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ブルート・イェーガー~血ヲ狩ルモノ~  作者: 井平カイ
episode.2『無様でも何でも、生きてみせろ!!』
9/11

part.2

 アル爺の店を後にしたブレイクとエリスは、街を歩いていた。今回の血族も純血だと分かったブレイクの足取りは、力強い音を立てていた。


「まるで子供ね」


「何がだよ」


「相手が自分の目的だって分かった途端それだもの。さっきまでのあの足取りはどこに行ったのかしら?」


 呆れるような口調のエリスに対し、ブレイクは頬を数回指でかき、話を誤魔化すかのように話し出した。


「……今回の件が純血だってのは分かったけど……問題は“もう一つ”の方だな……」


「……“少年”?」


「ああ。ソイツが血族なのかどうかは分からねえ。でも、鍵を握ってるはずだ。能力しか分かってない血族を探すより、そのガキを見つけた方が手っ取り早いかもな」


 そう淡々と告げるブレイクに対し、エリスはどこか浮かない顔をし、小さく“そうね”と呟いた。それはその少年が血族だった時のことを考えてのことだった。

 彼は……ブレイクは、少年が血族だった時、砂に変えるのだろうか……

 それを思うとエリスは胸を締め付けられる気分だった。

 おそらくブレイクは、その“目的”の為であるならば、その少年が血族だった時、迷うことなく砂にするだろう。

 それは、エリスにも想像出来ることだった。だからこそ彼女は祈るような気持ちだった。少年が血族でないことを。ブレイクが少年を手にかけないことを。


 二人は聞き込みを開始した。

 しかし、その対象は大人ではなく、年端もいかない少年少女であった。

 彼らは分かっていた。大人は簡単に嘘を付く。自分の身を案じ、白を黒と、黒を白と簡単に嘘を付く。その口から出る“真実”は、その実、信用性に乏しい。

 しかし、子供は違う。利害を考えず、ただ純粋に真実を口にする。

 それは時に残酷でもある。思いもしない言葉を発することもある。だが、ブレイク達が欲しがるのは、残酷であっても“真実”なのである。





 ==========





「……思ったより集まらないなあ」


「そうね……もともとこの街の子供じゃないのかも……」


 二人は街の中にある食堂にいた。夕食時の食堂にはたくさんの人が空腹を満たしにきていた。仕事帰りの者、買い物帰りの者……様々な人々がテーブル上に並べられた食物を会話をしながら食べている。

 ブレイクはそんな状況が苦手であった。しかし、嫌々ながらも腹は減る。仕方なく食事をするブレイクだったが、彼のストレスは高くなっていた。

 それは、話し声が溢れる食堂だけが原因ではなかった。彼らは街を歩き回り、情報を集めようとした。しかし、予想よりも情報は少なく、血族どころか、少年に関する情報もほとんど得られなかった。


「今のところ、分かったのは銀色の髪のガキってだけか……」


「目立つ髪ではあるけどね……」


「目立つ色の髪なのに、ほとんど情報がないなんてなぁ」


「これは、長期戦になるかもしれないわね……

 ああ……メンドクサ――――」


 そう呟いたエリスは、ふと右を見て固まった。

 しかし、イスにもたれ掛かっていたブレイクは気付かない。


「だよなあ……ひょっこり俺らの前に現れてくれれば早いんだけどな…………

 まあ、そんなに上手くいくわけ――」


「――ねえ……ブレイク……」


「あ? なんだよ」


「少年の特徴って、銀髪だったわよね」


「だから、そういう話してただろ……」


「もしかして、“アレ”じゃない?」


「“アレ”?」


 ブレイクは、エリスが見つめる先を注視した。


 そこには、一人の少年の姿があった。

 ……その少年、銀色の短髪を靡かせ……


「アレだあああ!!」


「ちょっとブレイク! 声が大きい!!」


 二人は身を机に屈ませ、机の端にあるメニュー表で顔を隠した。そしてその隙間から少年の動きを観察する。

 年は、10歳といったところか。情報の通り、銀色の短髪である。色黒で小柄。上衣は緑色のノースリーブシャツ、膝までのハーフパンツであった。一見すると、ただの普通の少年である。

 その少年は、周囲をキョロキョロと見渡し、何かを探しているようだ。


「……何してるのかしら」


「さあな。ま、見てりゃ分かるだろ……」


 その少年は、酒に酔い、机に伏せて眠る中年を起こし、何かを耳打ちし始めた。するとその中年男性はすぐに起き上がり、ヘラヘラ笑いながら少年と共に外へと出ていった。


「……付けるぞ」


「……ええ」


 それを追い、二人もまた、暗闇が広がる店外へと足を運んだ。





 ==========





 外は人影が数えるほどになっていた。街の灯りも少しずつ減り始め、今日という日に終わりを告げるかのようだった。

 少年と中年男性は、そんな街を歩き続けていた。


「どこに行く気かしら……」


「……この方向からすると……町外れか?」


 ブレイクの予想は当たっていた。少年と男性は、徐々に市街地から離れていった。そしてやがて、岩肌が目立つ町外れに辿り着いた。

 岩の陰に身を潜めたブレイクとエリスは、二人の姿を静観していた。二人は、会話をしていた。


「おい小僧。本当に、タダで美味い酒が飲めるんだろうな?」


 中年男性は、どうやらそのことで呼び出されたらしい。


(んなわけあるわけないだろう……)


 ブレイクは、そんな卑しい男性を蔑むような表情で見ていた。


 すると、少年は、なぜか男性から数歩後退りして遠ざかった。男性は周囲を見渡し、それに気付いていない。


「……なんだ?」


 少し離れたところで、少年は目を瞑った。

 ――その瞬間だった。


 グシャ――


 辺りに鈍い音が響き渡る。男性の頭からは、何かが生えていた。……いや、何かが“貫いていた”。


「な――――!!」


 ブレイクは驚愕の声を上げ、身を乗り出した。


「あば……ばば……」


 男性の頭からは鮮血が吹き出す。体はガクガク痙攣し、目は白目を向き、口からはドボドボと血液が流れ出ていた。

 男性の足元からは“何か”が地面を突き破り、上に伸びていた。そしてそれは、男性の下半身から頭頂部まで突き刺していた。

 その光景はあまりに残虐だった。一目見れば、もはや助からないことが明白だった。

 男性を突き刺したのは……植物のつるだった。


「何てことを……」


 エリスは口を覆い、絶句していた。ブレイクは眉間にしわを寄せ、死んだ男性の横に立つ少年を睨み付けていた。



「……なんだ、今日の飯は、酔っぱらったオヤジかよ……」


 突然暗闇の奥から、声が聞こえた。そして、その声の主はヌルリと闇の中から姿を現す。


「しょうもない人間なんて連れてくるじゃねえ、ビスク……」


「ご、ごめんなさい……」


 睨む男に、少年――ビスクは身を小さくしながら、謝罪の言葉を述べる。その姿は絶対服従と言えるほど、少年は怯えきっていた。

 男はそんな姿に心の中がざわついていた。更に、その男は気付いた。


「チッ……しかも、“妙な客”まで連れてきやがって……よぉ!!!」


「――!! 避けろエリス!!!」


「―――ッ!!」


 ブレイクの叫びで、エリスとブレイクはその場から飛び出す。その瞬間、ブレイク達がいた地面からは、尖った蔓が突き出る。


「お? かわしやがったか……」


 男は余裕の笑みを浮かべ、ブレイクたちを見ていた。

 その姿、頭髪は緑に染め、肩までの毛は一本一本がパーマのように捻れている。服装は黒い長袖シャツに青いズボン、靴は履いておらず、地面を踏み締めるように立つ。


「……さてはお前ら、イェーガーだな?」


 男はニヤリと笑う。まるで、新しい玩具を手にいれたかのような表情を浮かべる。


 ブレイクとエリスは、男の前に立った。男の姿を見たブレイクは、漂ってくる匂いを感じ、その男こそ、今回の“目的”であることを理解した。それはエリスも同じだった。それほどその男からは、邪気のような禍々しい空気が感じられた。


「……ああ、俺たちはイェーガーだよ。テメエ、純血だろ?」


 男は不敵な笑みを浮かべる。


「ほう……俺たちのことを知ってるとはな……まあいい。せっかくだから名乗ってやるか……


 俺の名前はプラント。“つちかう者”の血の名を持つ純血の血族。

 ……さあ、もう満足だろ? ――さっさと、喰われろよ!!!」

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