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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる事前準備~中等部~
31/76

私だって、泣きたくなることはあるのよ?

 ともかく、単独行動の件については話がついたので、さっそく癒し系教師のことにとりかかった。


 「あんた鬼だねー。兄さんも苦労するよ」

 「あらどうして?私達、もう婚約破棄秒読みよ?」


 といっても、素直に会うわけがない。先に情報屋エリオンから情報を仕入れてからだ。

 本日の情報料はアップルパイ。アップルティーと一緒にいただきます。


 「兄さんっていうかウェーバーのっていうか…。まあいいや。おかげで俺の婚約は上手くいったし」

 「ええ。あなたが国外に売られるなら、レイヴァンの地位も盤石のものになるしね」


 エリオンは隣国の姫との婚約が決まっている。一人娘で、誰か婿を取らなければならないそうだ。そこにつけこんで上手く演出して、『あっちからどうしても懇願してきた』から、エリオンは婚約した。

 その隣国は以前生意気抜かしてきやがった、戦馬鹿の国だ。邪魔なのでぜひ内部から掌握してもらいたい。


 「で、アルバート・シュペルマンの情報だっけ?」

 「そうよ。知っているでしょう?」

 「まーね。…医師免許持ってて優秀だけど、とにかくドジ。だから絶対医者にはなるなって周りに強く止められてる。父親のコネで仕事持ったけど、案の定ドジってミスってクビになった。今度はあんたのとこで家庭教師として雇ったみたいだけど、あのドジっぷりには際限がないと思うよ」

 「それだけなら私も知ってるわ。それで?」

 「さっすが、厳しいね。……大学時代は、かなり研究に啓蒙してたみたいなんだよ。薬品系。薬作りたいとかで。でもほら、薬って危ないでしょ?だから周りから反対され、それでも医学の道に進んだけど、またも大反対。本人もドジったら死人が出るような職務だってわかってるから諦めた。けど、薬のほうはドジっても危ないのは本人だけ。だからまだこっそり続けてはドジって死にかけてるらしいよ」

 「まあ、はた迷惑な」

 「本当になー。後の掃除をする使用人も、すげー愚痴言ってたよ。なんとかしてくれってさ。あんたが聞いてこなかったらシュペルマン伯に告げ口するところだった」

 「間に合ってよかったわ。じゃあ、これからも手出ししないでちょうだいね」

 「勿論、仰せのままに。でもなんであんた、あんなやつに興味持ったの?」

 「だってヴィオラの兄よ?気になるじゃない」

 「ダウト。あんたが以前からシュペルマンについて気にしてたのは知ってるっつーの。ヴィオラ・シュペルマンに近づいたのも、シュペルマン家について情報収集するためでしょ?」

 「コラソンさんのお子さんが同学年だったから、お近づきになりたかったのよ」

 「それもダウト。いや、ブラフかな?コラソン・シュペルマンを、あんたはシュペルマン家の人間だと知らなかった。なのにヴィオラ・シュペルマンに近づいた。その後の口実である『コラソンの娘』ってところに関しても、会話誘導して聞き出したのはバレてる。……まあ、上手いことやったもんだよね」


 エリオンは呆れたようにため息をつき、お茶を飲む。


 「コラソン・シュペルマンを含む宰相室の人間から見たら、あんたはコラソンとよく会うから『コラソン・シュペルマンの子供』にも興味があるように見える。あまり関わりのない周りからは、普通に学友だからヴィオラ・シュペルマンと仲がよく、その兄にも興味を持っているだけに見える。兄さんとジオルク・ウェーバーから見たら、宰相室でコラソン・シュペルマンと仲が良いから、ヴィオラ・シュペルマンが愉快だから興味を持っただけに見える。数年前にシュペルマン家についての誤解があったことは知ってるけど、それはあんたのよくわからない悪巧みの一つとして無視されてる。……あんたって、ちょっとおかしなことしたぐらいなら、『よくあること』って処理されるから良いよなー。宰相室と学校生活と両方知ってて気づく余地のあるのは、あんたのお兄さんぐらいかな?」

 「お兄様はこうおっしゃったわ、『セリアは面白い人を見つける才能があるね』と」

 「……ああ、つまり最初にヴィオラ・シュペルマンに声をかけたのは『面白そうだから』で、その家名から、宰相室で本人とは認識はしてなかったけど聞いていた『シュペルマン伯爵』の噂を思い出し、誰なのか探ったらコラソンだったってオチだと思ってんのか。あんたのことよく知りすぎてるな…」

 「ええ、お兄様だもの。それから、レイヴァンとジオルクの名誉のために言わせてもらうけれど、一番正解に近いのはあの二人よ」

 「え?お兄さんじゃなくて?」

 「お兄様じゃなくて。…お兄様は私を過大評価していらっしゃるところがあるもの。私がお兄様に褒められたくて話を誇張してるからかもしれないけれど」

 「あんたもお兄さんを尊敬しすぎてるからおあいこじゃね?仲良しだなあんたら」

 「まあ嬉しい。お礼にお兄様の素晴らしさを教えてあげましょうか?」

 「ノーセンキュー。惚気はいらねえ。で、正解ってのは?」

 「……レイヴァンとジオルクは見て見ぬふりをしてくれたんだけれど、……友達が欲しくて、手当たり次第声をかけてたのよ」

 「………え」

 「あの子もひとりぼっちだから、簡単に友達になれるかと思って…。レイヴァンもジオルクも、薄々感づいてはいたでしょうけど、深くは訊いてこなかったわ。いえ、もしかしたら知らずに、悪巧みの一つとして処理しただけかもしれないけれど、……私が友達を作るために努力しているのを、生暖かい目で見ていたから、ね…」

 「………ごめんなさい」

 「いいのよ…。そうね、気になるものね。むしろ、深い考えなんてなくてごめんなさいね。ふふふ…」

 「ごめんなさい深く掘り下げて、言わざるをえない状況を作りだしてごめんなさい。変な前振りしてごめんなさい」

 「ええ、無茶ぶりだったわね。……今日のところはこれで解散にしてもいいかしら?」

 「勿論です。ゆっくり療養なさってくださいませ」


 席を立ち、エリオンを置いて家に帰る。


 ―――と、ここまでがブラフだ。

 確かに友達が欲しくて声をかけたけど、それだけなら『面白そうな人だったから』という兄の案を採用している。『お兄様はさすがに見抜いてらした』と言ったほうがブラコンっぽいし。

 でも本当のことを話すことで、エリオンに罪悪感を植え付け、その話題を出させないようにした。エリオンもエリオンで、友達思いというか身内に甘いから、もうそこに触れてくることはないだろう。

 これで、『ゲームの攻略対象だったから気にしている』なんて荒唐無稽な真実は話さなくて良いし、癒し系教師に絡んでいってもツッコまれはしないだろう。

 心に深い傷を負った気もするけど。

 なくしてはいけないものをなくした気もするけど!

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