なに、真に受けたの?馬鹿じゃない?
「は?レイヴァンを駒扱いしてるか?
……あのねえ、私のことを何だと思ってるのよ。確かに立場を政治利用はするけれど、婚約者を駒扱いするほど非道じゃないわよ。
最初は駒って言ってた?……ああ、そういえば言ってたわね。意地よ。そう、意地。だってあなたも、最初は『こんな婚約認めない!』って言ってたじゃない。だからむかついて、やりかえしたのよ。文句ある?
でも王太子じゃなくなったら婚約解消するんだろって…。
いい?私、これでも貴族なの。追放されたってことは罪を犯したってことでしょう?なんで罪人の妻にならないといけないのよ。お先真っ暗じゃない。そうでなくても庶民でしょう?公爵家の娘が庶民と結婚なんて出来るもんですか。ニュースどころの騒ぎじゃないわよ。下手したら身分制度そのものがひっくり返るわよ。そうそう出来るわけないじゃないそんなこと。そんな馬鹿なことするぐらいなら、有益な人と結婚でもして、レイヴァンがさっさと返ってくるのを待つわよ。
え?帰ってくる気ないの?……何言ってるのよ、あなたみたいな子が、犯罪なんてできっこないでしょう?だから嵌められて追放されたってことよね?なら、そいつに仕返ししてぶん殴らないと気が済まないじゃない。
……あら、どうしたのよ。怖いの?じゃあ仕方ないわねえ、その時は私が代わりに社会的に殺して冤罪を晴らしてあげるわ。それで大手を振って返って来れるでしょう?」
「ヴィオラとの交際に賛成か?大賛成以外の答えがあって?だって、ジオルクがあんな子と交際するなんて……ぷーっ!あはははっ!ああおかしい!それは、彼女に惚れてってこと?真実の愛で?身分差もはねのけて?……やだジオルク、あなたって情熱的なのね…!いいわ、いいわ、その時は言っておいてあげる、『ジオルクはヴィオラの力で真実の愛に気づいたのよ…』って!レイヴァンもその時はしっかり言いなさいよ、『最初からとてもお似合いだと思ってました』とか!あははははっ!それで、式はいつ?ぜひ出席したいから、招待状は絶対頂戴ね。約束よ?…っぷぷ!」
「セリアー、今日のお菓子は?」
「今日は普通にクッキーよ。甘くないのもあるわ」
「………甘くないクッキー、というのも、なんだかだな…」
「ピリ辛ってところかしら?」
「………それは、なんか、俺も嫌かな…?」
「………何が入っているんだ…?」
「唐辛子が少しと、胡椒が少し」
「っジオルク!甘くないのは任せた!」
「っ断る!お前も食え!」
「っやだ!絶対やだ!」
「失礼ね、それなりに美味しいわよ。私は普通ののほうが好きだけど」
「ジオルクが甘いもの嫌いなせいだろ!食え!」
「セリアが変なものを作るからだ!」
「二人共、あーん」
「へ?」
「は?」
「はい。……どう?」
「………結構美味しい。普通のやつのほうが好きだけど、普通に美味しい」
「………こっちのほうが好きだな。美味い」
気づいたら、なんかもう、全部終わっていた。
結局何が起こってなんだったの?こっちは経済制裁を加えるために交渉して、絹を献上してツテを作り、紆余曲折の果てに貿易制限をかけさせたりしてたのよ?そろそろ音を上げる頃かしら。
レイヴァンとジオルクに聞いても、『なんでもない』『あの五月蠅い馬鹿に苛立っていただけだ』と言われた。
お兄様に聞いてみたら、事の顛末を聞かれて、話したら大笑いされた。
それから、『セリアは人気者だねって話』と言われた。
最近国政にばかりかかりきりでレイヴァンが拗ねて、ジオルクがそのレイヴァンの守りとヴィオラのダブル攻撃で疲れてたってことでいいのかしら?
まったくもう、忙しいんだから私を巻き込まないで欲しいわ。
あ、そうそう、ヴィオラは普通に振られたそうよ。
壮大な前ふりをしたけど悪役がただのお馬鹿さんでギャグになった話。
それでもヴィオラは転機になっていたらいいな。