戦い、バイク、メタル、筋肉
「げひょ! げひょひょひょひょひょひょひょ!」
私はもんのすげえ下品な声を出して笑ってました。
収穫できたのです。
守備の実が。
……なんか異常な速度で大きくなった木から果実がボロボロ採れました。
超促成栽培ですね。
まさか数日で収穫可能だとは!
やはり私の思ったとおりでした。
守備の実は人口爆発後の世界での環境汚染に対応した植物です。
人が密集した都市部でのゴミや生活排水を無制限に吸って大きくなるのです。
セシルも数年後には下水処理場が必要になる計算でした。
やっべ! 笑いが止まらねえ!
経済や行政全体を見て考えますと、はっきり言って、パラメータMAXのスーパーソルジャーより超万能な下水処理施設の方が何倍も価値があります。
歴史上、公衆衛生の概念のない時代では都市部は衛生状態の悪化によって疫病が発生。
そのまま死の都市になることが多いのです。
農村部と比べて都市部の方が平均寿命が短いという例も珍しくありません。
そういう意味では下水問題の解決は画期的なことなのです。
砂漠じゃ……あんまり意味ないですけどね……
私はこのとき正にヘブン状態でした。
細胞周期が云々とか……もうどうでもいいです。
考えるのをやめました。
浄化後の水を熱した砂で濾過処理したものをインプさんに無理矢理飲ませましたが特に問題ありません。
「イーッ!(俺、生まれ変わったら魔王様に優しくしてもらえるゴブリンに生まれ変わるんだ)」
るせー。
罰としてあれです。
この実も試食してもらいましょう。
見た目は桃そっくりで美味しそうですしね。
「おや? 実がなったのかね?」
そこに長がやってきました。
うん。プラン変更。
少しイタズラしようっと。
「食べます?」
「いやだ。貴様は信用ならん」
うん?
なんですと!!!
「嘘しかつかないから逆に正直だよね」と言われた私を信用できないですと!
ぜってー食わせてやる!
詐欺一本で千年を乗り越えてきた私をなめるな!
ではハーフエルフのだまし方講座です。
ハーフエルフさん。
それもエルフの血の方が濃い場合はカモにするのは簡単です。
なんて言っても彼らは論理的思考が苦手ですから。
あ、ダークエルフさんも論理的思考は苦手ですが無駄に頑固なので騙すのは困難です。
では実践してみましょう。
「いいんですか? 万病に効く薬ですよ?」
大嘘です。
少し頑丈になるだけです。
私が人当たりの良さそうな顔をして断言すると、長は食いついてきました。
あー、コイツなんか持病持ってるな。
「このまま食べればいいのか?」
「ええ。桃というかプラムと同じ果物なのでそのままお召し上がりください。」
うっそー! げひゃひゃ! ばーかばーかばーか!
その実はたいして美味しくないんですよ!
酸っぱいだけなのよー!
そのくらいの仕返しは許されるもんねー!
「どれどれ……」
そう言うと長は果実を囓りました。
げへへ!
「う……」
げへへへ! 酸っぱいでしょ! 美味しくないでしょ!
ぶぁーか!
「う……美味い! なんという美味さだ! こんなもの食べたことない!」
はい?
なんですと!
私がめっさ動揺していると、それは起こりました。
「ぬーん!」
ハーフエルフさんのシャツが弾け飛びました。
ぬおおお!
筋肉が! 筋肉があああああああああッ!
せっかくの美形があああああああああッ!!!
「魔王現れるところに乱あり!(キリッ)」
ええー!
そこにいたのは黒髪の美形ではなく。
素手で牛の首を一刀両断にしそうな筋肉ダルマでした……
こうして私の目論見はもんのすげえ方向に曲がっていくのです。
ざけんな!
◇
「ぬーん!」
「フオオオオオオッ!(呼吸)」
「破ッ!」
暑苦しい!
なんでしょう……この暑苦しい雰囲気は……
結局……パワーアップ効果を知ったハーフエルフさんにたちに果実を根こそぎ強奪されました。
美形ショタ集団は脳筋集団へと変化。
弓を構えスライムの襲撃に怯える彼らは、今や両手に斧を持った無駄に雄々しい集団へと変貌してました。
バイクとメタルと戦いがあれば何もいらない。
そう彼らの胸筋はピクピクと語っていました。
「あ、あのー」
さすがにまずいのでこの辺で止めましょう。
全員こんなのになったら私が悲しいじゃないですか!
「覇王様!!!」
え? 誰?
私はきょろきょろと辺りを見回します。
周りを見るとガン見されてることに気づきました。
え? 私?
「あのー……」
「我らを導く偉大なるハイエルフ王の降臨である!!!」
ええー!!!
だからー! 私は今は人間さんですって!
「あの私、人間……」
「覇王! 覇王! 覇王! 覇王! 覇王!」
あ、あれー……言われてるうちに……なんか頭がおかしく……
「おしゃー! 野郎どもついてきやがれ!」
すぐ調子に乗るのは私の悪い癖だと思います。
◇
何も教えてないのにフェイスペインティングをし始めた。
何を言っているかわからないと思います。
私もわかりません。
ハーフエルフさんたちが、髪は剃るわ、戦闘系のフェイスペインティングするわと大忙しです。
一体私はどこの惑星に辿り着いたのでしょうか?
ここは私の知っている世界とは違うのです!
「スペードの兄貴ぃ!」
「なんじゃクラブゥッ!」
あー。
村長ですが「今日から俺はスペードじゃああああッ!」と言い始めました。
もうやだこのノリ……
私が頭を抱えているとどこからかバリトンボイスが。
「覇王様。……辛いことも悲しいことも時間が解決してくれますよ」
「うわああああああん」
私はバリトンボイスの主であるオーク&エルフハーフのハート様の胸に飛び込みました。
うあああああああん!
なにこの男前!
男は顔じゃないんですね!
あ、ところで今、オークって聞いてエロいこと(略)
◇
ぴるるるるるるるー。
ぴるるるるるるるるー。
がちゃっ。
おかけになった電話はただいまマナ通信の届かない……
「あんのアホんだらあー! どこにいるのだ!」
アレックスが行方不明になってから三日が経過した。
父上と将軍は何か密談をしている。
多神教の高倉は沈黙を保ったまま。
ゼスはショックで寝込み、エリザベスは剣を磨きながらブツブツ言っている(これが一番怖い)、ホルローは機体を整備しながらサブらと何かを相談している。
アレックスにはモールス符号を叩き込んである。
マナさえあれば何らかの通信を送って来るはずなのだ。
あとはマナから追跡すればおおよその位置が特定できるはずだ。
距離なんかは緯度経度から三平方の定理で出せるとのことだ。
……三平方の定理ってなんだ?
我が城の自分の部屋で頭を悩ませていると理事長がやってきた。
「ガラハ……シルヴィア様! くそが、こほん。アレックス君から通信が来た!」
「な! 音声か?」
「いや電信だ! 今読むね」
我は息をのむ。
やはり生きていたのだ!
さすが我が相棒。
悪魔よりも性格が悪く、ゴキブリよりもしぶといのだ!
「えーと……」
キンニク フォーエバー ソシテ アイ ノ カナタ ニ タスケテ アレックス
ネタを最初に持ってくるのか。あのバカは。
「えー……今すぐ殺しに行くから場所教えろなのだ」
理事長はなぜか非常に困った顔をしている。
何かあるのだろうか?
「帝国の砂漠のど真ん中……」
はい?
「敵国のど真ん中にいるんだよ!」
あ、死んだ。
勇者どもに絶対神まで倒したのに人間に殺されたわ。
このままだと、よくて斬首されたあとに首を王国にデリバリー。
悪くてその場で火あぶりだ。
一番ありえるのは、散々一人で暴れ回った後、捕縛されて拷問後に殺害なのだ。
「ち、父上は! 救援隊は! 外交努力は!」
「できるはずないよ……なんたって国境地帯の連中による虐殺事件だって、こちらに謝罪を求めてきている有様だからね。はっきり言って彼らは交渉にすら値しないんだよ」
「い、いやわかってはいた。王族一人の命のために戦争をする金は我が国にはない。だが……どうすれば……」
「あー……僕にプランがある。その代わり僕らは全世界を敵に回すかもしれないけどね」
理事長がにやりと笑った。
絶対何か企んでいるのだ!




