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魔王はリア充を滅ぼしたい  作者: 藤原ゴンザレス
第1章 魔王が転生しました
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プリン争奪編

 ピュンッ! ピュンッ!

 木刀の剣先から空気を裂く音がします。

 今、私は木刀の素振りをしています。

 いわゆる剣術の練習です。

 先生はパパではなく……


「だからぁッ!

手首のスナップは利かせるな。

手首は固定!」


 鬼のような表情でダメだしをする幼女。

 シルヴィアです。


「剣ってのは素直に振れば斬れるようになってるんだ!

そこで手首関節で余計な動きをするから斬れなくなるんだ!

わかるか!」


 剣について語っています。

 正直、意味がわかりません。

 理屈がわからないのです。

 私は前世では超高火力の魔法使いだったため、武術などは全くの素人。

わかるはずがありません。

 ところが、私の答えなど待ってはくれずにシルヴィアは続けます。


「はい次!八相から左右連続攻撃!」


「りゃああああああ!」


 私は教わったとおりに木刀を胸元に立てるように握り、剣先を突き出すように右、足をスイッチして左で攻撃、スイッチして右と、左右交互に体を入れ替えながら、シルヴィアに木刀を連続で振るいました。

 それをシルヴィアは人間を越えた速度で木刀で受け止めます。

 カカカカカッ!と木刀どうしがぶつかる音が響きます。

 私は超必死です。

 なぜかって?

 超怖いのです。シルヴィアが。


「だからースイッチするときに身体を捻るな!

余計な動きをするとその分遅くなるって言ってるだろ!」


「むーりー!

そんな器用なことでーきーまーせーんー!」


「無理ぃ?

じゃあ、お前受けな! 行くぞ!」


「ちょッ!

ひいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃッ!」


 ドガガガガガッ!と私のときとは全く違う音をさせながら、

 恐ろしく重い剣撃が左右から襲い掛かってきます。

 私は泣きながら、それを受け止めます。

 ですが、所詮初心者。

 二秒も経てば防御が間に合わなくなってきます。

 仕方が無いので気で防御。

 すると、ばきんッ!という音がしてシルヴィアの木刀がへし折れました。


「おっしゃ!

気功使ったからプリン我のな!」


「ええええええええーぇぇぇぇ!

プリン好きなのに……」


 プリン強盗は良い顔をして笑っています。

 正直、やらなければ良かった……

 普通の武術がこんなに苦しいものだと知らなかったのです。

 でも、そもそも言い出したのは私なのです。

 それは単純な疑問でした。



 その日、私はシルヴィアと一緒にヨーグルトを食べていました。

 なぜ一緒にいるのかって?

 それは簡単です。

 二人で遊ばせておけば私たちは大人しいのです。

 誰も怪我人が出ません。

 大人たちは思ったに違いありません。

 もう押し付けちゃえと。

 まあ、それはいいです。


 数千年もぼっちだった私たちは、初めての友人にはしゃいでいました。

 毎日毎日遊びました。

 だってやることないもん。

 そして飽きたら、チビバカから始まるお約束の喧嘩です。

 もう何度も拳で語り合っています。

 その中で私は気づきました。

 私は武術が下手だし、シルヴィアは魔法が下手なのです。

 シルヴィアが魔法を使えば私は彼女の垂れ流したマナで妨害しますし、

 私が気功で強化した拳を振るってもシルヴィアは器用にかわして当たらないのです。

 そこから考えられるのは、二人とも気功や魔力の強さでごまかしていますが、技術自体はひどい。

 そうとしか考えられませんでした。

 そこで私は聞くことにしました。


「どうしてシルヴィアはマナを垂れ流すんですか?」


 シルヴィアが首をかしげて考えてます。

 私はすぐに答えが返ってこないのにイラッとしながら、質問を変えます。


「なんで魔法使うのが下手なんですか?」


 あーうんうん。とうなづくシルヴィア。

 ようやくわかったようです。


「うん。我は魔法の初心者なのだ。

なんとなく使えるが習ったことはないぞ。

武術なら得意なのだがな」


 私にも心当たりがありました。

 前世までの私は肉弾戦が嫌いで身体を鍛えたことが無かったのです。

 だって痛いから。

 気功はなんとなく使えるので使っているだけです。

 自分の才能が恐ろしい。

 そこで思いついたことを口に出しました。


「じゃあ、私に武術を教えてください。

かわりに魔法を教えます」


 完全にただの思い付きでした。

 常に俺TUEEE!だった私は、自分の得意ジャンルではない武術をなめてかかっていたのです。


「んー、いいぞ。

今度、木刀持って来い」


「じゃあ、私の方はロウソクいくつか持ってきてください。

出力は大丈夫なんで制御からやります」


 何も考えてませんでした。

 すぐできる思ってました。

 そしてそれが大間違いだったと二人はすぐに理解するのです。



 こんな約束しなければ良かった……

 私は超後悔してます。

 私のプリンが……プリンが……

 でも今度は私のターンなのです。

 ただ単にロウソクに火をつける練習。

 ところがシルヴィアはもう9回も失敗してました。

 どうやら、大きい魔法は使えるのですが、こういう細かい作業が苦手のようです。


「だから!

なんでロウソクに火をつけるだけなのにマナをとんでもない勢いで使うんですか!

隕石落とせるレベルですよ!それ!」


「むー! わからないのだー!」


 バカです。

 バカがいます。

 何度も超親切に教えてやったのに何一つ理解してません。

 私はあきれながらも、もう一度だけ付き合います。


「じゃあ、もう一度!」


「ううううううー! ファイア!」


 業火がロウソクを襲う。

 ロウソクが一瞬で蒸発。

 そして炎の熱で一瞬で気化したロウ、つまりパラフィンガスに燃え移り爆発。

 シルヴィアの垂れ流したマナでバリアを張った私を爆風が襲います。

 爆風がやみ、あたりは何事も無かったような静寂が包みます。

 一瞬の間をおいて私はキレました。


「おどりゃああああああ! 殺す気かあああああ!」


「うぐううう! ごめんなのだー」


「10回目なのでプリンは没収です」


「ひぎいいいいいいいッ!」


 辺りにシルヴィアの叫び声がこだましました。



 そして、オヤツタイムです。

 私は自分のプリンをシルヴィアに渡し、シルヴィアのプリンを奪いました。

 意味ねえだろって?

 私たちは紳士淑女なのです。

 約束は約束なのです。

 たとえ無駄でもそこだけは曲げられないのです。


 むしゃむしゃとプリンを食べる二人。

 二人で仲良く食べるプリンは、なんだかいつもより美味しく感じられました。

 こんな日々が続けばいいな。と少しだけ思いました。

 口には出しませんが。

 するとシルヴィアがチラチラとこちらを見てます。


「なんですか?」


 私は聞きました。


「うん……我はこういう日が続くといいなって思って……」


 仕方がありません。

 私も少しだけ……ほんの少しだけ素直になることにしました。


「私も今の生活は楽しいです。ずっと続けばいいですね」


 するとシルヴィアが二カッと花のように笑いました。

 それを見て私は少しだけ安心するのです。

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