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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎるプロローグ~幼少期~
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選択肢は選ばせるものではなく潰すもの

 後輩エンドに誘導するにはどうしたらいいか。

 腹黒の兄を味方に引きこむのも考えたが、兄に逆に操られかねないし、何より私は若干三歳。兄もまだ五歳である。無邪気に庭で遊んでいる幼児に私は何を期待しているんだという話だ。


 ではどうするか。


 他ルートにいかないよう、徹底的にルートを潰しておけば良い。

 みんな大好き消去法である。



 まず、王子様。

 とりあえず主人公が後輩とくっつくまでの間は私が引き受けよう。他の女の子を~なんて思えないぐらいしっかり実家の力を利用して締めあげておこう。お祖父様に頼んでもいいかもしれない。お祖父様は父と母にはほとほと呆れていたが、やはり孫は可愛いのか、私とお兄様には甘いところがある。実際に権力行使しなくてもブラフで乗りきれるようがんばろう。


 次にドS公爵。

 けなされることが決定しているから、そこで徹底的にやり返してやり込めて私に関わりたくないと思うようにさせよう。主人公とは友達になりたいから、『あいつの友達なら近づかないでおこう』と思うよう仕向ける。


 次、癒し系教師。

 これはとっても簡単。お父様にお願いして、しばらく私の家庭教師を続けてもらえばいい。そうしたら主人公と接触するタイミングはなくなる。学園に行かせなければいいのだ。


 次、生徒会長。

 これも簡単。私が問題児でなくなればいい。腹黒要素は…仕方ない、私の兄だ。なんとか性格が歪まないように躾よう。


 最後、女遊び先輩。

 この人はどうしようもない。心のケアって言っても、幼少期に会わないし。

 でもこの人の場合、特に私に影響はない。だからもしこのルートに入ったら、精々バッドエンドにならないように気をつけてあげよう。なんなら家で保護しても良いし、主人公の出自を勝手に割り出して密告してもいい。さすがに王家の娘さんなら警備は万全だろうし。


 あと、ノーマルエンドも警戒はいらない。バッドエンドからわかるように、全員主人公に好意的な前提の下のゲームだ。ルートに入ってしまったらあとは逃げ切るかバッドエンド行きかの二つに一つ。それなんてホラゲ。

 だからノーマルエンドにたどり着くのは逆ハーエンドより難しいし、ノーマルエンドは『悪役令嬢に刺されて死亡』だ。このゲームに後輩エンド以外心穏やかに見れるものはないのか、とツッコミは入れたいが、私が動かなければどうということはないのだよ。


 後は後輩としっかり結びつけておくぐらいか。

 それじゃあ…、


 「任務遂行出来るように、スペックあげときましょう」


 レベル上げ、始めました。



            ***



 「おかあさま、おかあさま」

 「あら、なあに、セリアちゃん」


 私に微笑んでくれる母。

 母は馬鹿だが、見た目は良い。とても美人だ。私も、悪女顔ではあるが、美人だ。悪役令嬢なんだからそれなりには美人でないとね。


 「おじいちゃま、こないの?」

 「お祖父様はお忙しいのよ。会いたいの?」

 「うん!あうのー!」


 手を伸ばして舌足らずに言えば、「あらあら」と微笑んで話を通してくれた。子供に甘い親だ。だから悪役令嬢がのさばって、兄が苦労したんだろうが。


 ともかく今は感謝。

 数日後、祖父が家に来てくれることになった。


 その間、兄のところに行く。


 「おにいさま、おにいさま」

 「どうしたの、セリア。おなかすいたの?」

 「せりあも、おにいさまとおべんきょうするー!おにいさまとー!」


 きゅーっと兄に抱きつけば、兄は困ったような顔をしていた。


 「セリアにはむずかしいよ?」

 「いいの!おにいさまといるのー!」

 「……しかたないなあ…」


 仕方ない、と言いつつあまり嫌そうでもない。兄も妹が可愛いのだろう。私は夜泣きもせず、親を独り占めしたりしなかったから、兄も妹に確執はないようだ。


 そうして祖父が来るまでの間は、兄とくっついて、兄の勉強を盗み見てお勉強した。

 そして数日後、祖父が来た。


 「おじいちゃま、あのね、おにわのおはながさいたの!」

 「そうかそうか」

 「みにいこう!」


 兄が勉強でついてこれない時間を見計らって祖父の手を引き、庭に連れ出した。


 これで二人きり。


 多少花を見ながら話をして、何気なく本題を切り出す。


 「ねえおじいちゃま、おじいちゃまっておしろではたらいてるの?」

 「ああ、そうだよ。遊びに来たいのかね?」

 「うん!せりあ、おしろいきたい!おじいちゃまがはたらいてるの、みたい!」

 「面白いことはないぞ?」

 「いいの!おにいさま、おべんきょうばっかりであそんでくれないんだもん」


 ぷりぷりと拗ねている、という感じに言えば、祖父も「わかった」と了承してくれた。やはり孫には甘い。


 この約束は、王子攻略のためのフラグ作りだ。

 ゲームではどうやって悪役令嬢が王子と出会ったのかは描かれていなかった。ただ、令嬢が王子を気に入って一方的に婚約させた、としか知らない。

 というわけで、折角なので自分から動いで出会いイベントを起こすことにしました、まる。





 初めて行ったお城は大きくて、圧倒された。

 ひゃー、と間の抜けた声が出たぐらいだ。実家の公爵家もデカかったけど、ここまでじゃない。

 さすがだなあ、と思いきょろきょろと眺めていたら、


 「セリア、こっちだよ」


 祖父に声をかけられた。


 「はーい」


 てちてちと祖父のほうに行く。今すぐに「お城を見たーい」と言うのは祖父的に面白くないだろうから、ある程度祖父の仕事を見て、飽きてきた頃に言い出そう。


 さて、適当に観察して―――…、




 「おじいちゃま、このおかね、けっきょくもどってきてるよ。ほら、ここ」

 「………そうだなあ」


 何故か、祖父と帳簿のにらめっこをしていた。


 だって仕方ない!帳簿目茶苦茶なんだもん!前世の記憶持ちとはいえ、そっち系の仕事はしてなかった私だけど、それでもわかるぐらい目茶苦茶だったんだもん!

 帳簿自体は数字の羅列でわかりやすくて、『前世では無駄に複雑な形式だったよなー』なんて感慨に耽ってたら、そもそも合計合ってないんだもん!末尾だけ計算したけど、間違ってるもん!

 形式も統一されてないし、だからお金の流れが一周して戻ってくるとかおかしなことになってるし、放っておけません!前世のあの複雑な形式にも、少しは意味はあったのだ!


 「おじいちゃま、すいがいにはね、たけをうえるといいんだよ」

 「たけ?なんだね、それは」

 「えっとー、…あ、これ。これだよ、おじいちゃま」

 「……ふーむ、この植物がそんな名前だったとは…」

 「たけはね、じしんにもいいのよ。ここってじしんっておこるっけ?」

 「東のほうでは起こるが…セリアはよくそんなことを知っているな…」

 「えへへ」


 「小麦は、土地のちからをいっぱい使うの。だから土地をやすめてあげないと、だめなんだよ」

 「土地のちから?」

 「うん。えいようぶん、麦が穂をつけるためにたべるご飯のこと。おみずが多い湿地では、水田がいいよ。おこめおいしいよ」

 「米…稲か。今は育てているものはほとんどいないはずだが…よく知っているな」

 「へへー」


 「戸籍謄本はあるんですか?庶子とか、ちゃんと記載されてますか?今の登録方法は?」

 「子供が産まれた時、教会での洗礼でそのかわりをしているが…」

 「それじゃ駄目ですよ。異教徒の方や、外から入ってきた方のカウントが出来ません。子供もたやすく隠蔽されてしまいます。だから…そうですね、出産時に母子手帳を発行し、さらに学校に入学する時にも戸籍謄本でチェックをすることを勧めます。また、諸外国から来た方はきちんと入国審査して管理すべきです」

 「……なるほど。ところでセリア、そのような知識をどこで知ったんだ?」

 「お気になさらずに」


 この国駄目になる…!と子供ぶりっ子を外して、前世の知識フル活用して祖父と話した。こういうとき、祖父が宰相で良かったと思う。思いつきがすぐ形になる。


 それにしても、このグチャグチャさは耐えられない。

 私は結構神経質というか、整頓癖がある。本とかもう、一巻から綺麗に揃えてしまわないとうずうずする。きれい好きでも完璧主義でもないけど、きちーっと並べてないと気が済まない。


 しかし、さすがに深くまでは口を出せない。私が子供だからというのもあるし、祖父はあくまで宰相で、王の意向や他の貴族との兼ね合いもあるからだ。

 だから一足飛びには出来ないんだけど……ああこのぐちゃぐちゃ、見てて苛々する…!


 「っお祖父様!私、王太子様と婚約したいです!そしてこの乱雑な形式を一つにまとめてきちんと出納管理したい…!」


 気がつけば、『王族の一員になっちゃえば好きに口出し出来るよね』という浅慮の元、王子との婚約を申し出ていた。

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