表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルート・イェーガー~血ヲ狩ルモノ~  作者: 井平カイ
episode.0 『プロローグ』
2/11

part.2

 

「――ほざくな、ガキが!!」


 巨漢は一直線にブレイクのところに突っ込んでくる。次の瞬間、巨漢はブレイクの目の前に迫る。巨漢との距離は十数メートルはあったはず……だが今奴は目の前にいる。

 ブレイクはまだ構えていない。両手を力無く下げる。


「吹き飛べぇぇぇ!!!」


 叫びとともに巨漢は、若い女性の腹部程もある豪腕を振り下ろす。

 激しい暴音と共に埃と煙が舞い上がり、視界を遮っていた。

 タイミング的には避けようもなかった。巨漢はその体に似合わず一瞬でブレイクの目の前に移動した。

 外にいるエリスにはブレイクの姿が見えないはずである。しかし彼女は心配していないようだ。それどころかあくびをしていた。

 その瞬間、煙の中から何かが飛び出す。そしてエリスの眼前に止まったそれは、エリスに背を向けたまま言う。


「人が仕事してるのにあくびすんなよ………」


「だって、退屈なんだもん」


「じゃあ代わるか?」


「嫌よ、メンドクサイ……」


「どっちだよ……」


 ブレイクは終始暇そうにするエリスに、呆れるような苦笑いを浮かべる。

 煙が晴れると、それまでブレイクが立っていた位置に大きな空洞が出来ていた。建物は作りは古いが床自体は石を並べたものであり、しっかりとしたものである。――そのはずであった。そこに空いた大きな穴は、巨漢の攻撃が如何に強大であったかを物語っていた。


「……うまく避けたな……中々素早いな……」


 凄む巨漢。しかし、当の二人に緊張感はない。むしろ、面白くもない芝居を見るかのように、冷めた雰囲気だった。


「……だが、いつまで持つかな!」


 叫ぶ巨漢は再びブレイクの前に飛び出す。そして、先ほど降り下ろした豪腕を、前後左右に連打する。触れた木箱は粉砕し、掠る角材はへし折れる。風を引き裂くような轟音は、絶えずブレイクを狙い続ける。もし直撃でもすれば――いや、掠りでもすれば、巨漢より遥かに小さなブレイクの体は、粉々となるのが容易に想像出来る。

 ……しかし、いくら狙おうとも、いくら轟音を走らせても、その巨大な腕がブレイクに掠ることすらない。ブレイクは全ての攻撃を、まるで予めどこを通るのか知っていたかのように、必要最小限の動きで避け続けている。

 初めは余裕の笑みを浮かべていた巨漢もそれを感じ始め、顔には焦りの色を浮かべている。

 ……奇妙なことだ。これだけ避け続けるブレイクだが、彼から巨漢に仕掛けることはない。まるで子供と遊ぶかのように、彼は笑みを浮かべ、その真紅の瞳で巨漢を眺め続けている。その瞳は、巨体の癪に触るモノだった。


「その目だ! その目が気に入らない!! ――食糧風情がああ!!!」


 それまで遊ぶかのようにしていたブレイクの表情は、巨体の叫びと共に形を変える。そして、緊張感に乏しかった眼差しは、鋭く真紅に輝いた。

 その視線を眼に捉えた巨漢は、それまで感じたことのない恐怖と絶望を覚え、それまでなかった冷たい汗を額に感じた。


「――テメエも、そうだったんだろうが!!」


 ブレイクは叫ぶと同時に巨漢の豪腕を屈んでかわす。そして右手を腰に構え、鋭い突きを巨漢の腹部に刺し込む。辺りには鈍い音が響く。


「ォグッ――!!」


 その音と共に巨漢は顔を苦悶の色で歪ませる。そして体は腹部を庇うように前に屈む。

 しかし終わらない。ブレイクはそのままの勢いで飛び上がる。そして半時計回りに体を捻り、右足を鞭のようにしならせる。右足は美しい曲線を描き――かと思えば風を裂く音を響かせ、巨漢の顔面を捉えた。


「ガハッ――――!!!!」


 凄まじい衝撃を受けた巨漢の体は後方に飛び、壁と衝突する。丈夫な木の壁にめり込んだ巨漢の体は、力なく、ズルズルと音を立て下がり、やがて、床に沈んだ。

 少年の――ブレイクの小さな体のいったいどこに、こんな力があるのだろうか。あれほどの巨漢は、たった二発で既に対抗する力を失っていた。


「……さっすが」


 外から見ていたエリスは、惚れ惚れするかのように微笑みを浮かべ、呟いた。

 ブレイクは、四肢を脱力させ、床に横たわる巨漢の顔を覗きこんだ。


「……どんな気分だ?」


 その問いに答えることすら出来ない巨漢は、視線だけをブレイクに向けていた。


「力を得て――“人だった頃”じゃ考えられない力を得て、好き勝手人を喰って………それが、俺みたいなガキにのされたんだ。

 ――最悪だろうな」


 巨漢は視線をブレイクに向けたまま、顔をひくつかせていた。それは、自由が利かない体で表現できる、精一杯の悔しさのように見える。


「……だが、それも終わりだ」


 ブレイクはゆっくりと腰に手をやった。そして、腰から一本の銃を取り出した。

 ブレイクは巨漢から一歩下がり、銃口を巨漢の頭部に向ける。その冷たく無機質な穴は、巨漢には、酷く暗く混沌に満ちているように思えた。


「――アーメン」


 そう呟きトリガーを引くブレイク。辺りには、短い爆発音が響き渡っていた。


「……お疲れ様」


 いつの間にかエリスはブレイクの後ろにいた。そして、手を後ろに回し、笑顔をブレイクに向けていた。

 ブレイクは、一瞬だけどこか悲哀の表情を見せ、すぐに何事もなかったかのように、普段の力ない顔に戻した。


「別に疲れてねえよ。……それより、さっさと帰るぞ」


 ブレイクはエリスを置いて、さっさと外に向かって歩き始めた。


「ちょっとブレイク。そんなに急いでどこ行くのよ」


「……決まってるだろ?」


 ブレイクは立ち止まり、エリスの方を振り向いた。


「ヨハンの奴を、絞めるんだよ」


 その顔には、少しだけ笑みが見えた。その顔を見たエリスは、胸に秘めていた想いの重圧から解放されたように微笑み、ブレイクに言葉を返した。


「――ええ。そうね」


 二人は、窓から射し込む朝日の光を受けながら、悠然とした足取りで、小屋を後にした。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ