第二王子というものは、
前回のあらすじ。
レイヴァンの目の前に、いないはずの男がいた。男はレイヴァンに「兄さん」と言う。この男の子の正体はなんなのか。レイヴァンの出生にどんな秘密が隠されているのか…。
今回の始まり。
いや、普通に弟でしょ。今年入学とか言ってたし、なんでかゴートン学園にいるだけで、そこまで驚くことでもないんじゃない?
ということで、普通に挨拶するわよ。当然じゃない。
「お初お目にかかります、兄君様の婚約者の、セリア・ネーヴィアと申します。殿下のお話は兄君様より常々伺っておりました。お会いできて光栄です」
きちんと貴族らしく挨拶。王族の方って、ネーヴィア家より格上のレアキャラなのよねー。貴族の中ではトップだから。
「今までご挨拶できなかった無礼をお許し下さい、ジオルク・ウェーバーというものです。兄君様とは親しくさせて頂いております。こっちは妹のプレシアです。殿下のクラスメイトになります。……プレシア」
「プレシア・ウェーバーです。お見苦しい姿で失礼します。殿下と学べること、誇りに思います。至らないところばかりでしょうが、これからよろしくお願いいたします」
ウェーバー兄妹もきちんと挨拶。レイヴァンは仲が良いから無礼もしてるけど、普通王族にはこのぐらい丁重に接するものだ。
「ご丁寧にありがとうございます。第二王子のエリオンです。どうかご気軽になさってください」
あっちも定型文での挨拶返しだ。気楽に、とか言われないと顔上げられないし。
「………エリオン、どうしてお前がここにいるんだ?別の学園に行く予定だっただろ?」
「兄さんが毎日楽しそうだから、僕もそこに行きたいって言ったんだよ。ネーヴィアの婚約者にウェーバーの友達なんて、贅沢だなあ」
にこにことほほ笑みながら言うエリオン。
エリオンは金髪にレイヴァンと同じ紫の瞳の美形だ。貴族は家柄と金とコネと見た目で相手を選ぶから、自然と貴族は美人美形揃いになる。平民なのに『天使』とまで評される美貌の主人公のほうがイレギュラーだ。そういうのって、大抵貴族のお手つきになるから。まあ、主人公も結局は王家の一員だったんだけど。
「二人共、俺にはもったいないぐらい良い人だ。お前がいるのには驚いたけど、お前なら学校生活ぐらいそつなくこなせるだろう」
「久しぶりなんだからもう少し話そうよ兄さん。―――その婚約者さん、父上たちに直接言って婚約者になったんだって?すごいなあ。僕もそろそろそういうのを考え始めないと行けないから、ちょっと教えて欲しくてね」
エリオンの言葉使いや意味深な物言い、婚約者を探しているという内容は、一般的なことだ。
前世の世界では七歳なんてお子様もお子様だったけど、こっちは違う。十五である程度一人立ちして、十八で成人だ。十にもなれば駆け引きの一つや二つ出来なくては困る、というもの。貴族は優雅な暮らしだけど、その分成長を余儀なくされるのだ。
まあ、それでも七つでここまで口と頭が回るのは賢いからなんだろう。さすがレイヴァンの弟だ。プレシアも、ジオルクの妹だけあり、わきまえた行動ができていたし。
「セリアみたいな傑物はそうそういないと思うから、俺の場合のは参考にならないと思う。父上と母上と相談したほうがいい」
「そういう人が、兄さんに惚れてるなんて、すごいなあ」
「―――はあ?」
レイヴァンが一気に顔をしかめた。
「セリアが俺なんかに惚れてるわけないだろ。セリアが本当に惚れてるのはフランツだ!」
「同感だな」
「ぐうの音も出ないわね」
「………フランツ?」
「セリアの兄で、優しくて格好良くて頭も良くて穏やかな素晴らしい人だ」
「向上心に溢れ、慈愛に満ちている上、周りのことをよく見て考えている尊敬すべきお方だ。あの方ほど素晴らしい人間は地上には存在しない」
「最高すぎてこの世の言葉では讃えきれないほど最高の人間よ。いくら私達が知恵を絞ったところでお兄様の素晴らしさの一欠片だって表現しきれないわ」
「………本当に誰ですか、それ」
「………皆さん人が替わったようですね…」
エリオンとプレシアは若干引いていた。お兄様の素晴らしさは、見ればすぐにわかるというのに。
「とにかく、セリアが惚れているのはフランツだ。俺じゃない」
「ところでセリア、いい加減腹が減ったな」
「そうね。レイヴァン、あなたもよね?」
「……ああ、そうだな。じゃあエリオン、俺は用があるから行くぞ。話があるなら家で聞く」
立場上、私とジオルクが表立って下がることを申し出るのは失礼だが、兄であるレイヴァンが言うのには何ら問題はない。女が婚約者に甘えることも、普通のことだ。問題にはならない。だからジオルクはクラスメイトで腐れ縁の私にわざわざ言って、この連鎖反応を起こさせたのだろう。というか本気でお腹が減っているようだ。気持ちはわかる。
その場はそれで済み、お新香とおむすびは「このきゅうりのが好き!また作ってくれ!」「おかわり」と二人にも好評だった。レイヴァンは私と同じで何でも美味しく食べるタイプだし、ジオルクは和食関連が好きだ。次はお団子でも持ってこよう。ジオルクのは甘さ控えめで。
と、これで終われば良かったけれど、翌日。
「お話したいことがあるのですが、よろしいでしょうか」
エリオンに呼び出された。
胡散臭い笑みで、レイヴァンに絡んでいた内容からも、私がターゲットだったのだろう。
「ええ、勿論ですわ」
私は笑顔で、敵の罠に入って行った。
あ、余談だけど、ヴィオラの『ニュース』っていうのは、エリオンがゴートンに入学していることだったらしい。偶然職員が話しているのを聞いたんだとか。だから何の伏線でもないから、あの子のことはすっぱり忘れて大丈夫よ。