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ブルート・イェーガー~血ヲ狩ルモノ~  作者: 井平カイ
episode.1『大血主は、どこにいる?』
7/11

part.5

 教会内は未だにパラパラと破片が降り注いでいた。それは正に圧倒的な一撃だった。埃は舞い上がり、頑丈な床が至るところで隆起し崩壊している。衝撃音により窓は割れ、もはや、そこは既に建物としての形を保っていないほどに崩れていた。

 その中心には、ブレイクが立っている。一心に彼が見つめる先には、変わり果てた神父の姿があった。服はズタズタになり体中の骨が砕かれ、彼が出来るのは、口を動かすことのみであった。

 ……しかし驚くべきことに、神父はそんな状態になりながらも、未だに意識を保っていた。いや、それすらも間もなく出来なくなる。……彼の体は、足部分から砂のようにさらさらと崩れ始めていた。


「……肉体の崩壊が始まったな。知っているとは思うが、純血も不死身じゃない。一定以上のダメージを受ければ、肉体は砂となって崩壊する。――最後だ」


 死を知らしめるかのように、ブレイクは冷淡な表情で神父に言い放った。

 ……だが、彼の心中は穏やかではなかった。日々自らの同胞を狩り続ける毎日。もちろん肉体の崩壊は初めて見るわけではない。神父がしたことを許すつもりもなければ、消え行くその身に同情をするつもりもない。しかし、同じ血族である彼には、彼にしか分からない葛藤かっとうのようなものがあったのだろう。

 ブレイクの瞳は、哀れみでもない怒りでもない、複雑に、朧気に揺れていた。

 そんな瞳を見た神父は、それまで無表情だった顔を緩ませ、皮肉に笑いながら語る。


「……おかしな男ですね。そんな顔をしながらも、自らの同胞を狩り続けるとは…………お前は、いったいどこに向かうのですか?」


 ブレイクは少しだけ顔を強張らせた。神父の言葉に、ブレイクは何も答えなかった。それでも、胸の奥がチクリと刺されるかのように、小さく痛むのを感じていた。


「……テメエには、関係ねえだろ」


 そう呟いたブレイクは、神父をこれ以上喋らせないかのように、荒々しく神父の胸ぐらを掴み、自らの顔に近付けた。そして、力を込めた言葉を放つ。


「テメエはもうすぐ消える。――だから、その前に一つ答えろ」


 ブレイクの瞳は、一気に燃え上がった。


「――“大血主(マスターブラッド)”は、どこにいる?」


「――――!!」


「答えろよ」


 ブレイクの目は、先程までの朧気なものではなかった。そこには明らかに激しい怒りや憎しみが込められていた。


「…………」


 神父は、驚きの表情のまま固まった。そして、質問を返す。


「……それを知って、どうするつもりですか?」


「壊すんだよ。――奴の体を、砂に変える」


 神父は高笑いした。神父は信じられない言葉を聞き、ただ笑った。笑うしかなかった。

 ブレイクは、そんな神父を変わらぬ瞳のまま、睨み続けていた。


「……それがどういうことか、分かってるのですか?」


「…………」


「――まあいい。残念だが、私はお前の期待には答えられない。私は、大血主様の居場所は知らないですからね……」


「……そうか……」


 ブレイクは、憎しみに満ちた表情を曇らせ、ゆっくりと神父の体を解放した。再び床に倒れる神父。その体は、既に胸の位置まで砂となっていた。


「……お前が、これからどうなるかを見たかったですが……どうやら、私はここまでのようだ。……地獄の底から、お前の愚行を見届けるとしましょう………せいぜい、“抗う”ことですね………」


 最後に神父は、微笑みながらそう話し、終には砂となって完全に消滅した。

 血に染まった修道服だけを残し風に流される砂を、ブレイクは揺れる深紅の(まなこ)に写しながら、人知れず、拳を強く握っていた。




 ==========




 いつの間にか、村には朝日が昇りつつあった。

 それまで漆黒の夜に包まれていたことが全て悪い夢だったかのように、村には、優しく黎明(れいめい)の光が降り注いでいた。

 ブレイクはなだらかな丘の上にいた。そしてそこで、赤髪の少女と彼女の両親の体を木で囲み、浄化の炎で弔っていた。

 彼はその炎を静かに眺めていた。一言も発することなく、座ることなく、動くことなく……ただ四肢を下に垂らし、悲壮感と懺悔(ざんげ)に似た思いを抱きながら、赤々と揺れながら燃え続ける炎をただ見つめていた。

 その揺れる炎の色はアンナの髪の色によく似ていた。まるで少女の魂のように激しく、少女の悲しみのように儚く、炎は燃える。

 その(かたわ)らには、たくさんの白い菜の花が咲き乱れていた。

 ブレイクは知らなかった。知る(よし)もなかった。その場所が、少女が神父と見に行く約束をした場所であることを……


 炎と菜の花は、呼吸を合わせるかのように、優しい風を受けて揺れ動く。

 ゆらゆらと……ゆらゆらと……




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