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ブルート・イェーガー~血ヲ狩ルモノ~  作者: 井平カイ
episode.2『無様でも何でも、生きてみせろ!!』
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part.4

「生き返らせる?」


 ブレイクの問いに、静かに頷くビスク。その目は伏せていた。

 ブレイクとエリスには、その真意が分からなかった。


「ビスク、どういうことなの?」


「……あいつが、約束したんだ。人を何人か用意したら、最後に父さんを生き返らせてくれるって。血族にはそれが出来るって」


 ビスクは震えながら話す。手を握りしめ、目を伏せ。

 それは、自分自身への言い訳だった。何人もの人を血族に食わせ続けた自分への理由付けだった。

 “だから自分は悪くない”

 “自分だって本当はしたくなかった”

 そう、言ってるかのようだった。


 それを聞いたブレイクとエリスは、怒りよりも同情の気持ちが出ていた。なぜなら、彼らは知っていた。ビスクが知らない、真実を知っていたからだ。


「……ビスク、お父さんは、いつ亡くなったの?」


「……二年前……」


「そう……」


 エリスは、次に続く言葉を躊躇していた。

 それでも、この少年にいつまでも現実を教えないわけにはいかなかった。エリスは、軋む心を震わせ、言葉を放つ。


「……ビスク、残念だけど、それは無理よ」


「………え?」


「血族がどうやって誕生するか、知ってる?」


「いや……」


「そう……」


 エリスは、再び言葉を濁した。これから話の核心に入るにも関わらず、エリスは再び躊躇していた。


 そんなエリスを見たブレイクは、少し溜め息をついた。(らち)があかない。その息は、そう言っているかのようだった。


「おい、ガキ。よく聞けよ?

 血族はな、全員死人(しびと)なんだよ」


「死人?」


「ああ。そもそも血族はな、死んで間もない人間に、純血以上の血族の血を飲ませることで誕生するんだ。

 ……一度死んだ人間は、魂がなくなる。そこに、血族の血を飲ませることで、新たな魂を宿すんだ。その魂こそ血族の力の源。血族の全て。

 それを肉体に入れるには、一度魂を抜かなきゃならねえ」


「つまりね、ビスクのお父さんを生き返らせるってことは、血族に変えるということ。それは、すでにあなたのお父さんじゃないわ」


「しかも、お前の父親が死んだのは二年前。そんなに時間が経った肉体じゃ、血族の強大な魂は支えられない。

 ――お前の父親は、生き返らないんだ。死んだんだよ」


「う、嘘だ!!! そんなの嘘だ!! デタラメだ!!!」


 ビスクは取り乱し、ブレイクの襟を掴む。ブレイクは襟を引っ張るビスクを、ただ冷静に見ていた。そして、彼に刃のような言葉を放つ。


「嘘じゃねえ。お前の父親は、死んだ」


 ビスクの心に、そんなブレイクの言葉が突き刺さった。


 今まで自分が人を血族に差し出したのは、全ては父親を生き返らせるためだった。だが、ブレイクは“生き返らない”と言った。“死んだ”と言った。

 その言葉は、ビスクが心に押し込めていた罪悪感を、一気に放出させた。


「じゃ、じゃあ……僕は……僕は……!!」


 後退りをしながら首を横に振り続けるビスク。その心は、砕けてしまっていた。耐えようがない現実が、彼を襲っていた。


「う、うわああああああ!!!!!」


 ビスクは駆け出した。その姿は、その場から逃げるようだった。自分の足元から迫ってくる全てから逃げる様に、ただ大声を上げ、ただひたすらに、ビスクは走り出した。


「おい!!」


「ねえブレイク!! もしかしてあの子……!!」


「ああ! たぶん、プラントのところに向かったんだ!!!」


 ブレイク達はビスクを追おうとした。


 だが、彼らの前に、突然いくつもの人影が空から落ちてきた。いや、どこからか跳んできたようだ。全ての影の表情には生気がなく、有無を言わさずブレイクとエリスに向かってきた。


「クソッ!!! 混血どもかよ!!!」


「ブレイク!! ここは私が!!」


 エリスは背中の獲物に手を伸ばした。そして、眼前に飛びかかる混血に向けて、“それ”を振り切る。


「ハァア――!!!」


 宙を舞っていた混血は胴体と下半身が二つに両断された。空からは鮮血の雨が降り、大地を赤く染める。

 さらにエリスは奥から迫り来る亡者の頭に刃先を合わせ、柄の部分に設置されたトリガーを引く。刃の下部に空いた穴からは弾丸が発射され、正確に血族の頭を撃ち抜く。


 ……それは、一つの舞だった。


 両の手に携えしソードガンが二本。


 流れるように振り抜かれたの銀色の刃は赤い血を帯びる。放たれた弾丸は硝煙の漂わせる。


 舞うように次々と血族を狩り続けるエリスの表情は、普段からは考えられないほど至福の笑みを浮かべる。それは幸悦の笑み。顔を血に染める彼女は、舞続けた。



「……相変わらず、げつない武器だな……」


 呟くブレイクの顔に、エリスの身を心配する様子は微塵もない。

 それは信頼。エリスの実力を認めているからこその信頼。


 ブレイクは群がる血族へ一直線に駆ける。


「邪魔だああああ!!!」


 ブレイクが拳を突き込めば血族は顔を変形させ吹き飛ぶ。脚を振り抜けば血族の体は鈍い音を鳴らし折れる。

 彼が駆けた後には、体を痙攣させる純血が地に伏せていた。


 彼の目には混血、擬は映らない。彼の紅の瞳の奥には、純血しか写していない。


 ブレイクの足をもってすれば、ビスクに追い付くのは容易い。だが、彼は待っていた。ビスクがプラントの居場所に辿り着くのを。


 彼は一筋の紅い閃光を作りながら夜の闇を駆ける。


 その先にあるのは、“培う者”との対峙だった。



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