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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる事前準備~中等部~
34/76

ミステリー≠ミステリアス

 時計の針を進めて、翌年、中等部二年生の時のこと。

 私はお兄様との別れに涙して、ミステリーな後輩を待ち構えていた。


 主人公が出現するまで、あと二年。心してかかるべきだ。

 フラグはあらかた折ったし、ミステリーな後輩ルートは安全だし、準備は万全だ。


 俺様王子ことレイヴァンは、私に逆らったりなんかしないように、しっかり躾けてある。

 ドS公爵ことジオルクは、私の兄を信奉してるし、喧嘩相手として長年付き合ってきたし、うかつに手出しはしてこないだろう。

 癒し系教師こと先生は、主義主張の違いで言い合うことはあるが、概ね良い師弟関係を築いた。

 優しい生徒会長ことお兄様は、祖父の跡を継ぎたいと日々努力しているし、そもそも意中の女の子がいる。

 女遊び先輩ことスカイは、デザイナーとして雇用しているし、彼はオネェなので同姓の友達として、気のおけない付き合いをしている。


 誰も私を陥れようとはしないような布陣だが、勿論不安材料も残っている。


 レイヴァンが婚約破棄を申し出た理由がわからないこと。

 ゲームでジオルクの手足として動いていた密偵の存在が感じられないこと。

 まずないとは思うが、先生が人工である疑いが残ること。

 兄が自分を使わずに主人公を陥れることを思いつくかもしれないこと。

 スカイが主人公に惚れてしまうかもしれないこと。


 特に、レイヴァン、ジオルク、先生に関しては要注意だ。兄は信じても良いと思うし、スカイもハッピーエンドに誘導すればいいだけだが、あの三人はルートに入られただけで私か主人公の不幸が決まる。

 もしルートに入れば全力で邪魔するし、ゲーム通りに行かないように手は打ってきたつもりだが、どう転ぶかわからない。

 付き合いの短い先生も、いきなり婚約破棄なんて言い出したレイヴァンも、密偵が見えないジオルクも、掌握できているとは言えない。依然、警戒が必要だ。


 その点、このミステリーな後輩は気楽でいい。ミステリーな後輩ルートに入ってくれたら逆ハーエンドは免れるし、ハッピーエンドでもバッドエンドでも綺麗に終わる。

 逆に言えば、敢えて接触する理由はないってことにもなるが、その辺りは気にしないでおこう。ここまで来たらついでだ。


 「あの、副会長」


 だから気長に構えて、どう接触するか考えていたら、相手から接触してきた。

 おかしい。

 私はセリア・ネーヴィア。ネーヴィア公爵家の娘で、現段階では王太子の婚約者だ。ついでに内進組でずっとAクラスなので、この学年の女子のリーダーと言っても過言ではないだろう。友達は少ないし取り巻きを作ったりはしないが、私の一言で話し合いが決定することも多々ある。ヴィオラのような馬鹿を除けば、私に逆らうような真似をする女子はいないだろう。


 対して、ミステリーな後輩は中等部からの外部組で、しかも新入生。入学したてで右も左もわからないひよっこだ。

 中等部からの入学なので、爵位も子爵と高くない。しかも三男。万が一にも家を継ぐことはない。


 現在の状況にしても、いつも通りレイヴァンとジオルクと話しているところだ。王太子と公爵の嫡子が話し相手なのに、それに割り込むなんて、よほど地位があるか、よほど親しいか、よほど馬鹿かだ。

 緊急の用があるならそれはそれで別だが、ミステリーな後輩の様子を見る限り、そのような素振りはない。

 さあ、どういうことなのか。


 「……今、セリアは俺達と話しているんだが、急用なのか?」


 不機嫌そうにミステリーな後輩を睨むのはレイヴァンだ。親しい身内だけで話しているのに邪魔されて、不愉快なのだろう。王太子だからその不機嫌を露わにすることを咎められる地位ではないし、私が身分や王太子としての役割についてはしっかり教えこんであるので、なお吹けば飛ぶような身分のものにいたずらに声をかけられたのが気に入らないようだ。


 「すみません、会長。あの…」


 ミステリーな後輩が口ごもる。


 現在、レイヴァンは生徒会長を務めている。兄も『安心して後を任せられるよ』と言ってくれていた。私は副会長で、ジオルクは会計をしている。レイヴァンを旗印に立て、私が策略を練り、ジオルクが止める役として財布の紐を握り、最終的にはやはりレイヴァンが判断を下す。その様子を見た、王太子の視察をしていた祖父や陛下は遠い目で、『まるで未来の国営を見ているようだ…』と評したとか。それなら意見をまとめる役として書記に兄がいないといけないだろう。あるいは兄が副会長で私が会計、ジオルクが書記。うん、そっちのほうがしっくり収まる気がする。高等部ではそうやってやる。


 というわけで、レイヴァンを『会長』、私を『副会長』と呼ぶのはわかる。

 だが、高等部ならまだしも、これは中等部。

 高等部ほど大規模ではなく、言ってしまえばおままごとのような生徒会活動だ。だからこそ三人で遊んで大人たちに遠い目をさせたのだが、それはさておき。

 『王太子』と『公爵令嬢』をそう気安く呼べるほど、生徒会は規模が大きくない。

 私達も、『王太子様』やら『ネーヴィア公爵令嬢』などと呼ばれたことはあるが、『会長』『副会長』なんて呼ばれたのはこれが初めてだ。

 レイヴァンのもっともな抗議への謝罪も、『すみません』なんて弱いもの。


 どういうことなのか。

 ヴィオラのようにそんな無礼をするような生徒には見えないのに。

 どころか、彼こそが誰よりも困惑しているような―――…。


 「副会長に、ゴーヤチャンプルについて伺いたくて…」


 ゴーヤチャンプル。

 それは主人公の名前、『リリー・チャップル』に似ている、主に日本の沖縄付近で食べられている郷土料理。ゴーヤは苦瓜と書くだけあり、あれ単体で食べるのは絶対に遠慮するが、ゴーヤチャンプルにしたものならそれなりにイケた。

 こちらの世界では、少なくともこのあたりの国では食べられていない料理だ。レイヴァンとジオルクも怪訝そうにしている。

 そんなものを知っていて、私に言ってきたということは、つまりそういうことだ。


 「あら、珍しいものを知ってるのね。あなたって、とってもミステリーね」


 ミステリー。

 ミステリアスではなく、ミステリー。それが後輩の修辞だ。

 後輩の目が見開かれる。それは驚愕にではなく、『やっぱり』という納得によるものだ。

 ああ、やっぱり…。


 「今夜…は無理だけれど、放課後にでもあなたに行くわ」

 「包丁は持ってこないでくださいね」


 ミステリーな後輩ことローウェン・ハイツも前世の記憶がある、転生者だ。



mystery=名詞 謎、神秘性、神の啓示による超自然的真理 etc.

mysterious=形容詞 不思議な、神秘的な etc.


ミステリアスな後輩=不思議な後輩

ミステリーな後輩=謎の後輩、つまり後輩=謎

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