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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる事前準備~中等部~
32/76

お勉強って楽しいわねっ

 「初めまして、アルバート・シュペルマンです。お嬢様には雇って頂き、大変光栄に存じます」


 癒し系教師ことアルバート・シュペルマンは、ヴィオラとは全く違い、まともな人だった。

 安堵した。

 ゲームでは人工疑いのあるドジっ子だったが、現実ではどうかわからない。

 まともな人で、心の底からほっとした。


 「わざわざ来てくださってありがとうございます。セリア・ネーヴィアです。これから色々教えて下さいませ、先生」

 「そんな、先生だなんて…。……それに…」


 アルバートは一度視線を落とし、何かを決めたように顔をあげた。


 「私はお嬢様の家庭教師という任に耐え得ません。解雇してください」

 「まあ、どうしてですの?」

 「私は…お嬢様に教えることがございません!」


 アルバートが出したのは、参考にと渡してあった私の成績表。

 ジオルクと意地で競り合って、一位か二位しか取ったことはない。

 教えるところがわからない、という現状。


 ……そう、アルバートを雇うに当たって、一番苦労したのはそこだ。

 私、家庭教師を雇うほどお馬鹿じゃない。

 雇って欲しいと言えば、全員に『なんで?』と本気で不思議そうに聞かれた。

 ゲームでの悪役令嬢は馬鹿だったから、藁にもすがる思いで家庭教師をつけていたのだ。現実で成績が良い私は、家庭教師をつける理由がない。


 どうしようか迷った末、説得を諦めた。

 商会での自分の稼ぎで雇うことにした。

 幸い、プレシアへの給金はなくてもよくなっている。その分をアルバートを雇うのに回せば良い。

 そう決めて、兄に話して行動しようとしたら、父がすぐさま雇ってくれていた。

 「セリアはただでさえしっかりしすぎてるんだから、もっと親を頼って!」とか言いながら。

 それならと遠慮なく家族四人で旅行に行かせてもらったのはいい思い出だ。とても楽しくて、来年も行こうと満場一致で決定した。仲間はずれにされた祖父は恨めしそうにしていたけれど、そこは遠慮してもらいたい。お土産あげたからいいじゃない。


 話を戻す。

 そういうわけで、正直学校の勉強でアルバートにみてもらうようなところはない。

 学校の勉強では、ない。

 つまり…。


 「先生、勘違いなさってますわ。私が教えていただきたいのは…」


 隣室のドアを開ける。

 そこには―――実験用具が揃った、実験室がある。


 「製薬についての、お勉強です」


 アルバートの諦めきれない夢であり、乙女ゲームの中では癒し系教師を人工疑いに追いやった、薬について、教わるつもりだ。






 薬。

 一言で薬といっても、すぎれば毒になる。

 例えば身近なサプリメントでも、摂取し過ぎると病気になってしまう。遠くは抗癌剤などだが、それも強い副作用があり、前世でも多くの人が悩まされていた。

 毒。

 毒も、物によっては薬になる。

 名前は挙げないが、ある毒薬と別の毒薬を合わせると、素晴らしい薬になった、という例もある。まさに毒を以って毒を制す。用量さえ間違えなければ薬になる毒というものも数多く存在する。


 さて、ここで話を戻そう。

 劇薬をぶっかけるという行動は恐ろしいものがあるが、それと同じぐらい、毒を盛られるということも警戒すべきだ。

 癒し系教師から殺されるのを避けるため、私はなにをすればいいのか。

 ―――アルバートから知識を絞りとると同時に、アルバートに恩を売り友好的になること。


 いくら雑学が豊富な前世でも、医薬系の知識はあまりなかった。当然だ。薬剤師や医師でもない限り、そんなものは知らない。

 だから、私の知らないことを、教えてもらおうと思う。

 敵を知り己を知れば百戦しても危うからず。

 知識は力だ。


 また、賢い軍師というものは、そもそも戦を起こさせないものだとも言う。戦が起これば勝っても負けても損害が出る。戦なんてせず、話し合いで収めるのが一番得するやり方なのだとか。

 だから、対立構造になんてならないように、精々友好的に行きたい。

 例えば、職にあぶれているところで雇ってあげたり。

 例えば、諦めた夢をもう一度見せてあげたり。

 そうやって、精々仲良くやっていこうと思う。


 アルバートが人工疑いのドジっ子でも、構わない。人工であるほうが協定が結べて便利だ。エリオンと仲良くしているように、仲良く出来るはずだ。



 「っうわああ!?」


 なんて思ってた時が、私にもありました。


 駄目だこの教師!ドジっ子だ!人工なんかじゃない生粋のドジっ子だ!

 ビーカーを持たせれば割り、試薬を入れさせたらくしゃみで入れすぎる。

 ………周りが反対したのもうなずけるほど、命にかかわるレベルでドジだった。


 「……ごめんね、セリアさん…」

 「気にしないで、先生。ほら、これはこっちに入れるのよね?」

 「うん…。…でも、薬品だし、セリアさんは女の子だし、やっぱり僕が…」

 「先生がやるほうが危ないです。先生はそこに座って、何もせず、指示だけ出して下さい。やるのは弟子の私がやりますから」


 とは言え、その知識は確かに素晴らしかった。前世知識持ちの私でも分からないところが多々あるほど、先生は賢かった。

 要は行動するときにドジるから駄目なだけで、実際に試薬を混ぜたりするのは私がやればいいだけだ。

 それだけで、あっという間に薬が出来た。


 「後日、マウスを用意しますわ。実験して、実用に耐えれるようなら平民にでも服用させて、それから流通させましょうね!」

 「セリアさんはしっかりしてるねえ…。僕はその辺りよくわからないから、任せるよ」

 「はいっ。でも、マウスの様態や被験者の様子を見るのは私では出来ませんから、そこは先生がしっかりやってくださいね。お願いします」

 「うん、任せて!僕はこれでも医師免許があるんだ!」

 「存じ上げております。これで一攫千金、がっぽり行きましょう!」

 「え…。…貧しい人に医療行為を施すのが僕の夢だったんだけど…」

 「……そこは追々話しあいましょう。ネーヴィア家もシュペルマン家も、貧乏はしてませんし、それほど高額稼がなくても名台は傾きませんものね」

 「うん。感謝してるけど、譲る気ないから」

 「ほほほ、先生とやりあうのは楽しそうですわね」


 意外に芯の強いところがある人だったけど、上手くいきそうだ。

 なにせ私は、あのレイヴァンを躾けてきた女。先生もしっかり尻を敷いて躾けて、せめて重要なところだけはドジらないように教育(ちょうきょう)して行きましょう。本気で命に関わる。こんな優秀な人は、殺すには惜しい。


 「じゃあまたね、セリアさん」

 「はい、楽しみにお待ちしております、先生」


 仲良く楽しく、お勉強して行こう。

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