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ブルート・イェーガー~血ヲ狩ルモノ~  作者: 井平カイ
episode.2『無様でも何でも、生きてみせろ!!』
10/11

part.3

 辺りは漆黒に包まれていた。そこに立つ人影は三つ。そして、“人だった者”の影が一つ。

 その四つの中央には、血を吹きだしてそびえ立つ、人を貫く一本の蔓がある。


 ブレイクはその蔓の一度目をやり、すぐに目の前に立つ“培う者”を見た。その者は薄ら笑いを浮かべ、獲物を選ぶかのように彼とエリスを交互に見ていた。

 その姿は、ブレイクの心をざわつかせた。エリスもまた、その不気味な笑みに、やはり“この者”は化物であることを、改めて実感した。


 ブレイクは睨み付けたままプラントに言葉を放つ。


「……おい、テメエに聞きてえことがある。お前は――」


「“大血主”を知ってるか……そうだろ?」


「……俺を知ってるのか?」


「まあな。話程度には、な。何でも、同じ血族、しかも純血でありながら、同族を狩り続ける奴らしいな。

 夜の風貌、紅の瞳……ま、お前しかいないだろうよ」


「だったら話が早いだろ……話して砂になるか、砂になりながら話すか、好きな方を選べよ」


 プラントは更に笑みを浮かべた。その顔は歪んでいる。歪み切っている。それを見るビスクは恐怖で震えながら岩陰に隠れる。


「笑わせるなよ? たかだか擬、混血、弱ぇ純血を狩ったぐらいで図に乗るな……雑魚が」


 その言葉は、ブレイクの脳を更に刺激した。

 その瞬間、ブレイクはプラントに向けて駆ける。


「雑魚かどうか――確かめてみろよ!!」


「ブレイク! 挑発に乗ったらダメ!!!」


 エリスの声もブレイクには通らない。そんなブレイクを見たプラントは、ニタッと笑う。

 プラントは一度、タンと足を鳴らした。


「―――!!」


 突如ブレイクの足元から蔓が伸びる。ブレイクは宙に飛びそれをかわし――だが眼前には、いつの間にかプラントが迫っていた。


「テメ――!!」


「だから言ったんだよ!! “雑魚”ってな!!!」


 プラントは手をブレイクの顔にかざす。プラントの手からは木の峰のような太い枝が伸びる。それは衝突音と共にブレイクの体を捉え、彼の体を地上へと急降下させた。ブレイクの体は固い岩に叩きつけられ、土煙があがった。


「ブレイク!!」


 エリスはブレイクに向かって叫んだが、土煙からはブレイクの返事が返らない。


「弱いな……もう終わりか……」


 地面に降りたプラントは、見下した目をしながら吐き捨てる様に呟いた。


「――勝手に終わらしてんじゃねえええ!!!」


 叫びと共に土煙を裂いてブレイクが飛び出す。


「―――!!」


 プラントは不意を突かれた。その一瞬の油断をブレイクは見逃さない。


 スピードを乗せた拳を、一直線にプラントの顔面に叩き込む。顔を歪ませ、血を吐き、プラントの体は吹き飛ぶ。そして、地面を数回バウンドして、地表に飛び出た岩に叩きつけられた。


「……凄い……」


 ビスクは驚愕の声を漏らした。それまで、ビスクの中でプラントは絶対的な存在だった。何者も止められず、何者も触れられない。そんな絶対強者だった。

 ……しかし、それがどうだ。十代くらいの少年の拳を受け、大地に叩き伏せられている。そんな信じられない光景を目の当たりにしたビスクは、再び声を漏らすことしか出来なかった。


「これが……イェーガー……」



 一方、ブレイクはプラントの方を向き、静止していた。

 しかしその目にはまだ力が込められている。


「……この程度で終わる“タマ”じゃねえだろ。立てよ」



「面白い……面白いな、お前……」


 土煙の中から、笑い声と共に声が響いた。

 そして、白く立ち上る霞から、ユラリとプラントは出てきた。


「最っ高だな!! こんなとこで終わるのが勿体ないくらいだ!!」


 プラントは笑っていた。その首から上は直角に折れていた。

 折れた首を気にもせず笑い続けるその姿は、改めてプラントが化け物であることを感じすぎてしまう。


 ふと、プラントは踵を返し立ち去り始めた。


「おい! どこ行くんだよ!!」


 プラントは首をゴキッと鳴らし元に戻しながら答える。


「今日は邪魔が多い。こんなに生きがいいのは久々だからな。じっくりと、殺す」


「逃がすと思うか?」


 ブレイクは顔を険しくさせ、足を鳴らして力を込める。

 エリスもまた、肩に背負う“獲物”に手を伸ばす。


「俺は別に構わないが、そこにいるクソガキが巻き添えになるぞ?」


 プラントが向けた視線の先には、怯えるビスクがいた。

 体を硬直させるビスクの姿を見たブレイクは、小さく舌打ちをする。


「そんなガキに気をとられて殺られたんじゃ興醒めだ。お前とは、サシで殺り合いたいからな」


「………」


 紅の瞳で睨み付けるブレイクの顔を見て、プラントは一度ニタリと笑い、そのまま立ち去っていった。





 ==========





 プラントがいなくなった岩場には、無惨な死体だけが残っていた。ブレイクはその亡骸を降ろし、地面に寝かせる。

 その死体を前に、ビスクは声を出して泣いていた。

 その涙は罪の念。この男性は自分が殺したに等しいことを理解しての涙だった。

 そんなビスクに、ブレイクはギリッと歯を噛み締める。そして泣きじゃくるビスクの胸ぐらを掴み上げた。


「泣くぐらいなら何でこんなことしてんだよ!!

 自分の罪が分かるくらいマトモなんだろ!? だったら、なんで血族に“餌付け”なんてしてやがんだよ!!!」


「ちょっとブレイク!!」


 エリスがブレイクの腕を掴み静止する。ブレイクは再び舌打ちをしてビスクの体を地面に投げ伏せた。

 倒れたビスクは鼻を啜りながら泣き続けている。そんな少年に、エリスは優しく話しかけた。


「……何か、事情があるの?」


「………」


「あるなら全部話して。それが、罪滅ぼしにもなるわ」


 “罪滅ぼし”……その言葉を聞いたビスクは、ピクリと体を動かした。

 そして、彼はゆっくりと話始めた。



「……父さんを、生き返らせてもらうんだ……」

 

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