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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎる前フリ~初等部~
14/76

『大丈夫ですよ!私達友達でしょう?』

 時間は流れて、私達は三年生になった。兄は五年なので、来年には卒業してしまう。ただ中等部に上がるだけだが、寂しくてならない。


 だが、いいこともある。

 癒し系教師ことアルバート・シュペルマンが大学を卒業したのだ。

 コラソンさんによると、現在職探し中らしい。もし見つからなければ家庭教師に来て欲しい旨を伝えておいたが、そのうち本人に会いに行きたいと思う。


 というわけで、満を持してヴィオラに会いに行きましょう!元Aクラスでは友達と呼べる生徒も出来たが、クラス替えがあるし、友達はいて困ることはない!


 意気揚々と学校に登校。クラスは当然ながら、レイヴァンとジオルクと同じAクラスだった。三年からは家柄ではなく成績で分けるらしいが、それでも一緒なのは当然だ。一位、二位、三位を常に三人で独占している。


 「また同じクラスね。そうだろうとは思っていたけれど」

 「むしろ違ったらそのほうが問題だろう」

 「まあ、二人と一緒でよかった。またよろしくな」


 三人でいつも通り過ごして、放課後に解散。昼休みなら邪魔されたかもしれないけど、放課後なら邪魔は入らないでしょう。


 ヴィオラが帰る前に、とBクラスに移動する。ヴィオラは残念ながらBクラスだったようで、Aクラスにはいなかった。

 幸いまだ下校していなかったようで、ヴィオラは教室にいた。


 「あの、ヴィオラ・シュペルマン様?」

 「え、あ、ネーヴィアの!」


 声をかけると驚かれた。でも、顔と名前は覚えてくれていたようだ。


 「以前は失礼をしてごめんなさい。これからお時間よろしいかしら?」

 「は、はひ!」


 緊張しっぱなしのヴィオラを連れ、中庭に移動する。この時間は中庭にいる人は少ないので、静かに話すには持って来いだ。


 「え、えと、その、ネーヴィア様が私なんかに何の御用でしょうか?」

 「固くならないでいいわよ。セリアでいいわ」

 「い、いえ!そういうわけにも…!」

 「あらそう?でも本当に畏まるような用じゃないのよ。あなたのお父様から、私と同い年の娘がいるって聞いて、興味本位で会いに来ただけなんだもの」

 「ち、父から、ですか…?」


 ちなみにこれは本当だ。『そういえばお子様はいらっしゃるの?』から入り、『まあ、娘さんはおいくつ?私と同じね、じゃあどこに通っていらっしゃるの?』と誘導して言わせたからだ。今度は何を企んでいるんだ、という目で見られた。


 「ええ、祖父に会いにお城に行った時に出会ったから。だから私、よかったら仲良くできないかと期待してたの。………駄目かしら?」

 「いいえ、そんな滅相もない!」

 「じゃあ仲良くしてくださるのね。よかったわ。あ、ヴィオラ様とお呼びしてもよろしくて?」

 「え、あ、はい…」


 強引だったけど、ヴィオラと友達になることができた。強引だったけど。

 それから少しお互いのことを話し、さりげなくヴィオラの兄のことを探りを入れたりして、別れた。まあどこの家も色んな事情があって大変だと思った。

 本当は明日昼食に誘いたいんだけど、私の独断で人を連れてきたりしたら、ジオルクからはぐちぐち言われるし、レイヴァンもちょっと嫌な顔をするだろう。レイヴァンは人見知りなんかしないけど、急な予定変更が嫌いだから。



 「レイヴァン、ジオルク、明日友達を連れてきたら嫌かしら」

 「え、セリアに友達なんて出来たのか?」

 「昼食にか?どんなやつだ?」

 「とりあえずレイヴァン、こっちに来なさい」


 レイヴァンに教育的指導をして、ジオルクの質問に答える。


 「前聞いたでしょう?シュペルマン伯爵の娘さんよ。お知り合いになったから、親交を深めたくて」

 「………ふうん」

 「えー…。…一日ならいいけど、毎日は嫌だな…」

 「私も毎日なんて考えてないわよ。とりあえず一日でいいの。ジオルクは?」

 「別にどうでもいい。あんまりやかましいやつだったり食い方が汚いやつなら嫌だが…」

 「それは俺も嫌だ。セリア、そういう人じゃないよな?」

 「違うわよ。ていうかそんな人は私も嫌よ。じゃあ、明日連れてくるわね」


 二人からの了承を得て、ヴィオラを昼食に誘った。



 「は、初めまして、ヴィオラ・シュペルマンです」

 「セリアの友達だよな。レイヴァン・サルトクリフだ」

 「ジオルク・ウェーバー。よろしく」

 「レイヴァンは婚約者で、ジオルクは腐れ縁なの。遠慮はいらないからゆっくりしてね」

 「む、無理ですぅ~!」


 ヴィオラは意外と緊張していたので、比較的空気の読めるジオルクを会話に連れ込んで、素直だけど空気を読む気すらないレイヴァンはちょこちょこ加えるだけにとどめた。ヴィオラが答えに詰まったり緊張してどうしたらいいかわからないときには助け舟を出し、食後のお菓子まで一緒に食べた。


 「とっても楽しかったです!ありがとうございました、ジオルク様、セリア様、レイヴァン様!」


 そしてヴィオラは満足気に教室に帰って行った。

 私は妙な達成感と疲労感を感じていた。そういえば、接待なんてしたの、久しぶりだ。身分が高くてまだ子供だから、接待なんて誰も要求してこないし、精々両陛下にやるぐらいだ。

 しかし、疲れた。

 結構、疲れた。


 「………おい、正妻に愛人の接待をさせるとはどういうことだ」


 ジオルクも同じことを思ったようで、げっそりとして言ってきた。


 「彼女はあくまでお友達よ。やっぱり家内には内助の功を求めたいわね」

 「へー、二人共そんなに疲れたんだー」


 のんきに言うのはレイヴァン。王太子という立場から、レイヴァンは接待や気疲れなどからは無縁なのだろう。そのおぼっちゃま気質というか、自然と自己中心的なところが、たまに羨ましくなる。


 「子供は気楽でいいわね。大人になって王宮の裏事情や外交で苦労すればいいわ」

 「その時にはもう、父さんも母さんもいないんだからな。ちゃんと出来るように今から練習しておけ」

 「え?二人は一緒に来ないのか?」


 レイヴァンがきょとん、と、実に純粋な目で見てきた。

 ………ジオルクと目を合わせ、レイヴァンに向き直る。


 「レイヴァン、百歩譲って私があなたの補佐をやるとするわ。まあ妻だから、ありえないことじゃないもの。でもね、ジオルクは継ぐべき家があるの。いつまでも一緒なんてのはありえないわよ」

 「さらに百歩譲って俺が城勤めに行くとしても、セリアと俺の区分は完全に違うから、三人一緒というのはまず不可能なんだぞ?というか補佐についても四六時中一緒なわけでもないからな?」

 「王がやるからこそってところもあるのよ?私とジオルクがやるからいいや、じゃないの。わかる?」

 「えー」

 「えー、じゃないの。そうね…お兄様なら、お祖父様の跡を継ぎたいって言ってたから一緒になれるかもしれないけれど、お兄様だって家を継ぐんだからレイヴァンに構ってる暇はないわよ?」

 「ほう、フランツは宰相志望か。覚えておく」

 「ジオルクは来てくれるって。セリアも来るだろ?」

 「ジオルク、お兄様になつきすぎよ。お兄様は私のお兄様なの。それと、レイヴァンが甘えるからそういうことは言わないでおきなさいよ」

 「甘やかしているわけじゃない。というか、ならそもそもお前は厳しすぎる。何でも完璧にやる必要はないだろう」

 「なんでも完璧にやれなんて言ってないわ。ただ、最低限必要なことは出来るようになりなさいって言ってるのよ」

 「セリアとジオルクとフランツが来てくれるなら大丈夫だな」

 「「そうは言ってない」」


 言って、ため息をついた。


 「………やっぱり、こうよね」

 「フランツが入ってくるのはいいが…基本、こうだよな」

 「父さん、母さん、浮気しないでくれよ」

 「そうだな、元はといえばお前が愛人を連れてくるから…俺というものがありながら…」

 「ただの友達だって言ってるでしょう。あなたとレイヴァンがいるのに浮気なんかしないわ」

 「レイヴァン、離婚したら母さんと一緒に来てくれるか…?」

 「ジオルク、いい加減にして。愛してるって言ってるじゃない。ちゃんと贈り物もしてるし、何がいけないって言うのよ」

 「愛人を連れて帰ること」

 「愛人愛人しつこいわね。いいわ、いかに私があなたを愛してるか、今夜ベットの上でたっぷり教えてあげるわ」

 「そうやって誤魔化そうったって無駄だぞ」

 「いつまでそんな虚勢が続くかしらね。明日の朝、立てなくするわよ?」

 「父さん、母さん、子供の前でそういう話はやめたほうがいいと思うぞ?」

 「まったく、下品な女だな」

 「男のくせに女々しいのね」

 「………俺、彼女できた」

 「っなんですって!?どこの家の誰よ!いつ誑かされたの!?」

 「っなんだと!?どこのどいつだ!うちのレイヴァンに手を出すなど、許せん!」

 「うん、ずっと一緒だな!」


 いつも通り話して、解散した。

 やっぱり友達付き合いはいいけど、昼食の時間を邪魔されるのはいけないと身にしみて思った。



 「セリア様、今日もご一緒していいですか?」


 なのに、ヴィオラは笑顔で来た。

 確かに、昨日は『友達なんだから遠慮しないで』と言った。『同じ生徒なんだから身分とか気にしないで』とも言った。でも、それでも身分とか気にするのが普通じゃないの?え、これは日本お得意の『暗黙の了解』(空気読め)なの?でもここでも似たようなことはあるから、やっぱり普通よね?あれ、この子図々しい?


 「ごめんなさい、二人に聞いてみないと分からないの。私一人のことじゃないし…」

 「え?セリア様が勝手に決められないんですか?」


 当たり前でしょ何考えてんのよ場の空気が読めないのこの馬鹿。


 「ええ。当然でしょう?」

 「セリア様なら出来るかと思っていたのに…」


 何変な期待して変に失望してるのウザい。あと、その言い方は自分のことしか考えてないわよね?たった一日二日の付き合いのあなたが私の何を知っているっていうのよ。


 「そんなことないわよ。だから、ごめんなさいね」

 「いいえ、無理言っちゃってごめんなさい。じゃあ、私自分で言ってきますね!」


 笑顔で言うヴィオラ。

 それは『出来ないことを無理に言ってごめんなさい、あなたみたいな人には出来ないわね。じゃああなたより優れてる私が、面倒だけどやってきてあげるわ。あなたの顔を立ててあなたに頼んであげたけど、出来ないんなら自分でやるからいいわ』ってことかしら?

 ああ、もういい。

 この子は切ろう。


 「ごめんなさい、私、コラソンさんとよく話していたものだからつい先走っちゃってたみたいね…。昨日も無理強いしてしまったし、本当にごめんなさい。これからは控えるわね。あ、お父様にお詫びの品でも渡しておくから、よかったらいただいてくださる?」

 「大丈夫ですよ!私達お友達でしょう?」


 それを言っていいのは、立場が上のものか、よほど親しい友達だけだ。


 ていうか、あなた相手に『私の友達のヴィオラ』なんて言ったかしら。私、あなたに『友達よね』なんて言った覚えはないのだけれど?仲良くして欲しい、と言っただけよね?貴族間でそのぐらいよくあることだし、交友範囲を広げるのは情報収集のためにも皆やっていることよね?あなた伯爵の娘で、私公爵の娘よね?五等爵の第三風情が、現状で最も勢力のある第一に生意気言ってるんじゃないわよ。そもそもあなたの父親の上司の孫よ?窓際族に追い込むことも余裕よ?媚を売らないどころかこの態度、挑発してるのかしら。


 「いいえ、無理に言ってごめんなさい。お気になさらないで。そんな友達だなんて…」

 「遠慮はなしですよ!じゃ、私は行ってきますから!どこにいるかだけ教えて下さい!」


 私には二人の居場所を教えるぐらいしか能がないと。

 どこまで馬鹿にすれば気が済むのかしら。


 「あらごめんなさい、私も時間があったんだわ。じゃ、ごきげんよう」


 聞こえなかったフリをして退散して、ヴィオラがつけていないことを確認した上で、教室に素早く戻った。


 「あれ、セリア、そんなに急いでどうしたんだ?」

 「レイヴァン、ジオルク、時間がないから口を挟まず聞きなさい。これからあなたたちのところに、昨日襲来した蛮人が来るわ。私はあの子とは縁を切ったわ。間違っても私の友達なんて言わないでね。あの子の父が大臣補佐官なことは知ってるわよね。あとは任せたわ頑張って」

 「おい丸投げはやめろ!」

 「セリア!?」


 ジオルクとレイヴァンが私に詰め寄ろうとしたとき、


 「レイヴァン様とジオルク様、いらっしゃいます?」


 ヴィオラが来た。

 さっと他人のフリを決め込み、自席にそっと逃げる。あらこの本読みかけだったわ。読まなくちゃ。


 ヴィオラは私には見向きもせず、二人のほうに歩み寄る。

 入室許可も、誰かの誘導もなく。

 ………ヴィオラに視線が突き刺さる。ここはAクラスで、その自負もある。格下のBクラスに土足でうろつかれるほど、安いクラスではない。


 「レイヴァン様、ジオルク様、今日のお昼もご一緒させていただけないでしょうか」


 ヴィオラは気付かず言ってるけど。

 はい、ここでもポイント、身分は二人のほうが圧倒的に上。しかもレイヴァンは王太子。紹介がないのに気軽に声をかけられる身分じゃない。そりゃパーティとかなら別だけど、日常生活でなにはしゃいでんの?って感じになります。分別がある貴族令嬢はやっちゃ駄目だよ!


 「………」


 案の定、レイヴァンは嫌そうな顔をした。あれでお坊ちゃんだから、馴れ馴れしいのとか身分を弁えない人が嫌いなんです。身近にはそういうのを備えた淑女しかいないし、私がいる以上そういう馬鹿な子は群がって来れないから、まるで耐性がないんです。


 「断る」


 そのレイヴァンのフォローをすかさずするのがジオルク。気も持たせず、冷ややかな目ではっきりと断る。これは引き下がるしかないだろう。さすが、いけ好かないけどレイヴァンのお守りはきちっとしてる過保護男だ。


 「え、何故ですか?」


 それで食い下がるヴィオラもアレだ。あんな変な子、学園にいると思わなかった。よく入学出来たものだ。

 ジオルクは当然それを無視して、それで終わるかと思ったのに、


 「セリア様は良いっておっしゃってましたよ?」


 とぬかしやがった。

 さすがに、これは見過ごせない。


 「お話中失礼ですが、私、そのようなことを言った覚えがないのですけれど?」


 ジオルクとレイヴァンのほうに行く。レイヴァンは『セリア、早くあいつなんとかして』と目で訴えてきたので、そっとおやつの時に食べようと思っていた芋けんぴを渡した。レイヴァンは喜んで食べ始め、一旦は不快感も落ち着いたようだ。


 「え、おっしゃってましたよね?セリア様では決めることができないけれど、お二人に訊いてくれるなら良いって」


 私に決定権なんてない上に、あなたに聞いて欲しいって頼んだの?

 初耳だわー。


 「あなたは私と昼食をとりたいのではなく、レイヴァンとジオルクと私とで昼食をとりたいのでしょう?だったら、レイヴァンとジオルクの予定も確認しなくてはいけませんわよね。私、レイヴァンとジオルクの予定まで把握しておりませんの。だから、二人に訊かなくてはいけないと言ったんですわ」

 「セリア様と一緒に食べるなら、予定が空いてるってことですよ?」


 やだそんなこともわからないの?と副音声が聞こえるのは、何故かしら。そして私と三人で食べるのは予定のうちに入らないってことかしら?


 「ええ、でも、予定があるかもしれないでしょう?それから、二人に訊きたいことがあれば自分で訊きますわ。あなたに訊いて欲しいなんて頼んだ覚えは、ないのだけれど?」

 「え、だってセリア様、出来ないって…」

 「言ってません。入学前から交流のある婚約者と腐れ縁に、どうしてお昼がどうかが訊けないとお思いになるのか、私本当にわかりませんわ。教えてくださる?」

 「セリア様って、虐げられてるんじゃないんですか?」


 言葉が出なかった。

 罵詈雑言が脳内を飽和して、言葉が出なかった。

 ヴィオラは、したり顔で微笑む。


 「大丈夫ですよ!ほら、私達友達じゃないですか!」


 ………力を抜く。


 「私達、友達だったかしら?」


 極上の笑顔で、答えた。


 「先程から侮辱もほどほどにしてくださる?私が虐げられてるですって?そんな証拠がどこにおありなの?そもそもここまで一緒にいるぐらいなのに、虐げられてる?ありえないってわかりませんの?そもそも三人で食べるっていう『予定』が入っているのですけれど、そこに無理矢理横槍を入れようとしている自覚はありまして?私と食べるなら予定はない?私と食べるという予定があるでしょう?それに私が虐げられているなんて妄想をしていらっしゃるのなら、どうして私を引き合いにだしたりしたんですの?私は了承してるからっておっしゃりたいの?いないと思って好き勝手嘘を言うのはやめてくださる?それからあなた、ここをどこだと思っていらっしゃるの?Aクラスよ?家柄も頭脳も申し分ない一握りの貴族しか入ることが出来ない、名誉あるクラスよ?そこにずかずか入って王太子様に話しかけて、あなた何様なのかしら。私と友達なんて言ってらしたけど、そこの身分差もご存知?ねえあなた、誰に向かって『友達だから大丈夫』なんて舐めた口を聞いたのかしら?あなたが友達であることで私とって何かいいことがあって?あなた私相手に上から目線で話せるほど、立派なご身分なのかしら?あなたのお父上と親しくさせた頂いてるから、あなたもと思ったけれど、思い違いだったようね。破門にされるか一家露頭に迷うかはコラソン様次第だけれど、今の生活が惜しいのなら舐め腐った真似をするのはほどほどになさってくださる?」


 「………へあ?」


 ヴィオラは、ぽかん、としている。

 外面を外して、二人のほうを見る。


 「ジオルク、それで彼女の昼食のお誘いはどうするの?」

 「さっき断ると言った」

 「そうね。じゃあレイヴァン、あなたは?」

 「勿論セリアを侮辱したやつなんかの誘いなんか受けるはずがないです!セリアは今日も誇り高くて素敵だと思います!頭の良い婚約者がいて幸せです!このお菓子、ちゃんとセリアとジオルクの分も残してます!美味しいです!」

 「そう、ありがとう」


 躾の成果か、レイヴァンはびしっとしていた。ジオルクは「こんなときにいい笑顔浮かべて…」と目を逸らしていた。失礼ねえ。

 さて、とヴィオラのほうを、笑顔で見る。


 「そういうわけよ。昼食のお誘いはお断りさせていただくわ。じゃあ授業もあるし、ごめんあそばせ」

 「え、あ、待ってください!」


 ヴィオラは慌てる。そこに自己保身のようなものは見えず、本当に慌てているだけのように見える。


 「わ、私、お友達もいませんし、そういうものだなんて知らなくて…!そういうつもりじゃなくて、セリア様のためと思っていたんです!」

 「私が、ネーヴィア家の娘が、クラスメイトに虐げられるような弱者だと決めつけて?ひどい侮辱だって、わかってておっしゃってるの?」

 「え、え!?ち、違います!…そんなんじゃなくて、悪気はなかったって…」

 「悪気がないからって許されると思って?悪気がなかったからなんだって言うのかしら」

 「……だから…その…そういうつもりじゃなくて…」

 「あなたがそれを意図したわけではないことは聞きました。だから何だと問うているのですが、お分かりですか?」


 いい加減、怒鳴り散らしそうだ。

 お嬢様言葉も抜けて、レイヴァンがジオルクに縋り付いている。ジオルクも、やや顔がひきつっている。


 「だ、だから…ゆ、許して、くれてもいいんじゃって…」


 ヴィオラは口ごもりながら言った。

 ふざけんな?


 「許す、許さないは侮辱を受けた私が決めることです。何故、加害者であるあなたが『許してもいいのではないだろうか』と私に勧めているのですか?助言出来るような立場なのですか?私はあなたに助言をもらわなければならないほど不認識だと言いたいのですか?」

 「ちがっ…!あの、だから…」

 「だから?」

 「………そんなに、怒らなくても…」

 「ここまでの侮辱を受けても、怒ることは大人げないですか?私の感情の機微を、何故あなたに指図されないといけないんですか?」

 「………次から、気をつけるから…」

 「気をつけるからなんですか?それ、今関係あります?」

 「………」


 ヴィオラは泣きそうな顔で黙る。

 黙ったら、泣いたら許されると思ったら大間違いだ。


 「レイヴァン、今日陛下はお時間はあったかしら。正式に抗議するならば、陛下からの許可も必要よね」


 このままなら、本気でお家取り潰しにしてやる。それが出来るだけの権力とコネは持っている。

 そう遠回しに伝えると、ヴィオラもばっと顔を上げた。

 ただ、泣き顔で、


 「そ、そんなに言わなくたっていいじゃない!そんな風に曲解するなんて!セリア様はひどい!」


 寝ぼけたことを言いやがる。

 はいはい、死にたいのね。


 「ヴィオラ・シュペルマン、今のは私への明らかな侮辱です。私の家名の下に、あなたの命をもって償うことを要求します」


 レイヴァンのサーベルを取り、ヴィオラに向ける。儀礼用のちゃちな玩具だが、殴り殺すくらいは出来るだろう。


 ヴィオラは本格的に泣き始めた。

 同時に、レイヴァンも泣きそうになっていた。


 「じ、ジオルク~…」

 「………セリア、レイヴァンも泣きそうだし、そのぐらいにしてやってくれ…」

 「あら、意気地のないこと。正当な報復の邪魔をしたってことで決闘でも申し込もうかしら」

 「せ、セリア、やめて、おねがい。俺、いい子にするから。いい子になるから」

 「………別にレイヴァンをいじめてるわけじゃないのに、そこまで怯えなくてもいいじゃない。ちょっと傷つくわよ?」


 今にも泣きそうな目で懇願されたら仕方ない。サーベルを返して、ヴィオラの前に立つ。


 「ヴィオラ・シュペルマン、精々レイヴァンに感謝することね。それと、謝罪の一つもまともに出来ず、言い訳と私を責めるばかりだったあなたの態度は、あなたのお父様によく伝えておくわ」

 「だ、だって…」

 「言い訳は聞きたくないわ。私の目の前から消えて頂戴」

 「だって、そうやったら好かれると思ったんだもん!」


 ………は?


 「本に、そういう態度の女の子がいて、その子、なんでか好かれてたし、私友達いなくて本しか読んでないし、あれは確かにどうかと思ったけど、そうなのかなって思って!言いたいことなんてはっきり言ってくれないとわかるわけないじゃない!生まれてこの方友達いない女舐めないでよ!声かけられて、どれだけ嬉しかったと思ってるのよ!独りご飯が嫌だから仲間に入れて下さいって言えばいいわけ!?次は何、靴舐めるの?これだから頭も見た目も家柄も良い人は嫌なのよ!昨日徹夜でイメージトレーニングしたのに!」

 「採用」


 つい、先に言葉が出ていた。

 何この子、面白い。


 「ヴィオラ、一緒にご飯食べましょ。二人が嫌がったら私だけでも一緒に食べるわよ。近い将来破滅したときには見物に行くから声かけてね」

 「意味分かんない!その施しを与えるような態度が嫌なのよ!でもご飯の誘いを断れない自分はもっと嫌!」

 「施してるつもりはないわよ。見てて面白いから見ていただけ。私に迷惑かけないでね」

 「友達は助け合うものでしょ!」

 「友達じゃないもの」

 「ひどい!」

 「ひどいもの」

 「認めないでよ、悪口が言えないじゃない!」

 「褒めてくれてありがとう。ヴィオラ、あなたお馬鹿さんなのね?」

 「ああそうよ、馬鹿よ!悪いかしら!それと褒めなんかないわ!」

 「他に悪口として言うところがないってことでしょう?」

 「………なるほど」

 「お・ば・か・さんっ」

 「むきーー!」


 実際に『むきーー!』とかいう人初めて見た。吹き出しそうになるぐらい面白い。


 「じゃあねヴィオラ。お昼にまた会いましょう。あ、移動するの面倒だからあなたがこっちに来てね」

 「いいわよ、あの肩身の狭い、絶対馬鹿にされてる教室より全然マシだもの」

 「それをね、被害妄想って言うのよ?」

 「あなたって性格悪いわね、セリア!」

 「よく言われるわ」

 「直しなさいよ!」

 「性格が良かったら、非の打ち所がじゃくなるじゃない」

 「っまったくね!文句が言えないのが悔しいわ!覚えてなさいよ!」

 「私は覚えていられるけど、あなたは大丈夫?メモしておきましょうか?」

 「へ?」

 「馬鹿で記憶力もないんでしょうって、馬鹿にしてるのよ」

 「っ馬鹿にしないでよ!」

 「言われるまで分からないところが、もうお馬鹿よ」

 「五月蠅い!とにかく、覚えておくことね!」

 「お昼待ってるわよー」


 手を振ってヴィオラを送り出す。

 あー、馬鹿でいじりがいのある、楽しい子だった。

 さて、


 「そんなわけで、お昼一緒にいいかしら?」

 「………お前の変わり身の早さに引いている」

 「セリア…すっごく生き生きしてた…」

 「楽しいんだもの。結局謝らなかったあの子もあの子よ。破滅が楽しみだわ」

 「………セリア…」

 「………」

 「それで、いい?駄目?」

 「………セリアの好きにしたらいいと思う…」

 「………好きにしろ」

 「じゃあ四人で仲良く食べましょうね」


 許可を取り付けて、お昼を楽しみに待った。

よくある自称ヒロイン網勘違い目空気読め科不敬罪属のポジティブ馬鹿にしようと思ったら本当の馬鹿になった。

どんどん乙女ゲーの世界から脱線していく…。

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