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悪役令嬢だけれど何か文句ある?  作者: 一九三
長すぎるプロローグ~幼少期~
1/76

主人公と悪役令嬢、どっちが不幸かわからない

飽きる前に終わらせたい所存です。よろしくお願いします。

 荘厳な建物。

 きらびやかな空間。

 光り輝く園に足を踏み入れるのは、どこか不安げな女子生徒。

 彼女の色素の薄い整った天使のような容貌と相まって、まるでここが天国のような錯覚を受ける。

 慣れないようにきょろきょろと周りを見渡す彼女の前に、ざっと歩み出る。

 不穏さを演出するようにびゅうと強い風が吹く。


 ―――タイミング、演出、ともにばっちり!


 彼女の前に立ちふさがった私は、びしりと彼女に言い放つ。


 「私、あなたのことが嫌いよ!気に食わないわ!だから、覚悟なさい!」


 決まった!どこからどう見ても、立派な悪役令嬢だ!

 心中で全米が震撼した。確実に。


 そう、何を隠そう私は、悪役令嬢役なのだ!


 「うちのじゃじゃ馬がすまない。よく躾けておく」

 「覚えておきなさい!ただじゃすまさないから!」


 五月蠅い同級生に首根っこを掴まれて引きづられながら、私はどや顔で成果に満足していた。



            ***



 ありがちなお話。

 前世の記憶があるまま、前世の世界でプレイした、いわゆる乙女ゲーの世界に転生していた。

 私は『ある日突然~』のタイプではなく、物心ついたときから前世の記憶があった。

 勿論記憶があるだけで性格などは違う。『これこれこういう世界があって、こういう人が生きていて、こういうことが起きたんだ』という『知識』があるだけだ。今は亡き前世の私とははっきりと別人だ。会ったら旨い酒が飲めるだろうと思う。


 というわけでこれからは前世の自分のことを彼女、と言わせてもらうが、その彼女の記憶が問題だった。

 そう、もうおわかりだろう(数行前で普通にネタばらししてるし)。

 彼女がプレイしたことのある乙女ゲーム『今夜、君に会いに行くよ』が、今の世界とそっくり同じだったのだ。

 気づいたのは自分の名前がわかるようになってから。

 まさか私、セリア・ネーヴィアが『今夜、君に会いに行くよ』の悪役令嬢だったなんて…!

 ってことで詳しい説明入りまーす。






 『今夜、君に会いに行くよ』はそれなりに有名な乙女ゲームだ。ファンも多いし、かなりの売上があった。某大型掲示板で検索すれば、かなりヒットするだろうというぐらいには有名だった。


 ただし悪い意味で。


 営業妨害には取られたくないので、ネット上での実際のお客様の声をあげると、

 『ぜひ乙女ゲームに興味のない人にも試してもらいたいゲーム』

 『全ルートクリアしてからタイトル二度見した』

 『これは乙女ゲーじゃない。ホラゲだ』

 『これはひどい』

 『今夜、君に会いに行くよ。ただしホラー的な意味で』

 などなどである。

 想像が付いてくれたら幸いだ。

 普段乙女ゲームには縁のなかった彼女も、『なんじゃそりゃ』と面白半分で購入してプレイした。

 あまりそういうものにはまらない性質の彼女がだだハマりして全ルートクリアして逆ハー特典の一枚絵(スチル)を出したぐらいには面白かった。

 なんというかもう、乙女ゲームというより、いっそギャグなのだ。


 世界観は、中世ヨーロッパのお貴族様方の恋愛鞘当って感じだ。ちなみに魔法はなくて王政。ばりばりの身分制度。


 主人公は『リリー・チャップル』。何故か最初の紹介時に『ゴーヤ・チャンプルってよく言われるけど、ゴーヤってなんだろう?』と呟いていた。この時点で前世の私は吹き出していた。

 設定としては、よくある『平民生まれだけど高い学力で特待生として入学。しかしその正体は王家の娘』という感じ。銀の髪に若草色の瞳、という色素の薄い可愛らしい容姿をしている。まるで天使のよう、というか、場面によっては羽のエフェクトがくっついたりしていた。髪にも綺麗な天使の輪がかかっていた。


 攻略対象その一は、本命の俺様系王子。難易度S

 王子と言っても、王太子様。主人公は『王の従姉妹の子供』だから血縁的にははとこに当たる。近親相姦じゃなくてよかったね!

 王太子だから~と甘やかされた結果が俺様だよ!という境遇。主人公と出会い、『こいつ面白い』と興味を引かれ、『思うようにならないやつだ』と恋に落ちていく。ツンデレが落ちやすいと思ったら大間違いだ!な面倒臭さを誇る。艶のある黒髪と紫色の瞳の『ああなんか俺様王子っぽい』って感じの美形だ。


 攻略対象その二は、ドSな公爵令息。難易度A

 完璧超人で、周りにはゴマすりをする媚びへつらいしかなくて、両親は完全な政略結婚で愛もなくて、非常にひねくれてしまった子供。主人公の真心に触れて改心とかそんな流れ。蜂蜜色の髪で緑の目の、なんか隙のなさそうな美形。


 攻略対象その三、癒し系教師。難易度B

 保健室の先生で、先生なのにドジっ子でかなり癒やしキャラ。ドジばかりで落ち込んでいるところを主人公が励まし、また学校に馴染めずにいる主人公を励ます役目。人工の疑いはあるが癒やしなので見て見ぬふり推奨。亜麻色の髪と目をしている優しげな風貌の隠れ美形。華やかではないけど、しっかり美形。


 攻略対象その四、優しい生徒会長。難易度B

 悪役令嬢の兄。昔から妹に手を焼かされてほとほと困っている。面倒見の良い性格。主人公に話を聞いてもらったり、主人公に頼られたり、便りになる優しい先輩。腹黒要素あり。金髪碧眼で、王子より王子っぽい美形。


 攻略対象その五、女遊び先輩。難易度C

 女遊びが激しいというチャラい先輩。幼いころに母親を亡くして寂しがり屋さんなんだとか。遊びで誘っても乗らない、真面目で一途な主人公に落ちる。ヤンデレの素質あり。茶髪に灰色の目の、少し強面の美形。でも笑うと幼くて可愛い、とギャップで人気があった。


 隠しキャラ、ミステリーな後輩。難易度?

 ツッコミ属性でよく突っ込んでくれる。世話焼きでもある。でも『まあそう上手く行くといいんですけどね…』『……お元気で』などと意味深なことを言う。各キャラからの好感度や情報などを知りたいときに活用するお友達キャラ。

 中等部なので蚊帳の外のようだが、通い詰めるとルートが出てくる。普通の幸せエンドで、疲れた心を癒してくれる。黒髪黒目で、一見モブっぽい。だがそこが好きだ!


 で、ライバルというか当て馬なのがこの私、悪役令嬢『セリア・ネーヴィア』である。絹のような黒髪と青い瞳の色白美人。ツリ目で怖そうだけど、真っ赤な唇と左目の下の泣きぼくろがチャームポイントの、まごうことなき美人さんだ。

 家柄は公爵と、かなり良い。祖父が国の宰相を勤めていることもあり、王もなかなか口出しできない。そんな賢い祖父とは裏腹に、父を始めとする一家はお馬鹿。祖父は優しい生徒会長である兄に目をかけているので、一応静観している。


 悪役令嬢は将来、俺様王子と婚約し、しつこくしつこくつきまとうことになる。王子は嫌がっているけど、令嬢は『将来の王妃』となりたいがために手放さない。親ばかの父がうまーく根回ししている。

 ドS公爵は、悪役令嬢のライバル。令嬢は彼にけなされたことがあり、それを今でも根に持っている。だからドS公爵の恋路をとことん邪魔する。同じ公爵でも令嬢家のほうが強いから面倒なのか、ドS公爵はまるで相手にしていない。

 癒し系教師は悪役令嬢の元家庭教師。優しかった彼に令嬢も懐いていて、その彼を取る主人公が気に食わない。お馬鹿なりに結構懐いている。癒し系教師も、苦笑いしながら突き放さない程度。

 優しい生徒会長は勿論兄。我儘放題の妹に辟易している。が、令嬢は『自分の兄なのに取られたくない』と邪魔をする。迷惑はかけるけど兄に対して悪意は皆無。

 女遊び先輩は関わりがない。だから悪役令嬢からの妨害も少ない。ただし、『平民のくせに生意気だ!』と嫌がらせは受ける。他のルートに比べれば全然マシだけど。

 隠しキャラ、ミステリーな後輩も女遊び先輩と同様。ただ、ルートを出すために結構通わないといけない。ルートを出すまでがかなり長い。



 さて、ある程度説明は出来たけど、ここからが本番だ。

 『今夜、君に会いに行くよ』が悪い意味で有名になった理由。


 俺様王子の場合。

 ハッピーエンドでは勿論主人公が王家の娘だと発覚して結婚。悪役令嬢は僻地に追放、というお決まりのパターン。

 だがバッドエンドでは、主人公が僻地に追放される。

 主人公を嫌っていた悪役令嬢が王妃となり、主人公にあらぬ疑いをかけて追放してしまうのだ。

 その後、『楽しい牧場生活に続く…』とテロップが出る。『楽しい牧場生活』はこの会社の別ゲームだ。ステマが露骨すぎて笑えた。


 ドS公爵の場合。

 ハッピーエンドでは同じように主人公の出自発覚からの結婚。悪役令嬢は事故で死亡した、ということになっている。

 バッドエンドでは主人公が行方不明になる。ドS公爵は『さあ、どうしたんだろうね』と作り笑顔で微笑む。あな恐ろしや。


 癒し系教師の場合。

 ハッピーエンドでは主人公の出自は分からないが、ほわほわと結婚して幸せに暮らす。悪役令嬢は悪事がバレて追放。

 ハッピーエンドの後に、『釣れてよかった』と癒し系教師が小声で呟いたのが聞こえるのがホラー。

 バッドエンドでは『卒業だね』などと世間話しているところで徐々に画面が暗転。癒し系教師が『H2SO4』というラベルの貼っている瓶を手に持ったのが見えたところで完全に暗転。そしてガラスが割れる音と女の子の悲鳴。『っご、ごめんね!大丈夫!?』と完全にパニクっている声で謝る教師。それで終わりだ。さて、先生のドジっ子は天然なのか人工なのか…。


 優しい生徒会長の場合。

 ハッピーエンドでは主人公の出自がわかり結婚。悪役令嬢は家を追い出され、路上でみすぼらしく残飯を食べる姿が…。

 バッドエンドでは妹の悪役令嬢に『そういえばあの子が…』と上手くけしかけ、悪役令嬢はナイフを持って主人公の元へ走る。『あーあ、ゲーム失敗』という生徒会長の呟きの背後で、主人公らしき女の子の悲鳴が響く。


 女遊び先輩の場合。

 ハッピーエンドでは出自は分からないが結婚。数年後にはどこかのお屋敷で子供を抱いた幸せそうな主人公が…、という終わり。

 バッドエンドでは薄暗い地下室でお腹の膨らんだ虚ろな目の主人公が…、という終わり。とりあえず手が早いね!


 ミステリーな後輩の場合。

 ハッピーエンドでは後輩が顔を赤くして告白してきて、主人公がその手を取る、という綺麗な青春みたいな終わり方。

 バッドエンドでも、後輩がちょっと無理しているかのような明るさで、『来年はまた後輩ですね。よろしくお願いします、先輩』と言って終わり。それまでは『リリー先輩』や『リリーさん』と呼んでいたのに徹底して名前を呼ばない。何故彼を選ばなかったと詰め寄りそうになる終わりだ。


 そしておまちかねの逆ハーエンド。

 ここには攻略に時間のかかる隠しキャラ、ミステリーな後輩は入っていない。

 終わり方としては皆で主人公を取り合うような普通の終わり方なのだが、


 俺様王子は『追放』という文字の入った書類をひらひらさせて近衛兵を呼び、

 ドS公爵は暗殺者のような怪しげな人影に指を鳴らして合図し、

 癒し系教師は『NaOH』というラベルの瓶を手に取り、

 優しい生徒会長は『セリア、ちょっとおいで』と悪役令嬢を呼び、

 女遊び先輩は縄を手に取る。

 そして真っ赤な月を背景に、


 『おい、リリー』

 『なあ、リリー』

 『あのね、リリーさん』

 『ねえ、リリー』

 『あのさ、リリー』


 『『『『『今夜、君に会いに行くよ』』』』』


 と言うのである。

 完全にホラーである。

 ちなみに特典のスチルは、真っ赤の月を背に全員が三日月形に裂けた口で笑っているところだ。

 何度でも言おう。ただのホラーだ。


 また、主人公がかなり笑えるキャラだった。

 鈍感なんじゃなくてただの馬鹿じゃないのか、と言われるほど笑えた。

 『ええ、私も好きよ。あ、スキが好きってどう思う?』とか、『面白いなんて失礼だわ!まだどじょうすくいもしてないのに!』とか、お前ギャグ要員だろ、というほど笑い要素しかなかった。

 まあ、それに笑っていたら後半のホラー展開で叩き落とされるんですけどね!



 これで粗方の事情はわかってもらえただろう。

 というわけで、これまでの私の努力を見ていただこう。

 はい、ミュージックスタート!



            ***



 物心付いた時から前世の記憶があった私は、とても賢い子だと言われていた。

 夜泣きもせず、我儘も言わない。とてもよい子だと言われて育った。


 ―――ま、当たり前ですけどね!精神年齢何歳だと思ってんだ!


 心の中で大笑いしながら、すくすくと育った。


 前世の私は三十の誕生日に亡くなった。その知識を引き継いでいる私は、もう立派な大人だった。

 ただ知識を受け継いだだけとはいえ、三十年の間の経験も『知識』としてだが、しっかり覚えているのである。新たに三十年修行してきたのと似たようなものだ。


 そんなわけで元気に育ち、自分のお名前を知って、かなりビビった。


 これ、あのホラーコメディゲームの世界じゃない!?ていうか私、悪役令嬢!?お兄様腹黒!?

 とても驚いた。

 三日間ぐらい呆然としていた。


 三日後。

 私は決意していた。

 自分のために、そして主人公のために、なんとか後輩エンドを目指させよう、と。

 後輩エンド以外は、私か主人公がひどい目にあっている。どちらも無事で済むのは後輩エンドの時だけだ。私は我が身は勿論、主人公にもひどい目にあって欲しくない。

 私はあのゲームで大変笑わせてもらった。

 ゲームで自分の代わり、ということでプレイもした。

 主人公にそれなりに愛着もあるし、なによりあの笑いの才能は素晴らしいと思うのだ。

 あんな笑いの塊を失ってはいけない。

 だから私は、後輩エンドに持ち込むため、努力を始めるのであった。

 続く。

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