リア充という名の怪物がすむ魔の領域 後編
4/1 へんなとこにあった意味不明な一行を削除しました。
学校です。
学校についてしまいました。
これから10数年も徹底的にはぶかれ、いじめられるに違いありません。
班を作れば一人だけ残され、劇をやればどうでもいい鈴を鳴らす役。
しかも、自意識過剰な子のやたら大音量の演奏に潰されて誰にも聞こえないパートです。
あ、木の役よりいいじゃねえかって思った人!
木の役は美味しいポジションです。
主役より父兄に凝視されてるんですよ!
10年はそのネタで笑いを取れます。
人気者にしかやらせませんよ!
もしくはわざとリレーに借り出されて、足が遅いこと自体を笑いものにされるとか。
そう、周回遅れで走る私に笑いながら石をぶつけるのです。
きっとそうです。
なぜなら、学校という教育施設にいるのは数百というリア充の群れなのです。
学校帰りに手をつないで帰ったりとか、
図書室で高いところの本をとってくれただけでズギューンとか、
何のとりえもない意思の薄そうな女に美形が群がったりするのです!
なんで私はモテないんだゴラァアアアアアアア!!!
……興奮してしまいました。
長年溜めた怒りを発散して、少しだけ余裕のできた私は、隣のシルヴィアを見ます。
目が高速で泳いでいます。
ちょっとだけ哀れだったので手を握ってやります。
私もシルヴィアも手が震えているようです。
「アレックス……我は……たぶん……死ぬ……ふふふふふふ」
シルヴィアは弱音を吐きました。瞳孔がかっ開いてます。
※こちらは木刀持ってシルヴィアと対峙したときは毎回死を身近に感じます。
「ははははははは……リア充が言うのだ……臭いから消えろって……
我は臭くなんかないのだ……ああ、どれだけ洗っても血の臭いが消えないのだ……
洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ洗わなきゃ」
壊れたラジオのように延々と繰り返します。
私はそんな哀れな生き物を見て少しだけ優しい気持ちになるのです。
「権力に逆らう人間なんていませんよ。
逆らうものは処刑してしまえばいいのです」
サムズアップ。
最高に優しい気持ちで言いました。
「そうやって暴力に頼って同じ事を繰り返してるから勇者が殺しに来るのだ……」
私の言った感動的な台詞は、バカの心無い一言で打砕かれました。
シルヴィアはそのまま無言になり、私もそのまま黙りました。
言い返せなかったのです。
ええ! 全くその通りですよ!
◇
男性教師に連れられ教室に入る私たち。
途中、話しかけられたような気もしましたが返すだけのMPは残っていませんでした。
まるで葬式のような陰気な表情で教室に入る私たち。
そこには頭の悪そうな顔したガキどもが売るほどいやがりました。
よく見ると大きな子も私よりも小さな子もいます。
みんな同じ年というわけではないようです。
私が、きょろきょろと不審な動きで見回してると、教師が皆に向かって言いました。
「今日からみんなの仲間になる、アレックス君とシルヴィアさんだ。
挨拶をお願いいたします。アレックス君」
みんなの視線が私とシルヴィアに集まります。
私はその視線に完全にテンパっていました。
ガクガクと膝が震えて、上下の歯がカチカチとぶつかる音がします。
あうあうあ、とわけのわからない声が一瞬漏れました。
何を言いたかったのかそれすらどこかに飛んでしまいました。
「だ、大丈夫なのだ。……が、がんばるのだアレックス」
小さい声が聞こえました。
私の唯一の友人の声は私を奮い立たせました。
私はわざとらしく咳を一つすると、冷静に自己紹介を始めました。
「すまない。……あまり大勢の前で話す機会がなかったなのでね。
すこしアガってしまったよ。
私はアレックス。
まあ、あだ名とかはそのうちできるだろ。
我が親友のシルヴィアと一緒に今日から諸君らと学業に励むことになる。
諸君らと、よき友人になれることを期待する。
よろしくお願いする」
私は言った後で気づきました。
――対象年齢を間違えた!
私は自分の精神年齢と将軍の息子という特殊な地位からスピーチを構成してしまったのです。
正解は
「あれっくす です みんな と ともだち に なりたいな」
でした。
ぽかーんとくちを開けて私を凝視するガキども。
失敗したーっともの凄い勢いで後悔する私。
「なんかアレックス様って大人みたい。大人?大人がいる?なんか変!変だよ!変態なの?」
ひそひそと子供たちの話し声が聞こえます。
もうやめて! 私のライフはゼロよ!
ヤバイ。イジメられる。
それは確信に変わりました。
やっちまった感がバリバリ来てる重い空気。
児童、教師一同押し黙ってしまいました。
子供たちも教師すらもどうすればいいかわからなかったのです。
ですがその空気を読めない人がその場に一人だけいました。
その女の子はとても儚いオーラを纏い、まるで深窓の令嬢のように言ったのです。
「みなさんごきげんよう。
シルヴィアです。みなさん仲良くしてくださいね」
『『この重い空気を読まずに自己紹介続けやがった!!!』』
児童、教師、そして私の心が一つとなります。
つうかあんた! なにその人格偽装!
そんな高度なスキルを持ってたのか!
私は驚愕しました。
私たちが度肝を抜かれていると、それを見てシルヴィアがにっこりと笑いました。
『『もうどうでもいいや』』
可憐なシルヴィアの姿を見て、私たち全員がそう思いました。
考えるのをやめたのです。
賢者タイム。
そう、賢者タイムが全員に降りかかったのです。
私は最後の最後においしいところを全て持っていったシルヴィアに感謝しました。
わざと私を救ってくれたのかもしれません。
私は感謝の言葉を念話で言おうとシルヴィアの方を向きました。
目が泳いでいました。しかも冷や汗が出ています。
完全にテンパってます。
おそらく何を言っても無駄でしょう。
私は『ごきげんようごきげんよう』と小声で繰り返すシルヴィアに哀れみの目を向けるのでした。
◇
授業が始まりました。
内容は文字の読み書き、数の数え方や簡単な計算です。
超ヌルゲーです。
まさにチート!
私はニヤニヤしながら俺TUEEE!を味わっていました。
私はにやけた顔でシルヴィアを見ました。
ドヤ顔で微笑み返すシルヴィア。
勉強は私が教え込みました。
泣いてもやめませんでしたとも!
つまり彼女にとっても授業は超ヌルゲーなのです。
浮かれている私たち。
そのときふと視界の端になにかゴミのようなものが見えました。
パンくずのような……いえパンくずそのものです。
パンくずの落ちているところを目で追って行く私。
すると新しいパンくずが飛んできました。
それをさらに目で追う。
そこには女の子がいました。
その女の子に男の子三人がパンくずをぶつけています。
よくあるイタズラ。
そう教師は言うでしょう。
確かに、外形上はたいしたことではありません。
でも誰も止めてくれないで悪意を浴びせられ続けること。
それは想像以上に辛いのです。
魔王であり続けた私にはわかるのです。
悪意をぶつけられる気持ちが。
いたずらをガン見する私。
すると女の子と目が合いました。
女の子は目に涙を溜めてこちらを見ています。
私は一気に不快な気分になりました。
理由などありません。
なんか知らないけどむかついたのです。
私は一気に立ち上がりました。
突然立ち上がった私に視線が集まります。
「助けて欲しいのですね?」
私は優しく聞きました。
「うううううう」
女の子は言葉を詰まらせています。
気持ちはわかります。
どうしても声が出せないという状態も理解します。
でも、どうしても彼女の返事が聞きたかったのです。
「……助けて」
とても小さな声がしました。
私はそれを聞いてすぐに行動しました。
私は怒鳴りました。
半分は彼女のためです。
ですがもう半分は自分のために男の子たちへ向かって怒鳴りました。
「お前らちょっと外出ろ!」
どうやら私はキレていたらしいのです。
少し音量が大きかったようです。
そんな私を見て固まるクラスメイト。
クラスのようすを見て、シルヴィアが念話で話しかけてきます。
『っちょ!アレックス!目だってしまうぞ!』
『るせーッ!』
私は完全に正常な思考を手放していました。
私は男の子の中でリーダーっぽい子の机に近づいていき、
いきなり机を蹴り倒しました。
ガシャーンッ!っと大きな音を立てて倒れる机。
ビクッとするいじめっ子たち。
そして私は完全に男の口調で言ってしまいました。
「来いよ! 喧嘩しようぜ!」
美しくない。
そのときの私は完全にDQNでした。
なぜあんなことをしてしまったのかと今でも後悔しています。
怯える子供。
当たり前です。そのときの私はオーラ垂れ流しでしたから。
でも私は止まらない。
そんな私を止められるものなどいなかったのです。
いえ、訂正します。
一人だけいました。
「ちょっとアレックス!やめなさい!」
シルヴィアが本気で止めに入ります。
そのときの私はシルヴィアの気持ちが理解できませんでした。
シルヴィアは自分たちが無視やいじめの標的になる事を恐れていたのです。
私はそんなシルヴィアに苛立って言ってはいけない台詞を吐いてしまったのです。
「るせー!ばーか!」
まずい。私は一瞬で思考が正常に戻りました。
後方からとてつもないプレッシャーがやってくるのがわかりました。
それとともに教室内のマナが異常なほど濃くなっているのです。
私は命の危険を感じ後ろを振り向きました。
そこには涙目のシルヴィア。
そして私に死刑宣告が下りました。
「アレックスの! アレックスの! ばかー!」
ぷるぷる震えながら呪文を展開します。
それは超高威力の火炎呪文。
私は、シルヴィアの垂れ流したマナをかき集めてクラス全員に魔法障壁を張ります。
「ばかあああああああ!」
爆発。
ちゅどーんという音がして爆風が魔法障壁を襲います。
あとに残ったのは壁のない部屋。
吹っ飛んだ壁の瓦礫がそこらじゅうに落ちています。
「殺す気かあああああ!」
私の声が響き渡りました。
いじめっ子の男の子たちは口を開けて呆然としています。
いえ、訂正します。
私とシルヴィア以外は口を開けて呆然としてました。
これが学校初日の出来事。
ああ、これは学校クビになるな……
私はそう覚悟しました。
でも、事態は予想の斜め上を行くのです。