすっとするじゃない。傷物になったら引取先のジオルクに強くも出られないし、ジオルクはお兄様の信者で言うことは聞く。ほら、間接的に私を従えられるのよ?やるしかないじゃない」

 「………あんたって、俺の想像以上の下衆だなー…」

 「ま、お兄様はそこまでは思ってらっしゃらないでしょうけれど。精々私が嵌められたら面白い、ぐらいよ。万が一上手く行っても、ジオルクなら人柄もよく知っているし、悪くはしないって信用してるからこそでしょうね。お優しいお兄様、格好いい」

 「それで優しいって言うあんたがどれだけ鬼畜なのかは置いといて、万が一ってどういうことー?普通、男と女じゃ圧倒的に女のほうが不利だと思うんだけどー?」

 「嫌だわ、あなたは知ってるじゃない。私が近衛兵に特訓を受けてることも、女だから伸び悩んでいることも。だったら、私が武器を変えることもわかるでしょう?」

 「武器?武器なんて持ってたっけ?今の男装姿ならサーベルがあるけど、普段はどうだっけ?」

 「まあ、女性の必需品よ?ペーパーナイフも裁縫鋏も扇子も、誰でも持ってるわ」

 「うわー、何するか想像できちゃう。そんなあんたなら、男に押し倒されても余裕だね!」

 「余裕すぎて、うっかり相手を殺しちゃわないか不安なぐらい余裕よ。まあ女性を酒に酔わせたり体調不調のときを狙って襲うような輩なんて、殺されたほうが世のためだけれど」

 「本当にねー。ところで兄さん、そこで兄さんのご友人が舌打ちしてる理由、知ってる?」


 エリオンが裏のないように見える笑みを向ける。

 ジオルクは隠しもせず不機嫌そうだ。


 「牽制か。おいセリア、フランツも良いと言っているんだし、いい加減諦めろ。手篭めにされるか大人しく婚約だけでもするかだ」

 「……女性に対してそんなこと言うなんて、最低ね。どっちもごめんよ」

 「婚約はレイヴァンとのが片付いてからでいいし、結婚してもお前の行動に関しては束縛しない。親戚どもを蹴落とす手伝いをしてくれたら、後は領の水でもなんでも使って好きに商売しろ。プレシアも、お前が義姉になれば喜ぶだろう。だから観念しろ」

 「………サイッテー…」


 嫌悪のこもった目でセリアが呟く。そんな目を向けられてジオルクがショックを受けてフリーズしたが、それに気づいたのは目ざといフランツとエリオンだけだった。

 だからセリアは、一切気づかないまま、吐き捨てるように言う。


 「あなたと結婚するぐらいなら、先生としたほうがずっとマシよ。先生はドジだし意見は合わないし爵位も低いし何よりヴィオラがいるけれど、あなたに比べたら信じられないほどマシよ。……あなたがそんな最低な人だとは思わなかったわ。大嫌い」

 「………」


 今度はレイヴァンでも気づいたぐらいにショックを受けたジオルク。はくはくと何度か声にならない声を出して、なんとか言葉を絞りだすことに成功した。


 「す、すまなかった…。…俺が、全面的に、悪かった…。どうか、許して欲しい…」

 「………ふうん?」


 無条件降伏に近いことを言うジオルクに、セリアもちらりと目を向ける。


 「じゃああなた、自分がどれほど私を侮辱したことを言ったかわかってるの?」

 「あ、ああ…。………都合が良いから婚姻を結ぶが、一切干渉しない代わりに干渉してくるな、と、お前を利用するようなことを言った…」

 「ええ、そうね。好きに金稼いで適当に暮らせですって?そんなの、結婚してメリットがあるのはあなただけじゃない。しかも体面上でも夫が、一応でも妻に、浮気も不倫も好きにするから勝手にしろだなんて、馬鹿にするにもほどがあるわ。私には女の魅力が一切ないって言ってるようなものじゃない。どれだけ私を侮辱したら気が済むの?最低よ」

 「……すまなかった…。…そういう意味じゃなくて、商売したり働きたいなら好きにしていいという意味で…言い方を間違えた。本当に悪かった。俺は決して、妻以外に手を出す気はないし、妻にも貞淑を求める。お前に魅力がないなんて、思ったこともない」

 「おべっかは結構よ。もう嫌いだから」

 「………」


 ジオルクは俯いて、ぎゅっと手を握りしめている。どこから見ても悲壮感が漂う。その姿を見て、レイヴァンは『セリアに嫌われてもいいとか、嘘だな。これならセリアも大丈夫だ!』と確信した。


 「………き、きらわないで、ほしい…」


 ジオルクが、また絞り出したような声で言う。


 「………何する?」

 「………出来る限りのことは、する」

 「本当に?ヴィオラにダンスを申し込んで機嫌をとれってことでも?」

 「………それで許してくれるなら」

 「じゃ、いいわ」


 セリアは一転、軽く言う。


 「そこまで反省してるならいいわ。そういう意図はなかったみたいだし、許してあげる。感謝なさい」

 「ああ…ありがとう、セリア」


 ほっと安堵の息をつくジオルクだが、すぐにまた気を引き締める。


 「重ねて、手篭めにするなどと言ったことを謝罪させてくれ。お前が他の男に取られるんじゃないかと焦っていた。悪かった」

 「ああ、それは別にいいわ。どうせお兄様のお遊びなんでしょう?お兄様はそう言ってけしかけても、私がちゃんと自衛できることも、仮に押し通されてもあなたなら私を泣かせるようなことはしないことも、わかってて提案してるもの。失敗が前提の、ただのお遊びよ。……今のあなたの反応を見る限り、お兄様のその読みも当たってるみたいだし、別にいいわ。さすがお兄様よね、私の事考えてくださってるんだわ」


 嬉しそうなセリア。

 影でこそこそと、「ジオルクのこと意識させるための作戦だったんだな…」「さすがに妹は可愛いからね」とレイヴァンとフランツが話していたが、セリアの耳には届いていない。


 「それを言うなら、俺がお前に弱いことを見抜いていたんだから、俺のことをよく見てくださってるんだろう」


 ジオルクも、聞こえていない。


 「残念ながらそれは認めざるを得ないわね。いくらあなたが失敗して逆に醜態を晒すはめになる作戦だったとはいえ、私もさっきの反応をみるまでは、あなたが私を泣かせないってわからなかったもの」

 「可愛い妹に非道なことをしないと見込んでくれたんだろう。お前に嫌われたくないだけで、泣き顔はいつでも大歓迎だからな。なんなら今すぐにでも泣かせたいぐらいだ」

 「あらあら、随分大きく出たわねえ。逆に泣かされることになるってわかってるくせに。そういう嗜虐趣味があるところが、信用ならないのよ」

 「俺以上に嗜虐趣味を抉らせているお前には言われたくないな。誰にでも節操なくいじめまわって、尻が軽いことだ。やはり一度泣かせてやりたい」

 「偏食が何グルメ気取ってるのよ。馬鹿らしい。そんなに泣かせてみたいのなら、泣いてあげましょうか?ジオルク・ウェーバーが暴行を働いてきたって。王太子の婚約者にそんなことをしたら、まず懲罰は免れないわね」

 「ならお前も道連れだな。きちんと傷物になったと宣伝しておいてやる。そうすれば、もう引き取り手もいないだろう」

 「仮に傷物でも、私ほどの良縁を世の中の殿方が放っておくと思って?それに、妹の名誉を穢した相手を、お兄様が許すとでも?」

 「我儘な妹の世話に、いい加減飽き飽きしていないと思うのか?」

 「………」

 「………」

 「っお兄様!私とジオルクと、どっちのほうがお好きなの!?」

 「っフランツ!俺とこいつと、どっちのほうを優先する!?」


 二人がフランツに詰め寄る。


 「うーん、どっちも大事だし、好きだよ?」

 「どっちのほうが好きなの?ねえ、私よね?たった一人の妹だものね?こんな性格の悪い男より、私のほうが好きよね?」

 「性格が悪いのはお前だ。…なあ、こんな我儘でどうしようもないキツい女より、俺の方を優先してくれるよな?こんな女、助けたいなんて思わないよな?」

 「私のほうが有用性があるし、決闘も強いし、稼ぎもいいわよ?ね、私にしない…?」

 「俺のほうがフランツのことを好きだし、打算でしかないこの女よりずっと大事にする。だから俺を選んでくれ」

 「ずっと、お兄様のことが好きなの…。お兄様が私のことを迷惑がっているのはわかってるわ。お兄様の一番が別の方でも、妻を迎えるのも、歓迎するわ。でもお願い、可愛い妹として、その方の次において頂戴。お兄様の傍にいたいの…」

 「…俺は、フランツが余所の女にかまけているのが面白くはない。一緒にいて欲しいと思う。でもそれがお前の選択なら、お前の幸せなら、我慢する。我慢するから、慕うのは許して欲しい。お前の隣に立ちたいと思うのは、許して欲しい。願わくば、片側が妻で埋まっていても、もう片側に、置いて欲しい」

 「………兄さん、フランツ・ネーヴィアは人気者なんですね」

 「ああ。フランツは素晴らしいお方だからな。セリアもジオルクもぞっこんだ。俺も好きだ。あの二人には敵わないから、というかあの二人と鞘当てなんかしたくないから、入らないけど」

 「それが賢明な判断だと思います」


 フランツに言い寄る二人を、兄弟は遠くから眺めている。

 目下の中心のフランツは、言い寄ってくる妹と年下の男友達に、にっこりと笑ってみせた。


 「何が一番怖いかって、二人共冗談のノリじゃなくて、結構本気だってことなんだよね」

 「私はいつでも本気よ。本気でお兄様のことを愛してるの」

 「俺だって本気だ。フランツのことを誰よりも尊敬している。誰よりも、何よりも、深く」

 「うん、セリアは家族愛で、ジオルクはただの憧れだね。誤解を受ける言い方はやめてくれる?」

 「いいえ、お父様とお母様より、お祖父様より、誰よりもお兄様のことが好きだわ。家族愛なんて言葉では済ませられないほど、好きよ」

 「憧れなんかじゃない。崇拝している。フランツになら、命を差し出しても惜しくない。むしろ、フランツのために死ねるなら光栄だ。そのぐらい、慕っている」

 「えーと、俺も妹としてセリアのことは好きだし、友達としてジオルクのことも好きだよ」

 「………ちょっとジオルク、あなたのせいでお兄様が困ってるじゃない。迷惑な気持ちの押し付けはやめて頂戴」

 「フランツが困っているのはお前のせいだろう。妹なら何をしても許されるわけではない。嫌われるぞ」

 「お兄様はいつだって私のことを思ってくれているわ。あなたなんて、数多くいる友人の一人というだけでしょう」

 「……そう傲慢なところが嫌われる原因だろう。確かに実力はあるのかもしれないし、優秀な駒なのかもしれないが、他は欠点しかないだろう。性格は悪い、自分勝手で周りを顧みない、礼節を周りに強要するくせに自分は無礼を繰り返す、公平でない、恥知らずで有能さを鼻にかけた人間的魅力が皆無の高慢ちき。それでよく、人から好かれているなどと信じ込めるな。現実を見ろ」

 「まあ、私のことをそんな風に思ってたのね。人の欠点ばかり論って、さもしい人ね。お兄様にとってその他大勢でしかないことの反論が浮かばなかったからそうやって当てこすり?本当は、自分がお兄様にとって取るに足らない存在だって気づいてるんじゃない?現実を見るべきはあなたよ」

 「はいはい、そこまで。喧嘩の種に俺を巻き込まないで」

 「じゃあお兄様、私とジオルク、どっちのほうがお好きなの?」

 「俺とこいつ、どっちのほうを優先するんだ?」

 「俺は意中の子が一番好きで、レイヴァンを優先するよ」

 「もっともらしい第三者を出して正論をおっしゃらないで。私は、例えお兄様の中の最底辺でも、この男に勝っているかどうかを気にしているの。私だって、一番優先なのはレイヴァンよ。一番好きなのはお兄様だけれど」

 「そうだな、俺も一番優先するのはレイヴァンで、一番好きなのはフランツだから、順位は関係ない。要はこの女に勝てればいいんだ。濁さないで、はっきり言って欲しい」

 「ジオルク、それってセリアに求婚中で言っていいことなのかな?俺が一番で本当にいいの?」

 「……つい本音が。えーと、二番目にきっとセリアが来る、と思う」

 「あらそう。私は次点はお祖父様よ。次がエリオンね」

 「とても光栄ですが、それはこちらに飛び火するからやめてくれませんか?」

 「じゃあ次にレイヴァンが続く、って付け加えとくわ。ちゃんとレイヴァンのことも好きよ」

 「俺もセリアのこと好きだし嬉しいけど、そこじゃなく…」

 「エリオンのほうが面白いんだもの、仕方ないでしょう?それでも友達のスカイより上なんだからいいじゃない」

 「そっちでもなくて…」

 「へー、エリオン殿下って、セリアがそう言うほどなんだ…」

 「お兄様と同族嫌悪を起こしそうな感じよ。可愛い顔してお腹の中は真っ黒、頭の中では策略策謀でいっぱい」

 「あなたほどじゃありませんよ、セリア様」

 「………えーと、結構本気で視線で殺されそうだから答えて欲しいんだけど、セリア、セリアの中でジオルクって何番目ぐらいに好き?」

 「……そうね、レイヴァンの次の、スカイの次の、ヴィオラの次の、プレシアの次の、お父様お母様の次の、先生の次の、近衛兵の次の、宰相室の方々の次の、お友達の次の、商売相手の次の、……まあ、後輩よりは好きよ」

 「け、結構後ろだな…あの馬鹿は意外に好評価なのに…」

 「………兄さん、セリア様はこういう方ですから…傷口をえぐることになるから僕達は触れなかったのに…」

 「ヴィオラ・シュペルマンは面白いからね。仕方ないよ」

 「ええ、面白いもの。むしろ好きでもなければあんな無礼許してないわよ。あの子って、何度叩きのめしてもケロッと忘れてまた無礼を働いてくるから、とってもエコロジーで環境に優しいのよ?何度だって叩き潰せるの。そんな頑丈なあの子を再生不可能なまでに潰す未来を想像すると、わくわくが止まらないわ。いつか本気の『裏切られた』って顔を見たいものだわ」

 「………腹黒兄とサディスト妹、ですか…」

 「ふ、二人とも、普段は優しいからな!誤解するなよエリオン!フランツは優しくて格好良くて憧れるし、セリアは厳しいけど優しくて強くて綺麗で楽しくて、二人のこと大好きだからな!こんな面ばかりじゃないんだ!」

 「俺のほうがフランツのことを尊敬しているしセリアのことが好きだ」

 「っジオルク!?俺にまで対抗してくるのか!?別に俺は勝てなくていいし勝てるとも思ってないからな!?」

 「そうよ、お兄様よ。お兄様、どっちのほうが好きなの?」

 「帰ってきましたね、兄さんのせいで」

 「俺のせい!?」

 「フランツ、どうなんだ」

 「………レイヴァンのせい、かな?」

 「俺のせいなのか…!」

 「ネーヴィア嫡子のジャッジに従うあたり、兄さんも兄さんですよね」

 「いいわ、これ以上お兄様とレイヴァンを困らせたくないもの。―――決闘しましょう」

 「決闘、ダメ絶対!やめてセリア!」

 「うーん、俺も決闘はなあ…」

 「仕方ないな、愛するものを賭けて、となれば決闘しかない。―――剣を抜け、セリア」

 「あ、僕用事があるので抜けますね」

 「エリオンが逃げた!卑怯だ!」


 レイヴァンは一人頑張るが、エリオンはさっさと離脱し、賭けの対象のフランツの言葉は届かず、セリアとジオルクは臨戦態勢で剣を抜いている。



 結局、二人をなんとか止めたのは、レイヴァンの「俺の家主催のパーティで喧嘩するなら二人とも嫌いだ!」という涙混じりの言葉だった。

セリア「レイヴァンが泣くから仕方なく止めた。仕留め損なって残念でならない」

ジオルク「レイヴァンに嫌われたくないから仕方なく止めた。何故か命拾いした気もする」


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