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魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第4章 エルフの帝国編 ~おうちに帰るまでが革命です~
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まゆげ

 戦力とか戦術というものを純粋な腕力だけでねじ伏せた我が拳王軍。

 その敵である帝国正規軍は私たちを見るやいなや逃げ回るようになりました。

 どうやら軽くトラウマになっているようです。

 確かにあまりの理不尽に普通の神経なら耐えられるはずがありません。

 私もそれは同じでした。

 夜中に頬被りに唐草模様の風呂敷。

 完全な泥棒スタイルで私はこそこそと移動してました。

 ええ。夜逃げです。


 アレです。

 もう家に帰るまでのプランは練りました。

 代官屋敷から奪った金貨。

 これで陸路で国境付近まで逃げます。

 国境の関所は腕力で破ります。

 あとは空を飛んで領地まで逃げ帰ります。

 もんのすげえ勢いで。


 私が野営地を出ようとしたその時でした。

 凄まじい速さでマッチョ軍団が私を取り囲みました。

 ち、乳首が光ってライトになっているだと!!!

 誰だ! 防御の実に余計なことしたヤツ!

 あ、私か……


「拳王様。どこに行かれるので?」


 バレてた!!!

 彼らは抗議の意志を示すためか胸の筋肉をピクピクと震わせます。

 (それに併せて乳首が点滅)


「そのノリが嫌なんじゃ! 嫌なんじゃああああああああああッ!」


 私は泣きながら逃げ出します。


「取り押さえろ!」


「うおおおおお! 離せえええええええええ!」


 あっという間に筋肉に捕り押さえられ必死に暴れる私。

 もちろん冷静に気功で吹き飛ばすとかは思いつきもしません。

 もうひたすら魔法を唱えてましたとも。

 広範囲に地表を抉る爆破魔法を。

 シルヴィアがいない私が魔法を使えるわけがないのに。

 あいかわらずアドリブに弱いのが私です。

 筋肉にもみくちゃにされます。


 汗臭い!

 年単位で洗っていない道着の臭いです!

 あせくさあああああああああああい!!!


 こうして私の逃走は無様にも失敗に終わったのです。



 帝都近くの都市、ヌマータブルグ。

 その領主の館。


「恐怖の神がやられたようだな……」


「ククク……奴は我ら絶対神四天王の中でも最弱……所詮は邪神にもなりきれぬ半端もの!」


「魔王如きにやられるとは我ら絶対神の分神の面汚しよ」 


 わかりやすいバカがいるのだ。

 さしたる理由もなくムカついたので我は挨拶代わりにマナ手榴弾を投げ込む。

 ちゅどーん。

 吹き飛ぶバカども。


「お前ら。ベタな悪役はよせなー」


 我はあきれ果てながら部屋の中に入る。

 手にはドワーフに作って貰ったカ○ナートブランドの剣。

 物語終盤で低確率でドロップするレアアイテム。

 手元のスイッチを入れると刃が回転。

 刃はアタッチメント式になっていて交換をすると定番のハンバーグからマヨネーズやマッシュポテト、生クリームの泡立てまでこなせ、ブレンダーでお茶ひきまで……ってハンディミキサーなのだ!!!

 ……バカにもドワーフも負けないもんなのだ!!!


 ズタボロになりながら一斉にこちらを見るバカども。

 麻呂麻呂麻呂。おじゃるおじゃるおじゃる。

 三つ重ねたら消えないかなあ。

 とりあえずイラッとしたので理由もなくスイッチを入れた剣を押しつける。


「ぎゃあああああああああッ!」


 やはり普通の武器以外にはめっぽう弱い。

 やはりバカなのだ。


「うむ。神(笑)どもよ! 言うこと聞かなければ挽肉にする。今すぐこの国を寄越せ」


「っちょ! おま! なにそのメチャクチャな要求! 神をいじめちゃいけませんって親に習わなかったのでおじゃるか! 神様に痛いことをすると呪うでおじゃる!」


「はあ? おい神(笑)。呪いが怖くて魔王なんかやってられっかよ」


「なんたる不敬!!!」


 スイッチオン。

 スライダーを『強』に設定。


 ぎゅおおおおおおおおおおおん。


「言っておくが……我はアレックスと違って容赦などないぞ。スケ、カク。こいつら押さえつけてろ!」


「オーケーボス」


「っちょ! なんで魔王が天使を使役してるでおじゃるか! おい! 天使なら神の言うことを聞くのじゃ! おい、無言で押さえつけるな! ゴミを見るような目はやめろ! 聞け! 我はぜったいしんの……やめ! やめええええええ!」


 絶対神(笑)の泣き声が響いたのだ。



 私たちはその後も快進撃を続け、とうとう首都近くまでやってきました。

 無駄な破壊や殺戮を禁止したので占領政策も順調です。

 畑焼いたりすると餓死者が出て住民の恨みを買うので火計はやらないほうがいいですよ。

 わりとマジで。


 まず我々は下水処理施設を作りました。

 ええ。防御の実です。

 ようやく都会で試せるときがやって来たのです。

 幸いなことに下水道は完備されていました。

 あとは下水処理がどこまでやれるかが問題です。


 効果は三日ほどで現れました。

 透明度などというものが存在しない汚水がさわやかな清流に……

 サリガニやフナが泳いでいるのが見えます。

 あ、たにし。


 このくらい綺麗になればあとは二枚貝でも養殖しとけば大丈夫でしょう。専門家ではありませんけど。

 あれほど汚かったどぶ川が綺麗になると、当然のように住民の生活水準もあがります。

 普通に悪臭が消えますので。

 そこにゴミの収集などをルール化。

 徹底的に街を綺麗にします。

 なぜ近代までは都市部の方が平均寿命が短かったのか?

 それは不衛生だからです。

 最高に衛生的な街ですら上下水道、特にトイレのラインが上水道に近いせいでコレラが定期的に発生していたそうです。

 私はどうにも神経質なため汚いのが我慢なりません。

 ハーフエルフさんが片付けが下手なのも我慢できないほどです。

 セシルで好き放題やった結果、お風呂と掃除機と洗濯機がない生活など耐えられません。


 住民の皆さんも、侵略者の一言目が「逆らうな」とか「~よこせ」ではなく、「ゴミと下水道どうするよ?」だったので最初は面食らってました。

 ところが街が綺麗になり、夜警が巡回するようになると、あっという間に治安がよくなり商売も活気が出て、住民は健康になるなどいいことずくめです。

 ここまでやれば誰も文句は言いません。

 だって誰も損してないもん。

 聞き取り調査の結果ではエルフさんも上流階級でもなければ、ハーフエルフを差別する理由などありませんでした。

 商人はもともと悪魔に魂を売っている生き物ですので私たちがよほどの無体を働かなければ何も言いません。

 上流階級には命と思想を天秤にかけさせたので大人しいものです。

 あとは知識階級をどうにか味方にすればいいのですが……



 その日、私が梅を砂糖に漬け込んでいるとエルフさんがやってきました。

 な! 梅の砂糖漬けは絶対分けてあげませんからね!


「たいへんです! 拳王様! まゆげが来ました!」


 まゆげ?

 なんでしょう?


「まゆげが! まゆげが! ら、らめええええ!」


 アヘ顔Wピースで悶絶。


 ※アレックスちゃんのやる気が10ポイント下がった。


 うん。寝よう。


 そうだこれは夢なんだ。

 私は今、夢を見てるに違いありません。

 目が覚めたとき、私はまだセシルにいてシルヴィアやエリザベス、ホルローとバカなことを言い合いながら砂糖漬けを作っているのです。

 朝ご飯を食べて、涼しい午前中に商工会と打ち合わせをして、午後からサブちゃんたちの山で虫取りとかタケノコ掘りをするのです……


 ……じゃねえよ!!!


 まゆげってなんだよ!

 私が疑問に思っているとまたもやエルフさん。


「まゆげが! ……へ、へぶ! おにいちゃんらめええ!」


 ……ガソリンってどこにありますか?

 よくわかりませんがこの街焼き尽くさないとダメだと思います。


 私が怒りでぷるぷると震えていると、今度はハーフエルフさんがやってきました。


「魔王様! 世紀末救世主を名乗るものが面会を求めてます! すでに衛兵が何人も手にかかり……白目を剥きながらWピースで……えぶろば!」


 私は引きつりながら名剣プラネットバスター(鉄パイプ)を持って飛び出していきました。

 よくも私のSAN値を下げまくりやがって!

 あと一ポイントで精神病院送りですよ!

 数ターン休みですからね!

 その間にも邪神は攻撃してくるんですよ!

 私はぶんぶんと素振りします。


 殺す! 絶対にぶッ殺す!


 私は完全に正気を失ってました。

 キレた私が領主の館の玄関につくと、そこには茶色い髪をおさげにした少女がいました。

 彼女は私に気づくと振り向きました。

 自己主張の激しい眉毛。

 なるほど眉毛ですね。

 彼女は舌っ足らずの声で言いました!


「こんな幼い(おしゃない)ハイエルフを監禁する(しゅる)とは……この悪党どもが! てめえらには地獄すら生ぬるい(にゃまぬゅるい)!」


 最後に現れたこの人物。

 この人物こそ、その後の私の不名誉なあだ名の原因となった人物です。

 こうして、私の子ども時代を書いたこの物語は一気に終わりに向かうのです。

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